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008 襲撃は跳ね返したけれど


 あちこちに砲弾の跡があるし、海賊の死体が散乱している。騎士団の被害が少なければいいんだけど、その後の艦内放送は皆無だ。

 カーゴ区域にどうにか着いたのだが、数人が何かを囲んで丸くなっている。

「だいじょうぶか!」と声を掛けると、元気に手を振ってこたえてくれた。どうやら怪我をした仲間の手当てをしていたらしい。騎士団の受けた損害はかなりなものになっているのかもしれない。


 カーゴ区域の奥にやってくると、アリスだけがぽつんとハンガーに乗っている。

 俺の姿を見てドワーフの連中が搭乗用のハシゴを用意してくれた。急いで乗り込み昇降台に移動すると、何時もよりも速度を上げて登っていく。


「出遅れた……」

『でも海賊船はまだ発見できないみたいですし、周囲の戦車と円盤機に手こずっているようです』

「なら、近い奴から破壊するか」


 すでに周囲の状況が、仮想スクリーンに映しだされている。先ずはうるさく飛び回ってる円盤機だろう。爆弾を腹に抱いているようだ。

 陸上艦の装甲板が開くと同時に、40mm長砲身ライフルを頭上に構えると、視野に入ったところでトリガーを引いた。

 装甲板に足を踏み出すところで2機目の円盤機を狙撃する。

 2機ともだいぶ離れた場所に墜落したから、次は戦車の番だ。


「ようやくやって来たな。円盤機がうるさかったんだが、遅れたことはそれで帳消しだ。戦車がまだ残っている。後ろから回り込めないか?」

「了解です。適当にけん制してくださいよ!」


 陸上艦から飛び降りると地上滑走モードで数km離れる。戦車は前部装甲は厚いけど、後ろは案外弱いはずだ。


『前回の戦車は後部装甲が50mmほどありました。40mmライフル砲弾では難しいかもしれません』

「なら武装を交換してくれ。だけど突き抜けるとアレク達がいるから弾速に注意してくれよ」

『秒速3kmで放ちます。後部にあるタービンエンジンを容易に破壊できます』


 戦場の状況図が仮想スクリーンに現れる。どうやら近くに戦車がいるみたいだが、全周スクリーンでは姿が見えない。


『全周スクリーンに、赤外線画像を重ねます。廃熱を出しているパイプが赤く映ってるはずです』

「これだな。なるほど、廃熱は隠せないってことか」

『パイプを目標に発射してください。砂に潜ってますが、レールガンの弾速なら問題はありませんし、味方への流れ弾は状況的に起こりえません』

 

「了解!」と答えたところで、赤い点状に映るパイプに狙いを付けてトリガーを引く。

 ドォン!

 弾丸は鋼鉄の塊のはずだが、盛大に爆発した。


『燃料タンクの誘爆でしょう。あれでは戦車の搭乗員は助からないはずです』

「何ともあっけないな。次をやるぞ!」


 左右に進路を変えながら戦車を探し、1両ずつ確実に破壊する。

 問題は、海賊の母艦とも言うべき陸上艦だ。まったく姿を見せていない。

 俺達の反撃が終わった時に現れるのだろうが、攻撃部隊が壊滅したから姿を現さないのだろうか?


「アリス、海賊の陸戦隊が乗るホバークラフトのコースがわかるか?」

『かなり遠方からやって来てます。何度かコースを変えていますから母艦の割り出しは不可能です』


 ここは諦めることになるんだろうか?

 戦車や円盤機は安くは無いし、陸戦隊も全滅している。しばらくは海賊行為が出来ないとは思うんだが……。


『ヴィオラから通信です。帰投を指示しています』

「了解と伝えてくれ。戦車を潰せたならこれで終わりだろう」


 レールガンを亜空間に戻して、40mm長砲身ライフルを手にヴィオラへと滑走する。

 近づくにつれ、穴があちこちに空いたヴィオラが見えてきた。多脚式走行装置にも損傷があるようだが、航行できるんだろうか?


