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051 休暇は楽しく


 横幅1m長さ8m程のカヌーが、2m程の距離で横木によって並列につながれている。横木は1.5m程の間隔で4本取り付けられており、その間には丈夫な太い網が張ってあった。

 これなら1艘で10人は乗れるんじゃないか?

 そんな双胴船が2艘、階段を降りた所にある浮き桟橋に繋がれて、その上には屈強なトラ顔の青年が2人ずつ櫂を持って待機していた。

 

 初めてトラ族の人を見たけど、俺の体が貧弱に思えるほどの肉体を持っている。

 生まれながらの戦士と言う感じだな。

 双胴船の1艘から、ネコ族のお姉さんが手招きしている。

 しっかりと、ビキニを着てマスクにシュノーケルの出で立ちだ。

 そんなお姉さん以外にも2人のお姉さんが乗っているのは、御后様達の世話係って感じだな。


「早く乗るのじゃ。魚が逃げてしまう!」

 ローザが俺達を急かしているのを、双胴船の後ろの方に乗り込んだ御后様達が口を隠して微笑んで見ている。


 まぁ、年頃の女の子って感じだからな。

 そんなローザの叱責を受けて、俺達は次々とカヌーに乗り込む。

 エミーを抱き上げて、カヌーに乗り込み、網の上に下ろしてあげた。

 

 ローザ達は小さなパドルを手にカヌーの端に陣取っている。

 操船の邪魔にならなければ良いんだけどね。


「それでは、出発します。コテージの200m程先に大きなプールがありますので、そこで獲物を獲って頂きますよ」


 トラ族の若者がそう告げると、手に持った櫂を力一杯漕ぎはじめた。そして俺達の乗ったカヌーが浮き桟橋を離れて進んでいく。

 ローザ達の扱う櫂は、ともすれば後ろに持ち去れるようにも見える。

 やはり、あの筋力で櫂を扱うから、かなりの速度が出るぞ。


 エミーの片手を網から出して海面に触れさせる。

「海を進んでるんです。手に感じる水の流れの分だけ、俺達が乗ったカヌーは進んでるんですよ」

「これが、そうなんですね……」

 嬉しそうに、何度も感触を確かめている。

 、顔をたまに上下させているのは、海面と空の明暗の違いを確かめているのだろうか。

 少しずつ良くなっていくのかも知れないな。そしたら、どんなに喜ぶのだろう。


 やがて、周辺とは海面の色が異なる場所に出ると、2艘の双胴船がゆっくりとその真上で停止した。


「ここが、ポイントです。銃を撃った事が無い者は、この銛か網を使ってください。銃を使えるものは、この水中銃を使っても構いません」

 

 そう言って、カヌーの底の蓋を開けて道具を取り出した。

 ローザは直ぐに水中銃を取り上げ、従兄弟達は網や銛を掴んでいる。


「私達も行くわよ」

 銛を掴んだフレイヤは同じく銛を持ったドミニクに告げている。レイドラは網を担当するみたいだな。

 一体何を獲ろうというんだろう?


「リオ様も出掛けて下さい。私は母様と一緒に、のんびりしています」

 

 俺はエミーの手を取ると、カヌーの後ろでのんびりと他の御后様達と話をしているヒルデさん所に連れて行った。

 

「折角来たんだから、たまには海に入るのよ。私達も入るつもりだから」

 そんなことをエミーに告げながら、俺に頷いてくれた。

 船首のトラ族の警備兵の方に向かうと、船底から水中銃を出して俺に渡してくれた。


「稀代の騎士と評判だ。トリスタン殿との一戦を見たものなら誰でも酒を奢ってくれるだろう。とは言え、身分は公爵殿。我等と酒を飲む機会が無いのを残念に思う」

「名目ですから、気にしないで下さい。俺はヴィオラ騎士団の騎士ですよ」


 硬い感じの人だな。真面目な青年だから、王族のプライベートアイランドで警備を任されているんだろう。

 

