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058 リプログラムが必要らしい


 長い休暇が終わったところで、ヴィオラの皆から少し遅れて拠点に戻ることになった。

 ホッとした気分で、エミーと一緒に自室に戻ると、いつものメンバーが揃っていた。

 

「帰って来たわね。拠点の皆が喜んでたわよ」

「騒ぎたいだけなんじゃないかな? 一応名目なんだから、あまり騒ぐと他の騎士団からの目が気になるよ」


 エミーを去ファーに座らせたところで、テーブルの椅子を持ってきて少し離れた場所に座る。少し長い話になりそうだから、タバコが必要になりそうだ。


「後、10日で商会の人達が来るのは歓迎だわ。でもカテリナ博士が医者と地学者を連れてくるとは想定外ね」

「地学者の話は島に行った時に話していたよ。それに医者なら中継所としても必要になると思うんだけど」


「こっちの桟橋に来なければ問題ないと思うわ。中継所の居住区は家族用の宿舎を100個、独身用を200個揃えたらしいわ。商会がどれ程の規模で人を派遣するかは疑問だけど場合によっては居住区が増えるわよ」

 

 それは、商会の事務所の先に作ればいい。まだ200mは残っている筈だ。


「警備はガレオンさんが仕切ってくれてるわ。将来的には私兵を徴募してもらわないとね」

「中継点の管理はかなり面倒みたいね。それでも、ラズリーがラウンドクルーザーとバージの運行管理、マリアンが中継所の事務管理を分担する形で部下を纏めるらしいわ。とりあえず10人ずつ分けたみたいだけど、将来的には更に人手が必要よ」


「問題は俺達のフラグシップだな。それにバージの引渡しを考えると、拠点の出口が一箇所だけと言うのが問題だ。それに……、水だ」


 窓側に展開したスクリーンには、現在の拠点の工事状況が映し出されている。

 だいぶ日数が経っているから、かなりの設備が完成しているようだ。

 外から見える工事が少なくなっているのは、内装工事に主流が移っている為だろう。

 そうなると、早期に水の問題を解決せねばならないな。場合によっては、長距離のパイプラインを作る事も視野に入れねばなるまい。


「確かに、水は問題だわ。200㎥タンクを西と東の岸壁に3基ずつ設置しているけど、ラウンドクルーザーへの補給は1隻で100㎥ですからね」

「そうなると、大河からの水の運搬船と屋外タンクも視野に入れるべきね」


 ラウンドクルーザーには、水の浄化装置があるんだから原水タンクで良い分けだし、大型のタンクを数基設置するだけで十分な気がするぞ。

 

「そういえば、エミー様の視力が改善してるんですって? 良かったじゃない」

「ああ、でもまだまだ明確には見えないし、色だって分からない。自分の前に誰かがいるのがおぼろげに分る位だそうだ。それと、エミーで良いぞ。今は俺達と同格だ」


「そうね。私達の仲間ですものね。本当なら、侍女を付けてあげなくちゃならないけど、その辺りは私とレイドラに任せて頂戴」

「それで、次の航行は何時出掛けるの? 資材を購入するにしても鉱石を集めないと今までの蓄えを切り崩すことになるわ」


「そうね。水も必要でしょうから、東の大河付近を捜してみましょうか?」

「となると、バージの水密処理が必要ね。レイドラ対応をお願い。2日あれば2台は出来るでしょう?」

「保全部門と調整します」


 だいぶ休んだような気がするけど、結構忙しかった気もする。それでも、鉱石採掘が俺達の本業だからな。

 

 クリスが部屋を出て行く。

 彼女の本船はガリナムだからな。ベラドンナの方には連絡を入れて置くと言っていたから、もう1つの騎士団との調整は任せておいて大丈夫だろう。


「今度はリオが同行出来ないのね」

「商会の連中がやってくるからね。それに、カテリナさん達の対応もあるかもしれない」


「リオがいないと、イザという時に対応出来ないんじゃ?」

「ローザもいるし、戦鬼だっているわ。船団3隻でなら危険はそれ程でも無いだろうし、最悪の場合は助けに来てくれるんでしょう?」


 俺を見て微笑むドミニクは、アリスの性能をかなり知っているからな。

 俺も小さく頷いて答えておいた。

               ・

               ・

               ・


 拠点に戻って2日後に、東の桟橋の居住区の一室の窓からヴィオラ騎士団の出発をエミーと見送る。

 アリスはヴィオラのカーゴ区域から姿を消したままだけど、いつでも俺の呼びかけに答えて姿を現してくれるだろう。

 

「行ってしまわれましたね」

「本来は俺達も一緒なんだけど、今夜にはカテリナさん達がやって来るし、2日後には商会の人達が来るからね」


 ヴィオラ桟橋に作られた居住区は、まるでアパートのような構造だ。もっともキッチンだけは簡単なものが付いているだけだから、基本は食堂を利用することになっている。

 最大100人が利用出来る広さがあるが、騎士団の出航と同時に30人程が利用できる大きさに縮小している。それにメニューは1つだけだ。

 それが嫌なら、モノレールで西の中継点の中枢がある居住区に行けば良い。常時300人程が滞在しているから食堂が2つもあるし、メニューも豊富だからね。


「今朝は、初めて自分の姿を見る事が出来たんです。フレイヤさんと鏡の前に立った時、これが私だと教えて貰いました。フレイヤさんと同じようにぼやけた姿でしたが、自分の手を動かすと相手も動くんです」