 上部装甲版に跳び乗って、カーゴ区域に戻ると直ぐに展望室に駆けだした。

 すでに4機の戦機がハンガーに固定されているから、アレク達はいつもの場所に違いない。


 展望室に飛び込むように走って来た俺を、アレクが見とがめて片手を振っている。

 ちゃんと4人揃っているところを見ると全員無事だったようだ。

 俺がソファーに座り込んだところで、サンドラがアイスコーヒーを渡してくれた。喉が渇いていたので一気飲みしたところ、アレクがボトルから酒を注いでくれたんだが、俺にとっては有難迷惑なんだよな。


「無事で何よりだ。だいぶ派手に戦車を倒してたな?」

「廃熱パイプを目標に撃ちましたから、燃料タンクが誘爆したんじゃないかと……」

「それで派手に火柱が上がったのね! 40mmには炸薬は無かったはずだからおかしなことねと噂してたのよ」

 シレインが面白そうに俺を見て笑ってる。


「確かにそうなるだろうな。俺としては廃熱パイプを見つけた方が驚きだ」

「アリスは赤外線カメラで温度が見えるんです。砂地に真っ赤な点ですから直ぐに分かります。性能に助けられました」

 アレクが俺の話を聞きながらどこかに連絡している。たぶん点呼の確認結果を連絡したんだろう。

「……了解だ。どうやら、ここで待機になったぞ。かなり派手にやられてるから陸上艦を停船して点検を始めるようだ。俺達の被害は負傷者21名に戦死者が4人だ。陸戦隊の海賊は44名を倒している。それに戦車6台と円盤機が2機だな」


 やはり死者も出てたのか……。意外と過酷な仕事なんだろうな。今回、俺は無傷だったけど次はどうなるか分からない。

 タバコを咥えながら静かに時が過ぎるのを待つ。

 

「修理ができるのかしら?」

「微妙なところだろうな。少なくとも王都の工廟に運ぶだけの事はしなければならん。俺達が利用するヤードまで、あと2日。王都の工廟となるとさらに3日は追加することになる」


 かなりヤバそうな感じの話が聞こえてくる。

 脳裏に、騎士団員を乗せたソリをアリスが曳いていく光景が浮かんでしまった。

 慌てて、カップのコーヒーを飲んで打ち消すことにしたのだが、相変わらず待機任務が長く続いている。

                  ・

                  ・

                  ・

 ゆさゆさと体を揺すられて目を開けると、世界は銀色だった。

 驚いて体を起こすと、ドミニクにレイドラの2人が立っている。大きなあくびをしたからか、珍しくレイドラが微笑んでる。


「ちょっと周囲を確認してくれない? まだヴィオラは修理中だから動けないの。今、襲われたらちょっと自信が無いわ。その状況で広域監視システムが破損してるのよ」

 それでもちょっとなんだ……。そんなことを頭の片隅で考えながらも、「了解」と答えておく。


「となると、俺達も周囲の警戒かな?」

「2機ずつで対応してくれない? 砲塔も1基が大破してるのよ」


 直ぐにアレクが騎士達に指示を出している。最初はカリオンとシレインで当たるらしい。


「直径5kmは俺達で対応する。リオは10km先を周回してくれ」

「分かりました。通信は通常回線で良いんですか?」

「そうね……、隠匿チャンネルで空いてるのは?」

「106が空いています。110番台、120番台は全て塞がってます」


 破損状況や点検結果の連絡で、隠匿回線の空きは航法部門だけになっているようだな。

 サンドラが配ってくれたコーヒーを頂いたところで、カーゴ区域にシレイン達と向かうことにした。

 食事はまだだけど、携帯食料がまだ残っていたはずだ。ビスケットタイプだから水だけ食べられるだろう。


 監視する区域が遠いということで、アリスを先に出してくれるようだ。

 昇降台の上昇が止まると同時に、ヴィオラを飛び出して地上を滑走する。既にアリスが隠匿通信のチャンネルに通信機を合わせてくれたようだ。10km先と言っていたけど、回りながら少しずつ距離を取ることにした。

