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059 見えすぎるのも問題だ


「これは、だいぶ大きいですな」

「桟橋の横幅は50m。居住区は桟橋の端から30m奥に作ってあります。南300mは中継点を管理する為の事務所、そして100m規模の居住区が3棟。そこから40m間口の商会用事務所が10個並びます。更に北側に200m程の余裕がありますが、これは余裕分としておきたいと考えています」


 7つの商会は4人ずつ人を送ってきた。

 居住区の会議室で概要を説明すると、早速案内人を連れて俺達が提供する事務所に向かって行った。

 会議室にはそれぞれの商会の責任者が残っている。

 俺達の方は俺とエミーとマリアンにマリアンの副官の4人になる。


「あの戦姫の実物をお見せ願おうと思っていましたが、……生憎です」

「やはり、本業は大事ですからね。いつもいるとは限りません」

 

 何時でも出現させる事は可能だが、そんな事を話す必要は無い。

 改めてネコ族のお姉さんが注いでくれたコーヒーに、たっぷりと砂糖を入れて飲んでいる。


 エミーも人影を独立して判断出来るようになったらしく、話をするたびにそちらに顔を向けているし、コーヒーカップも問題なく手に取る事が出来るようだ。

 

「これだけ大きいと水が問題になりそうですね」

「とりあえず、300㎥を溜め込んでいます。外に貯水槽を設けることは計画内ですね。東の大河をごらんになったと思います。そこからバージで運んでいます」


「なるほど、電力は核融合炉が2基。十分ですな」

「これだけ王都から離れた場所に安全な中継点があるなら、その恩恵は計り知れません。実は、幾つかの商会が私共に接触してきています。もし私の商会が参加しなければ、直ぐにもその権利を譲って欲しいと」

 そんな事を言いながら笑っている。

 

「そちらもですか? 私の所にもですよ。かなりの大きさに思えますから、1フロアはそんな連中にも提供せねばならないでしょうな」

「そうですな。それが問題です。場合によっては増築も視野に入れませんとね」


 参加を前提に話していると考えて良いのかな?

 話し振りは肯定的だ。


 そんな話を2時間程していると、現場を見てきた者達が帰ってきた。

 円卓の周囲に小さなテーブルが置いてあるので、各商会ともそんなテーブルに移動して状況の確認を始める。

 テーブル毎に軽い食事を運ばせると、俺達も席を立って隣の小さな会議室で食事を始めた。


「商会の評判は良いようですね」

「人が集まり荷を積み替えるなら、そこに商売は成り立つからな。問題は条件だ。一応、王都の2級商業地区での賃貸物件と同額と言っておいたが、そのあたりの交渉がどうなるかだな。維持費と人件費それに設備の更新費用に一体幾ら掛かるか判らないけどね」

「おおよそ、年間20億Lと計算しました。これから、実際の収入を加味して計算をやり直すことになります」

 

 100点満点なら20億か……。最低点。合格点。と色々あるんだろうな。

 夜逃げすることが無ければ良いんだけどね。

 

「リオ様は公爵を拝命していますから、年間1億の金額が国庫から入ります」

 

 ある意味、王家から中継点維持を計る為の経費ってことだろうな。ありがたく使わせてもらおう。

 

「通常、ラウンドクルーザーの入港費用は500万Lです。期間は20日程度ですが、中継点であれば、10日で十分でしょう。値段を100万と想定しています。水は有償提供です。1㎥、300Lとすることで、小規模騎士団に参入を促がそうと考えています」


「荷の積み替え費用は?」

「此処で販売する場合は販売値の3%。積み換えの場合は100tバージを基準に10万Lと考えています。後は、間接税の徴収ですね。とりあえず3%で考えています。王都は8%ですから、若干安くなります。これで売買が増えれば税収が上がりますよ。他の税金は、一律10%で考えています」

