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057 回復の兆し


 カウンターから俺を呼ぶ放送が流れる。

 どうやら、迎えが来たようだな。


 宝石店のお姉さんに支払いを済ませると、エミーの腰を抱くようにして店を出る。

 耳と左手にエメラルドの宝石が輝いている。

 小さいものだけど、俺の給料3カ月飛んでいくほどの金額だ。

 フレイヤ達にも同じ物を頼んでおいたから、恨まれる事は無いだろう。

 国王から頂いた1億Lが無ければ大変なことになるところだったな。

 エレベーターを降りてカウンターに向かうと、壮年の紳士が俺達を待っていた。

 

「リオ公爵様でしょうか?」

「ああ、そうだけど」

「こちらに、お迎えの車をご用意しております」


 俺達に1礼すると、ホテルの玄関前に止めてある無人車に案内してくれた。

 車内の席は対面式だ。数人が楽に座れるほどの広さがある。


「海辺の別荘です。御后様方がどうしてもリオ様とご一緒に食事をしたいと申されまして」

「王都での用事は済みました。明日帰ろうとしていましたから、エミーにとっては嬉しい招きだと感謝しています」


 地下トンネルをしばらく進み、地上に出ると、そこには大きな建物があまりない。

 更に進むと周囲の明かりが少なくなる。

 どうやら、王都の中心部から離れた場所にあるようだな。

 真っ暗な森の中を車が進むと、小さな灯かりが見えてきた。どうやら、玄関の灯かりらしい。かなり古風な感じがするな。

 王家の別荘にしてはだいぶ控えめな玄関に車が横付けされる。別荘と言うよりも隠れ宿と言った方がピンとくるような建屋だ。


「着きました。どうぞ、こちらにいらしてください」


 壮年の男に続いて車を降りると、エミーの手を取って車から降ろしてあげる。

 マントを右手で抱えると、エミーの腰に手を伸ばして一緒に男の後を歩き始めた。


「リオ公爵夫妻の到着です」

 男が扉を開けて、ホールの奥に設えた宴席に告げると、10人以上の女性達が一斉に俺達に視線を移す。

 そんな中から1人のご婦人が席を立つと俺達の方に歩いてきた。

 

「ようこそいらっしゃいました。皆がどうしてもリオ殿を見たいと申しますので、お招きしましたのよ」

「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます」


 たぶん国王の御后の1人なんだろうな。

 それにしても、ビキニにシースルーのドレスって、この国の礼装なのか?

 このご婦人もコンテストに出れば、上位入賞は間違いない程の容姿なんだけどね。


 婦人の後に続いて宴席の中央に俺達は座る。エミーの母親も、カテリナさんと一緒に端の方に座っている。

 

「さて、主賓が揃いましたので、ささやかな祝宴を始めましょう。国王は宴席は要らぬと言っていましたが、これは私どもの私的な宴に招待しただけですから、問題はありませんよ。それに、この間の掛けの儲けは少しは還元しませんとね」

 俺の隣の夫人が話を始めたけれど、全員の姿が20代だからかなり違和感があるな。


 シャンペンで乾杯が終ると、次々に料理が出される。

 エミーもお皿の真中にちょこんと乗っている料理をフォークで確認しながら切り分けて食べている。

 慣れているのか、フォークと皿が音を立てる事もない。始めてみる者には、エミーの目が見えないとは思えないだろうな。


 そんな食事が1時間程で終えると、今度は隣の部屋へと場所が変わる。

 ソファーと小さなテーブルがいくつか並んでいる。どうやら、お茶を楽しむ場所って感じだな。

 ソファーの1つに案内されると、エミーの隣にヒルデさんが座った。まるで姉妹にしか見えないな。

 そんな2人を見ていた俺の視界の隅で手招きしているのは、カテリナさんだ。

 エミーに席を外すと伝えると、カテリナさんの所に歩いて行く。


「カティー、この殿方が貴方の?」

 3人が座る席に俺が立つと、カテリナさんの隣の夫人が驚いている。

 いったい何の話をしてたのか、聞いてみたいような気もするけどね。


「なんでしょうか?」

「まあ、お座りなさいな。こちらのご婦人は私の学生時代の友人なの。私と一緒に学府で研究の道を歩んでいたんだけど……。中継所に医務局を作って貰おうと誘っていたのよ」


 カテリナさんにしては協力的だ。と言うより、そんなことで自分の研究を邪魔されたくないと言うのが本音なんだろう。

 それでも、王都までの距離を考えると中継所に医療設備を揃えるのは間違いではない。

 騎士団だって、団員の健康診断は義務になっているからね。中経所でそれが可能なら利用者も多くなりそうだ。


「それは助かります。俺達には船医とカテリナさんしかおりませんから、中継点を維持する為の医療体制は手が回りませんでした」

「ウイニィーです。皆様はウインと呼びますから、そう呼んでくださいな」


「リオで結構です。騎士団の中は肩書きなどいりませんからね」

「学府からの許しを得ましたので、常時3人以上の医師を滞在させることが可能です。騎士だけが発病する突発性遺伝子変異の原因と治療が私の研究ですから、カテリナ博士のお誘いは嬉しい限りですわ」

 

「おもしろいことに、戦機で起きる奇病は戦姫では起きないのよ。もちろん獣機でもね。戦機の騎士は30歳を過ぎれば別の仕事を始めるわ。でも、もし戦機をそのまま動かせるなら、騎士団が騎士を維持するのが楽になるわ」


