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007 海賊の襲撃


 先行偵察の状況は団長のドミニクにすればいいのだろうが、筆頭騎士であるアレクににも報告することにした。

 相変わらず展望室のソファーで酒を飲んでるアレクだけど、俺の報告をいつもきちんと聞いてくれる。


「そうか、ご苦労だったな」

「毎日、大変ねぇ」

 サンドラがグラスを渡してくれたんだけど、入っているのはウイスキーなんだよな。できれば水割りが良いんだが、いつも小ぶりのカップに並々と注いでくれる。

 アレクがこの倍ぐらいのグラスで飲んでるから、男は皆飲めるのだと思っているのだろうか?

 とりあえず、小さく頭を下げて一口飲んだが、喉が焼けるようだ……。


「現在地点は北緯30度を超えたところだ。探索街道を移動しているから、金属鉱床は期待できないが、海賊の潜む場所ではある。フレイヤ達がブリッジ最上階で監視しているとはいえ、奴らは巧妙に砂に身を隠す」

「この艦を襲うなら、規模の大きな海賊だ。それほど頻繁に襲うことは無いのだが……」


 年間で数回は海賊と遭遇するらしい。俺を世話してくれたドワーフの爺さんだって、かつては騎士団で働いていたんだよな。結構、危ない職業かもしれない。


「小さな海賊は派手に動いてるわ。直接襲うことは無いけど、仕掛けてくることはあるのよ」

「去年も2回あったわよね。戦機が出てきたんで、慌てて逃げたみたいだけど」

 サンドラとシレインが昔話をするように教えてくれた。

 となると、明日もがんばらないといけないってことになりそうだ。

「もし、俺が海賊を見つけたとなると、どうするんでしょうか?」

「規模が大事だ。大きな海賊なら一戦を覚悟せねばならん。小さな海賊なら直ぐに逃げるだろう」


 規模が大事と言われても俺には理解できないな。

 俺が悩んでいるのを面白そうに皆が見てるんだけど……。教えてくれても良さそうなものだ。

「海賊の規模は戦車の数でおおよそ分かる。海賊は戦機を持っても2機程度だ。4機を持った海賊など聞いたことも無い。だが戦車の数は多いぞ。小規模でも数両、大規模になれば数十両近く持っている。それと上空の円盤機の数も注意した方が良いだろう。小規模なら2機程度だろうが、大規模になれば数機を繰り出してくる」


 いつもは寡黙なカリオンだが、丁寧に説明してくれた。

 その分類で行けば、俺が最初に出会った海賊は小規模ということになるんだろうな。

 戦車と円盤機を潰したから、海賊を廃業したんだろうか? それとも他の海賊に吸収されたのかな。


「もし海賊に出あったなら、戦車の数と円盤機の数を直ぐに報告してくれ。俺達も出撃することになりかねん」

 あまり出会いたくないものだが、とりあえずアレクの言葉に頷いておく。

 海賊の遊弋する区間は北緯30度から35度近辺になるようだ。それより緯度が高くなると巨獣の脅威が無視できなくなるらしい。

 俺達の鉱石探索は、北緯35度を過ぎてからが本格化するとのことだ。


 翌日も昼食を持ってヴィオラの前方監視を行う。

 そんな日々が続いて、どうにか北緯35度を超えると、艦内にホッとした雰囲気が出てくる。やはり皆も緊張していたんだろうな。


 北緯37度で西に進路を取り、いよいよ本格的な鉱石採掘がはじまった。

 その日の夕暮れ時には最初の鉱脈をアリスが見つけたので、夜を徹しての鉱石採掘が始まった。


 獣機が舷側のシュートを滑り降りると、ヴィオラの原則にある収納庫から採掘用の機材を取り出して組み立て始める。

 歯の付いた掘削機が地面を大きく掘り始めると、数m下に直径1mはありそうな金属団塊がごろごろしているのが窓越しに見てとれる。


「かなりの量だな。それに大きい。いつもは、あれの三分の二ぐらいなんだが……」

「バージ1つ分にはならないでしょうね。でも幸先は良さそうよ」

 展望室で酒を飲みながら状況を見守る。この状態で一番緊張しているのはブリッジ最上階の火器部門らしい。ヴィオラに搭載した砲の管制を行うとともに周辺監視を行うためだ。当直要員以外の連中も動員してるんだろう。


