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066 王妃達の投資先


 ヒルダさん達、3カ国の王妃達が親善目的でヴィオラ騎士団領を訪れた。

 俺とエミーにローザの3人で、高速艇から降りてくる15人の賓客と同数の侍女を出迎える。


 エレベーターで西の桟橋に下りて、居住区の窓からホール内の桟橋の様子を説明すると、皆が興味深い目でホールの様子を眺めている。

 たぶん、騎士団の持つラウンドクルーザーを見るのも初めてなのだろう。ローザの説明に微笑みながらもを熱心に聞いているぐらいだ。

 大人びた態度で話すローザの自信のほどがどこから来るかわからないけど、俺とエミーもいつしか微笑んでいたから、王妃達の微笑みも俺達と同じ思いかもしれない。


 天井のモノレールで東の桟橋に向かい、ヴィオラの船内を案内して、アリスとデイジー、それにムサシの見学を行なう。

 昼食はヴィオラの食堂で軽食を食べて、一応の王妃様達の日程が終了した。


「このような場所があったのですね」

「鉱石探査で偶然見つけました。最初は俺達だけの拠点と考えたのですが、場所的には他の騎士団にも利用して貰った方が良いのではと……」


 テーブルを集めた即席の席で俺達の立場を説明する。

 飲み物は少し甘めのワインだ。カナッペ風の摘みの皿が10枚ほど並んでいる


「出来れば、拠点拡張工事をお手伝いしたいと思っていましたのよ。株を発行しなさい。それを買取る事は出来ますよ。各国とも5億Lの投資は可能です」

「騎士団長に図ってみます。その時はよろしくご協力下さい」


 俺の答えに満足したのか、俺を見て微笑んでいる。

 そういう資金調達は考えなかったな。確かに拡張工事は必要だろう。入口と出口を別に設けるだけでも利用し易くなるだろうし。


「これは、トリスタン殿から預かって来たものです。あの試合の褒美だと言っていましたよ」


 ヒルダ様が侍女の1人に顔を向けて頷くと、侍女がバッグを開けて包みを取り出してヒルダさんに手渡す。

 隣のエミーと顔を合わせると互いに頷き、エミーが席を立って母親の所に歩いて行った。

 俺達の動きを見ていたヒルダさんが、驚きのあまり口と目を大きく開いて見ている。

 

「まさか……! 見えるの?」

「はい。10日程前から、見る事が出来るようになりました」


 ヒルダ様が席を立つと、直ぐにエミーまで歩いてハグしている。

 それを見ている御后様達の何人かはハンカチで目を大覆っていた。ある意味、感動シーンではあるんだよな。

 エミーをハグして蹲ったヒルダさんの耳元で、ローザがゴニョゴニョと何かを告げている。


 ハッとした表情でエミーから体を離すと、両腕でしっかりとエミーを掴んで何事かを確認しているようだ。


「……分ったわ。確かに必要になりますね。父王殿もお喜びになるでしょう」

 

 エミーを解放して、再び席に座ったヒルダ様は俺をジッと見ている。何か畏怖を感じているように思えるな。

 

 隣の席に戻って来たエミーが凝った刺繍の入ったハンカチを開いて、トリスタンさんからの贈り物を見せてくれた。

 宝石で飾られたヴィオラの花のブローチがその中に入っていた。


「トリスタン殿にはよろしくお伝え下さい。それにしても、このような物を頂いてよろしいのかと思ってしまいます」

「選んだのは奥方ですから、大丈夫ですよ。トリスタン殿も、『俺を超えるものにはそれなりの贈り物をせねばならん』と言っておりましいた。それにしても、2月前までは全く何も見る事が出来なかった娘が、騎士とは驚きました」


「確か、生まれた時から、目が見えなかったと聞きましたが?」

 事情を知らない御后様の1人が、ヒルダさんに尋ねてる。


「はい。母親としても心配していたのですが……。無事に嫁がせる事が出来ました。そして、それを境に少しずつ目が良くなって行ったのです」

「まるで、奇跡に思えますね。そして、話を聞くと戦機を操れるまでになったとか? ならば、まだお持ちではないでしょう。神の寵愛を受けた奥方に使っていただけるなら、これ以上の喜びはありません」


 そう言ったのは、どの国の御后様なんだろうか?

 侍女を呼び寄せると、バッグから長さ50cmにも満たない、細長い包みを取り出した。


「私が戦機を駆った時に父君より賜った品です。このような身分では着けることも出来ず、私の子供達に騎士はおりませんでした。いずれ何方かに差し上げるつもりでいました品ですから、受取って下さいませんか?」

 侍女が恭しく掲げて、短剣をエミーに渡してくれた。


「申し訳ありません。エミーが駆る戦機は、一度は映像でご覧になったと思います。あの漆黒の戦機がエミーの愛機になります。通常の戦機なら、30歳を過ぎれば次の者に委ねることになるでしょうが、あの戦機は無人機ですから、離れた場所で指示するだけになります。長く、この短剣を腰に帯びてこの地を守ってくれるでしょう」


