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3話 僕でも怒る事はあります

「ここ……ですか?」

「えぇ、そうよ。私には大き過ぎるけれどね」


 僕は目の前に広がる広大な土地にそびえるように立つ屋敷を見て、呆気にとられる。

 外壁には木材が多用されており、自然に馴染むような外観をしている。それに外からでも分かる通りガラスという透明な板も複数使われており、陽の光に反射してとても美しい。



「早く帰りたいのでしょう?お入りなさい」

「えぇ、取り敢えずツキノワと地竜はここで待ってて」

「一緒でも構わないわよ?」

「流石にそこは憚れます」


 心苦しいが僕は2体を屋敷の外で待機させて屋敷に入る。内部は白い壁に赤いカーペットが敷かれる事でより壁が美しく映える。廊下の途中には骨董品か何かの壺みたいなモノが置いてある。僕は興味ないんだけどね。



「さあ、この部屋よ。」

 大きな両扉の部屋に招待される。恐らく客間だろう。広い空間で中央には1つのテーブルと2対のソファーが置いてある。


 エストーナ伯爵は1つのソファーに座ると僕にもう1つの対面にあるソファーに座るよう促されたので仕方なく座る。

 流石貴族と言うべきか、座り心地がまるで違う。あまりの良さに頰が緩んでしまう。


「それで、僕に何の用ですか?」

「せっかちね……少しゆっくりしたらどう?」


 部屋の片隅に控える侍女を呼び寄せ、お茶と菓子を持ってくるように言う。護衛は5人から2人に減りソファーの両端に控えて居る。エストーナ伯爵は綺麗な脚を見せびらかすように組む。正直鬱陶しい。

 しかもさっき僕に言った言葉からずっと話す気がないのか黙っている。


「……貴方には貴方の時間がある通り、僕には僕の時間があります。」

「…………」

「何もないなら帰りますからね」


 僕は伯爵の態度に嫌悪感を抱いたので帰ろうとソファーから立ち上がる。伯爵はそんな僕の態度を咎めもせず、どっちかというと僕の反応を楽しんでいる気がする。なんだか伯爵の眼が妙に色気づいている気がするし。


「貴様ッ!伯爵様のご寛大さに付け込み、そのような横暴が許されると思っているのかッ!」

「ただの最弱の【魔物使い】が調子に乗るなど勘違いも甚だしいッ!」


 ガルド兵長とまではいかないが、そこそこ綺麗な装飾付きの鞘に差してある剣を抜き放ち、構える。自分達は僕が【魔物使い】と言う事で下に見ているようで構えも隙があり過ぎる。僕は護衛の練度に落胆するように深い溜め息をつく。護衛は僕溜息と蔑んだ目を見ると顔を真っ赤にして斬りかかってくる。


「ふざけやがってッ!」

「……クソがッ!」


「おっそいなぁ……」


 僕は左右から迫る護衛の剣を狙って、鞘にしまっている剣を抜き放ち、斬りはらう。その一連の動作、時間にしてコンマ1秒。

 キンっと金属同士が擦れ合う甲高い音が部屋に響き渡る。そこでようやく護衛は気づく。

 僕が背から剣を抜いている事を、そして自分の剣が真っ二つになっている事を。一瞬の動作を見る事さえ出来なかった護衛は呆然と立ち竦む。


 僕は何も言わず、剣を鞘にしまい立ち去ろうと部屋のドアへ歩き出す所でこの部屋に入ってから一度しか聞いてない声が響く。


「お待ちくださらない?」

「……鬱陶しい、その程度の護衛だと貴方は暗殺されますよ」

「耳が痛いですわ、しかし貴方のその力量が可笑しいのです」

「……どうせ、天才の、一言で済ますのだろう?」


 怒り心頭と僕は声を荒げるのを抑えながら、途切れ途切れに言葉を吐き捨てる。

 僕は天才という言葉が大嫌いだ。虫唾が走る。


「〝剣帝〟の名をご存知で?」


 その言葉を聞いた途端、僕の中でカチッとスイッチが入った気がした。一瞬のうちに伯爵のそばまで駆け寄り、剣を抜き放ち、首筋に剣先を立てる。少しでも動けば致命傷になりかねないだろう。


「軽々しくその名を呼ぶな」

「やはりご存知で……」


 伯爵は多少なり命の危機を悟っているはずだが、諦めずに話を進める。僕は嘆息する。常人なら失神してもおかしくないくらいの殺気を放っているのだが、動揺せずに両手を高く上げ敵意はないと表明している。


「ふん、知っているも何も貴様に話す事などない」

「私は色々なコネを使って〝剣帝〟を探しましたが見つかりません。」

「だから何だ」

「そう返されては困るのですが……今のこの国は魔族による襲撃を受けています」

「そこに“剣帝”と何が関係がある?」


 僕は声が震えるのを抑えながら伯爵に向けて吐き捨てる。首筋に当てている剣に力を入れ、すぐにでも斬り裂いてしまいたい。だが恩人の言葉をふと思い出し剣を鞘に納め、すっと伯爵から離れて元々座っていたソファーに戻る。渇いた喉を潤すために用意してもらった紅茶に手を付ける。


 うん、美味しい。

「……ふう~…………まったくどうやったらそこまでの殺気が出せるのよ」

「ちょっと、素が出てるぞ。」

「…………あ……」


 この人は色々打算的なのだが少し抜けている所がある。まさに今それが出てしまった。慌ててももう遅い。2人の護衛ともう1人の侍女はこの会話を聞いてしまった。


「……さっきの会話とこれから話す事は一生口にするのは許さないわ。いい?」


 射殺さんばかりの殺気の籠った視線を3人に向ける侯爵を見て、有無を言わずにすぐさま首を上下に振る。


「もういいわ、ここからは普通に話してちょうだい」

「……分かったよ、伯母上(おばうえ)

 


 僕は言われた通りふつうに話した。

 この場の空気が重くなったような気がしたのは気のせいかな?



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