 採掘は数時間も掛けずに終了したみたいだ。獣機が慣れた手つきで機材を畳んで舷側の収納庫に戻している。

 窓の視界から獣機が消えて30分もせずに、再びヴィオラが動き出した。夜間の鉱石探査はヴィオラの金属探知機で行うから進行方向に対して左右10m程の範囲になる。

 大規模な騎士団だと陸上艦を横に並べて50m程の範囲を探査するらしい。

 もっとも、アリスを使えば左右20km程の範囲を先行偵察しながら金属鉱床を見つけることができる。明日はたくさん見つけられれば良いな。


 15日程を掛けて300tバージ4台に鉱石を満載したところで帰路に着くことになった。

 いつもなら一か月は掛かるらしいから、ドミニク達の機嫌が良いとアレクが教えてくれる。


「やはりアリスの性能によるんだろう。アリスを知らない連中はレイドラの神託が当たったと言っているが、そう思わせておけばいい」

「でも、あれって本当なの?」

 シレインが話してくれた内容は、衝撃的なものだった。

 ヴィオラ騎士団の副団長であるレイドラが、自室の魔法陣の上で裸で踊りながら神託を受けるということなんだけど……、ちょっとねぇ。

「ネコ族の人が部屋の掃除で見たことがあるらしいわ。魔法陣のような物であって、それが何かは分からなかったそうよ」

「噂が噂を呼ぶ典型だな。レイドラは竜人族だ。俺達には無い感覚を持っているらしいが、それがどんなものかは文献にも残されていない」


 アレクが皆の話を締めくくってくれたけど、レイドラもそんな噂を聞いているみたいだが、否定することも無いとのことだ。

 船内の噂であって、害が無ければそれでいいと思っているんだろう。

 ドミニクといつも一緒のレイドラは少しミステリアスなところがあるから、そんな噂が流れたのかもしれない。本人も気にしないのであれば、いずれは忘れ去られる噂ということになるんだろう。


 数日後、再び先行偵察を行うことになった。

 バージが満載である以上、今回の偵察は海賊への備え以外の何物でもない。進行方向の100km先を左右30kmの範囲で探索していく。

 昼はアリスが先行偵察を行うので、荷を曳いた状態での巡航速度である時速30kmほどで進めるが、夜間は速度を半減しているようだ。地上数十m程の高さからでの監視では遠方を視認することも難しいだろう。砂に潜むとなればレーダーは効かないし、赤外線カメラで探知できるエンジンの廃熱もかなり小さいらしい。


 ヤードまで残り2日という夜中のことだ。

 突然の衝撃で目が覚めた。直ぐに部屋に赤色灯が点灯して、館内放送がけたたましいサイレンの音を鳴らす。


『海賊の襲撃を受けた。直ちに所定の配置に付け! 繰り返す……』

 所定の配置って、聞いてないぞ!

 とりあえずコンバットスーツに着替えるとその上に黒いツナギを着る。コンバットブーツに急いで足を通してジッパーを上げれば準備は完了だ。装備ベルトを付けながら通路に飛び出すと、船首に向かって駆けて行く黒いツナギの姿が目に付いた。

 戦機に向かうということなんだろう。俺も通路を駆けだした。


 ドオォォン!

 轟音と共に目の前の通路が無くなっってしまった。どうにか怪我は負わずに済んだが、衝撃で床に投げ出されてしまった。

 左舷方向から砲弾が直撃したようだ。部屋に誰もいないことを祈りながら、下の階の通路に向かって穴に飛び込んだ。


 次々と砲弾が船体に命中して穴を空けている。そんな炸裂口から外が見えた。

 サーチライトがたくさん近づいてくるのが見えるけど、あれが海賊の陸戦隊を乗せたホバークラフトってことか!


