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094 水底のバンガロー


 島の離着陸場に近いホテルに一泊した俺達は、翌日の朝食を終えたところでホテルのエントランスホールに集合した。

 水着にTシャツと言う格好はこのホテルの宿泊客と同じだ。リゾート島ということなんだろうが、荷物を入れたキャスター付きのバッグを3つも曳いているのは俺だけのようだ。半分以上はエミーとフレイヤの至福なんだけど、こんなに必要なんだろうか?

 それ以外に足にはスニーカー、頭にはキャップを被ってサングラスを掛けた。ガンベルトはバッグの中だ。必要は無いだろうな。


 エントランスホールで荷物の番をしていると、ビキニにTシャツ姿の美女が次々とやってきた。

 エミーにフレイヤ、ドミニクにレイドラ、最後にクリスと一緒に歩いてきたのはカテリナさんだった。フレイヤ達以外はちゃんとバッグを曳いてるんだよな。なんとなく理不尽さを感じてしまう。


「リオ公爵殿でございますね。ご案内いたします」

 ネコ族の青年が俺達のところにやってきてそう告げると、手を上げてピンっと指を弾いた。

 すると、数人のネコ族の少年が俺達のバッグを持って外に出て行く。

 チップ用の小銭はあったかな?

 急いで水着のポケットを探ると数枚のコイン感触がある。サイフはバッグの中だからこれでいいかな。


「さて、こちらです」

 青年の後について外に出ると、8輪のバギー車があった。その荷台に俺達のバッグを少年達が乗せている。

 結構、暑いな。35℃位あるんじゃないか。

 早速ポケットからコインを取り出す。25L銅貨が4枚入っていたようだ。

 落ちないようにネットで固定していた少年達にコインを握らせると、微笑みながら小さく頭を下げた。小さいのに働いてるのは感心だよな。

 

 俺達が乗り込むと、青年がバギーを走らせる。

 砂浜近くを時速40km程で走らせる事15分。前方に小さなログハウスと沖に向かって200m程の桟橋が見えてきた。

 そのログハウスの前にバギーが止まると、東屋から数人の少年が出てきて俺達の荷物を桟橋に運んで行く。


「この中でお待ち下さい」

 俺達がバギーを降りると直ぐに青年はバギーと共にホテルへと戻っていった。

 皆でログハウスに向かうと、扉を開けて中に入った。

 外の熱気が嘘のようだ。

 ほっとしたところに、ネコ族のお姉さんが現れた。


「ようこそにゃ。今潜水艇を呼んだにゃ。一緒に来るにゃ」

 ネコ族のサービス業への進出はめざましいな。

 

 ビキニに大きな麦藁帽子姿のお姉さんに付いて桟橋を歩き始めると、俺達のバッグを運んでくれた少年達に出会う。

 さて、困ったぞ。


 そんな俺の顔を見たカテリナさんが銀貨を1枚握らせてくれた。

 少し皆から送れて歩き、少年達を呼び止めると、皆で分けるように銀貨を与える。

 足早に歩いてカテリナさんの隣に着く。


「すみません。面目が立ちました」

「良いのよ。でも何時でも数枚はコインを入れておきなさい」

 確かに失念だったな。着いたら早速入れておこう。


 俺達が桟橋の端に着いた時、水中から小型の潜水艇が浮上してきた。

 大きなハッチが開くと、クルーが俺達のバッグを運んでくれる。

 それが終ると俺達が乗り込む分けだけど、ちょっと飛び降りる感じだな。50cm位だから大丈夫だろう。

 ハッチを潜り中にある数列のベンチシートに腰を下ろして周りを見ていると、天井にある窓の外でお姉さんが手を振っている。

 

「出航します。時間は15分程度ですから、窓から水中を楽しんでください。

 艇内の放送と共に、お姉さんの姿が海面に揺らぐ。

 その場で数m潜水すると、ゆっくりと沖に向かって動き出した。振動が伝わってくるからスクリューみたいだな。低速回転で進んでいる。


「あれ? 良く考えたら、ローザがいないんだけど?」

「彼女なりに忙しいみたいよ。ローザの友達を連れてくるって言ってたわ」


 お年頃だからな。果たしてローザを射止めるのは誰になるんだろう?

 そんな事を考えながら、窓の外を見る。

 水深数mに広がる水中の世界は綺麗な熱帯魚が群れているから、エミー達が窓に張り付いて見ているぞ。

 やがて、深みに入ると、潜水艇も沈んでいく。すると前方に大きなドームが見えてきた。


 ドームに向かって潜航艇は進んで行き、真下になったところで浮上を始めた。

 ボコッと言う感じで潜水艇がプールのような場所に浮かび上がる。

 ゆっくりと岸に移動して行き、やがてガクンと機械的に潜航艇が固定された振動が伝わってきた。

 

「さあ、着きました。どうぞ、外に出てください」

 艇長の言葉に、クルーがハッチを開けてくれた。俺達が外に出ると、バッグを持って着いて来てくれる。

 床に光の帯が走っている。その上をしばらく進むとカウンターがあり、ネコ族のお姉さん3人が俺達を出迎えてくれた。


「リオ公爵ご一行様ですね。バンガローは3つになります」

 そう言って鍵を渡してくれた。

 青年が俺達のバッグを持ってドームから伸びるチューブのようなトンネルに入っていく。

 その先に扉があった。チューブの接続先は、この扉の向うのドームらしい。


「この02号室がリオ様専用になります」

 ん? ちょっと気になる言い方だな。ネコ族の青年がバッグを部屋まで運んでくれる。

 青年が帰ろうとするところを、フレイヤがチップを渡している。

 中々硬貨がいるみたいだな。前の硬貨がサイフに残っている筈だけど……。

 鍵を開けて扉を開けると、そこは天井が透明なドームの部屋だった。

 

