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046 ウエリントン国王がやってきた


 5人でバルコニーから眺める夕日は綺麗だった。

 もっとも、そんな夕日を微笑んで見ている彼女達の方が何倍も綺麗だと俺は思うな。

 

 夕暮れが訪れ、島全体が黒く沈んでいく。

 そんな光景をベランダで眺めながら、カテリナさんとタバコを楽しむ。

 ゆったりと時間が過ぎていく感じがする。これこそ、休暇と言えるんじゃないか?


「夕食が準備できたらしいわよ。レトロな電話で連絡があったわ」

 ベランダに出てきて、知らせてくれたドミニクは未だに何も着ていない。

 出掛ける前には着てくれないと、騎士団の名誉にも係わるような気がするぞ。


「リオ君、行きましょう」

 と言って、俺の手を引く母親もそのままだ。遺伝なのかな? 先祖が裸族だったりして。


 それでも、出掛ける前にはちゃんとビキニを着てくれた。さらにTシャツまで羽織ってくれたから何となく安心できる。

 カテリナさんが羽織ったのは俺のTシャツだった。ちょっとダブ付いているんだが、そこが魅力的に見える。美人は何時でも得をする典型みたいだ。


 バッグからサンダルを取出して素足に履くと、タバコとライターを防水袋に入れて水着のポケットに仕舞い込んだ。


「さあ、出掛けましょう」

 ドミニクの号令で俺達はテーブル席から腰を上げると、4つのコテージの中央にある大きなコテージに向かって歩き出した。


「やはり、海鮮料理だよね」

「そうとも、限らないぞ。あの円盤機があれば王都から1時間で荷物を運べるし……」


 そんな事を話しながら歩いてると、直ぐに目的地に到着する。

 体育館ほどのホールの中央には大きなテーブルが設えられており、色とりどりの料理と酒のボトルが置かれている。

 

「やっと、来たようじゃな。もうすぐホスト達もやってくるじゃろう」

 王女様が俺の所に来ると、そう言って島の方を見ている。

 ん? 王女様が招待してくれたんじゃなかったのか?


 王女様は数人の同世代の男女と一緒のようだ。

 話を聞くと、従兄弟達のようだ。歳の近い従兄弟が多いのは羨ましく思えるな。


「3つの王国共に一夫多妻じゃ。本来なら兄弟も多い筈なのじゃが、生憎と我が一番下なのじゃ」

 なんて、言っているけど……。まあ、贅沢な悩みって奴だな。


 突然、場違いな迷彩服を着た屈強な男が現れた。


「国王夫妻がご到着です。間も無く、こちらに御出でになられます」


 全員がかしずく中、俺と王女様が騎士の礼を取る。

 やってきたのは、俺達と似たような服装をしたアレクと同世代に見える男性2人に数人の女性達だ。その中の1人はフレイヤよりも幼く見える。


「礼は良い。此処は格式ばらずに過ごす為の島だ。さあ、グラスを持ってくれ、我が娘が戦姫を動かす素晴らしい映像を見せてもらった。我が国の発展はこれで決まったも同然。皆も一緒に祝って欲しい」


 簡単な挨拶には、娘を誇らしく思う父親の気持が溢れてる。

 ネコ族のお姉さんがトレイにグラスを載せて俺達の回りを一巡してグラスを渡してくれた。

 

「全員、グラスを持ったな? それでは、戦姫士の誕生を祝して、乾杯!」

「「「乾杯!!」」」


 全員が唱和してグラスをあおる。そして拍手で王女様を讃えた。

 王女様も嬉しそうだ。

 そんな王女様を国王が手招きすると見事な飾りの付いた長剣を渡した。

 恐縮しながら受取る王女様を皆が微笑んで祝福している。


 その後は会食だ。

 立食だけど、壁際にテーブルと椅子が用意されているから、好きなだけ真中のテーブルから取り分けて食べる事が出来る。

 早速、欠食児童のように食べ始めた。


「父君が呼んでおるのじゃ。挨拶だけでもしてくれぬか?」

「俺だけで良いの?」


「父君がリオを呼んでおる。母君達はカテリナ博士とヴィオラの3人に話があるようじゃ」

 「ヒルダに合うのも久しぶりだわ。私が紹介すれば良いわね。私の学生時代の友人よ」

 3人を連れてカテリナさんが御后様達の所へと歩いて行く。

 俺は王女様に腕を取られて、2人の男性の下へと向かった。


「我の恩人じゃ。中継点では散々世話になっておる」

 そんな紹介をするから、国王とその連れが笑ってるぞ。

 