「それで、どれ位の金額になるんだ?」


「15億Lから40億Lの間と言うことになりそうです。ピークは30億Lになっていますが、これはあくまで計算ですから……」


 曖昧さが、かなりあるという事だな。

 当初は、設備補修費や更新費はそれ程掛かるものではない。1億Lは残っているから、赤字が出ればそれで補填するしか無さそうだ。

 

「それで、商会からは年間どれ位出してもらおうと考えてるんだ?」

「50万から100万L。これで調整してください。」


 俺が頷いたところで、全員が席を立つ。

 いよいよ交渉に入ることになるな。


 先程の部屋に入ると、全員が席に着いていた。座れないものは、後ろのテーブル席の方で待機している。

 俺達が席に着いたところで、ネコ族のお姉さんがワゴンでコーヒーを運んでくる。

 全員に行き渡ったところで、一口含むと、商会の責任者の顔を眺めた。どうやら、設備的には満足したらしい。


「どうですか? 此処に支店を開く事が出来ますか?」

「十分です。少し大きいようですが、何、直ぐに埋めることが出来ます。それで、店代と課税額の相談に入りたいのですが」


「そうですね。ユーティリティの使用額は王都に習うという事で、先ずは合議頂きたい」

「それについては1割増しでお支払い致しましょう。そして、肝心の店代ですが……、倉庫を込みで年間200万でどうでしょうか?」


「かなり、額が多いように思えますが?」

「王都の2級商業区域で、これだけの事務所を構えればそれなりの金額になります。問題は売買の税金です」


「王都の間接税は8%だが、此処では3%でいるい。5%少なければそれだけ騎士団も商会を利用してくれるだろう」

「それは、バージの積荷の売買にも適用されるのでしょうか?」

 

「出来ればそうしたいんだが、これは王都の税務との調整が別途いるだろうな。此処で3%、王都で5%として貰えるように調整したいと考えてる」

「是非ともお願いします」


 彼らにとっても2重課税では大変だろうからな。それに、南に集積場を作る事も視野に入れねばなるまい。

 ウエリントン王国だけを考える事も出来無いだろうしね。

 

「私共は一旦王都に帰りまして、資材を運びたいと思います。1つ問題になったのは、鉱石の品質検査装置が必要です。出来れば屋外と、中央桟橋の2つに設けたいのですが……」

「屋外作業は気密服がいるぞ。火山性ガスを排出しているから、この谷には巨獣が入ってこない位だ」


 俺の言葉に彼らが驚いているようだ。そういえば、伝えてなかったか?


「かえって、安心できます。ゲート型の検査装置ですから獣機を貸していただければ直ぐに建てられますし、無人で制御出来ますから」

「それでは、契約金をお支払いします。通常年間賃貸料と同額ですから、それで宜しいでしょうか?」


 俺は、マリアンの顔を見た。彼女が頷くの確認して、彼らに向かって頷いた。


「そのような取り決めがあるとは知りませんでした」

「それは、口座を作った後にお支払い致します。出来れば、銀行を残った区画に設置願いたいと思っています。3王国の銀行があれば、かなり楽に取引が出来ます」


「出来れば同じ条件で呼ぶことが出来ませんか? 俺達には銀行の知り合いがおりません。事務所の1つを提供する事で3つの銀行を招く事は可能でしょうか?」

「我等に任せていただけるなら、ありがたいお話です」

「では、早ければ一月後には我等の輸送船が到着します。よろしく対応してください」


 そう言って彼らは席を立った。

 俺達が立って見送る中、会議室を出て行く。


 残った俺達は席に着くと、今の会見を再度確認する。

 俺はとりあえず一服だ。


「問題はこちらの対応人数が少ない事です。早急に人員を増やす必要があります」

「少なくとも、50人は欲しいな。ドミニク達が帰って来たら相談してみるよ」


 この状態でフラグシップが引き渡されたら、始末に終えなくなりそうだ。50人どころか100人規模で人を集めなくちゃならないぞ。

               ・

               ・

               ・

 その夜。

 俺達の部屋にカテリナさんがやってきた。

 いよいよ、エミーの頭の中の電脳を起動することになったのだ。

 

