077 中継点の拡大案
「すると、中継点の拡張を始めなさると……」
「その相談を皆で考えたい。俺が中継点を見るに、やはり色々と問題があるように思える。そして中継点の運営を開始してそろそろ一月が過ぎている。中継点の管理運営をしているライズやマリアン達にも改善点が見えてきたんじゃないかな? 当然、此処で商売をしている商会の皆さんにもね」
俺の言葉に皆が隣の連中となにやら囁いているぞ。
やはり、不満な点はあるようだ。
「それで、どのような改造をお考えですか?」
商会の1人が俺に尋ねてきた。
「入口トンネルをもう1つ作って、このホールを南北に300m程拡大する。そうすれば、西の桟橋の両側を使えるはずだ。また、拠点を出たところにあるバージ用の桟橋を更に拡張したい。その桟橋に鉱石の集荷場、もしくは商会ごとの大型倉庫を作る事が俺の計画だ」
だが、一度には出来ないだろうな。資金が足りない。
「広大な計画ですな。確かにそれは理想的です。……ですが、資金がありません」
「そこで、相談だ。現状を100として、この計画が成功したらどの程度の利益が得られるだろう? その利益を分配する事で株を発行したい。それが可能かを知りたくて商会の皆さんを集めたのだ。中継点の責任者を呼んだのは、彼女達と貴方達で計画の優先順位を決めて貰いたかった」
そこまで言うと、俺はタバコに火を点けて彼らの意見を聞く事にした。とは言うものの、しばらくは呆気に取られて発言が無いな。
「リオ殿は、株と言う形で利益を分配する事を本気でお考えですか?」
「利益が出ればの話だ。それに現状の投資は俺達が主体だ。だからあくまで現状の利益以上の利益を分配する事を考えている」
「とんでもない資金が舞い込みます。出来れば、限度額を決めるところから始めませんと……」
「大きくは4つの資金が集まると考えている。ヴィオラ騎士団、各国の御后様方、貴方達商会、そしてそれ以外という事になるんじゃないかな」
「御后様方もそのような考えを持っておいでとは……。我等もそれなりに名の知れた商会です。1億L程度は即金で用意できます。それに御后様方の資金が集まれば20億Lには達するでしょう。さらに一般の投資家、貴族等も参加するのであれば50億Lは下ることがありますまい。」
「リオ殿はもう1つ言っておられましたぞ。優先順位と、確かにどれを先にするかは迷うところです。利益と利便性で選ぶのが良いでしょうな」
「となると、マリアン達と貴方達でその資金運営と利益の配分を行なう組織を作らねばなりませんね。透明性を上げるために、御后様方を巻き込むのも手ではありますが……」
「出来ればリオ殿にそれをお願いしたい。役員の1人として、また資金管理の幹事役として迎えられれば良いのですが」
俺が頷くと、すぐにラフな計画と工期、それに概略の予算が飛び交い始めた。
ある程度彼らも考えていたらしい。
御后様達の訪れた後で、マリアン達に商会との連絡会で、打診しておくように言っておいたからな。
だが、イザそれを行なうとなると資金面で頓挫してしまう。拠点の改修は俺の承認とスポンサーが是非とも必要だったのだ。資金が株の発行で得られるならば、問題はなくなる。
「俺が知りたいのは、総額と工期それにどのように改修されるかの図面だ。それから、再度株の発行高を決めようと思うのだが」
「一ヵ月の猶予を下さいませんか。本社とも相談の上、プロジェクト要員を確保いたします」
そんな短期間で出来るのだろうか?
たぶん概略設計を短時間で行い、それを元に概算を弾くのだろう。
「申し訳ないが、お願いする。バージを全て外で受け渡しをしても、中継点に停泊できるラウンドクルーザーの数は限られている。その数とバージの荷役数を増やせば、更に西に向かう騎士団が増える筈だ」
そう言って、その場を退席する。後はマリアン達と商会の連中が仕切ってくれる筈だ。
商会としても、この中継点に対して運営の一部に参加出来る事になるのだから、他の商会よりも1歩踏み出したスタンスを取る事が出来る。
他の商会には残念な結果になりそうだが、これも少し考えないといけないのかも知れないな。
海沿いにバージの集荷場を作る案があったが、それを他の商会に任せるのも1案ではある。
出る杭は打たれるが、あちこちに杭が出れば、それなりに揃って見られるかもしれない。
カンザスに引き上げると、ソファーに4人が座っている。どうやら、リンダがローザに引き抜かれたようだな。
「申し訳ありません。あのような立派な客室を使わせて頂いて」
「ローザ王女の護衛なんだから、恐縮する事は無いよ。でも済まないけど王女と同室でお願いするよ」
俺が部屋に入った途端、リンダが俺が立ち上がって頭を下げる。
リンダを席に座らせて、俺達も席に着いた。
「上手く行ったようね。兄貴やクリスもこの艦に驚いてたわ。でも、さすがに時速500kmで空を飛ぶのは疑ってたわよ」
フレイヤが思い出し笑いをしている。さぞやクリス達の驚いた表情がおかしかったんだろうな。
