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088 ヴィオラ大破


 緊急警報が発せられた艦内でレイドラ伝えてくれた知らせは、カンザスに衝撃をもたらした。

 誰もが絶句し、目を見開くほどのものだ。

 カンザスのリビングに帰って来たドミニク達と緊急会議が始まる。


「本当なんだな?」

「先ほどの連絡は、ヴィオラ騎士団のレッド暗号を使っています。他の騎士団では解読不能ですから、間違いないものと」


 頭を落として、小さなテーブルをガツンと拳で叩く。

 その音が大きかったようで、ローザが押し殺した悲鳴を上げたのが聞こえた。エリーが慌ててハンカチを取り出すと俺の左手を縛っている。

 そのハンカチから血が滲むのをぼんやりと見つめた。

 不思議と痛みが感じられない。俺の感情というか神経が混乱してるんだろうな。


 ヴィオラが大破したのはいい。また修理すればどうにでもなる。だが、亡くなった連中は帰って来ない。

 その中にアレクを筆頭に4人の騎士がいたはずだ。その上周囲を円盤機が周回しているヴィオラを海賊団が襲うなんて……。


「状況を確認してくれ。クリスは無事なんだろう?」

「アレクが身を挺してヴィオラの大破を防いだと聞いてきます。現在、ヴィオラに向かって全速航行の準備を急いでいるところです」


「兄様。分かっておろうな?」

「ああ、誰に喧嘩を売ったかを教えなくちゃならないな。その上で壊滅させてやる」


 神出鬼没の海賊団だが、少しは痕跡を残していっただろう。それで襲った相手が分かるはずだ。

 王宮のトリスタンさんと連絡が取れれば、その海賊の姿が少しは見えてくるに違いない。母艦を砂に隠して手下共を使い捨てにするような相手だ。取り巻き共々この世から抹殺しても誰も悔やむ者はいないはずだ。


「兄様。顔が怖いぞ」

 どうやら口だけで笑っていたらしい。

 顔をぱんぱんと両手で叩き、笑顔をローザに向かた。まったく、俺の事をいつも見てるんだからな。


「リオ様は笑顔が一番です。でも、大変なことになりましたね」

「騎士団の常ではあるんだろうな。だけど、やりきれないところもある。やはり私怨と言われようともヴィオラに牙を向けたなら刈り取ってやろう」

 離れた席にいたカテリナさんも小さく頷いている。同意してくれたということかな?


「で、具体的にはどうするのじゃ? 我もヴィオラ騎士団に厄介になっておる。協力はやぶさかではないぞ」

 殊勝な言葉を言ってるけど、その裏には海賊退治をしたくてしょうがない感じだな。目が輝いてるから直ぐに分かってしまう。

 

「先ずは状況の確認。次は相手を限定。最後に殲滅です。順序を違えては後に問題も出て来るでしょう。海賊は必ずしも盗賊団と限らないのが面倒なんですけどね」


 義賊を誇るような海賊もいるから話がややこしくなるんだよな。盗賊ギルドというのもあるらしいからね。

 

 おかげで、人情に訴える仕事を請け負う連中もいるようだ。

 浮気をした夫を闇討ちするような仕事は、どれぐらいの値が付くんだろうか? たまに王都で起こるらしいんだが、襲撃された方もたんこぶを作るぐらいで重傷者は出ないのがおもしろいんだよな。ヴィオラの艦内放送でそんな噂がいつも披露されている。


「特定の海賊団にのみ、ヴィオラ騎士団は敵対すると?」

「向こうがどう取るかは、どうでもいい。それを周知することに意味があるんだ」


 襲ったら潰されると分かれば襲う者などでないはずだ。現に12騎士団に襲い掛かる海賊団など聞いたこともない。


 船体の微振動がピタリと止んだ。どうやら地上走行を止めて飛び発ったらしい。これで2時間も掛からずにヴィオラと合流できるだろう。

                 ・

                 ・

                 ・

 薄明が終わろうとした荒れ地にヴィオラが姿を見せた。

 舷側に大穴が2つ空き、小さな砲弾の後が無数に見える。周囲を監視している獣機や戦機の姿が見えるが、戦鬼の姿が見えないぞ。


『着艦します。衝撃に備えてください!』

 ドロシーが伝えてくれる。刀はいらないだろうが銃は持って行った方がいいだろう。

 着艦時の小さな衝撃が伝わってきたところで、席を立とうとしたところにドミニク達が部屋に入って来た。


「このままでいて頂戴。クリスがやってくるわ。アレクが重傷を負ったみたい。再び戦鬼に乗れるかは微妙なところね。母さんがヴィオラに向かったから、アレクをカンザスに移動するわ」


