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098 決闘の挑戦状


 ホテルの一室でカテリナさんと時間を過ごすと、王都に夕暮れが迫っている。

 

「そろそろ戻りましょうか?」

「そうね……。ドミニク達がさぞかし首を長くして待ってると思うわ」


 ベッドを抜けてシャワールームに2人で向かう。衣服を整えればカテリナさんの移り香は殆ど無視出来るだろう。

 カウンターで支払いを済ませて、屋上の高速艇に乗り込む。

 後は、プライベートアイランドに真直ぐだ。


「そう言えば、ライムさん達もカウンターテロの隊員なんですね」

「ヒルダは過保護だから。でも、おかげでカンザスの艦内は安心だわ。一応、ドロシーが目を光らせているけど、ドロシーには相手に対向する手段が無いわ。不審に思うことがあればライム達に連絡するよう伝えてあるから安心よ」


 となると、残りは中継点の中ってことになるのかな?

 確かに大勢の騎士団がやってくるし、商会の連中だって沢山来ている。そんな中から、テロリストを探すと言うのは通常の警備部隊では困難だろう。

 やはり2人でもいてくれたほうが安心出来る。


「2人で大丈夫なんでしょうか?」

「トリスタンがそう言うなら、それで十分よ。それに、アリスとドロシーがいるんだから監視体制は万全だわ」


 だけど、俺達がいない時にはどうなるんだ?

 一応、中継所の警備室であちこちに仕掛けた監視カメラで状況監視は行なってるんだろうけど……。


「中継点の管理用電脳も優秀よ。自意識は持っていないけど、それなりに使えるはず。サーペント騎士団の一件で少し強化してあるわ」

 とは言え、ドロシーには及ばないか。

 そんな評価をトリスタンさんの所でも行なったんだろう。その結果があの2人なら、かなりの猛者だと思わなければなるまい。


 高速艇が静かにプライベートアイランドのホテルの屋上に着陸した。ドミニク達は、此処から少し離れた小さなホテルに滞在している筈だ。

 ホテルから、ネコ族の青年の運転する6輪バギーで目的地に向かう。

 一旦、浜辺に出て波打ち際を時計回りに回っていくのだが、この島の大きさは相当なものだ。

 砂山をバウンドしながら結構な速度でバギーは走る。


「しっかり口を閉じていてくださいよ。舌を噛む恐れがあります」

 言われなくても、俺とカテリナさんは無言で前を見詰めている。

 遠くに小さな明かりが見えてくると、30分程でホテルに突く事が出来た。


 平屋のホテルとは珍しいな。

 フロントにバギーが止まって、俺達は青年に銀貨を渡す。

 フロントのカウンターにいるネコ族のお姉さんに到着を告げると、部屋の鍵を受取った。

 

「食事が未だなんだ。何か食べられるかい?」

「確認するにゃ」

 お姉さんが、カウンターのレトロな電話でどこかと連絡を取り合っている。

 「簡単なものになるにゃ。こっちにゃ!」


 カウンターから出てきたお姉さんの案内でレストランに向かう。

 確かに簡単だな。サンドイッチとポトフのようなスープだった。

 それでも、お腹に入ると元気になるな。

 食事が終わったところでカテリナさんと別れ、自分の部屋の鍵を開ける。

 

「ただいま」

「あら、だいぶ遅かったわね。それで?」


 ドミニク達とエミー達が部屋でくつろいでいたようだ。

 部屋を眺めると、シンプルな作りだけど、意外と広いな。リビング中央にあるソファーセットには8人位座れそうだ。


 俺がソファーに腰を下ろすと、エミーがコーヒーを運んでくれた。

 全員にコーヒーが渡ったところで、話を始める。


「ギルドはトリスタンさんが仕切ってたよ。2人を派遣してくれるそうだ。それ以外に、既にカンザスにいるライムさん達2人もトリスタンさんの部下みたいだ」

「ただのメイドではないと思ってたけど……」


「まあ、良いんじゃない。来ちゃってるしね。となると、中継点の警備が大変だわ」

「それは、シリルさんとシリウスさんがガレオンさんと相談するみたいだ。それに、カテリナさんが中継所の管理用電脳も強化しているみたいだし、少しは安心出来るんじゃないかな?」


 そんな話で夜は更けて行く。

 明日の予定を聞くと王都で買い物だそうだ。ようやく、のんびり昼寝が楽しめそうだな。

               ・

               ・

               ・

 朝食を終えると、エミー達は高速艇で王都に出掛けて行った。

 ホテルのリビングのソファーに座ると、1人でコーヒーを入れてお土産を端末を使って買い込んでいく。


 ベルッドじいさんとアレクには酒で十分だろう。トンネル工事をしている獣機士達にも少し安めの酒を頼んでおく。

 後は、特にないか……。


 ホテルのベランダの前にハンモックが椰子の木に着けてあった。

 早速、横になると、椰子の葉が強い日差しを防いでくれる。ユラユラと揺らしていると、何時の間にか寝入ったしまったようだ。


 目が覚めると、夕方のようだ。

 いったい、何時間寝てたのかな? リビングの明かりを点けて時計を見ると17時を過ぎている。

 食事は18時から食べられるらしいから、その前に1人でジャグジーを楽しむ。

 

 1人で入るなんて、初めてじゃないかな?

