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097 ギルドに行こう!


「それは問題ね」

 そう言ってドミニクがテーブルに肘を着くと、両手で顎を支えている。考えてはいるけど、どう対応していいか判らないってことかな。


「カウンターテロじゃ。専門部隊を雇うことで対応は可能じゃろう」

「雇えるんですか?」


 そんな物騒な部隊が雇えるとは……。返って物騒じゃないのか?

 他の連中はいたって平静だ。当たり前って感じに思える。


「ピンキリの連中がいるぞ。専門の商会があるのじゃ」


 ちなみにピンは趣味で初めたマニアらしい。キリは特殊作戦部隊出身者で構成されているらしく、テロの可能性、影響度等を総合的に判断して、適切な部隊を紹介してくれるとのことだ。


「王族だからと言って、最上位の部隊を派遣されることは無い。彼らの長年の経験が最適の部隊を選び出すらしいぞ」

 本当かなぁ? かなり怪しい感じがする。

「一応、打診しておいた方が良いでしょう。私とリオ君で行ってみるわ」

 

 カテリナさんの提案に皆が頷いてる。

 これって、決定じゃないか。明日はのんびり昼寝だと思ってたんだけど……。


 まあ、テロ活動はある意味自爆攻撃に近いからな。人間、やろうと思って出来ない事は無いとも言うしね。


「で、どこに行けば良いんだい?」

「ギルドよ。……だいじょうぶよ。私が連れてってあげるから」

 

 ギルド? 思わずその言葉を発したカテリナさんに目を向けてしまった。一番その言葉が似合わない人物なんだけどね。

 そのギルドだけど、RPGで有名なあれなんだろうか?

 カウンターの横の掲示板に依頼書が張ってあって、それをハンターが選ぶって奴?


「何を考えてるかは知らんが、カウンターテロ部隊はギルドで雇える。他にも色々とやっておるが、退役軍人の職業斡旋所に近い組織じゃ」

 なるほどね。だけど、退役軍人で役立つんだろうか?


 翌日の昼近く。

 カテリナさんと一緒に王都に向かう。

 同じようなテニスウエアにガンベルト。傍から見ればペアルックの恋人同士に見えなくもない。

 円盤機でホテルの屋上に作られた離着陸場に降り立つと、サングラスを掛けてカテリナさんと一緒にエレベーターで地上に下りる。


「ちゃんと一緒に歩かないと、教えてあげないわよ」

 そんな脅し文句で、俺達は互いの腰を抱くようにして歩いている。

 誰かに見られないか心配だ。


 日差しの強い通りなんだから、アーケードがあれば良いんだがそんなものは無い。

 汗をバンダナで拭き取りながら、ルンルン気分で歩いているカテリナさんの隣を歩く。なんとなく気の弱い男に見えるのかもしれない。すれ違う通行人の視線が気になり始めた。


「ここよ。風情があるでしょ」

 カテリナさんが急に立止まったのは、古ぼけた木製の扉の前だった。

 日に焼けてかなり色あせているんだけど、どこにも看板が出ていない。本当にここがギルドなんだろうか?


「何も看板が無いですよ?」

「知っている人だけ訪ねるんだから、問題ないでしょう。誰もが利用する分けでは無いし」

 まあ、それはそうだけど……。

 

 とりあえず、石塀に作られた扉を開ける。何か、時代錯誤な感じがするな。

 扉の中は、案の定薄暗かった。どれ位の広さか分らないけど、そのまま奥に進んでいくとカウンターの前にでた。

 カウンターには2人のネコ族のお姉さんが、俺達に向かってにこりと笑顔を見せて小さく頭を下げる。

 

