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070 ローザ王女の調停


 2度の航行でそれなりに資金を得たところで、長期休暇を取ることになった。20日間の休暇を取るために俺達はヴィオラとガリナムで王都に向かう。中継点に娯楽が無いからねぇ。皆楽しみにしてたんじゃないかな。

 今回は新型ラウンドシップの引き取りを兼ねているから、ガリナムが一緒だ。

 王都で新型のラウンドシップを受け取ったところで新型にヴィオラの乗員が乗り込み、ガリナムの乗員はヴィオラに乗り込む。

 ガリナムは改修を済ませて、クリスのお姉さんが艦長を務めることになるんだが、まだはっきりした返事を貰っていないらしい。


 いつものようにアレク達と荒れ地を眺めながらコーヒーを飲む。たまにはアレクから勧められてウィスキーを水割りで飲むが、アレクと違ってウワバミじゃないからねぇ。急に出撃要請が来たらと思うとあまり飲む気にはなれないな。


「上空に円盤機を飛ばしているんだ。昔と違って今は余裕があるんだぞ」

「それでも、30分程度で酔いが冷めるとは思えません。あまり飲まないでくださいよ」


 俺の心配など上の空なんだよな。まったく、アレクの酒好きには困ったものだ。


「緊急連絡、アリスとデイジーは出撃せよ! 繰り返す……」


 突然の艦内放送に紅茶を飲んでいたローザが飛び上がるように席を立った。かちゃりとカップの音がしたけど、あんな感じでは紅茶カップの寿命はそれほどないかもしれない。

「出掛けるぞ! 相手は待っててはくれんのじゃ」

「でも、俺達だけですよ?」

「そこは、少し考えるところじゃが、艦長の命には従うものじゃぞ!」


 ローザの話に、アレク達は噴き出す寸前で笑いを堪えている。

 ここは早く出掛けた方が良さそうだな。駆けだしたローザの後を追い掛けるように俺もカーゴ区域に向かう。

 すでにアリスには搭乗タラップが運ばれている。いつもながらベルッド爺さんの仲間は手際がいいな。


「戦姫だけを使うとは、なんじゃろうな? ヴィオラの周囲には巨獣の姿はないんじゃが」

「出発すればわかるでしょう。少なくとも方向が分からなくてはどうしようもありません」


「それもそうじゃ」と呟きながら、タラップを移動したところで、俺達は昇降板に乗って甲板に出た。

 デイジーがグランボードを抱えて俺を見ている。やはり、どこに向かうかが分からなくてはどうしようもない。


「2人とも聞こえる? 役500km南で、海賊が騎士団を襲撃しようとしているわ。混成騎士団に襲い掛かるとなればかなり大きな海賊になるわ」

「なんじゃと! それで、我等だけで向かうのか?」

「他に追従できないでしょう? 頑張って倒して頂戴。私達も救援に向かうけど、18時間近く掛かるわ。貴方達なら、数時間で救援に迎えるわ」


 そういうことか。デイジーがグランボードを投げ出すようにしてその上に乗ると、直ぐに南に向かって飛んで行った。地上高1mを滑走するから盛大な土埃を上げている。


「リオも急いで頂戴。早ければそれだけ被害を小さくできるわ」

「了解した。座標を今受けとった」


 500km南というのであれば、進むほどに救援要請地点とずれてしまいそうだ。座標が分かれば、真っ直ぐにアリスを駆ることができる。アリスにデイジーにも知らせて貰い、俺もデイジーの後を追う。

 ヴィオラでは十数時間はかかりそうだから、俺達に救援の指示が出たんだろう。


「アリス、状況はどんなだ?」

『ダモス級が1隻に、タナトス級が2隻です。科学衛星の画像は2時間前の画像ですが、戦機は1機もありません。獣機は40機近く展開しています。彼らに対する海賊は指定海賊団コードがありません。合法的な海賊ということなんでしょうか?』


