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089 抗議はエビデンスが大事だ


 中継点に戻ると、ヴィオラが桟橋の後方に停泊し修理が始まった。

 ほとんど大破に近いが、ベルッド爺さんは完全に元に戻すと張り切っている。その間はマンガン団塊の採掘ができなくなってしまうと、ベラドンナと改修が終わったガリナムが連れ立って採掘に出掛けて行った。

 改修後のガリナムは88mm砲が11門もあるし、足の速さは巡行で時速45kmも出せるから、戦機2機分以上の働きをしてくれるに違いない。

 カリオンとベラスコも頼れる仲間だからね。


「やはり、カンザスにもバージの曳航装置を付けるべきよね」

 アレクの見舞いから帰って来たフレイヤがソファーに倒れ込みながら呟いた。

 確かに、無いのも問題だよな。

 おかげで中継点で足止めを食らっている。カンザスなら300tバージを5台以上曳いて採掘ができるんじゃないかな?

 ベルッド爺さん達の作業が一段落したら検討してもらおう。今の状況ではそんなことは言えないけどね。


「それで分かったの?」

「カテリナさんの分析結果を軍の電脳の記憶槽で探ったら、ビンゴだったよ。全員が現役軍人だった。それも潜砂艦所属の戦車部隊勤務だ」


「当然抗議するんでしょう?」

「いや、それはしない方がいいだろうな。もうすぐ巨獣との遭遇戦で殉職扱いになるはずだ。彼らが率先して行っているならそれもいいんだろうけど、命令で仕方なくであれば遺族は悲観するだろうからね」


 途端に、フレイヤの表情が険しくなる。

「泣き寝入りってこと!」

「そうじゃない。誰に喧嘩を売ったかをちゃんと体で覚えさせないといけないだろうしね。もう少し待ってくれ。俺とカテリナさんで王都に出掛けてくる」


 カテリナさんを通してヒルダさんに軍の高官とコンタクトを取ろうとしているんだが、中々返事が来ないんだよな。

 来なければ独自に動く手もあるけど、エリー達の立場もあるし、軍には中継点作りに協力してもらった負い目もある。

 ドミニクは俺に丸投げしてきたから、好きにしてもいいんだろう。


 悶々とした日が数日続いた時、待望の知らせをカテリナさんが持って来てくれた。

「会ってくれるそうよ。でも、私は休養が出来たからリオ君1人で行ってくれないかしら。そうだわ、エリー連れて行きなさい。エリーの暮らしていた離宮をエリーは見たことが無いのよ」

「そういうことなら、エリーを連れて行きたいですね。でもどこに向かえばいいんですか?」


 カテリナさんが端末を使って仮想スクリーンを展開する。そこに映し出されたのは王都を上空から撮影した画像だ。


「リオ君には無理でも、アリスが覚えてくれれば問題ないわよ。場所は……」

 ちょっとムッとした表情をしたんだろう。カテリナさんが噴き出しそうな表情をしている。

 それでも、画像を操作して少しずつ拡大されていくのが分かる。というより、降下しながらこの画像を映してるのか?


「これが王宮よ。3km四方だから、正門から入っても迷ってしまうでしょうね。ヒルダはこの第二離宮にいるわ。この庭がお気に入りのようね。この離宮前の広場にアリスを下ろせばメイド達が案内してくれるはずよ」

 

 とんでもなく大きいぞ。

 第二離宮自体が大きな森の囲まれている感じだ。王宮は俺には対象物さえ思いつかない。しいて言えば巨大な桟橋にも見える代物だ。


「一応、確認しときますけど、未確認飛行物体として迎撃されることは無いんですか?」

「当然、王宮警備部隊より誰何されるでしょうけど、『ALICE』と答えれば迎撃はされないわ。すでにヒルダが迎撃システムへの対象外飛行体として登録済みよ」


 そうだよな。仮にも一国の王宮だ。科学は発達した世界なら、それなりの迎撃態勢は完備しているだろう。


「確認したDNA情報は私の使ってる電脳の記憶槽にあるから、アリスが撮りに来ればいいわ。ファイル名は既に分かってるはずよねぇ」

 カテリナさんの電脳までアリスはハッキングしているんだろうか? かなり物騒なハッキング防止対策をしていると聞いたことがあるんだが。


「一応、抗議に行くんでしょうけど、相手の協力を得ることが一番よ」

「今回の襲撃と引き換えにですか?」


「それはリオ君には無理かもしれないから、ヒルダに頼んでおくわ。フェダーンならかなり強引に進めそうだけどね」


 俺では頼りにならないと思ってるのかな?

 かなり怒ってるんだけど、それではダメだということなんだろうか? 

