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087 疲れることのない巨獣


 巨獣の移動方向には、運がいいことに中継点や拠点は無かった。

 それでも巨獣の暴走が10日も続けば危ない場所がいくつか出てくるだろうが、付近で採掘をしている騎士団の方が問題だ。

 10時間ほどで群れに接触する2つの騎士団に、ヴィオラ騎士団の名前で緊急警報をドロシーに伝えて貰った。

 直ぐに方向を変えて、全速力で群れの移動ルートを離れたから、巻き込まれる事は無いだろう。

 20時間後となると、更に3つ程の騎士団が該当する。彼らにも注意報として連絡を送ってあげた。


 とりあえずの対策が終ると、俺とカテリナさんはジャグジーでのんびりと汗を流した。

 プラネタリウム用の天井ドームを下降させてジャグジーの縁まで下ろすと、暖かなミスとがジャグジーに設けた沢山の穴から噴出してきた。

 低温サウナって感じなんだけど、この状態でカテリナさんが俺を求めてくる。

 ソファーだけでは満足出来なかったのかな。

 カテリナさんが俺の胸に体を預けると、ゆっくりと天井ドームが上昇してジャグジーにお湯が注がれてきた。

 今度は溺れないように、カテリナさんを支えないといけないようだ。ジャグジーの縁までお湯が満たされ気泡が俺達を包む。

 ゆっくりとカテリナさんの体を回して後ろから抱きかかえる。

 

「不思議ね。……私が起きたのはたまたまよ。でも、リオ君の場合はそれ感じて起きたんでしょう?」

「前のスコーピオの時もそうでした。今度もそうなのかと、アリスとドロシーに頼んで異常を見つけてもらってたんです」

「問題はその感じ方なんだけど、どんな感覚なの?」


 カテリナさんの問いに応えるのは難しい。明確な五感では無いからな。


「何と言ったらいいか……、違和感みたいな感じです」

「明確ではないけど、何か腑に落ちない。忘れてるような気がする。と言うような感じなの?」

「そうです」と答えると互いに無言になる。


 のぼせない内にジャグジーを出ると、そのままバスタオルを羽織った。

 ソファーに座ったカテリナさんに冷たい缶ビールを手渡す。俺もソファーに腰を下ろして缶のプルタブを開ける。

 カテリナさんがタバコを取り出したので、テーブルのライターで火を点けてあげる。俺もテーブルからタバコを取って火を点けた。


「2度あれば偶然とは言わないわ。何かあるはずなんだけど私にも分らないわ」

「誰に危害を与えるわけでもなし、特に問題はないと思いますがこのままで良いんでしょうか?」


「どちらかと言うと、この世界全体を見た注意報って感じだから問題はないわ。それをもっと明確にする努力をして貰いたいぐらいだわ」

「どうしたら良いでしょうか?」

「そうね。意識を広げるって感じかな」


 かなり漠然とした指導だな。でも意識を広げるか……。たまにやってみよう。

 ビールを飲み終えたカテリナさんは、俺に手を振ると部屋に帰っていった。

 俺も、引き上げるか。

 部屋に戻るとフレイヤの隣に潜り込む。

 でも、次の朝に起きた時は真中にいたんだよな。

               ・

               ・

               ・

「……という事があったんだ。そして、巨獣は現在も暴走している」

 朝食を食べながら昨夜の出来事を皆に話す。

 

「前にもスコーピオの襲来を知ったんだよね」

「ああ、でもちょっとした胸騒ぎみたいなもので、何が起きてるかは分らないんだ。昨夜もちょっとした違和感で起きたんだ」


「じゃが、巨獣が千頭ではどんな攻撃も焼け石に水じゃ。このまま納まってくれれば良いのじゃが……」


 さすがは王族だけあって、民を案じているようだ。ヒルダさんの子育ては成功のようだな。


「東に展開している騎士団が西に向かっているわ。あれだけの巨獣が北に帰るまではしばらく掛かりそうだしね」

「此処が賑やかになりそうですね」


 中継点の拡張は間に合いそうも無いけど、ラズリーに任せておけば大丈夫だろう。

 南のバージ中継点の状況も気になるところではあるが、あっちは任せたからだいじょうぶだろう。


「でも、群れの動向は監視していた方が良いわね。カンザスでなら1日で行けるわ」

 カテリナさんの言葉にレイドラが頷いている。

 まあ、ドロシーが見守っているとは思うけれど、全てを委ねるわけには行かないだろう。


「エミーは今日は休んでくれ。俺1人で大丈夫だ。昨日あれだけ削ったからね」

「今日はタグボートを借りてますから大丈夫ですよ。リンダさんが運転してくれる事になってます」


「中継点建設の頃に使った小さな物があったんです。小型ですけど、気密構造ですし、剛構造ですから、落石位ではびくともしません」


 あのトンネルにそんな場所は無かった筈だ。

 それにムサシが同行してるんだから安心ではあるな。


 そんな訳で、今日もトンネルで採掘だ。

 昨日採掘して作り上げた鉱石の山は既に自走バージが運んで行ったようだ。

 改めて、昨日の成果を確認する。高さ20m奥行き10m横幅30m程の空間が出来たようだな。更に奥を目指して行こうか。


 2時間程作業をしたところで一休み。

 エミー達は邪魔にならないところにタグボートを止めてお茶会をしているようだ。ちょっとしたキャンピングカーみたいに加工してあるらしい。

 長時間の調査に使っていたんだろう。しばらくは有毒ガスが立ち込める場所だったからな。


 昨日お邪魔した休憩所でお茶を頂き、タバコを楽しむ。

 そんな1日が終ると、カンザスでのんびりとビールを飲む。労働の後の一杯はやはり美味いと感じるな。


「ところで、巨獣はどうなっておるのじゃ?」

「以前、暴走中です。これって止まるんでしょうか?」

「山津波と表現された時代もあったそうよ」

 