 海賊に合法というのがあるんだろうか? アリスの調べでは盗賊ギルドに加盟している表向きの海賊らしい。傭兵団が不合理な騎士団との取引を行っている感じに思えるけど、傭兵団と海賊の明確な線引きができないのかもしれないな。

 仮想スクリーンに大まかな配置が描かれたが、どう見ても円陣だ。どこから海賊がやってくるかわからなければ、この陣形が一番なんだが……。


『海賊の母船はこれになりますね。3隻いるようです。戦車の台数は60両。円盤機が9機飛行しているようです』

「爆撃して戦車を投入するのかな?」

『さらに1隻の海賊船が現場に移動しています。いったい何を狙ってるんでしょうね』


 零細騎士団ではそれほど所持金はなさそうだ。獣機が少し高そうにも思えるけど、それだって、戦闘になればほとんどが破損してしまうんじゃないか?


「こちらローザじゃ。もう少し速度を上げられるが?」

「無理はしないでくれ。姿勢を維持するのがきつくなろぞ。先は長いから、出発して2時間後に小休止を取る」


 アリスならもっと早く向かえるんだが、ローザが一緒だからな。時速110km/hで目的地に向かってはいるが、このままで行くと4時間以上かかってしまいそうだ。それまで睨み合いをしていてくれればいいんだが。


 出発して2時間後に10分間の休憩を取った。アリスの手の平に乗ってコーヒーと煙草を楽しむ。ローザもペットボトルのジュースを飲んでいる。


「もう少し、速度を上げられるぞ。さすがに150km/hは長時間は無理じゃが、120km/hであれば問題はなさそうじゃ」

「デイジーにアリスの速度を合わせるよ。次の休憩が終われば戦闘が始まる」

「まだ始まっておらぬのか?」

 

 ローザの問いに、頷くことで答える。

 アリスが教えてくれた3隻目の海賊船を待っているのだろうか? となると、到着の時間が気になるな。

『1時間後になりそうです。さらに2機の円盤機を確認しました。騎士団の上空を舞っている円盤機は現在3機です。燃料補給を行っているものと推測します』


 休憩時間が終わると再び南に向かって滑空する。時速125kmは少し出しすぎにも思えるけど、ローザがそれだけ正義漢が強いということになるんだろうな。普段の性格は結構きついものがあるけどね。


『目標地点まで残り200kmを過ぎています。このまま進みますか?』

「まだ戦闘は始まっていないんだな?」

『現在交渉中のようです。どうやら戦機を発掘したようです。それに、どうやら金塊を一緒に見つけたらしいのですが……』


 なるほどね、戦機ならそれなりの値段で売れるだろうし、金塊はそのまま換金できるからね。

 そうなると、交渉いかんでは戦闘になるとも限らないってことじゃないかな。


「ローザに連絡。どうやら交渉中らしい。少し離れた場所で様子を見るぞ」

「了解じゃ。それなら、あの岩陰はどうじゃ? たぶんあの先で対峙しておるはずじゃ」

 

 デイジーが右手を伸ばした先には、荒れ地から突き出すように大きな岩が立っていた。かなり遠くからでも見えるんじゃないかな。ランドマークになりそうな岩だ。

 まるで1つのビルほどの大きさだから、俺達が隠れていても問題はないだろう。上空の円盤機が気になるところだが、俺達の接近にはいまだ気付いていないらしい。

 とはいえ、このまま砂塵を盛大に上げて接近するのは問題だろう。ローザに連絡して砂塵を上げない速度まで減速する。


 岩陰に隠れて、連中の交信をアリスに傍受してもらう。どうやら小さな出力で惑星標準コードを使っているようだから、アリスがデイジーに干渉してローザにも通信内容が分かるようにしたようだ。

