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093 大きな島に出掛けてみよう


 襲撃を受けて死傷したヴィオラヴィオラ騎士団員の恨みを晴らしたところで、俺達はマンガン団塊を採掘に出掛ける。

 ヴィオラが使えないからカンザスでバージを曳くことになってしまった。急遽の改造だから曳く台数は3台になる。ベラドンナと合わせて6台は少し足りない気もするけどね。

 

 出発して4日も過ぎると、カンザスのバージが満載になる。残り3台だから、数回ぐらい鉱床を見つければ戻れそうだな。

 そんな事を考えていると、カンザスが回頭を始めた。

 また、何か見つけたようだ。


「巨獣がおらんのう……」

「それが一番じゃないですか」


 ローザとリンダが紅茶を飲みながら話している。それをエミーが温かな眼差しで見ているぞ。

 俺は、マグカップでコーヒーを飲みながら、タバコを楽しんでいる。

 いつもの日課なんだが、エミーが紅茶のカップを置いて「行ってきます」と俺達に声を掛けて部屋を出て行く。


「姉様は役目があるから退屈せずに済むのう……」

「まあ、巨獣にだって都合があるんだろうね。それとも俺達に恐れをなしているとか?」

「さすがにそれはないじゃろうが……。例の暴走も収まってしもうた。何時救援要請が来るかと楽しみじゃったのに」


 楽しみでは済まされない事態は回避されたようだ。

 結局、3日ほど暴走して、現在は群れが広がりつつある。たぶん、ゆっくりと北に帰って行くのだろう。


 一旦、採掘作業が始まると最低数時間はこの場に停止する。

 円盤機はさぞかし忙しいだろう。巨獣の接近を見付けた時が俺達の出番になる訳だ。


 夕食時でも採掘は継続し、夜半になってようやくカンザスが動き出した。

 どうやらバージ1台分にはなったらしい。

 

「このまま中継点に戻る事にしたわ。残り2台だけど、少し南に下がって戻れば何カ所かは鉱床があるでしょう」

 ブリッジから戻って来たドミニクが教えてくれた。


 まあ、運航の全責任はドミニクの考えることだ。3日も進めば残ったバージも満載になるんじゃないかな。3日間何も見付からないという事はこれまでも無かったからね。

 結局、2日後に見つけた鉱床で最後の1台を満載にすると、ラウンドクルーザーの速度を上げて中継点に戻って来た。

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               ・

 戻ると直ぐに、騎士団長達が副団長と一緒にマリアン達との会議に向かう。

 たぶん休暇についてだろう。

 しばらく働き尽くめだから、10日間位の休暇を騎士団員に与えるんじゃないかな。

 どうなる事かと俺達はソファーに座って待っていると、2時間ほどしてドミニク達が帰ってきた。

 

 ソファーに座る前に俺達に報告してくれた内容は、10日間の休暇だった。騎士団を2つに分けてそれぞれ10日間の休暇となる。

 実質20日間の休暇だが、カンザスは乗員が少ないから一括になるようだ。


「私達は前期になるわ。その間アデルに中継点をお願いすることになるけど、軍の駆逐艦もあるし、問題は無いでしょう。それに、後数日でガリナムが帰ってくる手筈よ」

「この艦だけで100人以上いるぞ。高速艇3台はレンタルが難しいんじゃないのか?」


「商会の輸送艇に便乗させて貰えるから実質のレンタル台数は1台で十分よ。それに、私達はカンザスで向かうから」

「まあ、非常時を考えればそうなるんだろうけど、どこに降りるの?」


「此処よ。王家のプライベートアイランドの最大規模の島らしいわ」

「此処は何度か行った事があるのじゃ。確かに適地じゃ。高速艇の発着場は1km四方もあるし、王都との定期便さえある。大型のホテルは2つあるが、至る所にコテージがあるぞ」


 そういえば、前にプライベートアイランドに行った時、もっと大きな島があると言っていたな。

 