「ヴィオラ騎士団の騎士、リオと申します。この度は……」

「よいよい、そのような挨拶は無用だ。ローザ、母君は話したいことがあるといっていたぞ。行くが良い。……リオ殿。先ずは座って欲しい。話はそれからだ」


 半円状のソファーの端に俺が座ると、連れの男性が俺にグラスを渡してくれた。そのグラスに国王がなみなみと酒を注ぐ。

 「頂きます」と言って一口飲む。かなり上等だ。お土産に持って帰ったらアレクが喜びそうだな。


「ふむ、飲める口だな。中々一緒に飲める者がおらずに困っていたのだ。相手といえば、此処にいる教導部隊長のトリスタンしかおらなかったのだ」

 そう言いながら、トリスタン氏のグラスにも酒を注いでいる。


「意外と若いのだな。ローザ殿から戦姫を操ると聞いて驚いておる。幻の4機目と言う訳なのだろう。ウエリントン王国に属さぬとは言え、お主が所属する騎士団は我が王国を中心に活動している。俺としてはこのままの状態を維持して欲しいと願っている」

 

 俺の顔を真直ぐに見て壮年の男がそう言った。俺の心中を量っているのか?

 

「騎士団は拠点を決めました。その拠点を中継点とすべく便宜を図っていただいた恩を俺達は忘れてはおりません。そして中継点を使って西方の資源を確保したいと思っています」


 俺の言葉に頷いている。答えとしては合格点という事だろうか?


「しかし、戦機を持ちその上に戦鬼と戦姫を持つ騎士団は外にはおらん。ローザ殿が送ってくれた新たな戦機の映像を見て王宮に衝撃が走った。あれ程に、サーベルを使える者がいたとは……。俺が此処に来たのは、リオ殿と一戦交えたかったことによる」

「確かにあれは凄かった。巨獣の首が宙を舞うなど、誰が想像しようか? その傍にローザがいた事も嬉しかったぞ」


「あの戦機を俺達はムサシと呼んでいますが、無人機なんです。俺の指示でムサシの電脳が最適な動きを行ないます。ですから、勝負は……」

「謙遜せずとも良い。イメージを受取って動くと聞いたぞ。ならばそのイメージを遅れるだけの技量がリオ殿にはあるということにならないか?」


 情報のリークは誰だ。

 こうなっては、やるしか無さそうだけど、どうやって試合をするんだろう。


「使うのは木剣だ。怪我は止む得ないかも知れぬが幸いにもカテリナ博士が居られる。死ぬことは無いだろう」

 国王が笑っている。

 ひょっとして、それが見たくてやって来たんじゃ無いだろうな。


「生憎と剣の使い方が分りません。俺の背丈の棒を用意してください。直径は3cmでお願いします」

 俺の言葉を満足げにトリスタンさんが頷いている。

 

「そうだ。やはりリオ殿が勝利した場合は褒美を用意せねばなるまい。今夜は后達との相談が楽しみだ」


 そのボトルに残った酒で十分な気がするな。

 トリスタン氏にすれば、俺を下して当たり前と言うことだろうし。

 

「だが、その前に……。ウエリントンに完全に稼動する戦姫が2機いるというのが、2つの王国の妬みにならぬよう、もうしばらくローザを預かってくれぬか。高速艇で1日と言う距離は妬みを和らげるに適当な距離でもある。その代償として、リオ殿を貴族に加えよう。領土は中継点を中心とした周囲20km。誰も文句が無かったよ。小さいながらも公爵領であれば自冶が認められる。文官を育て、商人を呼ぶが良い」