 ローザが驚いてたが、アリスにとっては簡単なことらしい。


「それにしても1度に2機の戦機とはのう。金塊が300kg以上というのも初めて聞く話じゃ」

「戦機は発掘した機体だと聞いてますが、金塊もあちこちに埋まってるんでしょうか?」

「たぶん輸送の途中でもあったのじゃろう。金は良い導電体、お宝としてではなく戦機を作る資材の一部であったのかもしれん」


 さすがに王女だけあって博識だ。だけど、交渉は少し問題が出てきてるなぁ。

 全部置いていけば見逃すという海賊の言い分は、まぁ一般常識ではある。一応、騎士団員の安全は保障しているらしい。

 それに引き換え、騎士団の言い分は、金塊の半分の譲渡ということだ。一応、見付けたものだが、戦機の譲渡は騎士団としても認められないだろうな。金塊の半分は零細騎士団ならランドシップの改造に使いたいところだろう。


「どうやら期限を限ったようじゃな」

「20分で、どちらかが譲らなければ戦闘ということですか?」


 かなり海賊に分があるような取引だが、指定海賊コードに登録のない海賊では、戦闘行為の有無が問題になるらしい。


「一応、取引にはなっておる。騎士団の安全を保障するということは近くのヤードまでは護衛をするということじゃ。強引ではあるが、彼らの存在が王都周辺に巨獣を寄せ付けぬ者でもあることは確かなのじゃ」

「必要悪というのも考えものですね。……おや、金塊の譲渡を三分の二まで増やしたようですよ」


 ドミニク達もこんな交渉をさんざんやって来たんだろうか?

 荒野で騎士団を率いるというのは中々大変なことなんだな。


『後続の海賊船の母艦が消えました。戦車20両が最大速度で向かっています。円盤機6機が爆走状態で急行しています』

「なんじゃ? 後からやってきてピンハネするつもりじゃろうか」


 仮想スクリーンに最大速度で円盤機が迫ってくるのが見える。あれじゃあ、数分もしないで円陣の中に爆弾を落としそうだ。


「円盤機の攻撃で介入するぞ。俺は後からやって来た海賊を始末する。ローザは睨み合ってる連中の仲裁に入ってくれ。戦姫を前に一戦しようというなら、少しきつめに躾けるのも王族の勤めじゃないかな」

「そうじゃな。民の幸せが王族の願い。だいじょうぶじゃ、任せられたぞ!」


 そんなことを言っているけど、すでにデイジーは拳銃型のレールガンを構えてるんだよな。相手の発砲よりもローザの攻撃の方が早いんじゃないか? それは仲裁とは言わないと思うんだけどね。」


 上空1000m付近から6機の円盤機がダイブする。急降下爆撃ということなんだろうが、アリスがいるからね。

 300m付近で爆弾を投下して水平飛行していく円盤機は放っておいて、落下する爆弾にアリスが狙いを定める。

 俺には無理だが、アリスならではのことだろう。12発の爆弾がレールガンの砲弾で全てランドシップの上空で爆散した。


「行くぞ! ローザ、調停だからな」

「武力を持っての調停じゃな。了解じゃ!」


 俺が「違う!」という通信はちゃんと聞こえたかな?

 まっしぐらに海賊と対峙している騎士団に向かってデイジーを滑走させていった。

 まあ、何とかしてくれるだろう。俺は少し物騒な連中をなんとかしなければならない。

 

 20両の戦車部隊が2手に分かれようとしている。その先頭車両に銃弾を放つと、アリスに向かって機銃掃射をしてくる円盤機を次々と落としていく。


『後続の海賊団は、指定コード:KA198、確認次第攻撃可能との通達が出ています』

「とんでもない連中だな。場合によっては先行した海賊ともども葬る気だったかもしれない。ところで母船はどこにいるんだ?」

『砂の中に入ってからかなり深く潜ったようです。移動もしていますから存在箇所は不明です』


 獲物が手に入る時だけ姿を現すんだろうか? それに前の海賊はコードが200番台だったから、攻撃許可の下りている海賊団はかなりの数になるのかもしれない。


 戦車は俺にもターゲットロックが可能だから、円盤機を全て始末したところで各個撃破していく。砂に潜ろうとする戦車や、アリス目がけて発砲してくる戦車もいるのだが、アリスが素早く弾道を計算して紙一重に回避行動をしてくれる。