「確か、ネコ族のお姉さんが教えれくれたんですが、全て美味しく頂けると……」

「ははは、彼女達はネコ族だからな。全て食べられることは確かだが、その中でも体側に黄色の帯がある流線型の魚が一番だ。だが、動きが速いぞ」


 そう言って、俺の肩を叩く。

 獲って来いってことだな。青年に頷いて、フィンを着けて、マスクを下ろす。


「では!」

 そう言って、仰け反るようにして海中に飛び込んだ。水面近くをシュノーケルを使って、獲物を探す。


 ローザ達は大きな珊瑚に取り付いて、その下に潜む魚を狙っているようだ。

 仲間同士の連携が試されそうだが、その前に全員の息次ぎのペースがばらばらだから、根魚は難なく逃げられるんじゃないかな?

 

 ドミニク達は、ここでも海老を狙っているようだ。

 2mほどの深さだから、銛で突付きだそうとしている。

 前回と違って、今度は道具があるから上手く行くかも知れないな。


 そんな俺の視界の中を、数匹の大きな魚が横切った。

 ローザ達に驚いて反転した時に体側に綺麗な黄色の帯が見えたぞ。

 あれが、一番美味いという奴だな。

 

 あのまま行けば、今度はドミニク達のところで反転してくる筈だ。大きく息を吸い込んで、海中に潜って待ち伏せする。


 このプールは南北30m東西200m程の大きさだ。

 真中付近で待機すれば、東西方向に移動する魚が体を休めるに違いない。その一瞬を水中銃でし止めればいい。

 ジッと、珊瑚の影に隠れて待つ。

 銃は上に銛を向けておく。水中で強引に動かすと魚が逃げてしまう。


 やがて反転してきた魚が俺の待つ珊瑚近くでその動きを緩めた。

 ゆっくりとした動作で狙いを定め、1m程の距離でトリガーを引いた。

 細く鋭い銛が魚の頭を貫通し、銛に繋がれたラインを通して銃に魚の振動が伝わるが、直ぐにそれは途絶えた。

 一気に海面へと浮上して息をつく。辺りを見渡してカヌーを見つけると泳いでいった。


「獲りましたよ!」

 そう言って、カヌーに獲物を投げ込んだ。

「さすがだな。これは滅多に取れんのだ。たまに釣りで掛かる位なのだが、銃で仕留めたのを見るのは初めてだ」

 

 2分は潜っていたからな。

「確かに、これを狙うのは骨ですね息が続きませんよ」

 再び海に潜って獲物を探す。


 1時間程したところで、全員がカヌーに戻って一休み。

 カヌーに用意された大型のクーラーには、獲物が入っていた。

 ローザ達も、20cm程の根魚を結構獲ったようだ。傷が殆ど無いから、網に追い込んで獲ったんだろうな。

 そして海老が4匹も入っている。

 これはドミニク達だな。


「さすがはリオ兄様じゃ。大きいのを獲ったものじゃ」

 俺が水中銃でし止めた魚を指で突付きながら、ローザが感心している。

 まあ、兄の矜持をかろうじて保ったところかな。


 そんな俺達にネコ族のお姉さんがジュースやコーヒーを出してくれた。

 やはり運動した後は甘いコーヒーだよな。

 少し舳先に向かうと櫂を操ってカヌーを固定している青年と共にタバコを楽しみながら、味わうことにした。

 

 そんな俺達のところに円盤機が近付いてきた。

 ネコ族のお姉さんが、島のセンターとトランシーバーで連絡を取り合っている。

 プライベートアイランドに近付く円盤機等、あってはならない筈だ。

 

