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085 タイラム騎士団からの招待


 中継点に戻るとトンネル堀が待っている。

 まあ、他にする事も無いから構わないけど、エミーには気の毒だな。2日付き合って貰って、今日は俺1人だ。

 獣機の持つ削岩機よりも早く壁を削っていけるから工事監督は大喜びだが、俺がこの領地の主だと知ってからは、恐縮しまくっているので困ってしまった。


 その点、獣機の機士達とは屈託なく過ごしている。休み時間に休憩所に持ち込んだ酒を酌み交わして談笑するのが一番の楽しみだ。酒はグラスに1杯だけだけれどね。

 差し入れに、1本5千Lのウイスキーを持ち込んだら瞬くまに無くなってしまった。次ぎは少し質を落として2本持って行ってあげよう。


「しかし、あれ程の腕があれば何処の騎士団でも通用するな」

「一応騎士ですよ。ちゃんと騎士団に所属してます」


「こらこら、手前等知らねえのか? こっちの騎士様は、あのヴィオラ騎士団所属だぞ!」

「そういや、最初にそんな事を言ってたな。まあ、たいしたもんだ」


 何がたいしたもんなのかは良く分らないが、酔っ払いはこんなもんなんだろう。

 午後の仕事は大丈夫なんだろうか? 一応、俺も雇い主の端くれなんだろうけど、ちょっと心配になってきたぞ。

 それでも、仕事を手伝いに行くたびに、トンネルは太くなり、ホールは広がっている。

 意外と腕も確かなようだ。

 仕事を終えてカンザスに戻ると、ドミニクが俺を待っていた。

 

「タイラム騎士団の騎士団長が会見を申し込んで来たわ。一応12騎士団の中堅ではあるし、会ってみても良いんじゃないかと思うんだけど」

「ドミニクが騎士団長だ。俺はそれに従うよ」


 ソファーに腰を下ろしてタバコを取り出して火を点ける。

 やはり、労働の後の一服は良いな。


「それじゃあ、私とリオ、それにエミーで良いわね。一応礼服着用という事で、1時間後に出掛けるわよ。商会のレストランだけどエルトニア王国の商会よ」


 エルトニアは俺達と接点がない筈だ。そして単なる顔会わせとも思えないな。

 とりあえず、ジャグジーで汗を流して礼服に着替える。長剣はマントに包んで持っていれば良いだろう。

 

 エミーは戦闘服に黒のワンピースだ。右胸にヴィオラの刺繍が入っている。それにガンベルトを付けてマントを手に持っている。やはり短剣を包んでいるな。ドミニクはマントを持たずにエミーと同じ服装だ。