 ある程度、周囲の安全は確保されているということなんだろう。

 そうなるとベルッド爺さん達が忙しくなりそうだな。中継点に回航できればいいんだけど。


「了解した。ところで襲った相手はまだわからないのか?」

「撃破した相手の遺伝子情報を照会中よ。とはいえ、1つの海賊とも思えないわ。それに持ち出した武器は200mm自走砲らしいの。どこから手に入れたかを巡って軍も動き出しかねないわ」


 貴族枠を超えてるってことだな。貴族なら120mm砲までの筈だ。

 まさかとは思うが、軍が絡んでいるとなるとかなり面倒なことにもなりかねないぞ。

 今のところ、軍と対立はしてないはずなんだが……。

 

 落ち着こうとライムさんにコーヒーを頼んだ。

 熱いコーヒーを砂糖無しで飲んでみたが、こんな苦いのをよくも飲める連中がいたものだと感心してしまう。

 それでも、頭が少し晴れてくる。一服しようとタバコを取り出したところに、クリスが副官と共に入って来た。

 テーブルに席を移して、クリスの報告を聞く。


「突然砂の中から砲撃を受けました。夜間でしたから韜晦航行をせずにいたことが敗因です」

 クリスの言葉の後を受けて副官が仮想スクリーンに時系列で戦闘の経緯を報告してくれた。

 かなりアレクは活躍してくれたようだ。アレクがいなかったら全滅してたかもしれないな。


「都合3発の200mm砲弾が放たれました。その内の1発はブリッジを狙ったものでしたが、戦鬼が盾になって砲撃を受けてしまいました」

「それで、アレクが重傷を負ったんですね。命があっただけでも幸いです」


 200mm砲弾を放った自走砲は素早く撤退したらしい。向こうにしても大事な品なんだろう。


「敵の乗陸艇を2度に渡って撃退しました。3度目は無く、素早く撤退していきました。破壊した戦車を再度破壊するなど隠蔽工作もその時に行っています」


 それで、報告は終わりみたいだ。再度2人が俺達に頭を下げる。

 ドミニクが深くため息を吐いたが、2人を非難することは無かった。荒野ではよくあることと割り切っているのかもしれない。

 だが、俺は割り切れないな。


「襲撃者の肉片はすでに中継点に送ってるんだったね。それ以外に襲撃者を特定できるものはなかった?」

「海賊団とは何度か交戦しましたが、戻ることができない戦車や円盤機をあそこまで破壊する海賊は初めてです。残された戦車等からある程度は特定できるのですが」


 襲撃者を隠す必要があったということになる。

 ひょっとして相手は海賊ではないかもしれないぞ。


 疲れて隈が出始めたクリス達を客室で休ませ、ヴィオラの乗員達がしている周囲の監視をローザ達に任せて休ませることにした。

 ベルッド爺さんの話では、明日にはヴィオラを回航できるとのことだ。早めに中継点に戻って対策を考えねばなるまい。


 その夜。リビングのソファーには俺とカテリナさんの2人だけだ。

 不幸中の幸いで、アレクは1命を取り留めたようだが、深い傷を残すことになった。

 アレクの性格が変わらないことを祈るばかりだが、サンドラ達がいるから直ぐに昔のアレクに戻ってくれるに違いない。


「それで、リオ君はどうするの?」

「荒野の掟に従おうと思ってますけど?」

 

 俺の答えがおもしろかったのか、俺に向かってにこりと笑顔を見せる。

 子供扱いされたような気がして、むすっとした表情でグラスんワインを注いで一口飲んだ。


「私も賛成だわ。夫がいつも言ってたわ。荒野の掟は王国の法を超えるってね」

「相手は海賊ではなさそうです。カテリナさんは王国軍に潜砂艦が何隻あるか知ってますか?」


 じろりと俺に視線を向ける。

「良くわかったわね。余り知られていないけど、5隻はあるはずよ。常時3隻が作戦行動中ときいたことがあるわ。諸元が知りたい?」

「たぶん、海賊船とさほど違いは無いんじゃないですか? 1つ異なるならば200mm自走砲を2台は搭載してると思ってるんですが」


「その通りよ。やはり、あの破孔は200mm砲弾だと?」

「アレクの戦鬼を大破させるとなれば120mm砲では不可能です。となると200mm砲。だが、200mm砲を持つ海賊はいないはず……」

「中継点に戻ったら、肉片のDNA解析を行うわ。少なくとも10人程を確定できたなら、トリスタンを尋ねなさい。出掛ける前にヒルダに面会を頼めば整えてくれるわ」


 ウエリントン王国と戦を始めることになるんだろうか?

 ローザと対峙するようなことがあればエリーが嘆くだろうな。だが、ローザも今回の事には同情的でもある。俺達に組してくれればいいのだが。


「復習に燃えるリオ君も素敵ね。今夜は私が独占できるのかしら?」

 いつの間にか俺の隣でワインを飲んでいる。

 まったくこの人は……。でも、すべては中継点に戻ってからの事だな。

 それなら、たまにはカテリナさんと過すのも悪くはない。


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