 俺達の近くまで降りてきた円盤機から誰かが海に飛び込んできた。

 数十m程離れた場所に飛び込んだけど、10m程の高さだから、結構度胸がいると思うな。ゆっくりと俺達のカヌーに泳いできたその人は、カテリナさんだった。

 ドミニクがお母さんを海からカヌーに引き上げた。


「こっちに来てるって聞いたから、やってきたわ。誰もコテージにいないんじゃ、つまらないもの」

 そんな事を言って皆を呆れさせている。

 全く、行動的な人だな。


 ネコ族のお姉さんにタオルを貸してもらって髪を乾かしながら、御后様達の所に向かうと、早速グラスを受取って飲み始めたぞ。

 ドミニクも慌てて、母親の所に向かった。造船所の話を聞きたかったようだ。


 そんなカテリナさんを見ていると、突然俺に振り返った。そして今度はエミーの目を調べている。

 首を傾げたり、頷いたりと複雑な動きをしているな。あれはカテリナさんが考えてる時に見せる動きだ。


 しばらく休んだところで、また狩りが始まる。

 皆が次々と海に飛び込むのを見て、エミーのところに向かった。

 彼女を抱き上げるとそのまま海に飛び込む。

 

「息を止めて、海に潜ってみよう」

 

 エミーが大きく息を吸って止めたのを見て、足の動きを止める。

 1mほど体が沈んだが、浮力で直ぐに海面に出た。


「もう息が出来るよ」

「まるで、体の重さが感じられなくなりました」

「足を歩くように動かしていれば、首から上は海面に出るんだ。とは言え、疲れるからね。ちょっと、カヌーに近付くよ」


 エミーを抱えるようにしてカヌーに向かって泳いでいく。

 カテリナさんにアームフロートを投げて貰い、素早くエミーの両腕に取り付けた。


「今度は楽になったろう」

「ええ、ずっと浮いていられます」


 そう言って俺に顔を向けたけど、その目は俺を見ていないんだよな。

 

 しばらく海に浸かったところで、エミーをカヌーに乗せたのだが、3人がかりになってしまった。

 カヌーに階段は付いてなかったからな。簡単な階段は必要だと思うぞ。


 皆がカヌーに上がってきたところで、昼食を取る。

 1人増えたけど、サンドイッチの量は十分にある。護衛の青年が器用に割ってくれたココナツをお姉さんがストローを付けて渡してくれる。

 温く感じるけど、淡い甘さはサンドイッチに良く合うぞ。


 ゆっくりと食後を過ごしたところで、また海に潜る。

 俺も潜って魚を獲った。夕食のバーベキューの材料だから、沢山あるに越した事は無い。


 潮が引く前にコテージへと向かう。

 このプールの回りの珊瑚礁が浅いから、うっかりしてると取り残されてしまうらしい。

 エミーは来る時と同じように網の間から海面に手を伸ばして、手に当る水の動きを楽しんでいる。


 浮き桟橋に横付けされたカヌーから慎重に降りると、自分達のコテージに向かう。

 日が落ちてからバーベキューを始めるそうだから、まだ数時間ほどあるな。とりあえずリビングに座ると、レイドラとフレイヤがコーヒーを運んで来た。

 交代でジャグジーに入り、体の塩を洗い流す。

 

「リオ君はエミーと最後に入って。これを買い込んで来たから、着替えさせてね」


 そう言って、俺達同じバッグをリビングの片隅から取り出した。

 となると、今のビキニと同じものはレイドラに帰しておいた方が良いな。皆が、次々と新しい水着に着替えて戻ってくる。

 次は俺達の番だ。

 

「ゆっくりしてきて良いわよ」

 そう言って俺達を生暖かい目で見送っている。


 ジャグジーはお湯が抜いてあった。

 お湯を入れながら、エミーを裸にするとジャグジーの中で抱きしめる。

 

 1時間程経って、エミーに用意したビキニを着せてあげると、リビングに向かった。

 椅子に腰掛けさせると、バッグを漁り真新しいビキニをレイドラに渡す。

 

「ありがとう」

「仲間ですから……」

 そう言って笑みを浮かべた。


 昔は、硬い感じがしたんだけれど、この頃は年頃の女の子と同じだと思えるように成ってきた。

 親しい者達には、その本当の姿を見せてくれるんだろうな。


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