「やってくるにゃ! ここで守ってほしいにゃ」

 ネコ族の娘さんが俺に小型の機関銃を渡してくれた。これって拳銃弾を使うやつに思えるけど、威力があるんだろうか?

 マガジンを3つ貰ったのでベルトに挟み込んで開口部の一角に身をひそめて海賊が近づくのを待った。

 近くにはネコ族のお姉さんとドワーフの若者がいる。さすがにドワーフ族は大型の機関銃を手にしてるな。その上、ベルトに柄のついた手榴弾を2個も挟んでいる。

 ネコ族のお姉さんはコンバットスーツにヘルメット姿だ。その上にケブラー製のベストを着込んでいるから、後ろで援護してくれるなら安心できそうだな。


 ヴィオラのブリッジ近くにある連装機関砲が、曳光弾を交えてホバークラフトを迎え撃っていたが、直ぐに砲弾の直撃を受けて沈黙してしまった。

 主砲も撃ってはいるようだが、ホバークラフトの軽快な動きに追従することが出来ない。


「かなりやばいですよ。もうじき開口部から入ってきます」

「3人いるんだ。それに一度に入るには穴が小さいからね」

 

 俺の言葉に、ドワーフの若者が後ろの娘さんに振り返って頷いている。

 なるほど、いざとなれば全員が戦えるということなんだろう。向こうだって、証拠隠滅のために全員皆殺しをするみたいだからね。

 俺を育ててくれたドワーフの爺さんが騎士団を去った理由が海賊だった。なら、爺さんのためにも頑張らねばなるまい。


 突然、穴の外からワイヤーが飛び込んできた。壁に当って食い込んだようだから、ワイヤーの先は銛のようになっているんだろう。

 何かが穴から飛び込んできたので、急いで扉から離れると、轟音と共に扉が通路の反対側に吹き飛んだ。

 突入前に手榴弾を投げ込んだようだ。直ぐに機関銃を乱射しながら海賊が穴から飛び込んできた。3人で銃撃を浴びせるとその場に倒れ込んだが、次々に海賊が飛び込んでくる。

 壁を背にしてマガジンを交換していると、ドワーフが柄付き手榴弾を部屋に投げ込んだ。急いで部屋の壁に張り付いたんだが、爆発の衝撃が背中まで響いてきたぞ。

部屋の扉付近に位置しながら、次々と飛び込んでくる海賊に銃弾を送り続ける。


 10人ほど倒したところで機関銃の弾が尽きてしまった。俺に銃を向けようとした海賊の顔面に機関銃を投げつけ、リボルバーを抜いて海賊の腹に弾丸を撃ちこんだ。海賊が壁に跳ね飛ばされる。


「通路まで下がってくれ!」

 確実に海賊を倒しながら通路まで下がると、スピードローダで素早くリボルバーの弾丸を装填する。


「後は拳銃にゃ!」

「私もそうなりますね。ですが、最後まで頑張りましょう!」


 ドワーフの若者が、穴から顔を出した海賊に拳銃を放つ。ヘルメットに穴が開いたのを見て驚いたけど、徹甲弾で強装薬ということなんだろう。9mmでも威力はかなりのものだ。

 ネコ族のお姉さんが放つ銃弾はそれに比べて軽い音だから通常弾ってことなんだろうな。でも当たればそれなりに威力はある。

 3人で数人を倒したところで、どうにか後続が途切れたようだ。

 その場でしばらく舷側に空いた穴を監視していたが、他場所から聞こえる銃声もだんだんと聞こえなくなってきた。


『艦内に通達。至急点呼を取れ! 騎士は戦機に搭乗して指示を待つこと。繰り返す……』

 点呼ということは、海賊の襲撃が一段落したに違いない。後をドワーフの若者に託すと急いで船首方向に向かって駆けだした。



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