 これで、準備が出来た。


「30分前だけど、出掛けましょうか?」

「そうだね。待つほうが気が楽だ」


 フレイヤ達に手を振って部屋を出えると、カンザスから桟橋を歩いて西のモノレール駅を目指す。結構歩くから時間調整にもなりそうだ。

 モノレールから眺める中央桟橋と西の桟橋には6隻のラウンドクルーザーが停泊している。

 その内の1隻が動き出した。これから外のバージを曳いて鉱石採掘に出掛けるのだろう。

 西の桟橋にある中継点の事務所がある居住区に付くと、エレベーターを降りて、桟橋に出る。

 結構人が出ているな。そんな人達にぶつからないよう、北に向かって歩き始めた。


「賑わってるわね」

「段々、人が増えているような気がします」


 そんな2人の会話を聞きながら歩いて行くと、キュレート商会の事務所に辿り着いた。

 ショーウインドウには王都の流行衣服を着たマネキンが踊っている。

 入口に立つと軽い風を感じた。エアーカーテンで店内の内圧を制御しているようだ。

 近くの大型掲示板を使ってレストランへの道を確認する。

 タブレットのような画面をタッチすると、足元に光の線が動いていく。どうやら、レストランまでこの光の線が案内してくれるようだ。

 その線を辿っていくと、いかにもって感じの扉があった。

 古びた木製の扉に『ドレイク』と彫られた文字彫り込まれている。


「どうやら此処みたいね」

「まあ、入っていよう」


 扉を開けて中に入ると、薄暗い雰囲気の通路が奥に延びている。

 少し歩くと、壁が窪んで小さなカウンターがあった。


「ようこそ、いらっしゃいました。失礼ですが、ご予約の方でしょうか?」

「タイラム騎士団に誘われたんだけど?」

「ああ、ヴィオラ騎士団の方々ですね。タイラム騎士団の方々はお揃いです。どうぞ、こちらに」


 ネコ族の青年が俺達を案内してくれる。

 ちょっと古風な作りだな。回りは全て板張りだ。途中途中の壁にロウソクを模した明かりが瞬いている。


「此処でございます」

 青年がそう言って扉を開けてくれた。


 俺を先頭に3人で部屋に入ると、円卓に4人の男女が座っていた。

 部屋の大きさは教室より少し広いくらいだな。

 真中に直径3m程の円卓があり燭台の3本のロウソクが明かりを灯している。周囲の壁にも間接照明の明かりが灯され少し暗い感じがするな。

 俺達が入ってきたのを見て、端の男が俺達を席に案内してくれる。マントを椅子の奥に横置きにして勧められるままに席に着いた。

 先程の青年がバケットを持って入ってくると、俺達の前にあるグラスにバケットの酒を注いでいく。

 全員に行き渡ったところで、俺達に頭を下げて部屋を出て行った。


「ようこそ、おいでくださいました。先ずは乾杯しましょう。新しい中継点に……、乾杯!」

 

 俺より少し年上に見える男が、そのままの姿勢でグラスを掲げる。俺達も男の乾杯の合図でグラスの酒を口に含んだ。


「タイラム騎士団の団長を務めるフェイムと言います。隣が副団長のカリン。そして騎士のジェリコにタニーです」

 団長だったのか。団長が次々と紹介をすると、紹介された者達が軽く頭を下げる。


「ヴィオラ騎士団の団長、ドミニクです。隣はこのヴィオラ騎士団領の党首であるリオ公爵、そして騎士のエミーです」

 俺達も軽く頭を下げておく。

 

「騎士団領とはおもしろいですね。領地持ちの騎士団とはどんなものかと思って、招待した次第です」

「名目だけだと思っています。とはいえ、中継点の維持には力を注ぐつもりですよ」

「結構。それが一番だと思います。私達も小さな中継点を持っていますが、さすがに領地とはなりません。それでも、中継点の維持には力を注いでいます」

 そう言っておもしろそうに俺を見詰める。

 

「ですが中継点の維持には……、いささか力が足り無いのではありませんか?」

「失礼ですが、戦機はいかほど?」

「16機を揃えています。肉食獣には少し手を焼きますが、草食獣であれば特に問題はありませんよ」

 なるほど、騎士団の売り込みって事だな。

 

「現在、ヴィオラ騎士団の戦機は11機です。ウエリントン王国より3機を中継点の防衛にお借りしていますし、運用出来るラウンドクルーザーはもうすぐ4隻になりますから十分巨獣の襲撃に対応出来ます。それに、この大空洞にはそもそも巨獣が入って来れません」

「まさか、ガス?」


「奥の洞窟から硫化水素を多量に含んだガスが噴出しています。中継点を出た場所に放出していますから巨獣も近寄りませんわ」

 「なるほど、良い場所に中継点を見つけられましたな」


 料理が運ばれてきた。

 先ずは前菜ってことはフルコースになるのか……。ローザも連れて来たほうが良かったかな。

 とりあえず、隣のエミーと同じように食べていればマナー的には問題ないだろう。庶民の辛いところだよな。


「ところで、戦鬼はお持ちなんですよね?」

「ええ、昨年発掘しました」

 ドミニクが短く答えた。


「あのニュースは我等も驚愕してみたものです。短い時間でしたが、あの中に戦鬼以外に3つの興味のある戦機がありました。1つはウエリントンの戦姫だと分りましたが、あのイオンビームサーベルを操っていたのは初めて目にしました。そして、最後尾を滑空していた戦姫もです」


「さすがは12騎士団。ウエリントン王国のデイジーをご存知でしたか。この中継点の護衛に王国より派遣された3機の戦機の1つです。黒い戦機は無人機で、昨年発掘した我等が戦機の1つです。最後尾でデイジー達のフォローをしていたのが、我等の戦姫アリスになります。こちらのリオがアリスの騎士です」

