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090 宣戦布告で脅かそう


「リオ殿が御一緒とは思いませんでした。となれば中継点の対応になるのでしょうか?」

 ヒルダ様が腰を下ろすように言ったソファーに副官と一緒に座ると直ぐに用向きを確認している。結構忙しそうだな。早めに階段を終わらせる方がいいのかもしれないぞ。


 改めてメイドが飲み物を運んできた。今度はワインのようだが、トリスタンさんは仕事中なんだよな。


「ええ、似た話です。最初にカテリナから聞かされたときには我が耳を疑いましたが、どうやら事実ということなのでしょう。この場にリオ殿がその確認をしたいとやってきました」


 話が見えないという感じでトリスタンさんが俺に視線を向けた。

 ヒルダ様は小さく頷いてくれたから、直ぐに本題に入っても良いのだろう。


「先日、ウエリントン王国軍と戦端を開くことになりました。ウエリントン王国軍による陸上艦ヴィオラの破壊は容認できるものではありません。生憎と戦の通告をどのように行うかを理解しておりませんので、ヒルダ様のお力でトリスタン殿に今伝えたところです」


 最初は冗談だと思ったに違いない。思わず微笑んだぐらいだからな。だけどヴィオラが破壊されたと聞いた途端に顔をひきつらせた。最後の言葉を聞いた時には目を見開いてヒルダ様に顔を向けたほどだ。


「どういうことでしょう? 軍の訓練は通常通りで私には騎士団の船を誤って砲撃したという情報も入っておりませんが?」

「失態ですね。リオ殿、証拠となる資料を開示していただけませんか?」


 ここまでの流れはいい。相手の意表を突けばこちらで用意した証拠が意味を持つ。

 仮想スクリーンを展開して、破壊されたヴィオラの様子を映し出す。


「破孔の大きさは、120mmではありませんね。どう見ても巡洋艦クラスになるでしょう」

 副官の言葉にトリスタンさんが息をのみながらも頷いている。


「だが、海賊が持たぬという確証も無い。だいぶ派手にやられたようだが損害は?」

「装備は何とでもなりますが、騎士団員の三分の一が死傷しました。我等は王国の一員と思っておりますが、荒野には荒野の掟があります。泣き寝入りをすることはありません」


 次に戦闘の時系列を説明する。

 ここで注意すべきはいち早くカンザスの接近を知り、損傷した戦車を破壊して逃走していることだ。

 ヴィオラに乗り込もうとして、反撃を受けた仲間の死体まで持ち去って行ったことも付け加える必要がある。


「おおよそ海賊らしくない襲撃です。それに、無事だったブリッジの監視記録には相手の艦船の姿がありませんでした。ここからは推測になりますが、襲ったのは軍の潜砂艦。ヴィオラに砲撃を加えたのは、潜砂艦に搭載された200mm自走砲と考えると辻褄が合います。となると、我らが王国軍と一戦するのはご理解いただけるものと考えますが?」


「至急、潜砂艦の現在地を確認しろ。装備の確認もだ。それが分からねば反論も出来ん」

 トリスタンさんが大声で部下に指示を与える。それが終わったところで再び俺に顔を向けた。


「たぶんリオ殿の誤認でしょう。確かに状況を見れば疑わしいことではありますが、軍の規律はそれほど緩んではいないつもりです」

「大破した戦車の乗員のDNA解析結果です。すでに軍の電脳の記憶槽を調査して該当する人物を特定しました。場合によっては公にしたいところですね」


 リストに名前と階級が表示される。

 素早く副官が読み取ると、その確認を取り出した端末で始めた。


「軍の電脳にハッキングとはとんでもない連中だな。まあ、カテリナ殿がおられるのだから難しい話ではないのだろうが、その他にも、証拠は押さえたのか?」

「この部隊の4番潜砂艦と我等は特定しました。損失戦車の台数、200mm砲弾の在庫数は、部隊内で修正することはできません。当該艦の電脳を確認して、ヴィオラ襲撃時刻前後に、その削減を確認しています」


 今度は、トリスタンさんの表情が険しくなる。まぁ、ここまで軍の電脳記憶槽が丸わかりともなればいろいろと不都合もあるのだろう。


「リオ殿の行ったことは、ウエリントン王国の国法に抵触するぞ!」

「国法を守って戦も出来ないでしょう。俺達はすでに覚悟はできてますよ。ウエリントン王国軍と戦うことになっても騎士団は傍観してくれるでしょう。場合によっては我等に参加してくれるかもしれません」


 キッとした目で俺を見ていたけど、今度は視線をエリーに移した。


「王女様はそれでも良いのですか? 国王の軍隊ですぞ!」

「トリスタン殿。国法は大事です。ですが国法とは何でしょう? 国民を守るためにあるのであれば、国民に牙を向いた軍隊を註するにはどうしたら良いのです?」


 今度はヒルダ様に視線を移す。その時、副官がタブレットを取り出して、画面をトリスタンさんに見せた。

 食い入るようにそのタブレットを見ている。


「そういうことです。軍の一部に問題があるようですね」

「問題は軽くはありませんぞ。もしこの失態が公になれば我が軍の威信は大きく下がります。荒野の海賊の被害すら我が王国で保証することにもなりかねません」

 