「「「まあ!……」」」

御后様達が一応に驚きの声をあげる。

「それなら、尚のこと株式を発行して頂きたいですわ。この地の発展を考えながら投資をどのように行なうかを考えるのも楽しいものですからね」


 そんな話は頭を下げて聞き流すことにした。いったいどれ位を発行すれば良いのか見当も付かないぞ。


「王妃様のご意見は騎士団長を交えて相談してみます。確かに稼動して間が無いとはいえ、不便を感じる事は多々あることは事実です」

「頼みましたよ。それと、撮影許可をありがとうございました。帰って国王や重臣と相談するのが楽しみです」


 誰が、そんな許可を出したんだかは分らないけど、王国の首脳にはある程度状況を知って欲しい事も事実だ。

 今回の訪問はそれが主目的なのだろう。投資先の内情調査を兼ねてるんだろうな。

 お茶会が終ると、御后様達は帰って行った。

 後で、個別に話が来そうだけど、とりあえず3人で高速艇まで見送ることにする。

 

「結局、強請り損ねてしもうた」

 東に飛んで行く高速艇に手を振りながら、ローザが残念そうに呟いてる。

「護身用の拳銃だろ。俺が注文しといたから、大丈夫だよ」

「っ! 兄様。本当じゃろうな?」


 俺に振り向くとそう言ってきたので、大きく頷いた。

 途端に、俺の腰にハグしてきたぞ。そんな光景をエミーが微笑んでみていた。

「大事にしないといけませんよ」

「もちろんじゃ。やはり、兄様がいると良いな。ずっと欲しかったのじゃ」


 欲しくとも、急に兄弟は出来ないからな。後々出来るのは妹や弟であって、兄や姉ではない。

 そんな事を考えながら俺達はヴィオラに向かった。

               ・

               ・

               ・

「新たな投資先の開拓って事かしら?」

「そんなところでしょうね。大陸の西は殆どが手付かず。ここに中継点が出来れば騎士団は更に西に足を伸ばせるわ。中継点と王都間の輸送や、鉱石の配分。新たな利権争いが始まるのよ。それでも、3つの王国が共同で対応してくれるから、変な軋轢は生まれないでしょね。運営を公爵領としているのも、私達の力量を試していると見て過言ではないわ」


「だが、資金があるならやりたい事はいくらでもある。少なくとも、入口と出口は別にしたい。それだけでホールの中がグンと使いやすくなる。それに、王都を囲むあの障壁を此処に作れないかな?」

「そうなると、ホール内はラウンドクルーザーのみを入港させたいわね」


 ソファーにゆったりと腰を下ろしていつもの連中にクリスとアデルを交えて話をしている。ちょっとワインを飲んでいるからいつもよりも饒舌だ。

 中央桟橋を更に北に伸ばして600m程にすれば、左右に2隻、場合によっては6隻を停泊出来る。その為にはホールを北に200mほど広げる必要がありそうだ。そうなれば、西の桟橋に修理工場も併設出来そうだ。

 2つの尾根が延びた拠点前の谷間には左右にバージの荷積み設備を増やせば良いだろうし、その為の就労場所を確保することにもなるから、住民が増えそうだぞ。

 万が一に備えての退避所も作らねばなるまい。


「ラズリーやマリアン、それに商会にも確認しておいた方が良いかも知れないな。西の連中はたまに集まる場を作っているのだろうか?」

「連絡会を作ってるわ。そこで、この話の具体性を検討させれば良いと思う」


 そうなると、次ぎは12騎士団の連中だな。

 実質はレイドル騎士団の位置が低下しているから、11騎士団ってことになるんだろうけどね。騎士団創設の歴史は王国史と並ぶらしいから、気難しい連中が揃ってるようにも思えるぞ。


「蓋を開けてみれば、思ったほどトラブルがないわ。中継点の連中の技量には恐れ入るって感じよね」

「バックに商会がいる事もあるんでしょうね。7つともそれなりの商会よ。彼らに疎んじられたら、騎士団としても仕事がしづらくなるわ」

 

「そうなると、問題は3日後になるわね。果たしてどんな風に私達に接触してくるかが問題だわ」

「別に取り合わなくても済むんでしょう?」


「一応、そう考えてるわ。それでどれ位ごねるかが問題ってことね」

「警備兵達はピリピリしてるでしょうね」


 要するに知らん顔をする訳だな。

 こういう時には東の桟橋がプライベート区域だという事がありがたいことになるわけだ。

 一応、こちらにモノレールの駅はあるが、そこなら封鎖が出来る。駅から外に出るには警備兵の確認がある。その上、桟橋の下にある補修用の扉は遠隔操作だ。常時は全て閉じられてる。


 中継点の管理官に会わせろと言っても、その権限を彼らは持っていないのだ。

 それで騒ぎを起こすようなら俺達で十分殲滅出来る。被害は相手の騎士団に請求する事も可能だろう。

 それに公爵に対して攻撃を加えたとなれば、2度と王都に入れなくなるだろう。

 12騎士団と言って、騎士団のトップに君臨していた連中だから、少しは顔を見たい事も確かだが、正直言って来て貰いたくない連中なんじゃないかな。


 「でも、一応念のために仕官は当日戦闘服を着用の上、通常の服装でいて頂戴。騎士は正装でいること。万が一にもそれなら遅れを取らないわ。何事も無いとは思うけど、一応ね」


 念には念を入れるって事だな。1日位なら我慢しよう。

 サーペント騎士団の来訪は1日という事が事前連絡で来ている。

 水と食料を入手後に西に向かうらしいが、どんな船で来るんだろうな?

 仮にも12騎士団だからヴィオラよりは大きいんだろうけどね。



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