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075 試験飛行準備


 遠くに城壁と城門が見えてきた。周囲には何処までも続く緑の絨毯だ。今年も豊作なんだろうな。

 そんな事を考えていると、俺達の前にフルーツパフェが出て来た。

 こんなものまで積んできたんだろうか?

 ローザの目の色が変わったぞ。


「騎士団員へもあるんだろうか?」

「ヒルダ様からの差入れにゃ。100人分を送ってきたにゃ」

 

 それなら安心だ。

 もう一度食べられると考えたのか、ローザがエミーをみて微笑んでいるぞ。

 甘いデザートを食べ終えたところで、冷たいソーダが出る。これも甘い事は確かだが、口直しには丁度良い。


 夕闇が終わり漆黒の帳が下りた頃、照明に照らし出された城門を潜り抜けた。そのまま進路を変えずに北に向かう。


『カンザス第2巡航速度に変更。現在の速度、時速30kmで増速中』

「鉱石の探索には同行出来そうじゃな」


「そうでないと困ります。出来れば時速40kmは欲しかったのですが……」

「第2巡航速度では時速35kmは出せるとカテリナさんが言っていたぞ。という事は、短時間なら時速40kmは出せる筈だ」


『現在の速度、時速35km。機関安定。各部の自己診断中……。自己診断終了、特に異常はありません』


 主要箇所の点検だけでも自動化されているようだ。

 補修部門の連中や機関部門の連中はさぞかし忙しく点検をしているに違いない。目視点検だけでも1時間では終らないだろうからな。


 タバコを1本吸い終わった頃に、ドミニクがレイドラと交替する為にお弁当を持って部屋を出て行く。

 カテリナさんも大変だろうな。


 レイドラが戻るとライムさんが直ぐに食事を食べさせる。

 それが終るとさっきのパフェが供されるが、それを羨ましそうにローザが見ていた。


「食事が終ったら直ぐに戻ります。今度はいよいよ浮上航行試験です」

「ご苦労様。だけど、少し休んでからだ。少なくとも、コーヒーを飲む位はドミニクも待ってくれるさ」

「いよいよじゃな。ホントに、このカンザスが高速艇並みの速度を出せるのじゃろうか?」

 

 嬉しそうに、前を見ながらローザが呟いた。

 投光器が前方を明るく照らし出している.地上レーダーも特に異常が無いんだろう。

 レイドラが急いでコーヒーを飲み終えると部屋を飛び出して行った。

 

「私も上に上がっているわ。やはり周辺監視は多い方が良いわ」

 レイドラを追ってフレイヤも部屋を出て行く。


 残ったのは俺達3人だけになった。ライムさん達は食事の後片付けをしているようだ。


『カテリナ博士より連絡。2100時より飛行試験を開始します』

「まだだいぶ時間があるのう」

「あと1時間だよ。試験はゆっくりと準備する事が大事なんだ」

 スクリーンに映る試験開始の残り時間を、うらめしそうに見上げていたローザに教えてあげる。


「そうよ。でもカテリナさんのことだから心配はいらないと思うけどね」

 エミーも、肯定的な意見だな。


 確かに結果は残しているけど、やり方が強引なところがあるからなぁ。

 ライムさんに改めてコーヒーを入れて貰うと、タバコに火を点けてその時を待った。

 21時5分前にドロシー艦内放送が始まる。


『飛行5分前。反重力装置A、B、C、D出力上昇。反重力装置シンクロ5秒前、4、2、シンクロ開始……。

出力15%で現在の地上速度時速40kmに上昇。飛行3分前……。水素供給系漏洩無し、タービン磁気駆動開始……、回転による異常振動無し。飛行2分前。反重力装置出力50%、地上を離れます。