 ヴィオラから視認されなければ空を飛べるからな。もう少し広範囲に探った方がいいだろう。海賊は荒地の砂に隠れているから、金属鉱床を探すつもりで監視すべきなんだろうな。


 ヴィオラから12km程離れた時だ。既に周囲を数回めぐっている。

『マスター、おもしろい反応がありました』

「海賊の陸上艦か?」

『いえ、閃デミトリア鉱石反応です。連絡した方が良いでしょうか?』

「そうした方が良いだろうな。上手く行けば戦機ってことだろう?」


 戦機は市場に出ることは無い。発掘するのがほとんどだ。一部は闇市に出る時もあるらしいけど、海賊が騎士団から取り上げた物だとアレクが教えてくれた。

 戦機自体は閃デミトリア鉱石を使ってはいないのだが、かつて戦機が動いていた時代に使われた燃焼ガスが触媒になって閃デミトリア鉱石の結晶が生まれるらしい。

 結晶自体は銅とマンガンの化合物らしいがその比率が一定であることを見つけた鉱物学者の名を取ったらしい。世話になった爺さんが見せてくれたのは、針状の光沢のある鉱石だった。


『方向の特定を要求してます。次の周回で少し扇状に探査範囲を広げます』

 俺達の現在の任務はヴィオラ周辺の監視だ。この範囲で閃デミトリア反応の痕跡がどこに向かっているかを確認すれば良いだろう。


 数時間経ったところで、アリスから下りて焚き火を作る。ガスストーブでシェラカップにお湯を沸かしてコーヒーを作った。

 携帯食料の高カロリービスケットを齧り、コーヒーで流し込む。

 今頃はアリスがヴィオラに閃デミトリア反応のある方向を教えているだろう。本来ならこのまま発掘に向かうのだろうが、何せヴィオラがかなり破損しているようだからな。

 ちょっとドミニク達の反応が楽しみだ。


 食事が終わったところで一服を楽しむ。アリスのコクピットでは出来ない贅沢だ。ゆっくりと味わったところで再び周回しながらの監視を継続する。


 ゆっくりと荒地を照らす太陽が西に傾いていく。

 1時間もすれば鮮やかな夕焼けを見ることができるだろうが、俺達の周辺監視は何時まで続くんだろう?


『ヴィオラからの通信です。帰投せよ、と指示しています』

「了解を伝えてくれ。これでゆっくり休めるな」


 グンと横Gが掛かるのが分かる。かなりの角度で方向を変えたに違いないが、コクピット内ではそれほどGを感じないことも確かだ。重力までもアリスはコントロールできるのだろう。

 30分もせずに、ヴィオラのカーゴ区域にアリスを戻して展望室へと向かう。足元から振動が伝わってきたのはヴィオラが動き出したからなんだろう。

 展望室の何時ものソファーには、アレク達以外にドミニク達もやってきている。軽く頭を下げたところでソファーに腰を下ろした。


「おもしろいものを見つけたわね。現在、指定のコースに進路を変更しているわ」

 ドミニクが俺にグラスを渡してくれたけど、アレク達はすでに飲んでいたんだよな。

「王都に近すぎるように思いますけど。既に見つけた跡かもしれませんよ」

「記録には無いわ。砂嵐で地形が変わったのかも知れないわね」

 俺の言葉を打ち消すようにレイドラが呟く。

 アレク達も興味深々の表情だ。上手く行けば……、位の希望を持っているのかな?


「ヴィオラの走行装置がダメージを受けているから、時速20kmがやっとよ。でも鉱石探査には支障が無い。となれば一応やってみる価値はあるわ。明日は先行探査をお願い」

「それぐらいは……」

 ちょっと疲れたのも確かだが、騎士団の本業は宝探しみたいなものだからね。戦機が見つかれば、皆で万歳を叫ぶんじゃないか?


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