 最初に、現在の状況を再度カテリナさんが確認している。やはり、日々視覚が明確になってきているらしい。

 いまでは、俺が支えなくとも歩けるまでになっている。


「さてと。……アリス、状況の確認は貴方にもお願いするわ。エミーが混乱するようなら、素早く電脳を停止するのよ」

『了解です。タブレットの信号受信措置措置完了。マスターからの視覚情報、聴覚情報共に受信措置完了です』


「始めるわ。エミー、電脳のスイッチを入れてみて?」

「スイッチって何でしょうか? 分りませんが……」


『「脳内電脳起動」と言えば起動します。「脳内電脳停止」で停止します。言葉を発してください』


 エミーが口を開けようとした時、慌ててカテリナさんが身を乗り出すとエミーの口を押さえた。

「アリス、現在のフィルターは?」

『5%程度の情報伝送状態です』

「一気にフルで動かしたらどうなるか分らないからそれで行きましょう。エミー、良いわよ」


 ソファーにゆったりと座った状態で、エミーが呪文を唱える。

「脳内電脳起動!」


 途端にエミーが頭を抑えた。

 思わず抱きかかえようとした俺をカテリナさんが止める。やがて、ゆっくりとした仕草でエリーが頭から手を離した。

 

 しきりに周囲の状況を見ている。

 ただ見ているのではなく、その物体の位置と形を確認しているようだ。


「これが、見えるという事ですか……」

「その状態で視力を調べるわ。このタブレットに丸が書いてあるわね」


 タブレットを取り出したカテリナさんが、映し出された絵を指でなぞっている。

 エミーは今まで丸と言うものを見た事がない。形としては触っていたのかも知れないけど、それを一々説明しないといけないみたいだな。


「一箇所、途切れているのが分るかしら?」

「ええ、分ります」

「少しずつ小さくしていくから、分らなくなったら教えて頂戴」


 すこしずつ丸の大きさを小さくしていく。途切れた位置もその都度変えている。視力検査ってことかな?


「5%で視力0.8ってとこね。……アリス、フィルター透過度を20%に変更して」

『了解です。現在情報透過度20%です』

「もう一度やってみるわ」


 カテリナさんの言葉にエミーが頷いた。

 そして、出た視力は1.2。これなら十分じゃないのか?

 だが、カテリナさんの試験は更に続く。

 50%透過度で視力は1.5。

 

「最後に100%で行くわ」

 ところが100%での視力検査に、50%との視力の変化は現れなかった。

「ひょっとして……」

 

 カテリナさんが部屋の明かりを消した。

 真っ暗だな。隣のエミーがボンヤリ見えるだけだぞ。


「これは?」

「上ですね」

 どうやら、視力検査をこの状態でやってるらしい。


「呆れた……。エミー、50%で普段は暮らしなさい。100%だと、人が見えないものでも見ることが出来るわ。殆どネコ族の人達と同じようにね」

「それって、俺達が見ている波長領域を超えて見ることが出来るという事ですか?」

「その通りよ。赤外領域まで視覚が伸びているわ。ひょっとしたら、紫外線領域にも伸びてるかもしれない。でも、普段は使わないでしょうし、50%で十分だわ」


 次ぎは電脳への送受信だ。

 電波のコードさえ分ればエミーはその映像を見る事が出来るようだ。

 その逆も然り……。

 ただ、送受信範囲が10m四方なのが問題のようだな。


「それで、ブースターが必要になる訳ね。装身具になるように加工してるから3日ほど過ぎれば何とか完成するわ。このまま、電脳を起動して過ごしなさい。あまり疲れるようなら停止させれば良いわ。色々見て見たいのは分るけど、疲れて熱なんか出したらリオ君が悲しむわ」

 俺達に微笑みながら頷くと部屋を出て行った。


 改めて、エミーが俺をマジマジと見ている。そんなエミーを抱き上げてシャワーに連れて行く。

 今までがそうだったから恥ずかしがる事はないが、これからは全て見えてるんだよな。

 そんな事を考えながら2人でお湯を浴びることになった。



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