高度2m……5m……10m、20mで姿勢制御中。全ての搭乗員は艦首方向を向いて椅子に深く腰を下ろしてください。

 飛行1分前。タービンジェットアイドリング開始。5000rpmに回転数上昇。エンジンAからEまで全て異常ありません。飛行30秒前。高度70mで時速30kmで飛行中。飛行10秒前、5、3、2……ターボジェット起動!』


 グンっとソファーに押し付けられたような加速が伝わってきた。ライムさん達は、扉近くの壁を背に座っている。

 あのやり方もあるんだな。


『現在、地上70mを時速300kmで飛行中。飛行姿勢異常なし。ターボジェット異常なし、反重力装置異常なし……引き続き、30分後に最大速度試験を行ないます』

「意外と簡単に空を飛んでおるのう。地上が見えないのが残念じゃ」

「直ぐに眺める事が出来ますよ。この速度で飛んでも中継点に付くのは明日の夜になるでしょう」


 直線距離で5千kmは、やはり遠くだと思わねばなるまい。

 地上が見えないとローザは言ったが、投光器で浮かび上がった地上部分を見る事は出来る。直径50cmもある大型投光器がカンザスの艦首に左右2個ずつ付いているし、ブリッジにも10基近くの投光器があるが、やはり見える部分は限定されるからな。

 楽しみは明日の朝になるだろう。


「もっと、衝撃があると思っていたのですが」

「たぶん速度上昇をゆっくり行なったんだろうな。一気に上げるような試験は明日になると思うよ」


 帰りまでの時間は有効に使わねばなるまい。帰った後は、色々と改良やバグを潰さねばならないからな。

 本格的な運航は中継点に帰ってから早くて10日以降になるだろう。それでも、早いと思う。


 30分後に行なわれた飛行試験では、高度120m、最高時速550kmを記録して試験を終了した。

 地上80mを時速300kmで巡航しながら、飛行を継続する。

 何事もないことをデイジーに確認したところで、俺達は各自の部屋に引き上げた。

               ・

               ・

               ・

 朝になって隣に寝ていたのはドミニクだった。

 ジャグジーに入り、もう一度ベッドに入る。

 まだ、7時だからな。

 皆が起き出すのは8時頃だ。


「操艦はどんな感じ?」

「それが今日の試験になるわ。地上走行なら問題ない感じね。問題となるのは空での高速移動よ。今日は場合によってはシートベルトが必要になるわ」


 俺の耳元でそんな事を呟く。

 やがて、俺の胸から隣に滑り落ちると俺と一緒に天井を見上げた。


「搭載する戦機はアリスとデイジー、それにムサシにするわ。母さんの話だと、新型の獣機を10機と戦機を6機搭載できると言っていたけど、通常の戦機ではねぇ……。後1機戦鬼が見付かると良いんだけれど」

「気長に行くさ。新型獣機の性能がカテリナさんの言うとおりなら十分戦機として通用するだろうし」


 俺に振り返ると笑顔を見せる。

 そして体を起こすと、下着を付けてガウン姿で俺の部屋を出て行く。

 俺も、服を着ると部屋を出てソファーに向かった。

 荒野の空は綺麗に晴れている。時速300kmで走っていると言っても、そんなに速度感がないな。

 アリスで時速100kmで滑空している方がずっと早く感じるぞ。


 一服を楽しんでいると、皆が続々と起き出して来た。

 こんこんと扉が叩かれ、エミー達も入ってくる。皆で奥のジャグジーに向かう。朝風呂を楽しんで、メイクアップと言う所だろう。

 そんな俺に、ライムさんがコーヒーを運んでくれる。

 

「今日は操艦訓練らしいよ。シートベルトを付けるかも知れないけど、ライムさん達は大丈夫なの?」

「このソファーに座るにゃ。この背もたれの後ろにシートベルトが隠れてるにゃ」

 