 そんな事を考えていると、俺の隣に誰かが滑り込んできた。

「1人じゃ可哀相だと思って早めに帰ってきたわ。エミー達はカテリナさんと夕食を取ってから帰るみたい」


 そう言ってクリスがジャグジーの明かりを落とすと、ジャグジーの天井がゆっくりと開きだした。

 満天の星空だ。

 緯度が南緯に変わっているから、アリスと一緒に先行偵察をしていた時に見た星空とは趣が違うな。

 

 2人で星空を眺めながら体を重ねる。

 クリスの白い肌は、こんがりと日に焼けている。

 水着の跡がそこだけ白いから、ビキニを着けてジャグジーに入っているように見えるぞ。

 ジャグジーの水を抜いて楽しむと、再度お湯を張って体の汗を流す。

 未だに俺の体に身を重ねて余韻を楽しんでいるようだ。

 

「……不思議と、誰も妊娠しないのね」

「ああ、ちょっと俺の体に問題があるらしい。カテリナさんが頑張ってその方法を探してくれてるんだけど……。数十年は掛かるんじゃないかな」


「それで、私の卵子を欲しがってたのね。確かにキープしておく必要がありそうだわ」

「早くに欲しかったの?」

「まだ、遊びたいけど……」

 

 そう言って俺の胸に顔を埋める。

 こればかりはね。このままでは望みを叶えてやれそうもないな。

 だが、一度エンジンの掛かったカテリナさんが、研究を放棄する事は無いだろう。

 ここはジッと、カテリナさんの研究が実を結ぶ事を祈りながら待つ外なさそうだ。


 ジャグジーを出て、衣服を整えるとソファーでタバコを楽しむ。

 クリスはメイク最中だ。

 女性にとっては衣服以上にメイクは大切なものらしい。

 クリスの準備が出来たところで、レストランに向かって歩く。

 互いの腰に手を添えながら歩く俺達を、他の賓客達が見ているぞ。


 レストランの受付に俺達の名を告げると、直ぐにテーブルの1つに案内してくれた。

「メニューは無いにゃ。チーフコックの思いのままにゃ」

 そう言って、受付の女の子が帰っていった。

 

 しかし、それも凄いな。当たり外れがありそうな気がするが、仮にも王族のプライベートアイランドだ。不味い料理を出す訳がない。

 出て来たものはちょっと簡略化したディナーだ。新鮮な魚介類をふんだんに使っている。ワインを飲みながら、ゆっくりと料理を楽しんだ。


 食後にコーヒーを飲んでいると、隣のホールが騒がしい。

 どうやら、ダンスを楽しんでいるようだ。


「踊れる?」

「リオこそ踊れるの?」

 互いに頷くと、ホールに行って、ダンスのステージに入って踊る。

 ソシアルダンスだから、激しい動きにならない。ゆったりと音にあわせて小さくステップを踏む。


 疲れたところで、カクテルを受取り壁際のソファーに腰を下ろした。

 タバコに火を点けると、皆のダンスを眺める。


「まさか、こんなところでダンスが出来るとは思わなかったわ。昔、練習しておいて良かったと思う」

「ドレスじゃなくて残念だったね。次ぎはクリスのドレス姿のときに楽しもう」

 そんな会話をしていると、騎士姿の男女が俺達に近付いてきた。


「あまり、見掛けぬ者達だが、何処から来たのだ? 我等はレイオン騎士団。レイオム男爵家に繋がる騎士団だ」

「レントス、喧嘩腰はダメよ。……とは言え、確かに見掛けない顔ね」

 そう言って、小さなテーブル越しに2人が座る。


「ヴィオラ騎士団です。小さな騎士団ですから名前は存じないでしょう」

 俺の言葉に2人が顔を見合わせる。

 

「ヴィオラ騎士団だと? 確か、領地を初めて持った騎士団じゃなかったか?」

「エミー様が降嫁した当主は伯爵位と聞きました」


「だが、それは当主であってお前達ではない筈だ。騎士には騎士の礼を獲って貰いたいな」

 隣の女性と小声で話し合っていたが、やおら俺に目を向けるとそう言いきった。


「生憎と騎士の礼とは何かは学びませんでしたね。それに、俺も騎士ですから、互いに騎士の場合はどのように礼をすれば良いのですか?」

 そう言って、腕のブレスレットを見せた。


「騎士だと!」

 男が驚愕に顔を歪ませて席を立つ。


「レントス、知らないのはお前の方だ。お前の前にいる騎士こそ、ヴィオラ騎士団領の当主、リオ公爵にして戦姫の騎士だ」

 見ず知らずの男が、俺に絡んできた男に注意する。


「戦姫を動かしながら、あの黒い戦機を駆ったという伝説の?」

 レントスと言う名の騎士の隣の女性が俺に尋ねてきた。


「伝説ではなく本当です。でも、その後でしばらく寝込みましたけどね」

「あれだけの動きだ。なるほどトリスタン殿を倒して昨日カリムを倒しているだけの実力はあるという事か」

 アレクより少し年上の人物がテーブルの開いた席に座る。

 

「レントス、思い上がるのは騎士団の中だけにしておけ。先程の話だけでレイオン騎士団を叩き出されるぞ。その不祥事が知れれば、いくら実力があっても他の騎士団から誘いは掛からん」

「ですが……」

「まだ言うか。それだけの実力がリオ殿にはあるのだ」

「ならば!」


 レントスが騎士のブレスレットを引き千切って、新たに現れた人物の前に叩きつけた。

 アレクに聞いた事があるぞ。ブレスレットを外して相手に示すのは決闘の証だと……。


「受けねばヴィオラ騎士団を辱めることになりそうですね」

 ゆっくりと左手のブレスレットを外してテーブルに置いた。


「立会いを頼めますか?」

「バジナルだ。12騎士団が1つ、リブラ騎士団に所属する。この決闘、リブラ騎士団が後見に立つ。騎士の決闘は剣、互いに明日の10時ホテル前の砂浜に来い」


 バジルと名乗った男が、2つのブレスレットをハンカチを取り出して包む。そのハンカチを恭しく掲げて一礼すると、自分のバッグに収めた。


 今度は決闘か。

 全く、退屈はしそうにないな。

 


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