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079 我等に敵なし?


 気送管のカプセルのような物に乗ると、一気に艦首にある戦機のカーゴ区域に着いた。

 問題は、降り方なんだが、圧縮された空気がクッションになって停止した場所の管には、底に穴が開いていた。

 中のカプセルがゆっくりと回転するとその穴と一致した場所で、俺は下に敷いてあったクッションに落とされた。

 

 全くとんでもない物を作ったもんだ。

 よいしょっと声を出して膝まで潜るクッションから這い出ると、「キャ~!」と声を上げながら今度はローザが振って来た。

 急いで引張り上げてやる。でないと、次ぎはリンダが降ってくる筈だ。

 クッションからようやくローザを出したところに、やはりリンダが降って来た。


「中々楽しめたのじゃ。これは良いのう。軍にも取付けるように父様に具申するつもりじゃ」

「でも、危ないですよ。次々に降って来ますから」

「そこは改良の余地があるのう。でも、便利じゃ!」


 意外と気に入ったようだな。後ろのリンダはゲンナリした顔をしているけどね。


「どうじゃ。おもしろかったろう。折角じゃが、まだ出撃には早いようじゃな。こっちでコーヒーでも飲んでおれ」

 俺達の飛来を知ったベルッド爺さんがやってきて、カーゴの片隅にある待機所に案内してくれた。

 20人程が入れる部屋には小さなテーブルと椅子が置いてある。

 椅子に座った俺達にベルッド爺さんの部下がコーヒーカップを渡してくれる。


「やはり、北は物騒じゃのう。じゃが、お前達なら大丈夫じゃ」

 そんな事を言いながらパイプを咥えている。

 しばらく吸えないから俺もご一緒する事にした。排気システムは強力らしく、待機所にはタバコの匂いが全くない。

 

「例の品物はワシの師匠が作っておる。楽しみに待っておれ。それと、嬢ちゃんはあれを使うのか?」

 俺が頷くと、リンダを見てそう言った。


「試験的に使用してみようと思います。改良する事もあるでしょうから」

「そうじゃな。カテリナに連絡を入れて置く。上に出れば出してくれるじゃろう」


『巨獣との距離30km。鉱石採取に2時間程度必要です。円盤機による爆撃をするも効果なし。アリスとデイジーで群れの方向を変えてください』

「どうやら我等が先になるようじゃな。リンダ、姉様のムサシを頼んだぞ」

 ローザが席を立つとデイジーに向かって駆けていく。


「アリスに55mm砲を預けておる。同じ作りじゃ。上手くいくと良いがのう」

 そう言って俺の肩をバシっと叩く。顔は老人だが腕力は俺以上だからな。ちょっと痛いぞ。

 それでも、ベルッド爺さんに力強く頷くと、席を立ってアリスに向かった。デイジーは既に昇降台に向かって歩いている。

 俺も急いでアリスの前にあるタラップを上ると、開いていたコクピットに座る。


「ところで巨獣の種類は?」

『円盤機の画像を見る限りではチラノタイプです。中型よりは大きく、群れにそれ程の個体差がありません。数は32体です』


 イグナッソスより大きいのか?となると、レジオンって事かな?

 アイツは足が速いから面倒な事にならなければ良いんだが……。


昇降装置の台からカンザスの装甲甲板に作られた100m四方の台座に立つ。

そこでアリスが取り出した短砲身の55mm砲をデイジーに渡した。


「これで群れをそらせるのじゃな。上手く行くと良いのじゃが……」

「ダメなら、レールガンを使うしかないけど、一応やってみよう」


 アリスがもう1丁を亜空間から取り出して左手に持つ。


「ところで方角はあっちで良いのか?」

『北西方向約25km。上空から円盤機が投光器で地上を照らしています』

「了解じゃ。近付けば分るじゃろう」

 

 アリスの言葉を聞くと、いきなりグランボードを放り投げてそれに飛び乗った。

 最初とは段違いだな。滑るように闇に溶けて行ったデイジーを俺達も追い掛けていく。

 

