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078 今度は3隻で


 一日の仕事が終った後で、食事をしながら今日一日を皆で話すのも楽しいものだ。

 俺達はカンザスのカーゴにアリスやデイジーそれにムサシを運んだし、リンダも自分の戦機を運んで来た。

 ヴィオラには戦機が4機になってしまったが、ヴィオラのカーゴに空きが出来たと思えば良い。

 戦機を発掘した時はヴィオラのカーゴに収容出来るからね。

 

 ドミニク達はヴィオラのクリスと人員の調整を行なったみたいだ。新たに20人がカンザスに乗り込んでくる。

 ヴィオラの補修を行なうドワーフ達が足りなくなったので、ベレッドじいさんが知人を頼って集めると言っていたが、優秀なドワーフは数が少ないと嘆いていた。

 自動化を進めれば補修要員が増えるのが問題だな。自動補修はアリスのような全く異なる機体コンセプトで作らない限り不可能みたいだ。

 たまにジッとアリスを眺めるベレッドじいさんは、どんな思いで見ているんだろう。


「ハードの微調整は明日には終了するわ。明後日には出発出来るわよ」

「母様に連絡を入れました。3カ国で調整すると言っていましたから、直ぐには返答が帰ってこないでしょう」

「明後日の10時に出航しましょう。カンザスはバージを曳けないけど、ベラドンナとヴィオラなら300tバージを5台ずつ曳く事が出来るわ」


 俺達全員に依存は無い。ようやく本来の稼業を頑張れそうだ。

 2連装の88mm砲塔を左右の甲板に4基ずつ持っているし、舷側には単装砲が5基ずつ付いている。大口径ではないが、十分巨獣に対抗出来るだけの火力をカンザスは持ってるからな。

 

「今度は何処を狙うんだ?」

「峰沿いに進もうと思っているの。他の騎士団は北緯40度近辺を探っているわ。私達は北緯53度を中心に探るつもりよ。アデルとクリスも賛成してくれたわ」


 夕食が終るとソファーでコーヒーを飲みながら、北緯53度の映像をスクリーンに映し出した。

 荒涼とした場所だが、数百km北には山麓の尾根があちこちに伸びている。

 巨獣の群れが衛星画像でも確認できるぞ。

 そして、その地を探索する騎士団の姿は何処にも見えない。


「おもしろそうな場所じゃ。腕のみせどころになりそうじゃのう」

「実戦で照準補正が出来そうだわ」

 ローザとフレイヤは肯定的だな。

 だが、そうなるとエミーの初陣にもなりそうだ。出来れば飾りであって欲しかったけどね。

「どれ位進むつもり?」

「300tバージが満載になるまでよ」


 鉱石次第ってことか。その間の中継点の守りは、駆逐艦1隻と尾根の砲台になる。

 もっとも、中継点に停泊している騎士団もいるから、巨獣が群れで押し寄せても何とかなりそうだ。そういう意味でも中継点への出入り口と桟橋の増設は必要になってくるな。そうすれば、滞在する騎士団も増えてくるだろう。

               ・

               ・

               ・

 2日後の1000時。俺達は3隻のラウンドクルーザーを連ねて中継点を出航した。

 出口を出て真っ直ぐに谷間を南に進むのはいつもの事だが、右手の尾根が切れたところで進行方向を西に向ける。

 3隻のラウンドクルーザーが間隔を150m程にとって横に並んだ。北からカンザス、ベラドンナ、そしてヴィオラの順だ。

 時速30km程の速度で鉱石探査を行ないながら西に向かう。

 南北に500m程の長さで地中探査を行なえるんだから、他の騎士団から見れば贅沢な感じがする。

 ヴィオラから発進した円盤機が、上空を旋回しながら100kmの範囲を偵察しているから、巨獣の接近をあらかじめ知る事も出来る。

 