「ここはギルドにゃ。新規の登録? それとも仕事の依頼かにゃ?」

「依頼の方です」


 まるでにRPGの世界のようだ。

 ここでハンター登録をすると、獣でも狩りに行けそうに思える。


「依頼なら、身分を証明するものを見せて欲しいにゃ」

「リオ君は指輪を見せないさい。それと両腕のブレスレットで良いわ。私はこれね」


 カテリナさんがポケットからカードを取り出す。

 俺は言われるとおり、両腕をカウンターに出した。


「ヴィオラ騎士団の騎士、そして公爵のリオ様ですね。こちらはカテリナ博士……。確認しました。しばらくお待ち下さい」

「身分に応じて相談者を決めるのよ」


 キョトンとしてお姉さんを見ていた俺に、カテリナさんが耳打ちしてくれた。

 確かに、一般市民と王族では少し変えなければなるまい。

 でも、俺達はその中間って感じだよな。どんな相談相手になるんだろう?


「決まったにゃ。まさかと思う人物にゃ。こっちにゃ!」

 カウンターから出て来たお姉さんの後に付いて右手に歩いて行くと、そこには長い回廊が続いていた。どんどんお姉さんが歩いて行く。

 俺達が案内されたのは、通路の一番奥の突き当たりにある扉だった。


「ここにゃ」

 俺達に振り返るとそう教えてくれた。

 扉を叩いて、静かに開ける。


「リオ様をお連れしたにゃ」

「ごくろう、後は私がやる」


 窓際のテーブルの椅子を、窓の方に向けて座っていた男がこちらに椅子ごと体を向けた。


「トリスタンさん?」

 思わず叫んでしまった。

 トリスタンさんは椅子から立ち上がると、俺達をソファーに案内してくれた。


「吃驚したか?」

「そりゃ、もう……」


「だが、俺が常に国王と共にある事を考えれば、少しは理解出来るんじゃないか」

「国軍の警備兵を束ねる人だと思っていました」


「正式には教導部隊隊長だ。カウンターテロ専門のな。一応警備兵はいるのだが、やはりテロを未然に防止する事を教えるのは難しい限りだ。俺の部隊を一隊、常に貼り付けてある」

 そんな事を言いながら、俺達にコーヒーを慣れた手つきで入れてくれた。


「実は……」

「サーペントの残党と関連する商会だな。既に情報網を拡大しつつある」


 ひょっとして、お妃様達に情報をリークして俺達を此処に向かわせたのか?

 そんなことを考えながら、トリスタンさんに小さく頭を下げてコーヒーを飲む。


「それなら、話は早いわ。来るとするなら中継点ね。1部隊を貸して頂戴!」

 

 カテリナさんがストレートに話を始める。

 その時、ゾワリっと寒気に襲われた。誰か、この部屋にいるのか?


 目だけで周囲を素早く覗う。……いた。巧妙に気配を隠しているが、2人ほど部屋の影に隠れているぞ。

 窓のガラスを利用して背面にも目を向ける。他はいない、この2人だけのようだ。

 

「分るか……。さすがだな。リオ殿には必要ないようだ。ならば、その2人を中継点に送ろう。確か、警備を仕切っているのはガレオンだったな」

 

 俺達の事をかなり詳しく知っているようだ。


「そうです。ですが、2人で大丈夫ですか?」

「実働は2人だが、2人を10人がバックアップする。問題は無いだろう。リオ殿もいるのだから」


 俺も仕事をするのか?

 騎士団の仕事と穴掘りに、警備までするってことになるんだろうか?

 部屋の中から浮き出るように2人が現れたので、カテリナさんが驚いてる。


「ずっと、いたの?」

「ああ……。だが、リオ殿は見抜いていたぞ」

 そんな事を言うから、カテリナさんが今度は俺を見てる。


「気配で分りました。それが分れば目で追えますからね」

「全く、こいつ等の気配を感じるとはな」

 トリスタンさんは苦笑いをしている。


「シリルにゃ。隣はシリウスにゃ。先に行ってガレオンさんと接触するにゃ」

 自己紹介するとさっさと部屋を出て行った。


 ネコ族の男女なんだ。王国の一般雑事をほぼ独占的に行なってる種族だけど、戦闘能力が高いとは聞いた事が無い。


「シリル達なら心配ない。トラ族数人を相手に出来るだけの能力がある」

「生活部の人達に混じったら分りませんね」

「そう言うことだ。そして種族の特徴も役に立つ」


 閉じられた扉を眺めながらトリスタンさんが呟く。

 確かに、素早くて、しかも勘が良い。でも、反対になると手強い感じだな。

 