 今夜にでもエリーと相談してみようかな。


 翌日。カテリナさんから日程の連絡がやって来たけど、明後日だぞ。直ぐに出発することになるのかと思ったら、アリスから十分に間に合うと言われてしまった。


『亜空間移動を行えばカンザスのカーゴ区域から第二離宮前までは数秒にも満たない時間で行くことができますよ』

「そうなると、予定時間の5分前を目安で良いのかな。その時間にエリーと乗り込むよ」


 少なくとも余裕が出来た。もう一度、襲われた時の時系列とサンドラ達の補足を突き合わせてみる。

 少しでも俺達に問題があったなら、軍の行動を邪魔したことになりかねない。

 だが、どこにも瑕疵はない。これで交渉が決裂するようなら……。

                 ・

                 ・

                 ・

 騎士の礼装をエリーと共に着たところでアリスの元に向かう。

 本当に数秒で着くのかは疑問があるけど、とりあえずはアリスの言葉を信じよう。

 先にエリーをコクピットに入らせて、その後で俺がシートに座ると全周スクリーンが周囲の映像を映し出す。

 特に問題は無い。胸部装甲板が完全に下りたことを知らせる表示が小さな仮想スクリーンに表示された。


『全て異常なし。それでは亜空間移動を行います』

 アリスの言葉が終わると同時に周囲の光景が歪むと別な風景が重なった。ゆっくりと歪が消えていくと、周囲の光景はカンザスのカーゴ区域ではなく、エンタシスの列柱が並んだギリシャ建築風の第二離宮前の広場に変っていた。


『到着しました。一応、迎撃システムに到着の連絡をしてありますから不審機ではありませんよ』

「了解。だいぶ人が出てきたな。それじゃぁ、降ろしてくれないか」

 

 俺の言葉がお笑い内に、アリスが広場の一角で片膝を着く形になる。腕を胸に上がると胸部装甲板が開き始めた。

 数人の衛兵がライフルを構えているが、一応ヒルダ様の招きという立場があるんだよな。それに降嫁したとはいえ、エリーは元王女でもある。

 ここは安心して降りよう。


 アリスの手にエリーと共に乗ると、ゆっくりと手が下に下ろされた。ひょいと地面にエリーと飛び降りると、アリスが立ち上がり胸部装甲板も閉じていく。じっと立っているのはちょっと問題かもしれないけど、この近くにカーゴ区域があるとも思えない。しばらくはこのままでいて貰おう。


「失礼ですが、リオ公爵殿でしょうか?」

 年かさの男性が腕で部下の持つライフルを下げさせながら俺達の前にやって来た。


「そうです。こちらは私に降嫁してくださったエリー元王女になります」

「大変失礼いたしました。まさか戦姫で来られるとは思ってもいませんでしたから。どうぞこちらに、ヒルダ王妃様がお待ちかねです」


 1人の兵士が神殿風の建物に走っていく。たぶん俺達の到着を知れせるんだろうな。

 先ほどの兵士の後ろをゆっくりとエリーと共に歩き出した。

 他の兵士は俺達の周りを囲んだのは、護衛ということなんだろうか? なんとなく護送されてる気もしてきたな。


 横幅20mを超える階段は無駄以外の何ものでもない。数段の階段を上ると、エンタシスの列柱の間にヒルダさんが2人のメイドを従えて立っていた。

 2mほどの間をおいて頭を下げると、小さく頷いてくれた。直ぐにエリーがヒルダ様に抱き着いたのは礼儀を逸するかもしれないけど、実の親子だからね。周囲の兵士やメイド達も微笑んで見守ってくれている。


「エリー、いつまでも公爵殿を立たせたままには出来ませんよ。さあ、こちらにどうぞ」

 えりーにそう言って聞かせながら体を離すと、俺に向かって再度頭を下げてくれた。今度は俺が小さく頷く番だ。2人の後に続いて第二離宮の中に入って行った。


 入り口の扉の高さが4m近いのは無駄に思えるし、真っ直ぐ奥に続く回廊は横幅だけで3mもありそうだ。回廊の半分ほどに近づいたところで右手の扉を開ける。

 ここが私室ということなんだろうが、体育館ほどもあるリビングだ。いくつかのソファーがあるのは来客の人数場所を変えるのだろうか?

 ヒルダ様が俺達を案内してくれたのは大きな1枚ガラスの窓際だった。窓の外は庭になるんだが、緑に囲まれた池が直ぐ目の前まで来ている。かなりの魚もいるんだろう小さな波紋があちこちに立っていた。


「きれいなお庭ですね。心が落ち着きます」

「まぁ、リオ殿はこの景色をそう感じられるのですね」

 俺の一言を聞いてかなり嬉しそうな表情をしている。

 花が1つも無い庭だが、俺にはなんとなく落ち着いた庭に思える。さぞかし高名な庭師の作なんだろう。


 メイドの運んできた飲み物は2人には紅茶だけど、俺にはマグカップにたっぷりとコーヒーが入っていた。


「薄いブラックに砂糖がたっぷりでしたね」

 一口飲んでみた俺に、笑みを浮かべて話しかけてくれる。確かに俺好みだ。前に来た時に覚えていたんだろうか?


「俺好みです。申し訳ありませんでした」

「それは招いた以上当たり前の事ですわ。もうすぐ、トリスタンもやってくると思います。エリーは以前ここで暮らしてたのよ。後で自分の部屋にも行ってみなさい。ハブールはそのまま置いてあるけど、向こうの宮殿に持って行けば良いかもね」


 ハブールとは聞きなれない言葉だったが、エリーの話では弦楽器の一種らしい。こんな形で弾くんですと形を見せてくれたんだが、それだとハープということにならないかな。


 そんな話をして楽しんでいると、メイドが来客を告げに来た。いよいよトリスタンさんとの会談になりそうだ。

 すぐに、トリスタンさんが副官を伴ってこの部屋に入って来た。

 王妃と単独で会う機会はほとんどないのだろう。かなり緊張している様子がうかがえるけど、俺達2人を見て少し態度が和らいだ。

 普段はかなり厳しい命令をヒルダさんは下しているのだろうか?


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