 そんな声が部屋の入口の方から聞こえてきた。カテリナさんが帰ってきたらしい。

 ソファーに座ると、タバコに火を点けて俺達に話をしてくれた。


「今朝に比べると1割減っているわ。たぶん明日には半減するんじゃないかしら。巨獣とは言え生物なんだから、ずっと動き続ける事は無理だわ。でもね、それが可能な種類の巨獣もいるのよ」

「トリケラ……ですか?」

 俺の言葉にカテリナさんが頷いた。


「トリケラの筋肉組織を調べたわ。そして分かった事は、トリケラは疲れることが無いのよ。自分のエナジーが尽きるまで走り続けるわ。群れを統率するものがその運命を左右すると私は推測してる」

 

 疲れないと言うのは問題だぞ。

 言外に肉食獣のような連中は、そこまで走り続けないという事だろうが、低緯度地帯にまでイグナッソス辺りが徘徊していたら、戦機を持たない騎士団はかなり危険な目に合う事にもなりかねない。


「大規模騎士団が対応してくれると良いのですけれどね」

「少しは王国が掃討依頼を騎士団にするでしょうね。規模が大きければヴィオラに来るかも知れないわよ」


 ある意味、それも視野に入れて俺達を援助してくれたに違いない。

 その時はカンザスで向ってみるか。


「となれば新型獣機の方もよろしくお願いします」

「分ってるわ。今3機目を仕上げているわ。そして、5人程獣機の機士を集めてくれない?」


 最後の言葉はドミニクに向かって頼んでいた。頷いている所をみると、既に手を回しているのかも知れないな。

 夕食を終えると、カテリナさんはラボに向かった。

 新型獣機に係りっきりだな。


 食後のコーヒーを俺達は飲み、ローザはソーダを飲んでいる。

 ソファーでの話題は先程の新型獣機の機士だ。ドミニクによると、ガレオンさんに頼んであると言っていた。

 

「獣機で巨獣を相手にすると言ったら、丁度良いのがいると言ってたわ。それと、アデルが新しい騎士を見つけたようね。親は元ベラドンナの機士だったらしいわ」

「ということは、ベラスコがアレクのところに帰ってくるという事になるのかな?」


 「一応、その方向よ。これでアデルのところに戦機が2機になったわ。同盟を更新してくれるかどうかは分らないけど、それまでには3機は渡してあげたいわ」

 

 アレクもベラスコが来れば少しは嬉しいに違いない。

 ガレオンさんに頭が上がらないからな、愚痴を聞いてくれる者が欲しいに違いない。


「で、次の出航は何時なのじゃ?」2

「明後日には出発したいわ。リオも明日は半日程度にしておきなさい。いくら戦姫の出る事が少ないと言っても休息は必要よ」


 早速出掛けるのか。たぶん出航頻度をあげて、騎士団員に長期の休養を与えるつもりなんじゃないかな。

 それなら、短期間での出撃で文句を言う奴はいないだろう。


「ああ、程々にしとくよ。結構大きな鉱脈だから邪魔な部分だけでも片付けておけば工事に支障は出ないだろうしね」

「明日は午前だけじゃな!」

 

 そう、俺達に念を押してリンダと一緒に部屋を出て行った。

 フレイヤとドミニク達がジャグジーに向かうと、俺とエミーがソファーに残った。

 そんな俺達にライムさんがコーヒーを追加してくれる。

 

「ムサシはちゃんと動いてくれる?」

「この頃は思い描く前に動いてくれる気がしています。以心伝心って感じなんです」


 それ程の制御になっているんだ。

 確かにアリスにはそんな感じを何時も持っているけど、ムサシもそうだったとは……。

 

「次に長期の休みが取れたら、あの海をエミーに見せてあげたいね」

「記録画像を見せて貰いました。確かに綺麗ですね。此処には無い色があります。でも、何時しかこの地もあのような楽園に変えていきたいです」


 この地は俺達ヴィオラ騎士団領だ。

 待っていないで俺達で変えるという行動も必要だな。

 待てよ、確か専門家を呼んである筈だぞ。

 一度もあった事が無いけど、やはり一度は会っておいたほうが良さそうだ。

 学者って、結構気難しいところがあると聞いてる。最初の印象が大事だからね。

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               ・

 今回の採掘はベラドンナと同行している。

 ベラドンナは元々低緯度で活躍していたラウンドクルーザーだから、武装が少し貧弱だからね。

 ヴィオラの方はガリナムが同行しているから十分だろう。アレクは頼りになる俺達の筆頭騎士だからな。

 荒地を進むカンザスの速度はあまり速いとは言えないが、それでも1日で700kmは進むのだ。

 今のところ、拠点から精々2千km程度で採掘を行なっているが、西は遥か遠くまで続いている。

 採掘を始めるまでに、第2巡航速度の35kmで5日以上掛けるような採掘も数十年後にはおとずれるんだろうな。何処かの騎士団が新たな中継点の経営に乗り出すかも知れない。

 

 いつものように、ローザ達とリビングで談笑していた時だ。とんでもない知らせが舞い込んできた。


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