「それで、報酬の方は?」

「一月、30万L。但し、テロリストを倒した場合は、その当該月は100万L」


「安過ぎない?」

「たぶん、1度では収まらないだろう。最初の襲撃以降は倍の値段になる……」


 結構、ぼろい儲けになるんじゃないかな。

 だけど、中継点の安全は守らないといけない。ここは、握手すべきだろう。


「契約書はありますか?」

 俺の言葉に、トリスタンさんは席を立ってテーブルの書類を持ってくる。

 既に書類を作っていたらしい。


 それ程文章は無いな。

 テロを未然に防ぐ事と、それに係わる免責事項が書かれている。

 ん? カンザスのカウンターテロ部隊との連携に係わる事項が書かれているけど、そんな人物いたのか?

 とりあえずサインをして、トリスタンさんの前に戻す。


「この、カンザスにいる人物は誰ですか?」

「ライム達だ。エミー様のガードでもある」


 そう言うことか。

 確かに、何処となくただのメイドに見えなかったんだよな。

 トリスタンさんが俺のサインを確認して席を立ち、テーブルに書類を戻した。

 ソファーに腰を下ろして俺の前に名刺を置く。


「毎月の報酬は、そこにある口座に振り込んで欲しい。それと、折角来たんだ。少し遊んで行け。ギルドの連中が信用しないのだ。わざと負けたに違いないとな」

 最後は苦笑いを浮かべて呟いている。

「そうね。騎士は必ずしも強いとは限らないものよ。でもリオ君ならそこそこ行けそうだわ。確かに、あの配当ですもの。信じられないに違いないわ」


 だとすると、あの試合が八百長になるぞ。

 たぶん、部下の中にそんな人物がいるんだろう。かなりトリスタンさんは慕われているようだ。


「まさか、またトリスタンさんと?」

「いや、俺は十分に分ったつもりだ。信じられない連中の1人を相手にして貰いたい」

「良いんじゃない。このまま戻っても、今日は違う場所に泊まるのよ。確か、東に向かう筈だわ」

 そうなのか? 思わずカテリナさんを見てしまった。

 まあ、この間と同じで行くしか無さそうだ。


 そのまま、トリスタンさんに連れられて最初のカウンターに戻ると、通路の反対側にあるエレベーターで地下に降りる。

 エレベーターを出ると、木剣の打ち合う音が聞こえてきた。

 どうやら、ギルドの地下はトレーニングルームになっているらしい。


「ここだ」

 トリスタンさんがガラスの扉を開ける。

 一段と激しく木剣の打ち合う音が響いている。奥から拳の打ち合う音まで聞こえてくる。

 パンパンっとトリスタンさんが手を打つと、全員がこちらを見てその場に立ち尽くした。


「おもしろい客人が来た。俺を下した騎士だが、誰か手合わせを望む者はいないか?」

「「俺が!」」

 3人が名乗りを上げる。人間が2人にトラ族の青年が1人だ。

「カリムか……。お前なら、いけるかもしれん。やってみろ!」


 体育館2つ分位のトレーニングルームの真中に大きな人の輪が出来た。

 Tシャツを脱いでトレパン1つになったトラ族の青年が輪の中に入る。

 俺もTシャツを脱いで短パン1つになると、ガンベルトとシャツをカテリナさんに預けた。

 何時の間にか用意された椅子に、トリスタンさんと並んで座ってる。


「アリス。この前の方法で行くぞ」

『了解です。トラ族は反射神経に秀でているだけでなく、力も人間倍以上あります。お気を付けて』


 俺が輪の中に進み出ると、身長程の杖が俺に投げられてきた。

 パシ! と左手で受け取り、軽く廻して感触を確かめる。

 