「この島で遊ぶも良し、王都に帰るも良しという事で……。でも、出発前日には帰ってきて貰う事になるわ」


 それ位は何とかなるんじゃないか。

 10日の内、往復で2日は無くなるが、実質8日は遊べるんだ。王都への往復を考えても6日は実家に帰る事だって出来るぞ。


「それで我等の予定はどうなるのじゃ?」

「それは、ローザとフレイヤに任せるわ。でも王都でのショッピングに1日は欲しいわね」

「了解じゃ。フレイヤ、早速端末を操作して目的地を表示して欲しいのじゃ」


 後は2人に任せておけば良いだろう。

 俺としてはのんびり木蔭にハンモックを吊って昼寝を楽しみたいぞ。

 

 ローザがお薦めの場所を表示すると、フレイヤがその内容を確認している。

 遊べるのは6日と考えているようだ。

 その範囲で効率的に回ろうと考えてるみたいだけど、島は逃げないから再度遊びに行こうとは考えないんだろうか?

 かなりのハードスケジュールに思えてきたな。


「ところで、イベントは無いんだよね?」

「ヒルダ王妃達も2日程一緒したいと言っているらしいの。スケジュールを教えて欲しいと依頼が来てるわ」


 南のバージターミナルの事だろうな。

 それなりに動き始めたようだ。


「荷造りがいらないのは良いわね。後は給与だけど……」

「今日中にマリアンが振り込んでくれる手筈よ。クロネルさんが仕事が減ったと喜んでたわ」


 俺の給与ってどうなってるんだろう?

 ひょっとして、払う立場になってるから無収入とか……。後で、ドロシーに教えてもらおう。


「基本はこんなもんじゃろう。後は、現地でアレンジすれば良い」

「ところで、全員泳げるの?」

 フレイヤの言葉にエイミーが首を振って手を上げる。

 

「海がメインになるから、何時もフロートを持っていれば安心だわ」

「フロートは前に付けて、リオ様に海に入らせて貰いました。あれなら安心できます」


 また海で魚を獲るのかな?

 結構美味しかったからな。沢山獲ってもネコ族のお姉さん達が責任を持って始末してくれたし……。

 待てよ、俺達の騎士団にも生活部は全員がネコ族だよな。

 此処は頑張って魚を獲る事になりそうだ。


 アレクの負傷部位もカテリナさんのクローン再生医療で形は整えられたらしいが、意識は未だに戻らないらしい。

 とは言っても、脳波は活発な動きをしているらしいから俺達が戻るころには意識を取り戻すかもしれないな。

 休暇の間はサンドラ達が様子を見ていてくれるということで、フレイヤも俺達と一緒に休暇が取れる。

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 カンザスの定員は100名と言う事だが、予備の居住区と客室を利用すれば150名は乗船できる。

 第1陣の休暇対象者は310名。カンザスとヴィオラそれにヴィオラ桟橋要員や中継所要員でそうなってしまう。第2陣は250名ということだった。


 高速艇1隻チャーターして100名を乗せて王都に向かわせ、70名は商会の高速艇を使わせて貰った。

 残り140名がカンザスで王族のプライベートアイランドに向かう。


 ベラスコにはそれぞれ客室を宛がっておいたから不平も出ないだろう。

 食堂は小さいけれど、暇な連中が集まっているみたいだ。会議室にも何人かが休んでいる。


 俺達のリビングに、そんな連中が久しぶりに集まったから煩いなんてもんじゃない。

 何時の間にか、テーブルには女性達が、そしてソファーには男達が集まってのんびりと酒を飲んでいる。


「しかし、さすがに公爵の私室となると立派ですね」

 しきりに辺りを見渡していたベラスコが呟いた。


「通常なら、この3倍はある。まあ、ラウンドクルーザーに作るならば確かにこれ位にはなるじゃろう」

「公爵としての私室は小さいけれど、リオ殿は騎士でもあります。公爵としての居室は中継点に作るべきでしょうね。あくまで騎士団員としての部屋だと言えば貴族達にあれこれ言われずに済むでしょう」