 俺達はやる事が無いから、のんびりと窓の傍で外を眺めている。

 ローザ達は、ライムさん達を交えてスクリーンにゲームボードを展開している。スゴロクのような遊びを始めたようだ。退屈凌ぎには良いのかも知れないな。

 昼食を終えた頃、カンザスが回頭を始めた。どうやら、最初の鉱脈を発見したようだ。

 

『酸化ビルトニウムを含んだマンガン団塊のようです。かなりの量ですよ』

 ドロシーが教えてくれた。

 2隻のラウンドクルーザーから獣機が出てくる。たちまち掘削機を3台組み立てると掘削を初める。他の獣機はベルトコンベアを組み立てて、バージまでの鉱石積み込み路を作り上げている。

 獣機が20機以上はあるけど、連携は上手く行っているようだ。

 1時間もするとベルトコンベアでバージにマンガン団塊が積み込まれ始める。


「幸先が良いようじゃのう。3日もあれば全て満載出来るのではないか?」

「あまり期待しないでおきましょう。それでも、この辺りは誰も採取していませんから、意外と満載になるのは早そうですけどね」


 数時間が過ぎると再び船団は西を目指す。

 夕食はレイドラとドミニクが交代で取る。今夜はレイドラが当直のようだ。

 フレイヤもエミーを連れて夕食後に火器管制室へと向かった。エミーと交代制を考えているのかな?

 お嬢様育ちだけど、そんな仕事を嫌とも思わないようだ。目が見えるようになったから、どんな仕事も新鮮に感じるんだろうな。それに、誰にも頼らずに自分で出来るのを喜んでいるようなところもある。


 ちょっと寂しそうに姉を見送ったローザだったが、今はスクリーンを見ながらちょっと興奮気味だ。


「この巨獣が南に進んでくると問題じゃな。ここにもおるぞ。この辺りは巨獣が多い」

「山麓に続く尾根が近いですからね。でも、2つとも移動はしてませんよ」


「じゃが、これは移動しておる。このままの速度を維持すれば夜半に接触するぞ」

『接触予定時刻は0235時です』

 

 ドロシーがローザの意見を肯定する。

 だけど、俺達が心配しなくともドミニクやレイドラは既に知っているだろうし、フレイヤもにこにこしながらその時を待ってるんじゃないかな。


「リンダ。今の内に一眠りじゃ。今夜はおもしろくなりそうじゃ!」

 そう言うと、リンダを連れて部屋を出て行った。

 まあ、今のままではそうなるんだろうけど。数時間も後だし、その前に鉱石が見付かれば接触もしないんじゃないか?

 そんな事を考えながら、ワインを飲んでいるとカテリナさんがドロシーの電脳室から帰ってきた。

 俺の隣に座ったところで、ライムさんがワインのグラスを持ってくる。


「中々の性能ですね。ですがこのまま進むと……」

「その前に鉱石が見付かるわ。でもあまり群れに近いところで鉱石採掘を始めれば襲ってくるでしょうね」


 そう言ってタバコを取り出した。

 カテリナさんのタバコに火を点けてあげると、俺もタバコを取り出して火を点ける。


「リンダは50mm長砲身ライフル砲だったわね。試作で1つ例の滑腔砲を持ってきたんだけど試してみる?」

「でもあれって、水素爆轟で撃ちだすAPDS弾ですよね。危険は無いんですか?」

 タバコを灰皿で消すと、俺を椅子から立たせて奥に誘う。

 

「ゆっくり教えてあげるわ。皆出てるんでしょう?」

 そう言ってジャグジーの前で衣服を脱ぎ捨てて入っていく。

 後に続いた俺をジャグジーの中から腕を伸ばして引き込んだ。そんな俺達を天井の丸いドームが降りてきて包み込む。


「サウナにもなるのよ。その時は星空は見えないけど、ゆっくりと楽しめるわ」

 シューっと温かなミストが俺達を包み込む。低温サウナってやつな?