そんな俺達にライムさんが小さなグラスを配ってくれた。
クラッシュアイスに琥珀色のウイスキーって感じだ。飲んでみると、結構な強さだぞ。さすがに、ローザにはジュースが出されている。
タバコに合う感じだ。ビールは腹に溜まるから、寝る前にはこれが良いのかも知れない。
「エミー、1つお願いがあるんだが……」
エミーがローザ達との雑談を止めて俺の顔を見た。
「3つの王国が信頼する12騎士団を1つ紹介して欲しいんだ。小さくとも良い。信義に厚い騎士団に頼みたい事がある」
「たぶん、テンペル騎士団を推薦してくるでしょう。母様に確認してみます。王家の推薦状は必要ですか?」
「さすがにそこまでは必要ない。それに、そんな物を持ち出したら相手も断われなくなってしまう」
皆が話を止めて俺を見ている。何を考えてるのか、早く話せって感じだな。
それはもう1つの中継点作りの事だ。
王都から海岸伝いに西に進出した位置に拠点があれば、更に西への発展が望める。
俺達の中継点から王都への鉱石移送は高速運搬船でも7日以上は掛かる。これが海岸地帯への移送であれば3、4日で済むのだ。
低緯度地方なら巨獣の出現も少ないから通常の運搬船で王都に鉱石を移動できる。
俺達の中継点の規模を拡大した場合、どうしてももう1つの中継点が物資移送上必要になるのだ。
「中継点と言うよりも、バージの集積ターミナルに近い感じになりそうだな」
「それを他の連中にやらせるのか?」
ローザはちょっと不服そうだ。
確かに俺達でやるならそれなりに収益を上げられるだろう。
だが、これは俺達以外の騎士団がやる事に意味があるのだ。このままでは孤高の騎士団になってしまう。この辺で将来のパートナーとなり得る騎士団を見つけておいた方が良いと思う。
「たぶん、リオの考えには私達と同列の騎士団が欲しいという事にあるんでしょうね。私は賛成だわ。時間があればアデルにそれを任せたかったけど、アデルでは資金の調達は無理でしょうね。そういう意味での12騎士団なのね。騎士団の名が売れていることが大事と言う事でしょう」
ドミニクが賛成してくれた。
アデルとクリスとの調整はドミニクに任せれば良いだろう。
「となると、やはりテンペル騎士団という事じゃろうな。じゃが、あの騎士団は12騎士団の中では一番規模が小さいぞ。レイドラル騎士団があの惨事を生じたから、今では下から2番目じゃ。それでも戦鬼を1機持っておる。戦機は6機じゃったか?」
ローザの問いにリンダがタブレットで確認している。頷いたところを見ると当たってたという事だろう。
『テンペル騎士団は10日後に中継点を訪れます』
「それなら、それまでにヒルダさんに確認してくれ。俺達の将来性を左右する」
デイジーの言葉に再度エミーにお願いした。
話が一段落すると、ローザがリンダを連れてジャグジーに向かった。
既に23時を回っている。
そろそろ寝る時間だな。
ローザ達が部屋を出ると、今度はドミニクとフレイヤが入浴する。
ライムさん達は何時の間にか姿を消している。メイドルームで休んでるのかな。
そして、最後は俺とエミーの番になる。
「ずっと、ローザと一緒だったんでしょ。今夜は2人でゆっくりしなさい」
そうエミーに伝えてそれぞれの部屋に向かった。
エミーの手を取ってジャグジーに向かう。
服を脱がしてジャグジーに抱いて入ると周囲からジェット噴流のお湯が俺達を包んでいく。
上を見れば満天の星空だ。中々凝ったものをカテリナさんは作ったな。
意外と、ロマンティックな心を持った人なんだろう。単なるマッドでは皆が嫌う筈だが、カテリナさんを嫌う人はいないからね。
「綺麗ですね……」
そう呟くエミーを後ろから抱きしめて、俺達はゆっくりと湯船に横になった。
次の朝。目を覚ますと、エミーが胸の上にいた。
今朝は蜂蜜色の世界だな。
ローザは金髪だが、エミーは金髪と言うより蜂蜜色の髪だ。エミーを隣にゆっくりと落とすと、目を開けた。
「おはよう」
と声を掛けると、小さな声で「おはようございます」と返事をしてまた俺に抱き付いて来た。
時計を見ると、まだ7時にもなっていない。もうしばらくはエミーと2人だけで過ごそう。
7時30分に起き出してジャグジーで軽く汗を落とす。
ナイトウエアを羽織ってエミーは自分の部屋に帰っていった。
俺も、部屋に戻ると衣服を整える。ソファーに腰を下ろすと、タバコを楽しむ。
窓の左手には桟橋が見える奥に停泊しているのはダモス級のラウンドクルーザーだ。
小規模騎士団らしいが、こんな場所にやってきて大丈夫なんだろうか?
外を眺めている俺に、コーヒーを運んできてくれたのはレイムさんだった。
互いに「おはようございます」と挨拶をする。
今日は、1日のんびり出来るのかな?
確かフレイヤ達はカンザスの調整作業の確認があるだろうが、騎士の俺達にはあまり関わりが無い。
そういえば、カンザスにアリス達を搭載しなければならないな。リンダの戦機もあるし、今日はそんな作業をしなければなるまい。