「準備は良いのか?」

「そうですね。5分ほど頂けませんか」


 俺の前に同じような棒を持った青年の問いに答えると、青年は小さく頷いて輪の端に寄った。

 5分で体を慣らさねばならない。


『イメージフィードバックシステム構築完了です。ムサシの電脳を介在した神経組織を構築しました。体組織を強化します』

 ちょっとした眩暈が俺を襲う。

 直ぐに治ったが、内臓等は姿を変えたに違いない。


 軽く、杖を振るってみる。

 前後に回し、背中で持ち手を変える。

 左から突きを放ち、1歩踏み込んでそれを払いながら右手から振りかざす。さすが、ムサシの電脳だなイメージ通りに杖を振るえる。

 ピタリと杖をかざして体を止めた。俺の演舞を見ていた連中が思わず溜息を吐いている。


「良いぞ。何とか使える」

 俺の声に、先程青年が杖を持って俺の前にやってきた。

「それ程に使えるとは思わなかった。……行くぞ!」


 声と同時に、青年の右手の杖が真横から俺に襲い掛かる。

 至近距離で、これをやるのか!

 垂直ジャンプで自分の肩ほどに跳び上がり、落下速度を利用して青年の肩目掛けて杖を打ち込んだ。

 青年は体を捻るように回した回避すると俺の落下点に杖を打ち込む。

 それを杖の後ろで、相手の杖を打ち込みながら自分の落下点を変えた。


「余程の師に付いたと見える。俺も、杖では王国一と言われたが、そこまで体は動かんぞ」

「自己流なんだ。師はいない」


 青年に飛び込むようにして、左手から横薙ぎに攻撃する。

 青年が杖で受止める、その反動を利用して背中に回り込みながら連続攻撃をしたが、全て杖で弾かれた。

 かなりの腕だ。トリスタンさんの遥か上を行く感じだぞ。その上、トラ族だけ合って一撃の重さが違う。

 受止める事はこの状態でも難しく、払うのがやっとだな。

 

『そろそろ奥の手を使いますか?』

「この状態で、何か出来る事があるのか?」

『1m程亜空間を使って移動します。前回と違って半戦闘形態ですから、マスターへの負荷は小さく出来ます』

 

 それしか無さそうだな。

 このままでも、スタミナ切れを待てば勝てる気はするが、どれだけ長引くか分らないぞ。


 ゆっくりと杖を両手で回しながら間合いを取る。

 いくらトラ族の動体視力と反射神経が勝っていようとも、瞬間移動をする俺を捉える事は出来ないだろう。

 ドン! と足を慣らして杖を振りかぶった瞬間、俺は1m程の空間を越えた青年の真横に出ると杖で脇腹を突く。

直ぐに離れて青年の様子を見ると、驚愕の目で俺を見ながらそのまま床に倒れこんだ。


「勝負あった! 直ぐに医者を呼べ……いや、ここにカテリナ博士がいる。皆、通してやれ」

 トリスタンさんはカテリナさんを青年の所に向かわせる。

 前に倒れた青年を仰向けにすると触診を始める。

「大丈夫よ。神経節をかなり強く突かれただけで異常は無いわ。ベッドで安静にすれば直ぐに起きられるわ。でも1日は寝かせておくのよ」


 周りの者が数人で青年を運んでいった。

 ちょっとやりすぎたかな?

 杖を見ていた連中に返して、カテリナさん達のところに歩いて行く。


「全く底が知れんな。だが、これでリオ殿を彼らは尊敬の目で見るだろう。正直、どうやって倒したか、誰も分らんだろうな」

「申し訳ありません。倒さなければ俺が倒れていました。手加減すら出来ない状態でしたので……」


 俺の言葉に微笑みを浮かべる。

 「カリムが目を覚ましたら教えてやろう。手加減さえ出来なかったとな。奴もそれを聞いて満足するだろう」


 そんなイベントをこなして、ギルドへの依頼は終了した。携帯の時計は14時だ。帰るにはまだ時間がありそうだな。



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