 俺達はそんなミスとの中で互いを抱きしめる。

 「……と言う事だから、心配しないで良いわ」

 

 汗を通常のジャグジー機能で流しながら、カテリナさんのレクチャーを受けたんだが、あまり理解できないぞ。


『爆轟条件1歩手前で、カートリッジ内の水素を制御するという事ですか?』

「さすがはアリス。リオ君より飲み込みが良いわ」


『そうなると、薬室装填された状態では爆轟状態になります。極めて危険ではないでしょうか?』

「カートリッジ内では安定条件が成立するわ。一度薬室に装填されたら爆轟一歩手前にあるわけだから、早めに発射すれば問題ないでしょう。実際にはその状態で起爆させなければ爆轟には至らないわ。もっとも、静電気でもそうなるから早めに撃たないと危険ではあるわね。運悪く、薬室内に弾丸が残ったら空に向けて処理すれば良いのよ」


 要するに最後に残った1発は無駄弾として処理すれば良いって事か?

 通常では安全なら、問題ないんだろうけどね。


「リンダの意見も聞いて見ます。弾丸が多いですから試してくれるかも知れません」

「期待してるわ」


 そう言って再び抱きついてきたカテリナさんをジャグジーから出して衣服を整えさせる。意外と前のエミーよりも手が掛かるんじゃないのかな?

 

 カテリナさんと、ソファーに腰を下ろそうとした時にカンザスが回頭を始める。

 どうやら、再び鉱石を見付けたようだ。ローザが期待してたけど、そのまま朝を向かえそうだな。

 

「意外と早く次ぎを見付けたようね」

『輝ルデナム結晶体を含んでいるようです。推定埋蔵量は100t前後になりそうです』


「今回はボーナスが期待出来そうね」

「でも、カテリナさんは騎士団員ではありませんよ」

 俺の言葉にカテリナさんがポケットからブレスレットを出した。


「ナンバーは騎士団長よりも若いわよ。さすがにベレッドよりは後になるけど」

「でも、ドミニクはカテリナさんが騎士団員と教えてくれませんでしたよ」

「あの子が話をし始める頃には、学府に戻っていたのよ。たぶんベレッド位しか覚えていないでしょうね」

 

 前のヴィオラに昔乗っていたんだろうか?

 旦那の惨劇を眼にして今地位を築いたのかもしれない。それなら、確かに騎士団たる地位があるはずだ。

 決して挫けない不屈の精神が騎士だって、アレクがいつも教えてくれたからな。

 

「ということは、このカンザスにも?」

「ええ、あの子達と一緒よ。でも、あの子達は騎士団員では無いわ。科学と言う名の神に使える僕達よ」


 それも、どうかと思うぞ。

 早めに、真っ当な人間に戻してあげた方が良さそうだけど、しっかりマインドコントロールされてるような気がしないでもない。

 

「でも、保全部にはベレッド爺さんがいますよ?」

「彼の領域は侵さないわ。科学と技術。これは発展の両輪になるものよ。ベレッドが左舷で戦機を見守るわ。私達は右舷で獣機と一緒よ」


 ひょっとして双胴船にしたのはそれが目的って事か?

 最初から、カテリナさん達は乗り込むつもりでいたようだ。


『緊急通報、緊急通報。巨獣が接近中。北西50km付近を時速30kmで接近中。繰り返す……』

 

 突然、デイジーの緊急通報が艦内に流れる。

 急いで自室に駆け込んで戦闘服に着替えるとその上に制服を着てガンベルトを装備する。

 リビングに戻ると、カテリナさんがミニバーの反対側の壁の隠し扉を開いた。


「さあ、ここからアリスの所に出られるわ」

 自慢げな表情でカテリナさんが教えてくれたけど、一歩足を引いてしまったのは俺なりの危機管理能力に違いない。

 そんな俺を手招きして扉の奥を見るように教えてくれた。

 隠し扉の中には俺の身長程のカプセルが入っている。恐る恐る乗り込むと、カテリナさんがカプセルの足元にある赤いボタンを指差している。

 それを踏んだ途端、カプセルが下に向かって落ちていく。直ぐに水平に移動を始めた。


 ちょっとカッコ良い出撃シーンだな。

 どこかで見たような感じがするけどね。



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