 中々デイジーに追い付けない。時速100km以上で滑空して行ったようだ。

 アリスが反重力装置を駆動して重力勾配を前方に設定する。たちまち急加速度で速度が上がると、前方にデイジーの姿が見えてきた。


「ローザ、右方向に全弾発射。俺にタイミングを合わせてくれ」

「了解じゃ。あれじゃな。イグナッソスよりも大きいのう」

 ぐんぐん群れに近付いていく。

「距離300で発射。そして急旋回して1km離れる」

「後400じゃ。200……、今じゃ!」


 10発の55mm砲弾が炸裂すると一瞬辺りが明るくなった。

 そんな光景を後ろに見ながら俺達は群れから離れていく。


「ダメじゃ。かえって怒ってるようにも見えるぞ」

 ローザがそう言いながら55mm砲を返してくれた。

 アリスはそれを仕舞い込んで換わりにレールガンを取り出した。

 「やはり、早めに始末することになりそうじゃな」

 そう言って脚部からデイジーもレールガンを取り出している。


『レジオン後方よりチラノ接近距離7km。個体数18です』

「何だと!」

『尾根に隠れて接近したようです。レジオンもこの状況では方向は変えないでしょう』

「分ったドミニクに報告。俺達は後方のチラノを狩る」

『デイジーに連絡、確認信号受信済みです』


 妹に連絡したか。後はドミニクとフレイヤの出番だな。ムサシはちゃんと動かせるかな。


「ローザ。一撃離脱で削っていくぞ!」

「一番の得意技じゃ。右側から狩りをするぞ!」


 そう言うとデイジーがグランボードで一直線にレジオンの少し右に向かって滑空していく。

 俺もアリスをその後に向かわせて滑走して行った。


 レジオンに向かってレールガンを撃つ。

 数頭が倒れたが、そのままヴィオラ騎士団に向かって掛けていく。


 前方で光の矢が見えた。

 早速ローザが狩りを始めたようだ。

 アリスをそのまま滑走させて、チラノに照準を合わせるとトリガーを引いた。


 軽い振動が伝わり秒速数kmの光の矢がチラノを貫通した。

 続いて2射すると一旦群れを離れて、並走しながら射撃を続ける。

 みるみるチラノの数が減っていく。

 数頭まで減ったチラノはレジオンの群れを諦めたように大きく左に向きを変えて尾根の方向に走り去った。


「アリス、レジオンはどうなった?」

『全滅しました。カンザスに辿り着いたレジオンは1頭もおりません』

 

「難じゃと!あれだけの群れじゃ。どう考えても激戦の筈」

「まあ、帰れば分ると思うよ」


 そう言って俺達はカンザスに引き上げて行った。

 だが、レジオンが32頭だぞ。数頭は倒したが、それでも28頭だ。ちょっと信じられない事は確かだな。


 カンザスはレジオンの亡骸に囲まれて停止していた。

 その装甲甲板にはムサシとリンダの乗る戦機が立っている。

 そして僚艦の2隻はカンザスを頂点にして前後に艦を進め三角形に布陣している。


 なるほど、艦砲で集中攻撃しながら、近付くレジオンを戦機とムサシが始末したんだな。

 30門近い長砲身砲で叩かれてはレジオンも接近は困難だったろうな。

 ようやく近付いても戦機に集中砲撃を受けて倒れたんだろう。あちこちに首をはねられたレジオンがいるからムサシの初陣も皆が満足したに違いない。


 装甲甲板に飛び乗って、ハンガー区域に下りていく。

 どうやら、採掘も終ったようだ。次の採掘に向けて、地中探査を続けながら俺達の船は西を目指して進み始めた。


「まさか、後ろにチラノがおったとはな。何事もなく済んで良かったわい」

「俺も驚いてます。30近いレジオンが騎士団に向かっていきましたからね」

「まあ、それを跳ね返す戦力があるという事じゃ。それに、あの滑腔砲の威力は凄かったぞ。アレクが直ぐに作ってくれと言ってきおった」

 そう言って豪快に笑い出した。


 ベルッド爺さんと別れて通路をブリッジに向かって歩いて行く。100m以上通路を進んでエレベーターで自室に戻る。

 リンダも一緒に付いて来た。戦闘後の1杯位は皆で飲みたいからね。


 既に皆が揃っている。

 すでにワイングラスを傾けていた。

 俺達がソファーに座る間も無く、ワイングラスが渡されワインが注がれる。


「ご苦労様。まあ、何とかなったわ。昔なら覚悟を決めるところだったけど、さすがはカンザスそしてムサシって事になるわね」

「だが、夜間の採掘は危険だな。鉱石があっても採掘は昼にすべきだ。尾根に隠れて思わぬ巨獣が近付いてくる」


 そんな俺の言葉を微笑んで聞いているのはカテリナさんだ。

 タバコをおいしそうに楽しんでいる。


「でも、ムサシとカンザスは凄かったわよ。私の爆轟カートリッジが霞んでしまったわ」

「そうでもないですよ。アレクが欲しがってました。という事はそれだけの威力があったという事になります。新型獣機に装備させる前に戦機用を作ってもらいたいですね」

「そうなんです。40mmなんですが突通るんですよ!」

 リンダも興奮してるな。

 

「デイジー記録は取ってある?」

『バッチリです。今映します』


 話し言葉だけなら電脳とは思えないな。その内語尾に「にゃ!」が付かないか心配だぞ。


 大型スクリーンが展開されると、そこにカンザスの激戦が映し出される。

 続けざまに火を噴く88mm砲は、射撃方向がバラバラだ。1人で3門は担当しているのに同じ方向を指向しないのが不思議な感じがする。

 そして、装甲甲板からリンダの戦機が短い間隔でAPDS弾を自動小銃のように撃っている。

 足元に55mmライフル砲を準備しているのは感心だな。

 ムサシの活躍はあの映画の1シーンのようだ。まるでワイヤーアクションのように空中で姿勢を変えてレジオンの首を刎ねると、次のレジオンに風のように接近する。

 これをヒルダさんが見たらどんな感想を言うだろう?


「しかし凄い活躍じゃのう。戦姫が霞んで見えるのじゃ」

 ローザが感心して姉を見ている。

 まあ、思い込みで制御しているような感じだからな。エミーもずっと目が見えなかったから、普通はあんな感じで動けないという事を理解していないんじゃないか?

 

 そのおかげでこのカンザスが無事だった事は確かだ。戦姫2機がいなくとも、巨獣を蹴散らすだけの戦力を俺達ヴィオラ騎士団が持っている事も。


「既に、バージ3台に鉱石が満載だわ。後、7台に鉱石を溜め込むのも時間の問題ね。今夜は少し危なかったけど、それでも自分達で何とか切り抜けられた。明日も頑張りましょう」

 ドミニクの言葉で場がお開きになる。


 そのままドミニクは当直に出て行った。

 レイドラとエミーも自室に引き上げ、カテリナさんもラボに行くようだ。意外とカテリナさんはこれからお仕事かな。

 ソファーに残ったのは俺とフレイヤだ。今夜はフレイヤと過ごす事になりそうだな。



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