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043 巨獣の首が宙を舞う


 円盤機が俺達の進路の先に照明弾を落とした。

 左右に分かれて落とされた明かりの下に巨獣がいるのだろう。なるほど、あまり左右の間隔が無いぞ。

 あの間をすり抜けて行く外に方法がないと騎士団長達が判断した以上、俺達はやれるだけのことをする外はない。


「役割分担をしっかりこなせよ。グレイにリンダはベラドンナとヴィオラの左側面を頼む。俺達3人はヴィオラの後方を担当する。リオと王女様は右側全体を担当してくれ」

「了解じゃ。前をデイジー、中間をムサシ、後方はアリスで良いな」

「了解!」


 王女の示した分担に軽く返事をする。まあ、一番問題が無さそうだ。デイジーの落ちこぼれはムサシが何とか出来そうだし、万が一デイジーがグランボードから落ちてもアリスで拾えるからな。


 全てのラウンドシップの投光器が左右を照らし始めた。

 荒地の奥に黒い姿で巨獣が姿を現す。

 

「ブリッジより連絡。左の巨獣はチラノではなくイグナッソスである事を確認。以上!」

「良かったな。イグナッソスなら中型だ。とは言っても、戦機の装甲を噛み砕くからな。注意しろよ」

「分かってます。なるべく離れて処理します」


 アレクが俺達に注意してくれる。

 王女様からの返事はないけど、大丈夫なのかな?


 やがて全艦の砲身が一斉に動きだし、砲撃が始まった。

 距離、およそ2kmというところだろう。


「先に行くのじゃ!」

 デイジーがグランボードに飛び乗ると、右舷に飛下りる。そして時速80km程の速度で船団から離れて行った。


「ムサシ、追うぞ!」

 ムサシが軽々と装甲甲板から飛び降りて滑走を始めた。ゆっくりと船団を追い抜いている。

 アリスを同じように跳躍させると、ヴィオラの右舷300m程のところで滑走を始めた。


「アリスからデイジーへ。ガリナムの右舷前方に移動せよ」

「了解じゃ。既に、2頭倒したぞ。やはりこれは良いのう」

 全周スクリーンで確認出来る位置にデイジーが移動してきた。


 ヴィオラの左舷は砲撃が続いている。トリケラは一旦走る方向を定めると中々修正しないからな。もっとも、あの巨体で40mm砲弾を跳ね返す皮膚を持ってるから、突撃力に自信があるのかも知れない。


 突然、ムサシの持っている棒の両端にイオンビームの刃が出現する。素早く右に移動して一旋すると、イグナッソスの首が中に舞う。


『マスター。感心している場合ではありません。数頭こちらにもやってきます』

 慌ててレールガンを出現させると、狙いをつけてトリガーを引く。


 優先順位と発射のタイミングだけを俺が制御すれば良い。後は全てアリスが補正してくれる。4撃したところで、レーダーでイグナッソスの動きを追う。

 まだかなりいるぞ。デイジーがあちこちと小刻みに動きながら巨獣にレールガンを撃ち込んで倒している。

 ムサシは落穂拾いをきちんとやっているようだ。

 それにしても、まるで剣豪だな。あの変な武器で一旋するたびにイグナッソスの首が飛ぶんだから。


 前の2機が取りこぼした奴は、アリスがきちんと船団に到達する前に処理している。

 これなら、1匹足りとも船団に辿り付けないんじゃないか?


「リオ君。もう直巨獣の群れから離れるわ。イグナッソスの後ろ足を1本お土産に頂戴!」

 突然カテリナさんから、とんでもない注文が舞い込んできた。

 まあ、何に使うんだか分からないけど、色々世話になってるからな。

 「了解」と返事をして、まだ息のあるイグナッソスの片足をイオンビームサーベルで斬り取ってヴィオラの装甲甲板に放り投げる。

 後は戦機が何とかしてくれるだろう。


 戦闘が終了したところで、ヴィオラの甲板の戦機がカーゴ区域に移動したことをブリッジが報告してきた。

 デイジー、ムサシ、そしてアリスの順に装甲甲板に降り立つと、昇降装置で艦内へと移動する。


 ハンガーにアリスを固定すると、早速待機所へと向かって歩いて行った。

 扉を開けると、アレク達は既に酒を飲んでいる。王女様も今回はワインを飲んでいるけど、まだ14歳なんだよな。

 ソファーに腰を下ろす間もなく、俺にグラスが渡された。

 

「今回は我の奢りじゃ。出掛ける時に父君が、渡してくれたものじゃ。安物ではないぞ。心して飲むように」


 一口飲んでみる。確かに高級品だな。マクシミリアンさんの酒を思い出すな。

 こんな酒ならじっくり飲みたいものだが、生憎、酒の良し悪しに無頓着なアレクがいる。美味しそうに、ボトルからグラスに注いで飲んでいるぞ。

 

「リオ。あのムサシを本当に制御していたのか?」

「一応、やってましたよ。一度に2つのことを考えるのは疲れますね」

 俺の言葉に全員が俺を見た。


「ちょっと待って。それじゃあ、リオはアリスを動かしながら、ムサシも動かしていたの?」

「そうですが……」

「一度、カテリナ博士に頭を調べて貰うことじゃ。はっきり言って、それは精神分裂症じゃぞ」


「そうでは無いかも知れないが、兆候はあると見るべきだな。確かに俺の行うことを冷静に見ている俺という表現もあるし、それに近いことをたまに感じることもある。だが、同時に2つの全く違うことが出来るというのは脳に何らかの原因があるという事だ」