 ファーのクッションをヒョイっと持ち上げると、なるほど4点式シートベルトが入っている。背もたれが高く、枕代わりになるのもそんな理由があったんだな。


「それに、このボタンを押すと全てのソファーが横1列になるにゃ。これで前を見る事が出来るにゃ」


 ボタンはソファーの両端にあるようだ。

 やはり一度じっくりと、あのタブレットで仕様を確認しておかないとダメみたいだな。


 皆が揃ったところで朝食だ。

 そんな所に、カテリナさんが訪れた。昨夜は寝てないのかな?目がギラギラだし、髪もぼさぼさだ。


 俺達の脇を通り過ぎて奥のジャグジーに向かっていく。

 あんなところで寝たら溺れてしまうぞ。

 

 ドミニクに視線を移すとふるふると首を振っている。

 諦めてる感じだな。後で、レイドラに見てきてもらおう。


 そんな俺達の前に朝食が並ぶ。

 焼き立てのパンにはジャムが塗ってある。こんがり焼いたベーコンが刻んであるカップスープが湯気を立てているぞ。そして、オレンジジュースが健康的な感じがする。

 頂きますと言いながら、食事を始めてしばらくするとカテリナさんがやってきた。

 テーブルに着くと過ぐにライムさん達が朝食を準備する。


「通常飛行は問題なさそうね。今日は機動性を試験するわ。ちょっと揺れるから、しっかりベルトを締めておくのよ」

「食事の直ぐ後にですか?」


「いくらなんでも、それはしないわよ。そうね……、1時間後にするわ。何か異常があればドロシーに呼び掛けて頂戴。彼女はカンザスの全てに聞き耳を持ってるわ」

「分りました。でも、俺達だけでなく乗員全員に告げてからに願いますよ」


 ドロシーにそんな機能があるとはね。

 気分が悪くなっても、ドロシーに告げれば安定飛行に移ってくれるんだろうな。


「エミーは私と一緒よ。ムサシはカンザスの近接防御の一端を担って貰うつもりだから、火器管制部に来て頂戴」

「確か、カンザスで一番眺めの良い部局なんですよね。分りました」


 エミーも自分の居場所が確定したから嬉しそうだな。ローザの活躍も良く見える位置だしね。

 という事は、此処に残るのは俺とローザってこと?

 互いに顔を見合わせてしまった。


「まあ、カンザスには待機所はないようじゃ。兄様と此処で様子を見ることにするぞ」

「ライムさん達も此処だしね。」


 4人でゆっくり楽しもうか?

 きっと、遊園地のアトラクション並みの動きが期待できるんじゃないかな。


「ところで、どんな機動を試すんですか?」

「そうね……。ドロシー、何をするんだっけ?」

『スクリーンに機動試験の順番をリストで表示します。その方が皆さんも次の動きが予想出来るでしょう』


 なるほどね。試験プログラムと言う訳だ。

 早速、表示されたリストを皆が眺めている。


 急速上昇……、5秒間で地上から高度100mに上昇?

 急速降下……、4秒間で高度100mから地上走行モードに変更?

 急速回頭……、最大船速で90度の方向転換!

 急速旋回……、最大船速でのUターン??

 ナイフエッジ!!


 とんでもない試験だぞ。まだジェットコースターの方がマシな気がする。これをどれ位続けるつもりなんだろうか?


「楽しみね!」

「ええ、王都の遊園地でもこのアトラクションは味わえないわよ」

 

 そうなのか?

 俺はちょっと、……なんだけどなぁ。


「楽しみにしててね。試験2つごとに15分間の休憩を入れるわ」

「それじゃあ!」ってカテリナさんが部屋を出て行った。

 ジュースを飲み終えたドミニク達とフレイヤ達がそれぞれの部署に出掛けてく。

 俺達もソファーの横にあるスイッチを押して、ソファーを窓に対向するように移動する。

「これじゃな。4人分準備をしておくぞ」

 ローザがソファーのクッションを、よいしょっと持ち上げて4点式シートベルトを準備している。

 今の内にタバコを楽しんでおこう。これからはしばらく楽しむ事が出来無いだろうな。



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