「それは、受けないとダメでしょうか?」


 所領持ちの騎士団なんて聞いた事も無いぞ。拠点はそれに近いだろうけど、小さいながらも中継点を取り巻く土地が一緒だ。点ではなく、面になるのだ。


「国王の命令と取って貰って構わんぞ。もっとも、他の貴族達のように任命式も何も無い。後で私の叙勲証書が届くだけになる。だが、我が王国の貴族は全て賛同しているし、2つの王国の内諾も得ている。小さいながらも独立国家に近い存在になる」


 それって、俺達の財力で大丈夫なのか?かなり財政的に苦しくなりそうな気がするな。


「あの3機の映像を見て賛同しないものはいないよ。それ程の存在だ。そして、西への玄関になれば、こぞって商人達が投資してくれるだろう。あのホールに事務所を構えるだけでも、商人は取引上優位に立てる。そして商人達は、あのホールに自分達で住居を作れない。全て賃貸になるな。その収益だけでも大きなものになるだろう。それは我等の王国にも利益が出る。中継点造りはその為の先行投資と言う訳だ」


 なんか全て計画済みって感じだな。


「申し訳ありませんが、一晩考えさせてください。俺は一介の騎士団員に過ぎません。皆と相談して決めたいと思います」

「それでよい。たぶん、向うでもこの話をしている筈だ」


 そう言われて、カテリナさん達の様子を見てみると、皆でワイワイ騒いでいるぞ。

 なんか女子会の最中みたいだ。


 そんな中、若い娘さんが席を立った。

 真直ぐに真中のテーブルに歩いてくるが、どこか変な感じだな。

 ローザ王女達の従兄弟がその前を走り去った。そんな子供達の足が娘さんの足を引っ掛けたようだ。ふらりと前のめりに倒れる……。

               ・

               ・

               ・

 目が覚めると、世界は金色だった。

 誰かが俺の胸に乗っている。ゆっくりとその背中に腕を伸ばすと、世界が色を取り戻した。

 

「ようやくお目覚めね。2回目だから少し慣れたのかしら。あれから数時間も経ってないわよ」

「娘さんは?」


「無事よ。ヒルデガルドが貴方を心配していたわ。あの娘は目が見えないの。ローザ王女の唯一の姉よ」

「そうですか。では無事だったんですね」

 

 そう言って半身を起こす。今回はすんなり起きれたぞ。どうやら、リビングのソファーに寝ていたようだ。

 カテリナさんが俺から離れると、冷蔵庫からビールを2本持ってくる。

 カテリナさんだけだから、他の3人は寝入っているようだ。時計を見ると午前2時過ぎだ。

 

「国王は感心してたわよ。『さすがは戦姫を駆る者だ』ってね。トリスタンは国王の幼馴染なんだけど、『明日を楽しみにしている』と言ってたわ。試合は1200時に行なうそうだから大丈夫よね?」

「たぶん。……でも、ありがとうございます。ずっといてくれたんでしょう?」


「40時間ぐらいならずっと起きていられるわ。リオ君は私の宝物だから守らなくちゃね」

 

 そう言って美味しそうにビールを飲み始めた。

 俺は、タバコに火を点けるとゆっくりと吸い始める。


 まあ、あまり勝ち目は無いけど、セレモニーって感じかな。そんな思いで明日を考える。

 まだまだ十分な休暇が残っているんだ少し位、俺達に便宜を図ってくれた人達にサービスしなければなるまい。


 そんな俺の目にベスト型のフロートが目に付いた。アームフロートまであるぞ。

 席を立つと、アームフロートを2個手に持ってカテリナさんの腕に通した。

 カテリナさんを立たせてビキニを外す。俺も水着を脱ぎ捨てカテリナさんを連れてバルコニーに向かった。


「夜ですし、誰もいませんから泳ぎませんか?」

「そうね。面白いかもしれないわ」


 2人で頷き合うと、海に飛び込む。

 夜だから少し気温が下がった気がするが、水温は温かだ。

 俺達を魚が突付きに来る。3人には内緒にしておこう。

 意外と裸で泳ぐのも快感だな。

 


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