 がっくりと肩を落としている。どうやら自国軍の仕業とトリスタンさんも納得したみたいだな。


「できれば新造巡洋艦1隻と死傷者の保証を行うことで、リオ殿の矛先を納めて頂きたい。稼働する戦姫の前には戦艦ですら、タグボートとそれほど変わることはないだろう」


 保証で誤魔化そうということなんだろうか?

 美味しそうな、申し出だけど俺には飲めない話だ。


「そこで両者の交渉をする気にはなりませんの? たぶんその条件ではリオ殿は納得しませんよ」

「ではどうしろと?」


 ヒルダ様がにこやかな顔を俺に向けた。

 条件を示せということなんだろう。


「問題の潜砂艦はすでに特定しています。この部隊はトリスタンさんに必要ですか?」

「元々問題のあった貴族が、無理やりに軍の内部に作り上げた部隊だ。軍令部の指示を守らずに独断で行動することが多々あるということらしい」

「噂では複数の貴族が彼らを操っているのではないかとまで言われています」


 吐き捨てるように言ったということは、どうでもいい部隊ということなんだろうな。


「俺達がウエリントン王国軍と戦果を交えないという条件は、この部隊の殲滅です。何もトリスタン殿の手を煩わせることは致しません」

「リオ殿達で戦うということか? だが、相手は潜砂艦だぞ。速度は余り出せぬが砂に潜られてはいかにレールガンであろうとも届かぬはずだ」


 軍人だけあって、兵器には詳しいな。

 

「それは俺達の問題です。俺達はこの部隊の殲滅許可をトリスタン殿より頂きたい。それがダメなら、最初に戻ることになります」


 とはいえ、トリスタンさんには荷が重いかもしれないな。海賊行為を働いた軍の一部について他者に殲滅を許可することになるんだからな。


「この場での回答をお待ち願いませんか? 明日には明確な返答をいたします」

「たぶん、リオ殿も即答を期待してはいないはずです。国王に具申する必要があるでしょうね」


「失礼します。それにしてもお人が悪い。私としては許可したいところです」

「とはいえ、トリスタン殿が許可を出せば王宮内に波風も起きるでしょう。やはり国王の下命とした方がよいと思います」


 あれで互いに分かり合えたんだろうか? 最後には2人とも笑みを浮かべていたけど俺には理解に苦しむな。


「さて、これで明日までここにいらしていただけますね。それからの出来事を色々お聞かせくださいな」

 本当に王国軍と一戦する覚悟で来たんだけどなぁ……。

 すでにカテリナさんから話を受けてはいたんだろうが、どうやら俺の願うところで落ち着きそうだ。

 そうなると次の課題が生まれてくる。地中に潜む潜砂艦をどうやって発見するかということだ。

 一応アイデアはあるんだが、その解析が面倒にも思える。アリスは容易だと請け負ってはくれたんだけどね。


 エリーがメイドに連れられて自分の部屋に向かった。

 目が見えない時代に住んだ部屋だ。今はどんな気分でその部屋を見るんだろう。皆の愛情の元で育ったんだろうけど、目が見えないという負い目があったに違いない。

 少し可哀そうな気もするけど、今では周りの連中と楽しくやってるからな。


「それで、リオ殿は納得してもらえるのですか?」

「荒野の掟は、それ以上を求めません。本当は色々とあるのでしょうが、現在のヴィオラ騎士団であれば死傷者への保証も何とかなります。死んだ者は帰っては着ませんが彼らを葬った者達への復讐を俺達がすることで満足してもらうつもりです」


「軍の任務を依頼する形になると思いますよ。騎士団の掟と王国の法律を上手く整合させねばなりませんねぇ」

 

 ヒルダ様も王族だからなぁ。王国全体の動きには敏感にならざるを得ないようだ。

 とはいえ、事なかれ主義ではないのがありがたい。

 

 豪華な夕食を頂き、夜はエリーの弾くハブールに耳を傾ける。

 優しいハブールの音色は、この第二離宮にふさわしく思える。荒野で聞くハブールもこんな優しい音を俺に聞かせてくれるのだろうか。


「次の便にこのハブールを送ることにしました。荒野の夕日はこの音色に適ず合うことでしょう」

「エリーは何度も見てるのですね。私もだいぶ見ましたが、思い出す色は優しく感じますよ」


 ん? ヒルダ様は王都で暮らしてたと思ってたんだが、少し異なるようだ。

 もっとも、今は王妃様だからな。王妃になった段階で、昔のことは全て思い出の中ということなんだろうか。


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