 カテリナさんはそういうけど、ある程度の年齢で騎士を辞めるのは経験のある騎士を維持する為には必要な事だと思う。

 不老措置が行なわれているこの世界で、実年齢30歳は早過ぎるとは思うけど。


「中継所の居住区に部屋を用意してくれれば良いわ。そこを使うから」

「商会に提供する区画を10個用意しています。その中の1つを提供しましょうか? 間口が40m、奥行き30m5階建てです。奥に大型の倉庫を持っていますよ」

「それなら、医院が開けそうね。良いわ。彼のラボもそこに作れば良いわ。大型倉庫は共用にしましょう」

 

 またしても、マッドな連中がやって来るのか? だけど、腕は良いんだよな。

 興味を持たれない限り、安心できるだろう。家の連中には気を付けるように言っておけば大丈夫だと思いたい。


「私達は10日後には出発するわ。荷物が多いから高速輸送船で向かうから着くまでに5日は掛かるかもね」

「10日後には商会の連中がやってきます。一応、管理事務所に近い方を確保しておきます」

「そうして頂戴。ほら、向うで御后様が呼んでいるわ。早く行ってらっしゃいな」

 

 首を回すと、隣の席から若い婦人が俺に小さく頷いた。

 カテリナさんに挨拶を済ませると、その席に向かって歩いていく。


「騎士殿の礼装は凛々しいですね。今夜はお越し頂いて嬉しいですわ。本来ならパレードを含めて5日は宴会となるのでしょうけど、カテリナが貴方はそれを好まないと言い出しまして」

 

 そんなことを言いながら俺に、席を勧めてくれた。席に腰を下ろすと、隣の夫人が早速グラスを進めてくれる。

 中身は、ワインだな。ありがたく一口口に含んだ。


「失礼ですが、カテリナさんとは?」

「妹なのですよ。たぶんご迷惑をお掛けしているとは思いますけど」


 ひょっとして、カテリナさんって良いところのお嬢さんだったってことか?

 思わず驚いてしまった。

 そんな俺を数人の夫人がおもしろそうに見ている。


「話を戻しますけれど、私達の矜持が立ちません。やはり、何らかのお祝いを差し上げようという事になり今夜来て頂いた訳ですの」

 小さなバッグから宝石箱のような小箱を取り出した。

「これをお渡しします。私達で事前に準備した品物ですけど、荒野に領土を持つ奥方には相応しい品だと思います」


 何だろう?

 そう思いながら小箱を開けると……、デリンジャーじゃないか!

 上下に銃身のある護身用の拳銃だな。10発程弾丸も着いてるし、綺麗な革のホルスターも着いている。拳銃には沢山の宝石が散りばめられた彫刻が施されていた。

 

「これは高価すぎるのではありませんか?」

「いいえ。あの試合で私達が得た報酬には見合いませんのよ」


 そう言って手で口を隠して笑っている。そんなに儲けたのか?

 絶対に勝てと、カテリナさんが言っていたのと関係するのだろうか。となると、反対に大損した連中に恨まれそうな気がするな。


 そんな宴が終ると、俺達2人はホテルに送り帰して貰った。

 エミーのドレスを脱がせると、ジャグジーに浸かる。

 気疲れはしたが、体は疲れてはいない。

 明日の高速艇の発進は昼丁度だから、ゆっくりと夜を楽しもう。

               ・

               ・

               ・


 次の朝。目を開けると、上半身を起こして俺を見詰めているエミーの姿があった。

 

「どうしたの?」

「リオ様の姿がおぼろげに見えるんです。それで……」

 

 そんなエミーを抱き寄せた。かなり早くに起きたのだろう。体が冷えてるぞ。

 今度は2人でベッドを抜け出し、ジャグジーの熱い湯で体を温める。


 エミーがジャグジーの窓から外を眺めている。形が分るというのだろうか?

 そんなエミーを後ろから抱いて2人で窓から外を見た。

 

「あの建物は高いですね……。昨日まではぼやけてたんですが」


 新鮮な風景なんだろうな。

 それでも、まだ明確な分けではないし、色だって分からないんだ。だけど、日々向上してるってことなんだとおもう。

 

 そんなエミーを窓際から離すと、俺の方に向きを変える。

 今度は俺をジッと見ている。やはり輪郭位は分るのだろう。

 

 ジャグジーで体を重ねた後は、温風で体を乾かして服を調えた。

 

 時計を見ると10時近い。

 荷物を纏めると、バッグの取手を引きながらもう片方の手で、エミーの腰を抱きながら部屋を出る。

 

 カウンターに荷物を預けながら支払いを済まそうとすると、昨夜の壮年の男性が支払いを済ませてくれたらしい。

 かなりチップを弾んだようで、嬉しそうにお姉さんが教えてくれた。


 朝食は、エミーの注文でフルーツサンドになった。

 食後のコーヒーを喫煙エリアで飲みながら時間を過ごす。


「そういえば、カテリナさんのお姉さんから護身用の拳銃を戴いたよ。エミーにと言っていたけど、かなり豪華なものだ。中継点に着いたら渡すからね」

「母様から、ピアスを頂きました。このまま目が良くなれば自分で付けられます」


 嬉しそうに教えてくれた。

 あれから20日だけど、ようやく輪郭か……。先は長そうだが、それでもエミーには嬉しいんだろうな。


 高速艇への搭乗20分前のアナウンスが聞こえてきた。

 カウンターからバッグを受取り、エミーを連れて屋上への直通エレベータに乗り込む。

 俺の方の仕事は上手くいったけど、ドミニク達の方はどうなってるんだろう。


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