 やはり、当たるとヤバイのかもしれないのかと思っていたら、口径75mmの徹甲弾では傷もつかないと教えてくれた。


『この場で、当っても傷もつかないのでは周囲から不審に思われかねません』

「そういうことか、安心したよ。だいぶ東に来たけど、ローザの方は大丈夫なんだろうか?」

『うまく調停ができたようです。海賊に譲渡されたのは金塊三分の一。少し海賊に花を持たせたかもしれませんね』


 それで安全にヤードに送ってくれるなら安いのかもしれないな。俺達の方は海賊団の攻撃手段である円盤機と戦車を全て始末したが、この先ヤードまでは1500km近くありそうだ。海賊団の2番手、3番手が現れないとも限らない。


 ローザからダモス級の騎士団船に来るようにとの通信が入って来た。

 とりあえずはコーヒーの1杯も飲ませてくれるのかもしれない。アリスの速度を上げて目的の船の甲板に上ると、獣機が俺を迎えてくれた。

 獣機の手を借りてアリスから降りた俺をトラ族の男が案内してくれる。ここでも獣機の操縦はトラ族が行っているみたいだ。


「ここです。皆さんお待ちかねです。今日は、助かりました。1戦を皆で覚悟していたのですが、上手くまとめて頂きました」

 船内の扉を開ける前に、俺に礼を言ってくれたが、俺はずっと東にいたんだよね。この船で状況が見えてたということなんだろうか?


「お連れしました!」

 男が扉を開けると広い船室に10人ほどの男女が大きなテーブルを囲んでいた。

「やっときたな。我の隣じゃ!」


 円卓だから、上座は無いようだがローザの席が他より少し離れている。隣にもう1つ席があるからそこに座れってことかな。

 腰を下ろしたところで、テーブルを囲む連中の姿を見る。少し壮年に掛かった男が3人。30台に見える女性が3人にドミニクと同年代に見える男女が4人だ。

 コーヒーを運んでくれたネコ族の娘さんに軽く頭を下げて受け取った。

 先ずは1口。中々良いコーヒー豆を使っているぞ。


「このたびは、我らの救援要請にこたえて頂き感謝に堪えません。これで我等も零細騎士団から足を洗えそうです」

「あの場にウエリントンの戦姫が現れたとなれば、我等も手心を加えねばなるまい。少し欲をかいたが、この報酬で王都まで護衛することは我等の勤め」


 おじさんに見える連中が海賊かと思ってたら、30台の女性達の方が海賊だった。世の中広いと思ってしまう。

 ひょっとして、クリスも海賊まがいのことをしていたのかもしれないぞ。


「まあ、我等に通信が届けばなんとかせねばなるまい。それにしても、リオの倒した海賊はかなり強硬じゃったな?」

「アリスの分析では、指定コード:KA198だそうです。円盤機と戦車は葬りましたが母船は行方不明です」


 指定コードの番号を聞いて、俺達以外の連中の顔が青くなった。騎士団はともかく海賊の連中まで青くするのはどういうわけだ?


「調停して頂いて、命拾いをしたかもしれません。あのまま一戦していれば、我等も騎士団もろとも葬られていました」

「指定コードを持つ連中がやって来たとはのう。機動部隊を動かすことも考えねばなるまい。王都までは広く円盤機で偵察することじゃな」

 

 ローザの言葉に海賊の連中も頷いているから、かなり物騒な連中だったということになるんだろうな。だが、地中に潜った母艦の探索方法を考えないと、いつまでもこんな危険が続くことになりかねない。

 帰ったら、カテリナさんに相談してみるか。

 ローザが騎士団と海賊団との調停書にサインをしたところで、コーヒーの礼を言うと俺達は帰路につく。


 大きな騎士団には、調停の仕事もあるってことなんだな。

 同じ荒野で暮らす者同士、得られた獲物はそれなりの対価で分けるのは問題ないってことなんだろう。

 王国に法律があるように、荒野には荒野の暗黙の了解があるのかもしれない。

 帰ったらアレクに聞いてみよう。きっと丁寧に教えてくれるだろう。



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