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082 穴掘りも公爵の仕事?


 数日が過ぎて、テンペル騎士団より中継点を作る旨の連絡を貰った。

 どんな中継点が出来るかは分らないが、仮にも12騎士団の名を持つ騎士団だ。中途半端なものは作らないだろう。

 位置が決まれば科学衛星の画像で確認できるから楽しみにしていよう。

 

 そんなことを考えながら、俺達はマリアンと商会の連中を交えて、中継点の改修の打合せを行なっている。


「先ずは現在の入口を真直ぐにすることです。次に西の桟橋の延長上に直径500mのホールを作ります。そのホールを足掛かりに、もう1つの通路と横幅600m長さ1.5kmのホールを作ります。奥を500m程掘り進めて既存のホールと繋ぐことで都合6箇所の桟橋が出来ます。常時10隻以上のラウンドクルーザーを停泊できますよ」

 

 大きな仮想スクリーンに改修の図面を写して、商会の代表が説明を行なってくれた。

 

「ホールの強度と残土処理は?」

「尾根の谷間の荒地に横幅200m長さ3kmの大桟橋を両側に作ります。桟橋の土盛りに残土を使えば問題はありません。ドーム構造の変形と既存の西側桟橋の南北にあるこの部分が柱構造となりますからホールが崩落することはありません。強度計算を7つの商会で独自に実施しました。全て異常無しとの結論を出しています」


「どうだろう。この部分の整形と新しいホールを作るための先行試掘を、俺達でやろうと思うのだが?」

「どんな方法でやるんですか?直径10m程のトンネルを掘る事になります。それに、このホールはそのまま建築資材としても使える程の固い鉱脈です」


 スクリーンの前に立つと簡単に方法を説明する。アリスとムサシでイオンビームサーベルで切り刻んでいくのだ。

 残材は小型のバージに獣機を使って積み込めば良い。

 ムサシに新しいトンネルを作って貰って、俺とアリスで既存の通路を整形する。終れば次の掘削の足掛かりを作っていけばかなりのコストダウンになる筈だ。


「10日で可能な範囲ならアリスとムサシをホールの改修に出しましょう」

 ドミニクも俺の考えに賛同してくれた。

 中継点の南で鉱石採掘を行うならデイジーで十分にカバー出来るだろう。


「それだけで1億L以上のコストダウンになります」

「待て待て、それもヴィオラ騎士団からの現物供与として計算できる筈だ。タダ働きはさせませんぞ」


 そんな訳で、俺とエミーが中継点に残る事になってしまった。

 3隻の出航を見送って、また2人で居住区の一角で暮す事になる。皆とワイワイも楽しいけど、エミーと一緒に小さな部屋で暮らすのも悪くないな。

 

 ダブルベッドで亜麻色の朝を迎えて俺達は普段着を身に付ける。

 どんな状態でもガンベルトは必携だ。どんな連中が紛れているか分らないからな。


 準備が終ると居住区の食堂に向かう。

 扉を開けてきょろきょろと中を見回す……。いたいた、俺達に手を振っているぞ。

 さっそく、ガレオンさん達が食事をしているテーブルに向かった。


「よう、元気みたいだな。しかし、お前達の仕事じゃないんじゃないか? どこの王国に土建作業をする公爵と王女様がいる!」

「ここにいますよ。俺達なら簡単に出来ますし、何と言ってもタダで出来ます」


 そう言ってガレオンさんに笑い掛ける。

 それがおもしろいのか皆で笑い声をあげた。

 

「まあ、確かに安上がりは認めるが……。サニー、頼んだぞ。元ウエリントン王国の王女様だ」

「大丈夫よ。でも、本当に助手席に乗るだけで戦機を動かせるの?」

「任せてください。ちゃんと動かせますから」


 そんな話を、運ばれてきたサンドイッチを食べながらするのも懐かしく感じるな。

「バージの搬送と獣機5機は私が監督すれば良いのね」

 そう言ってタバコに火を点けた女性は、確かレイミーさんだったっけ?

「そうしてください。俺の方が早く終ると思いますから、先ずは既存のトンネルを先にお願いします」

 

 既存のトンネルは2箇所を30m程削れば良いだけだ。イオンビームサーベルなら容易く切り刻めるからな。

 

「一応、リオが来るまでは、駆逐艦が控えている。安心してくれ」

「ありがとうございます」


 ガリオンさんにそう告げて、俺もタバコを楽しむ。

 タバコが終ると、コーヒーの残りを飲み干して、4人に手を振って別れた。

 居住区の直ぐ前にアリスとムサシを停めているから、離れた桟橋から2機を眺めてる連中もいる。色々と注目される機体だからね。

 アリスに連絡を入れて胸部装甲を開いてもらい、ワイヤーでコクピットに乗り込んだ。

 

「済まないね。アリスをこんな事に使うなんて」

『問題ありません。それより、このコースを直線に近づけるならば、このように3箇所を切削すべきです。入口の扉は後程板を追加すれば良いでしょう』


 3箇所か……。入口を20m程広げるんだな。このままでも問題ないんだろうが、確かに入り易そうだ。

 

「そうだね。これで行こうか。先ずはこの位置になるな」

 

 目の前のスクリーン画像の切削位置を指で差すと、桟橋を飛び降りた。地上滑走しながらトンネルを目指して進んでいく。

 

 見た目は真直ぐに見えるが、微妙にカーブしているようだ。

 

『この辺りが最初の場所ですね。左に30m切り崩す必要があります』

「了解だ。早速始めるぞ」

 