「あの画像は短いものでした。もっと長い映像をお持ちですか?」

 静かにナイフとフォークを動かしていた騎士の1人が聞いて来た。


 ドミニクが頷くと、端末を取出しテーブルの隅にスクリーンを展開してあの時の画像を映し出す。

 タイラム騎士団の面々が食入るように、その映像を見詰める。俺はワインを飲みながら、そんな連中を眺めた。

 彼らの真意は何だろう? 単なる売込みって分けでも無さそうだ。


「もしも、この3機があの時に我等の手にあったなら……」

「団長。終わった事です。次に備えるのが我等の務めです」

「そうだったな。だが、あの襲来でエルトニアの騎士団の多くが戦機を失った。我等も2機を失っている。……もしも、と考える騎士団は我等だけではあるまい」

 

 アレクの教えてくれたスコーピオはかなりの奴だからな。

 まともにやりあったら戦機すら危ないってことか。そうなると獣機の損害はどれ位出たんだろう。3桁に達したんじゃないか?


「今回、ヴィオラ騎士団を此処に招待した訳をお話しましょう。もし、我等が故郷にスコーピオが襲来した時、我等と一時的に同盟をお願いしたい」

「エルトニアを故郷にする多くの騎士団は、祖国の危機に一時的な同盟を結ぶと聞いた事があります。我等の故郷はウエリントン……、同盟に軋みを与える事になりかねないと思いますが?」

「あの映像を見た多くの騎士団が我等と同じ思いを持った筈、その恐れは微塵もないと思います」

 

 ドミニクが俺に顔を向けて小さく頷いた。

 俺に言えって事か? まあ、基本方針なら話しても良いか。


「あの惨劇は我等も驚いています。出来れば救援に向かいたいと考える次第です。ですが、2つの理由で同盟関係を結ぶ事は難しいでしょう。1つは俺達の機動速度です。時速80km以上で敵を翻弄しますよ。デイジーは軽く100km以上の速度で一撃離脱を行なえます。他の戦機と一緒に行動するのは、我等の最大の利点である機動性を削ぐ事になります。もう1つは、距離的なものです。どう考えても1万kmは離れていますよ」

「そこです……。どうでしょう。戦機10機を預けます。スコーピオの生んだ卵が羽化して海に帰る2年後まで、デイジー以外の2機を我等に預けていただけませんか?」


 俺をジッと見詰める目には邪念は無さそうだ。12騎士団はやはりそれなりの矜持を持っているんだな。

 

「残念ですが、それは出来ません。デイジーを操る騎士はウエリントンの王女。アリスは騎士団領の当主である隣のリオ公爵が動かしてますし、黒い戦機はリオ公爵に降嫁したウエリントンの王女です。外交的な問題になりかねません」


 ドミニクの言葉に4人が驚いている。

 確かに当主自らが動かしているとは思っていなかったようだ。

 食事が終り、コーヒーが運ばれてくる。良い香りだ。一口飲んでみると味も中々、この店も皆を連れて来たほうがいいかも知れないな。

 

「ですが、万が一の時には連絡してください。直ぐに飛んで行きます」

「ありがたいお言葉ですが、その時には先程の距離が問題になります。1万kmをラウンドクルーザーで駆けつける時には全てが終った後でしょう」


「俺達のカンザスなら間に合うかも知れません。巡航速度は時速500kmです。1日あれば何とか駆けつけられるでしょう」

「時速500kmですと! あの双胴船のフラグシップですか?」

「はい。あの戦機を載せて向かいます。3カ国の王族が俺の結婚祝いに贈ってくれたもので改修はカテリナ博士です。鉱石採掘にはあまり役立ちませんが、救援には向かえます」

 

 カテリナ博士の名前で納得するのはどうかと思うぞ。だが、4人の顔が明るくなったのは事実だ。

 あの災難に全力で立ち向かったんだろうな。あの映像を見れば、手伝ってくれと言いたくもなるだろう。こんな騎士団ばかりなら、良いんだけどね。



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