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074 音声アシスト付き


 ドミニク達はカテリナさんと新しいクルーにカンザスの説明に出掛け、フレイヤはエミー達とライムさん達と一緒にナイトウエアを探しに出掛けた。

 ライムさん達がいる前で裸でうろつかれても困るからね。

 最低限の礼節は身に着けて貰わないと……。

 

 そんな訳で1人でコーヒーを飲む。

 メイドさんが来ても、あまり変わりは無さそうだ。


 スクリーンを広げて、再度カンザスの詳細を見ながら過ごしている。

 横幅だけで100mを超えるからな。専用桟橋においたら、さぞや大きく見えるだろう。

 高さと長さはヴィオラとほぼ同じ大きさだ。

 荒野を進んでいる時に、遠くから横を見た感じでは、さほど違和感を感じないだろう。

 

「ドロシー、カンザスを中継点に入れることが出来るか?」

『バージを曳いていませんから、容易だと思います。時速30kmであれは私でも自動操艦が出来ます』


 中継点内は時速15km厳守にしていると言っていたから、楽勝なんだろうけどねぇ。


「たぶんアリスがドロシーに接触すると思うんだ。ドロシーの姉だと思って、色々と教えて貰うと良いよ」

『了解です。待つことにします』


 知性を持った電脳同士の会話ってのはどんな話題になるんだろうな?

 そんな事を考えながら、のんびりと過ごしていると、扉が開いてドミニク達が帰ってきた。


「全く信用しないんだから、嫌になるわ。明日になれば分かる事だけどね」

「でも、この大きさですからしょうがありません。実証するのみです」

 3人がソファーに座るなり、ムスっとしてるのはカンザスの最高速度だな。


 この大きさなら、最高速度が時速30kmと言っても納得するからな。

 だが、それは一般的な話であってカテリナさんが絡んだ場合の話ではない。そうは俺も思っているのだが……、俺にだって信じられないぞ。早く実証試験をして見たいと思ってる1人だからね。


「で、エミー達は?」

「まだ帰ってこない。色々と選んでるんじゃないかな?」


「でも、各部局で操作方法を確認すると言っていたから、明日昼前には出発出来そうよ」

「となると、購入品を運び込む時間が無さそうだけど?」

「一通り揃ってるのよ。それに足りなければ中継点の商会を通せば直ぐに持ってくるわ。燃料と食料それに弾丸がそろっているから、改めて買い込む必要はそれ程ないんじゃないかな」

 

 それもそうだな。

 別に買い物に来たわけではないしね。

 とは言え、アレクとベラスコには酒でも買っていくか。工場の責任者に頼めば、明日の出発までには何とかしてくれるだろう。

 皆が戻るまでは、この大きなソファーでのんびりしよう。


「擬似的な人格が形成されるとは思わなかったわ。でも、悪い子じゃ無さそうね。色々と教えがいがあると思うと、楽しみね」

「アリスが仕込むと思うんですが、それにカテリナさんは忙しそうですし……」


 俺の言葉にカテリナさんが顔を向けた。

「そんな事は無くてよ。ちゃんとドミニクだって育ててるしね」

 身を乗り出して俺の耳元で囁くように呟いたけど、ドミニクの性格はそんなところから来てるのかな? それに、出来ないのは料理と育児って言ってたから、あまり信用が置けないんだけどね。

               ・

               ・

               ・

 どうやら、今夜は調理器具の使い初めをするらしい。

 外食しないで済むのは嬉しい。そして、どんなのが出て来るか楽しみだな。

 食堂に行かなくても、この部屋で食事が出来る。ミニバーの片隅にある専用エレベーターで料理が運ばれて来るそうだ。

 メイドルームへ続く扉の脇にはワインクーラーまで付いていると言っていた。

 100本を越えるワインが常備されているらしい。中には高いのもあるんだろうな。

 俺には高給な趣味はないから、適当で良いような気がするんだけどね。


 スープから始まってフルコースに近い食事が始まった。

 ワインはワイングラス半分で終わりみたいだ。残ったワインは今夜にでも飲もう。

 最後のデザートまで約1時間……。これは時間の無駄だぞ!


「来客があればこれでも良いだろうけど、普段は食堂の1品料理で構わないよ」

「兄様では仕方あるまい。本来はこの食事も仕事と割り切るものじゃがのう」

「私も賛成するわ。たまにはゆったりと食事も良いけれど、荒野ではそんな時間は無いものね」

 

 ドミニクも同じ意見のようだ。

 ライムさんは俺達の意見にちょっと驚いているようだったが、エミーの頷く顔を見て納得してくれたようだ。

 確かに、貴族的じゃないけどね。俺達は騎士団なんだから、それにあわせてもらえば良いだろう。

 だけど身分の高い連中との会食でも恥を欠かないように、たまにはこの食事を楽しんでも良いかもしれない。


 食事の後は、ソファーでくつろぐ。

 ライムさんの入れてくれたコーヒーは俺好みの薄いものだ。マグカップにたっぷりと注がれたコーヒーに砂糖2杯が丁度良い。


「明日はいよいよ出航ね。ちゃんと中継点の桟橋に停泊出来るかな?」

「航法部の連中に自信が無いようなら、バージ用桟橋を使うことになるわ」

 ドミニクが残念そうに呟いた。


「それだけど、ドロシーが操艦出来るって言ってたぞ。あのトンネルさえ抜ければ何とかなるんだろう。積極的にドロシーに手伝って貰えば良いと思うんだけどね」

「可能なのでしょうか?」

 レイドラの質問はカテリナさんに向けられた。


「十分可能よ。ドロシーは5つの部局の電脳の上に存在してるの。経験を積めば積むほどに操艦を任せられるようになるでしょうね」

「それじゃあ、人間の仕事って?」

「ドロシーを教育する為よ。そして、ドロシーは動けないわ。ドロシーが常に最高の状態を保つ為の保全は必要だわ」

 

 もしも、補修や点検を行なう分野にロボットが進出したら、カンザスは無人化出来るってことか?

