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4話 人間という生き物は面倒臭いです

「もういいわ、ここからは普通に話してちょうだい」

「……分かったよ、伯母上(おばうえ)


 ピシっとこの場の空気に亀裂が走った気がしたのは気のせいだろうか。僕は何気なく護衛の方を見るとその人達は目を見開いて珍物を見たような表情をしている。侍女はぴくぴくと頬を引き攣らせている。


伯母上(おばうえ)なんてよして。まさか義弟(あのこ)が貴方を勘当……いや存在まで消し去るなんて…………」

「いいんだ……僕は、それで決心がついた」

「何に決心がついたのか……教えてもらっても?」

「僕は貴方を信頼は以ての外、信用もしていない。あのクズ人間の身内を簡単に信用してたまるか」

「……そ、そうよね……」


 甥からキツイ言葉を浴びせられた伯爵は力なく項垂れ、地面を見つめている顔は暗い表情をしているだろう。でも僕の知ったことではない。この家族には一生晴れない恨みを植え付けられたのだから。

 正直に言うとあの家族で誰よりも信用に近いのは目の前にいる伯母なのだ。しかしさっき勢いで言った言葉を今になって取り消すなどできない。


「それより、僕にはやる事があるのだけど?」

「冒険者ギルドに行く事でしょ?」

「ああ、地竜の森の調査の結果を報告に行きたい」

「依頼主の名を見たかしら?」

「いいや?受付嬢が押し付けてきたから仕方なくやったんだ、報奨金は高めだったし」


 チッと舌打ちをしたのは伯爵、いや伯母。いきなりの事に僕は背筋を伸ばしてしまう。温厚なあの伯母が怒っている。手をぎゅっと力強く握り、拳を作るとテーブルを力の限り強く叩く。メキっとめりこむ音が聞こえたのは気のせいだろうか。

 え、凄く怖いんだけど……


「押し付けた?あの仕事しないギルドが?ふざけやがって」


 年齢に不相応なほど美しい顔に青筋が走っている。そして昔の強気な口調に戻っているのに気づいた僕は慌てて宥めるように声を掛ける。


「しょ、しょうがないさ、僕は【魔物使い】だ。ある程度馬鹿にされるのは割り切っている」


 僕はビクビクしながらも毅然とした態度で、それは僕の問題だ、と言わんばかりの目を向けると伯母は少しだが落ち着きを取り戻した。


「わ、悪かったわ……年甲斐もなく頭に血が上ってしまったわ」

伯母上(おばうえ)が僕に優しいのは知ってるさ」

「えぇ、勿論よ。私にして見たら貴方は私の息子だもの」


 さっきの鬼面とは打って変わって慈愛に満ちた笑顔を浮かべる伯母を見て僕は苦笑をしてしまう。昔から伯母は僕に優しかった、周りが相手をしてくれなくても一緒に遊んでくれたり、話し相手になってくれたりしていた。


「と、とにかく、その依頼を出したのは私なのよ」

「え?そうだったの?」

「えぇ、Aランク指定にしたのだけど……貴方まさか……」

「一応Aランクだよ、依頼の完全達成と依頼主からの多大な信頼から仕方なく上げた感じだったけど」


 自分でランクを話すのは少し恥ずかしい。ギルドもランクの上昇した者には規定で発表しなくてはならないが、僕の場合は例外にしてもらって避けた。ギルドの方も冒険者の反感を買わないようにしたかったらしくすぐにその要望は受け入れられた。