 アリスがイオンビームサーベルを取出す。ビィーンという鈍い音と共にイオン噴流の細いビームが数m伸びた。


 縦横に素早く切り刻んで瓦礫の山を作り始める。後は獣機が小型のバージに瓦礫を積み込んでくれる。

 

 1時間程掛けて最後は壁面を撫でるようにスライスする。まるで磨きぬいたような壁面がそこに現れた。


「さすがね。レーザー測量では計画通りよ。後は、私達に任せて次に行って頂戴!」

「了解です。後をお願いします」


 レイミーさんの通信にそう応えると、アリスを次ぎの現場へと向かわせた。

 1km程先の壁面を同じようにして削っていく。

 

 昼食はそのまま外に出て駆逐艦で取らせて貰う。

 駆逐艦の船長と一緒にエミーを交えて食事を取った。


「王女様には申し訳ありません。何分、小さな船ですから……」

「降嫁した身ですから、お構いなく。船長もこのような地に派遣させてしまい、申し訳なく思っています」

 そんなエミーの応えに船長が恐縮している。


 確かに、こんな辺境でなければ、王女様と食事を取るなど出来そうもないからな。

 艦長の私物のコーヒーを頂いて、午後の仕事に戻る。

 今度は入口を横に広げるんだが右に20mとは言え、奥行きは30mにも及ぶ。

 殆ど午後の作業はこれに掛かってしまった。

 作業が終わった後に入口に立つと、ホールの奥がはっきりと見えるようになった。

 これで、通路の出入時間が少しは短縮出来るに違いない。


 夕暮れ前にヴィオラ桟橋に戻り、居住区で夕食を取る。

 明日はエミーを手伝ってやろう。

 居住区に戻ると、まだ1800時だ。

 2人でシャワーを浴びて早めにベッドに入る。夜は長いからな。ゆっくりエミーと楽しもう。

               ・

               ・

               ・

 ムサシがホール側から堀リ進み、俺は外側から掘り進む。

 低出力レーザーを西の桟橋に向けて発射しているから、真直ぐに掘る事が出来る。

 ムサシとの交点で少しは誤差が出来るだろうが、トンネルの整形過程でどうにでもなる筈だ。

 

 工事を始めて7日目に、俺達は通路を完成させた。

 直径10m程のトンネルだが、これが出来れば掘削で発生した瓦礫をこのトンネルを通して搬出出来る。

 30t用の小型バージを2台曳いた、トラクターのようなタグボートが活躍している。獣機もいつの間にか5機から10機に増えている。

 大規模に始めた時には停泊している騎士団から獣機をレンタルしても良いんじゃないかな。

 

「ちゃんと繋がりましたね。繋がらなくてトンネルが2本出来るんじゃないかと、サニーさんと話してたんですよ」

「俺も不安だったけど1cmも狂ってなかったからね。さすがはアリスとムサシの電脳だと思うよ」


 シャワーを終えて、部屋のソファーに2人で座ると、缶ビールを飲む。

 こんな生活も悪くは無い。小さな達成感が毎日味わえる。

 アレクも後数年したら、こんな生活を楽しむんだろうな。


 次の日は、西の桟橋から1km程の場所を西に広げ始める。

 1日で広げた大きさは南北200m横に50mほどだ。3日おあれば掘削作業の拠点が出来るだろう。


 9日後にカンザスが帰ってきた。

 とはいえ、約束の10日は穴掘りを頑張るしかないな。

 10日目の作業が終了したところでアリスとムサシをカンザスのカーゴ区域に移動した。

 いったいどれ位の作業が終わったのかは、マリアンが後で教えてくれるだろう。

 俺達が部屋に入ると、皆が暖かく出迎えてくれた。

 

「大変だったでしょう。こちらも収穫があったわよ。戦機を1機見つけたわ。通常タイプだけどね。これで、ベラスコをヴィオラに戻せるわ」

「それは凄いね。去年は3機だったけど、今年は2月目で1機なら更に数機が見付かるんじゃないか?」


 ソファーに腰を下ろした俺にフレイヤが教えてくれた。

 冗談ではあるけど、西はあまり騎士団が入ってないから、案外その通りかもしれない。

 当然、中継点を利用する騎士団の知る事にもなるわけだから、また賑わうんじゃないかな。現に、今日も5つの騎士団が停泊中だ。


 全員で談笑しているところに、ライムさんがワインを運んできてくれた。

 さっそく、新しい戦機に乾杯を上げる。


 今日はローザがエミーの部屋にお泊りするらしい。

 食事が済むと早々と2人でジャグジーに向かった。俺達はのんびりとワインを楽しむ。

 カテリナさんはラボで仲間達となにやら相談中のようだ。

 新型獣機の量産になにやら問題が発生したらしい。

 あれが出来ると、軍の刷新が始まるかも知れないな。たぶんそれを狙ってはいるんだろうけどね。


「ウラネル合金の材料が足りないらしいのよ。獣機の骨格として耐食性に優れた合金らしいんだけど……」

『足りないのはベルトラン鉱石という事でしょう。ウラネル合金は輝ルデナム鉱石とベルトラン鉱石で作られます。2つの鉱石の存在比は13:1です』


 かなりのレア鉱石じゃないのか?

 代替品でも検討してるのかも知れないな。


 エミー達がジャグジーを出て部屋に向かったの見て、俺達もジャグジーに向かう。

 クリスはヴィオラで仕事をしているようだ。今夜は4人でジャグジーの星空を楽しもう。


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