「だんだんと見えてるんだね。今夜カテリナさんが来たら、よく説明した方が良いよ」


 シャワーを浴びたところで、エミーをベッドに運ぶ。

 朝食は遅かったからな。夕食までの数時間は2人だけのものだ。

 ヴィオラにはシャワーだけだったけど、居住区には大きな風呂を作ったらしい。泳げるほどだとアレクが教えてくれたぐらいだから、不満は無いみたいだな。早くプールが欲しいものだが、工事の優先順位が低いから、出来上がるのはまだまだ先のようだ。


 食堂の開店時間は1800時から2100時の3時間だ。時間厳守だから、時計を見てエミーと出掛けた。

 どちらかと言うと庶民的な料理なんだけど、エミーは嬉しそうに食べている。今日の夕食はオムライスだった。玉子焼きの天辺には小さな旗まで付いてるんだよな。


 何となくお子様向けなんだけど、近くのテーブルでは髭面のドワーフ達が美味しそうにスプーンで大盛りのオムライスを食べているのが違和感を通り越して微笑ましく思えるほどだ。

 

「王宮ではこのような食事を楽しむ事は出来ませんでしたわ」

 エミーがそんな感想を話してくれた。

 残さずに食べてクルクルと小さな旗を手にとって遊んでる。


 食堂の隣の喫茶店に入ると、食後のコーヒーを楽しむことにした。エミーは紅茶を頼んでる。

 一服しながらくつろいでいると、俺達のところにカテリナさんがやって来た。

 どうやら、到着したようだ。


「しばらくね。簡単な診察をするわ」

 そう言って、バッグからタブレットのような器具を取り出して診察を始める。

 その間に、ネコ族のお姉さんにコーヒーを頼むんだから、器用な人だな。


「かなりの改善だわ。このまま行けば数ヶ月後には完全に見えるようになるわよ。ドミニク達は出掛けているんでしょう? リオ君頑張りなさいよ。貴方次第なんだから」

 そう言って俺を見て笑ってる。

 確かに、エミーの視神経を構築してるのはピコマシンによるものらしいけど……。


「ドミニク達がいない間に、アリスがリプログラムを行なった電脳を起動してみたいわ。たぶん、一気に視力が改善すると思うの」

「前に俺も聞きましたが、それ程のものなんでしょうか? 元々はカテリナさんが聴力を補強するために挿入した小型の電脳でしょう?」


「全く違うものになってるの。あれから脳内にかなりのネットワークを構築しているわ。一部のピコマシンの触手は脳幹に届いてるのよ。それがどんな機能をもたらすかは不明だけど、起動することによって制御を掛けたほうが良さそうだわ」

「侵食しているわけでは無いんですよね?」


 俺の言葉に微笑みながらコーヒーを飲んでいる。

 侵食がキーワードだったのか?


「アメーバが増殖するような侵食ではないわ。意図的にネットワークを作っているのよ。それは視覚と言語野それに運動機能に限定しているの」

「それって?」


「アリス。そろそろ私に渡すものがあるんじゃなくて?」

『伝送します。そのタブレットで宜しいでしょうか?』

 カテリナさんが頷くと、複雑な計算式と電子回路図が転送されてきた。

 

「やはりね。でも悪くない考え方だわ。これはブースター回路ね。了解よ」

「どういう事なんです?」

「エミーならムサシを動かせるのよ。アリスは視覚野と前頭葉の関係に気が付いたみたいね。リプログラムしたのはその強化なんだけど、これはエミーにとっては是非とも必要なものよ。見るという事は単純では無いの」


 ムサシを動かせるのは副産物なんだろうか? アリスのことだからそれを目的にしてるような気がしないでもないが、此処は良い方に考えよう。


「では、起動すれば一気にエミーの視覚は向上するという事ですか?」

「そうなるけど……。アリス。再度リプログラムを要求するわ。内容はフィルタの設置、将来的には必要かどうかは分からないけど、電脳の働きをセーブするものが必要よ。最初から全ての視覚を解放したら、エミーの脳が持たないわ」


『了解です。エミー様が睡眠に入った時に変更します。外部通信回路にも送信及び受信機能に信号停止用のプログラムを追加します』

「これで良いわ。次にお母さんと会う時には、お母さんの顔を見る事が出来るわよ」

 

 カテリナさんがエミーの手をそっと握った。

 エミーは俯いたままだが、涙がこぼれていた。そんなエミーの涙をカテリナさんがハンカチで拭ってあげてる。マッドだけでは無さそうだ。


 カテリナさんは俺にコーヒーの礼を言って帰っていった。まだ涙ぐんでいるエミーを連れて部屋に戻ることにした。

 皆はどうしてるだろうな?

 そんな事を考えながら、ゆっくりと仮の宿に向かって俺達は歩き出した。


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