 と言う話をすると、


「それなら私が知らないのも無理がないわね……」

「あれ?冒険者の方も管理してるの?」

「そうなのよ……私が元冒険者ってのもあるけどね。ほら地竜の森が近いから常に戦力をか把握しておかないといけないのよ」


 伯母は、はぁ、と深い溜め息をつく。部屋の隅に佇んでいる侍女が僕らがは話しているテーブルまで来るとティーカップに新しい紅茶を注いでくれる。

 僕はありがとう、と一言言うと驚いた顔をされたが無視して口をつける。


 うん、やっぱり美味しいなぁ……

「貴方のそこまで蕩けた顔は初めて見たわ」

「僕は紅茶が好きなんですよ、この茶葉は何処のですか?」

「貴方の生まれた土地よ」

「ブフッ!うそ!?」


 僕は伯母の言葉に目を見開き、驚きのあまり口から噴き出してしまう。紅茶に罪は無いんだ……無いんだ。


「うそよ、うふふふっ……良いものが見れたわ」


 くっそ、やられた……伯母はこう言うところがあるからな……ニヤニヤして、あとで覚えておくといい。


「この茶葉はここより南の方だったかしら、この国で一番茶葉を生産してる所よ」

「へぇ……ってか報奨金はどうなるの?」

「今から私も一緒に冒険者ギルドに行くわ」

「え?なんで?」

「君のAランクを公式に取り上げる事、それに【魔物使い】が決して弱いとは限らない事を伝える為よ」


 伯母上(おばうえ)の言葉に僕は嫌な顔をする。


「……それはやめてくれ。僕はこのままでいい」

「ど、どうしてよ……貴方は嫌では無いの?」

「嫌だよ?でも弱いって言われてた方が動きやすい部分もあるんだ。」


 今までも数回あったなぁ、弱いから下がって見てろ。とか、俺らの後ろで待ってな。とか……


「うーん……まぁ貴方がいいならいいわ、それより宿はどうしてるの?」


 急に話題の転換をしてきた伯母に僕は少し驚くが、答える。


「2週間分取ってあるけど?」

「じゃあそれは取り消して、私の家に来なさい」

「はぁっ!?それこそどうしてだよ」


 何言ってんだよ、この人は……伯爵と通じてる事になるじゃん……


「いいから、この屋敷以外にも私の家はあと3軒あるこよ?1軒くらい貴方に貸してあげるわ。そっちの方が君の使い魔も居やすいでしょ?」

「じゃ、じゃあ……お借りしてもいい?」


 魔獣の事を第一に考える僕の性格を読んでか、そんな提案をしてくる伯母に僕は渋々首を縦に振ってしまう。

 伯母は僕が首を縦に振った事にとても良い笑みを浮かべ、とても嬉しそうに言う。


「だからそう言ってるじゃない」

「ありがと、じゃあ取り敢えず、今日は遅いから帰るね。ついでに場所教えて?」

「いいわよ、じゃあ2人とも私と一緒に来てくれるかしら?」

「「はっ!」」



「おまたせ〜」

『遅いぞ、我を待たせるとは主人としてどうなのだ?』

「ごめんってば、ツキノワもごめんね?」

「グルァァア……」

『こやつは早く寝たいと言っておる。我に追いかけられたからな』

「ほんとだよ、まったく…………あっ……」


 僕はある事を失念していた、地竜との会話だ。地竜は僕の頭に直接話しかけているのだと思っていたのだがそうじゃないのが周りの反応で分かった。口をあんぐりと開けたまま、立ち尽くしたままになっている。

 伯母だけがいつも通りで僕らに対して話しかけてきた。


「あら、地竜は話せるのね」

『む、貴様は何者だ』

「私はここの地を治める領主でアルトリアです」

『我は貴様らが言う通り地竜だ、しかしこの者を主とする為に真名を付けてもらう予定だ』


 地竜は竜の表情筋を器用に動かし、ドヤ顔をして伯母に言う。そんな期待されると付けづらいんだけど。


「貴方は礼儀正しいのですね」

『否、貴様ら人間が礼儀知らずなだけだ。我は何もしていないにも関わらず、富と名声を得るために我が庭を荒らす。正直鬱陶しいのだ』

「…………」「…………」


 竜に諭されるとは思わなかった護衛や兵士達は力なく項垂れる。自分達がやってきたことなのだから何を後悔することがあるのだろう、と僕は思う。


「自分がやってきた事に責任が持てないならこんな仕事辞めてしまえ」


 僕は項垂れる者に吐き捨てるように言う。僕の言葉にピクリと反応する皆は顔を上げ、殺意の籠った目を向けてくるが僕はそんなものには動じる事もなく歩き出す。


「早く案内してください」

「……え、えぇ……分かったわ」


 僕は伯爵に冷たい視線を向けて先を行くように促す。

 その視線とは裏腹に魔獣とゆっくり出来る嬉しさに心が躍るのだった。

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