 カテリナさんの専門は育児と料理以外の学問全てを範疇にしている。補修用ロボットの開発も始めてるような気がするな。

 だが、そうなると人間の将来ってどうなるんだろう? ちょっと気になる話題だな。

 タバコに火を点けると、おもしろそうな顔をしてカテリナさんが俺を見ていた。


「どんな世界を夢見てたの?」

「分りましたか? 漠然としたものです。人間はどうなるんだろうって……」


「飼われることが無いようにしなければいけないわね。常に教える立場にいたいと思うわ。でも、やはりリオ君が漠然と考えた世界は訪れる事は無いわよ。そこまで自動化をすることが出来ないの。今の電脳工学では不可能。全く異なる思想で電脳を作ることが必要になるわ。ドロシーをテニスボール2個分位にしなければいけないのよ」


 たぶん工学的な革命が起きなければ無理ってことかな。ならしばらくは人間が主流でいられるってことになる。

 明日に備えて俺達は部屋に引き上げる。

 今夜はエミーが一緒だ。


 次の日。

 ジャグジーに体を横たえていた俺達のところに、ドミニクやフレイヤそれにカテリナさんが入ってきた。

 

「今日は出航だものね。早く起きてしまったわ」

「正午に出航するわ。乗船予定者は全員到着。一晩じっくり動かし方を学んだ筈だから大丈夫でしょう」


 かなり前向きな考え方だ。

 イザとなればドロシーに介入してもらうから、それ程心配はいらないんだろうけどね。

 

「動けば何とかなるものよ。それ位出来なくてはヴィオラ騎士団の操艦は任せられないわ」

 それも、凄い考え方だな。

 だけど、荒野でどんなトラブルに巻き込まれるか分ったものじゃない。それを考えると、どんな状況でもラウンドクルーザーを操れないと困ることになる。

 たぶん、そういう意味なんだろうけどね。


 ジャグジーを出ると、新しい服に着替える。

 ジーンズにTシャツ、そしてスニーカーは白だ。ガンベルトを下げれば俺の準備は終る。

 彼女達は、小さなポシェットをバッグに下げている。

 俺のガンベルトにも少し大きな物が付いている。タバコやサイフの外に、タブレットを入れるために必要なものだ。

 まあ、無ければアリスに教えてもらえるけれど、いつもって分けには行かないだろう。


 ライムさんが用意してくれた朝食を食べると、ドミニク達は部屋を出て行く。

 カテリナさんもドロシーの様子を見ると言って出掛けてしまった。

 残ったのは、俺とエミーにローザの3人だ。

 俺達はカンザスとは直接関係が無いからな。此処でのんびり出航を待つことにしよう。


 そして、いよいよその時がやってきた。

『1200時、カンザス出航します』

 ドロシーの艦内放送が終ると、ゆっくりと滑るようにカンザスが動き出した。

 造船場の建屋前方の扉が左右に開いていく。

 扉が全て開放されると、眩いばかりの外光に向かって少しずつ速度が上がる。

『カンザスの現在速度、時速15km』

 造船場の敷地から、王都郊外へ抜ける道に入る。無人車はこの付近では地上を走らないから、安心して走行出来るな。

 北の城門への通りに出ると、カンザスの巨体が珍しいのか、ビルの窓に人影が沢山見える。

 『カンザスの現在速度、時速25km』

 ゆっくりと通りを走りぬける。

 王都の城壁まで100km以上離れているから、城門を潜るのは夕暮れ近くになるだろう。

 

「皆が見ておるのう。やはり戦艦並みの大きさの船は数が少ないからじゃろう」

「まあ、気分的には良いね。ドミニク達もさぞかし誇らしげなんじゃないかな」


 そんな事を言いながら、俺はタバコを楽しんでいる。

 この部屋の換気システムもかなり強力らしい。全くタバコの煙が部屋に立ち込めないからな。


 何時しか摩天楼が無くなり、周囲の建物はカンザスとそれ程高さが違わなくなってきた。

 屋上で俺達に手を振る者達は上を見上げるようになっている。

 前方に広大な農地が広がってきた。

 まだまだ王都の城壁は見えないけど、2時間もすれば見えてくるに違いない。そんなちょっとした時間を利用して俺達は昼食兼用の夕食を取る。

 ドミニクもレイドラと交替で食事に降りてくる。カテリナさんにはお弁当をドミニクが届けると言っていた。

 やはり、まだまだドロシーの調整が残っているようだな。

 

「とりあえず私の方は2人に任せてきたわ。監視だけなら3人で十分だし」

 そう言って、ミックスジュースをフレイヤが飲んでいる。


 フレイヤの部署は10人らしい。3人ずつで12時間の当直を組むと言っていた。直が明ければ24時間の休息のようだ。フレイヤは部長だから勤務時間は特に無い。必要なら駆けつける。そして監視と火器の全てを管轄するのだ。

 操船部は5人体制だ。3人が操艦を行い、2人は通信と機関を受け持つ。

 その後ろに控えるドミニク達は運航担当だからスタッフ2人が常時詰めていると言っていた。

 補修部門はベレッドじいさんと1人5の仲間が担当して、機関部門も15人が担当していると言っていた。

 生活部門の12人を入れると、現在は80人というところだな。中継点までの航行と戦闘を一度経験すれば適正な人員配置が掴めるだろう。

 それでも、100人前後に納まるんじゃないかな? 全くとんでもないフラグシップだぞ。



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