「凄いわね。さあ、入りましょう」

 フレイヤとエミーがさっさと中に入っていく。

 少し壁を回りこむように歩くと、そこがリビングになっている。大きなソファーが外向きに配置してあるのは海中を眺めるためのようだ。

 更に壁を回りこむと2つの扉がある。片方を空けると、小さなジャグジールームがある。壁際の扉を開けると、そこはベッドルームだった。丸いベッドは直径3m以上あるぞ。

 

 とりあえず、寝室にバッグを置いてソファーに座ると海中を眺めることにした。

 エミー達はソファーの前のテーブルにあったタブレットでドームの説明書を読んでいる。

 

「リオ、ここでタバコは厳禁よ。どうしても吸いたい時は、さっきのカウンターに行けば吸えるみたい」

「なら、ちょっと出掛けて来るよ。この部屋は02号室だったよね」

「そうよ。鍵は、扉のところに予備キーがあるわ。1つ持っていて」


 ガンベルトには小さなバッグとポーチが付いてるから、ウェストバッグ的な存在なんだ。

 キャスター付きのバッグのバッグの中からコインホルダーを取り出す。コインホルダーには硬貨が10枚ほどセットされているから、チップが必要になればこれで何とかなりそうだ。

 タバコがバッグにある事を確認すると、2人に手を振ってリビングを後にする。扉の傍の壁に鍵が掛かっていた。これが予備キーらしい。ポーチに入れて扉を出る。


 長い透明なチューブが続いている。センターのドームから真直ぐだから迷うことはないだろう。

 それに、チューブの上に『02』と書かれた表示板があったから、帰りも問題はない筈だ。

 大きなドームに出ると、カウンターのお姉さんに、タバコを楽しめる事を確認する。


「そこのテーブルセットで皆は楽しんでるにゃ。換気システムは強力だから、此処で楽しむ限り問題は無いにゃ」

 お姉さんが腕を伸ばして教えてくれたテーブルには確かに灰皿がある。


 傍のソファーに腰を下ろして、タバコを取り出したところにカテリナさんがやってきた。目的は同じだな。


「あら、リオ君もなの?」

「ええ、愛煙家にはちょっと問題がありますね」

 そう言いながら、カテリナさんのタバコに火を点けてあげる。自分の咥えたタバコにも火を点けるとゆっくりと煙らせる。


「どうぞ」

 カウンターのお姉さんの1人が俺達にコーヒーを運んでくれた。


 早速、砂糖を入れて一口飲んでみる。

 結構良い味だな。食事も期待できそうだ。

 

「あの子達、どんな企画を考えてるのかしら?」

「お任せで良いんじゃないですか。退屈はしないで済みそうですし」

 

 俺の言葉にニコリと笑っている。

 フレイヤ達と同じようなビキニだけど布地が少なすぎないか?

 ちょっと目のやり場に困るぞ。まあ、最初の紐よりはマシに思えるけどね。


「そうだ、先程は済みませんでした。お返ししときます」

「良いのよ。リオ君のおかげで沢山儲けさせて貰ってるわ。それに、あの鉱石だってバカには出来無いのよ」


 確かにあれだけ採掘したからな。

 でも、あれは新型獣機のために必要な物だから、それで稼ごうなんて思ってないんだけどね。


「話は変わりますが、カテリナさんのお知り合いで先生はいませんか?」

 そう前置きして、中継所の工事を行なっている獣機士達の話を聞かせてあげた。


「確かに、住民が多くなってくれば家族持ちも来るでしょうね。そうなると子供達の学校が問題になるのね。基本は通信教育でも良いでしょうけど、小さな教室があっても良いわね。……分ったわ。それは私とマリアンで何とかできるわ。当てもあるし」


 そう言って俺の手を取る。

 ひょっとして、俺達のところに集まるのか?

 コインケースから素早く銅貨を抜取ると、コーヒーカップの底に忍ばせる。

 タバコの火が消えている事を確認すると、ソファーから立ち上がる。

 カテリナさんの腰を抱くようにして歩くと、俺の肩に頭を預けてくる。誰かに見られはしないかと冷や冷やしながらチューブのトンネルを歩いて、突き当たりの扉を開いた。


「やはり一服してたのね。皆、集まってるわよ。これからのスケジュールを説明するわ。適当に座ってね」

 そうは言っても空いてる場所はソファーの端になるな。

俺とカテリナさんがソファーの両端に座ったところで、真中に腰を下ろしていたフレイヤがテーブルに内蔵された端末を使ってスクリーンを展開する。


「昼食が終ったら、海中散策よ。人工鰓を背中に背負ってドーム周辺を廻るわ。『危険な生物は全くいない』と書かれているから安心出来そうね。ローザ達も合流する筈だから人数が多くなるわ。明日は、潜航艇で、島の西岸の南端にある浜に向かうわ。大きな波が何時でもあるから、サーフィンが出来るわ」


 海中散策は、まあ良いだろう。スキューバダイビングのようなものだ。機材の取り扱いさえ間違わなければ何とかなるだろう。

 だが、サーフィンって、直ぐに出来るものなのか? ローザ辺りは、グランボードを使ってるから意外と出来るかも知れないな。

 ちょっと不安になる企画だが、誰も文句は言わないようだ。

 食事は準備が出来ると連絡があるらしい。

 エミーが入れてくれた紅茶を飲みながら、ドームの外に広がる海中の姿を俺達は見入っていた。


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