「身分と住まいは同列という事?」

 リンダの感想に思わず問いかけてしまった。


「そうです。特に貴族社会では重要視されますよ。ですから、万が一、貴族をこの場に呼ぶ時は仮住まいと答えればいいんです。リオ殿の矜持が問われかねません」

 意外と付き合いが難しいらしい。


 ならば、他の場所で会うようにすれば良いんじゃないかな。

 それに、カンザスに騎士団員以外を乗せる気は毛頭無いしね。ローザ達は準団員として皆も認知してるみたいだから構わないけれど……。

 

「しかし、これで時速500kmとは信じられません」

 ジッと前を見ていたベラスコが呟いた。


「いや、かなり出てるんだ。だけど、このまま王都に向かうわけにも行かないから、王都手前で回頭して荒地を進み、そのまま海上に抜けてプライベートアイランドに向かうんだ」


 俺の説明に合わせてドロシーがスクリーンを展開すると、これからのコースを示してくれた。

 どうやら到着は夜中になるみたいだな。


「俺は一旦王都に戻って母を訪ねます。3日もすればこちらに気ますがホテルで過ごす事になりそうですね」

 ベラスコは両親を訪ねるのか。


「私は王国軍に行ってきます。一応状況報告をした方が良いでしょうし」

 「ならば、時間が出来れば訪ねて来い。場所はこのエリアになる。センターを訪ねれば俺達のバンガローが分るだろう」


 遠くに王都の防壁が見えてきたところで、カンザスは回頭を始めた。左に進路を取った。さらに30分程過ぎると今度は進路を南東に取った。

 王都の防壁を回りこむようにして海に出るつもりのようだ。夕暮れの進む中、遠くに海原が見えてきたぞ。

 ドロシーが展開しているコース上の輝点の位置を見ると、残り2時間程なんだろうな。

 

「さて、簡単に荷物を纏めるわよ。今夜はホテルで明日の朝1番で海中バンガローに向かうわ。前の時と同じ荷物を詰めれば良いから、それ程時間は掛からないでしょう。リオの荷物はフレイヤ、お願いね」


 パタパタと女性達が荷物を纏めに向かった。

 俺達は互いに顔を見合わせる。

 

 「海中バンガローだと?」

 「そんなのどこにあるんですか?」


 ドロシーに聞いてみると、簡単なデモの映像が始まった。

 どうやら、島の西部にあるらしい。海中10m程にお椀のような透明のドームが数個接続された施設のようだ。

 中央の大きなドームから周囲にトンネル状のチューブで小さなドームに繋がっている。そこがバンガローという事だろう。

 

「小さな潜水艇で向かうようですよ。泳いでも何とかなりそうですね」

「眺めがおもしろそうだな。空きがあるかどうか確かめさせよう」


 周囲には何も無いように見える。

 この海中バンガローが、この地帯の主要な施設になるんだろう。昼間はのんびりと木蔭で昼寝が楽しめそうだ。


 だんだんと暗闇が辺りを包む。

 投光器で前方を照らしているが、見えるのは海面だけだ。

 そんな中、小さくカンザスがコースを修正した。


『到着まで、後30分です』


 もうすぐか、俺はとりあえずはする事が無い。

 タバコに火を点けると、一服を始める。

 やがて、カンザスの速度がぐんぐん落ちてきた。投光器に映し出される波がはっきりと確認できるぞ。

 

 前方に上空に伸びる光の柱が見える。距離は判別しづらいが、あの下に発着場があるのだろう。

 更に速度を落としながら光の柱に向かってカンザスが進んでいく。


 舷側の窓から眺める光景が波から熱帯植物の林に変わると、カンザスは光の柱の真上にピタリと静止した。

 ゆっくりと高度を下げると、横にスライドするように動いていく。


 エレベーターの停止時のような軽い重力を感じると、発着場の角にカンザスは多脚を使って移動する。

 

『到着です。現在時刻19時20分。到着予定時刻を10分間下回っています。下船時には忘れ物が無いか今一度確認下さい。カンザスは21時以降は全ての開口部を閉鎖します。21時以降にカンザスに乗船する場合はプライベートアイランド警備室に連絡願います』


 ドロシーの放送をちゃんと聞いている人が、果たして何人いるんだろうか?

 このリビング連中は特に怪しいところだ。

 でも……、いよいよ休暇の始まりだ。


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