「ちょっと待ってください。昔、王宮の文献で読んだ事があります。……確か、竜人族は左右の脳を独立に使えるって」

「リオは、竜人族の血を引いているという事か? やはり、カテリナ博士に調べて貰うことじゃな」


 リンダの言葉に少し合点がいったような表情を皆が見せたが、王女様はそれでも検査を進めてくれる。

 余程信頼してるみたいだな。でも、マッドなんだぞ。


「まあ、それはカテリナ博士に任せるとして、あの動きは凄すぎる。なるほど、銃器は必要無い」

「イグナッソスの首が宙に舞ったのじゃ。それを見てて、危うくグランボードから落ちるところじゃった」


「その光景は俺も見ました。王都の剣術教習所でもあの動きが出来る者は居らぬでしょう」

「でも、それを動かしたのはリオ君なんでしょう? リオ君って剣が使えるの?」

「あれはムサシの中の電脳が制御してるんです。俺は近付いて首を跳ねろという指示とそのイメージを送っただけですから」


 ムサシの電脳に責任を持たせておこう。たぶんその動きはもう1人の俺が送ったものだし、どんなイメージを送ったのかも思い出すことが出来る。

 もう一人の俺を使うのは今後問題になりそうだな。


「やはり、かなり精神的に疲れますね。早めにベッドに入ります」

「それが一番だ。そして、王女様も言ってるように、カテリナ博士に一度相談するんだぞ」


 席を立とうとした俺に、アレクがそう言ってくれるのが嬉しかった。

 皆に頭を下げると、ゆっくりした足取りで部屋に戻る。


 扉を開けると同時に、「お帰り!」と声を掛けられた。

 ソファーには俺を笑顔でみているカテリナさんがいる。相談しろとは言われたけど、今直って訳じゃないぞ。

 とりあえずビールを2本、冷蔵庫から取出してソファーに腰を下ろす。カテリナさんはタバコを楽しんでいたようだ。灰皿に2本の吸殻がある。

 俺が手渡したビールのプルタブを開けるとコクコクと喉を鳴らして飲んでいる。

 俺も一口飲むと。タバコを取り出して火を点けた。


「おもしろいデータが沢山手に入ったわ。それに、ようやく肉食巨獣の足が手に入ったから研究が進むわ。皆が、ムサシの動きをうっとりしながら見てたのよ。紹介しろって女の子が騒いでいたから、しっかりとダメを出しといたわ」

「それは、ありがとうございます」

「あの動きについて直に緊急討議を開いたの。でも、私達には何も結論が出なかった。王国一の科学者集団だと思っていたのに……。ホント、何も分からなかったわ。すっかり自信を無くしてここに来たのよ」


 やはり、この世界の科学では分からないんだろうな。少し方向を見出せば元気になるんだろうか?

 そんな事を考えながらビールを飲んでいると、何時の間にかカテリナさんが隣にいるぞ。

 缶をテーブルに置くと、カテリナさんの服を脱がせていく。そして俺の服を脱いだところで、カテリナさんを抱き上げた。

 カテリナさんを後ろから抱きしめながらシャワーを浴びる。

 体を乾かしたところでベッドに抱いて行った。

 意外と軽く感じるぞ。決してドミニクに劣らないスタイルなんだけどね。


「カテリナさん。同時に2つの事は、人間には出来ないんですか?」

 俺の質問に、俺をしっかりと抱きしめていたカテリナさんが体を起こした。俺も上半身を起こしてカテリナさんを見つめる。


「急にどうしたの? でも、そうね……、出来ないわ。海生生物の中にはそれが出来ると考える者もいるわ。文献では竜人族の純血種ではそれが出来るという説があるわ」

「俺にそれが出来るとしたら?」


 俺の体をベッドに押し倒すと、俺の顔を覗き込む。

 そして俺の顔を両手で押さえた。


「あの動き……、そうなのね!」

 俺は頷くことで、その問いに答えた。

 カテリナさんが今度は俺を抱きしめる。


「まだ、寿命は100年以上あるのね。神様は私を見捨ててはいなかった。科学に身を投じた私にリオ君を与えてくれた」

 そう言って感動している。まあ、元気になってくれれば問題ないけど。

 俺の顔に顔を重ねるようにしてキスをしてくるとそのままベッドに倒れる。


「少し見えてきたわ。リオ君なら出来るかも知れない。貴方は体を常に擬態で私達に接しているのよ。今も男と女の関係になってるでしょう。でも、擬態が解けた状態を私は見ているわ。その状態での貴方は均一化した構成になっている。という事は、必要に応じて身体の機能を変化させることが出来ると言っても過言ではないわ。貴方がムサシを動かしていたときには、もうひとつの脳が形成されたと考えられるわ」


「それですが、精神分裂症ではないかと王女様に言われましたよ。カテリナさんに相談しろと」

「適当に投薬すれば良いでしょうね。私としてはリオ君が相談に乗ってくれるから助かるわ」


 顔を捕まえられたままだから、俺も自然にカテリナさんの方に身体が向いたままだ。


「あの娘達は今夜は急がしそうだから、リオ君を独占出来るわ。ラボの連中は頭を抱えてるでしょうけどね」

「良いんですか?」

「自分なりに考えることは必要よ」

 

 そう言って俺に口唇を寄せると、俺の身体の下に潜り込んで来た。

 背中にカテリナさんが手を回して俺を抱きしめる。今度は俺がカテリナさんを覗き込むことになったな。

 


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