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040 俺を呼ぶ声


 外のホールは拠点工事の最中だけど、俺達は採掘を終えての休暇を楽しんでいる。

 ドミニク達は工事の責任者達と調整があるようだし、カテリナさんは無人の戦機に掛かりっきりだ。

 待機所に行けば、アレク達と酒盛りが始まりそうだから、のんびりとフレイヤと一緒にカタログショッピングを楽しんでいる。

 といっても、フレイヤが次々とアクセサリーを表示しながらうっとりと見とれている光景を、コーヒー片手に眺めてるだけなんだけどね。

 そういえば、俺の私服はフレイヤの実家に出掛けた時に買い込んだものだけなんだよな。いつもは黒のツナギを着込んでいるんだが、休日ともなれば少しくだけた私服を着ても良さそうだ。


「俺も私服が欲しいんだけど、フレイヤが終ったら教えて欲しいな」

「ふ~ん。で、どんな服?」


 という事で、フレイヤの監修付きでカタログショッピングを始めた。

 結果は一番慣れ親しんだGパンにTシャツ、それにワークブーツとトレーナーになってしまった。


「これで良いの? だったら、私もこれにしたいな。ホール内は20℃位だと聞いてるわ」

 

 こんな格好がしたいのか? ならば……。

「アリス。俺とフレイヤ、ドミニクとレイドラの体形でこの品を発注してくれ。そうだな2組ずつあれば良いだろう」

『了解です。ベルトを含めて発注します』


 フレイヤがきょろきょろと辺りを見ている。

「誰かいるの?」

「俺とフレイヤだけだけど?」

「でも、今『了解です』って!」

 何か恐ろしいものを見たような顔をして俺に訴えてる。


「あぁ、アリスだよ。この端末を利用して会話してきたみたいだな」

「アリスって戦姫でしょう?」


「アリスは自律した電脳を持っている。意識があるんだ。俺の良い友達だよ」

「となると、さらに事態が複雑になってくるのね」


 嫉妬してるのかな?

 まあ、直接話せるわけではないから問題はないだろう。

「いや、変わらないさ。アリスは何時でも俺を見ているし、俺の味方だ」

 そう言って、フレイヤを抱き寄せた。


 休暇2日目になったので待機所に来てみると、アレク達と王女に2人の護衛が暇を持て余して、アレク達と話し込んでいた。

 ここでコーヒーを飲んでるなら、誰の邪魔にもならないだろうし、アレクの昔話を聞くのもおもしろいかもしれない。


「しかし、良くも許可が下りましたね」

「尾根に設けた砲台が完成したのじゃ。88mmが12門じゃ。特大型でも来ぬかぎり十分対応出来よう。それに、元々巨獣がよりつかぬ場所じゃ」


 そう言えば、致死量の硫化水素が谷に溜まっていた。今もその放出はバイパス路を使って谷間に放出されている。

 

「カリオン達は場所を変えたが航行は一緒だ。その辺りに変化はないから、出動時には俺の傘下に入る。次ぎの定期便で機士がやって来る。どんな奴かは分らないが、元ヴィオラ騎士団の縁者だからよろしく頼むぞ」


 アレクなりに苦労しそうだな。

 王女様はどちらかと言うと経験を積みたいだけのようだ。中継点の工事は進捗しているけど、それを毎日見てるんじゃ飽きてしまうだろう。

 

「噂ではカテリナさんのヒステリーにラボの研究員が参ってるみたいよ。どうにもあの戦機の稼動方法が判らないんですって」


 そんな事を言いながら、俺達に炭酸飲料を勧めてくれた。

 これってベラスコが飲んでたやつじゃないのか? 慌ててベラドンナに移ったんで置いて行ったのかな。

 たまには氷を浮かべた炭酸飲料も捨てがたい。俺も少し、買いこんで置こうかな。


「まぁ、あの博士は諦めるって事はしないからな。騎士団長の母親だって事が良く分かる」

 

 女性達でカードを始めたのを見て俺は自室に戻った。

 明日は出発と言う事だ。

 朝から、フレイヤやドミニクが慌しく部屋を出て行った。

 久しぶりにのんびり出来るかもしれないぞ。

 マグカップにコーヒーを入れて、タバコを楽しみながらホールの工事風景を眺める。

 次に帰ってきたときはどんな感じに変わってるんだろうな。


 コンコンと扉が叩かれる。

 この時間に来るって事は……、カテリナさんか?


「全く、不思議な戦機だわ」

 部屋に入るなりそう呟いた。

 髪はバサバサだし、唇は乾いている。そして、目は異様にぎらついてるぞ。

 間違いなく睡眠不足でハイになってるな。


「どうぞこちらに……」

 ソファーに招かずに、そのままシャワー室に連れて行く。

 体が温まれば眠るだろう。

 素早く衣服を脱がせるのも慣れてきたような気がする。俺も衣服を脱いで一緒にお湯のシャワーを浴びることにした。


「あら、良いものを作ったのね。今度来るのが楽しみだわ」

 髪を掻き上げながら、顔にシャワーのお湯を受けている。

 しばらくシャワーを浴びたところで、体を乾かすとカテリナさんをベッドに寝かしつけたんだが、俺の体を片腕ががっちりとホールドしている。

 隣で一緒に寝るか。


 ふと、体に乗った重さで目が覚めた。

「あら、起こしちゃった?」

「寝たと思ったんですが?」

「ええ、寝たわよ。4時間ほど熟睡させて貰ったわ」


 顔が俺の直ぐ上にあるから豊かな髪がおれの顔に掛かるんだよな。世界は金色だ。

 俺の手を取るとベッドを抜け出し、シャワーを一緒に浴びる。

 互いの体を洗っている時、再び俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「どうしたの?」

 俺の手が止まったのを、怪訝そうな顔でカテリナさんが聞いてきた。

 

「……誰かに呼ばれたような気がしたものですから」

「この部屋には、リオ君と私だけの筈よ。ちゃんと3人が仕事をしているのを確認してるわ」

 それも気にはなるが、やはりあの戦機なんだろうか?


『艦内連絡。カテリナ博士至急、ガネーシャ博士に連絡下さい。繰り返します……』

 何か、学校の構内放送を思い出す連絡手段だな。

 だけど、裸でシャワー室にいるのだから携帯には出られない。連絡手段が外に無かったということなんだろう。


「何でしょう? 6時間は休める筈だったのに」

 そう言いながら、タオルを羽織って、シャワーを出て行った。

 残った俺も、体を乾かしタオルを腰に巻いてソファーに向かう。

 冷蔵庫からビールを出して、プルタブを開くとカテリナさんの前に置く。

 

「……分ったわ。時間は? そう。ありがとう。少し分ってきたわ。後で教えてあげる」

 そう言って携帯を閉じると、俺の顔をおもしろそうに眺めてビールを飲み始めた。

「リオ君。もう一度貴方の検査をさせてくれる。さっき、貴方は声が聞こえたと言ったわよね。その時に、あの戦機からコード化された電波が発信されたみたいなの」

「これで、2度目なんです」


 俺の言葉に驚いたのか、カテリナさんはもう少しで缶ビールを落とすところだった。

 昨夜も同じような呼び掛けを聞いたのだが、寝ていたから夢でも見たのかと思っていた。だけど先ほどの呼び掛けと感触が同じだったんだよな。


「全く、何処までも不思議な青年ね。リオ君を見つけてくれた事がドミニクの最大の親孝行だわ」

 何か、ご機嫌になってきたぞ。にこにこ顔で俺を見てる。

 

「1つお願いがあるの。今度、声が聞こえたら、何でも良いから答えてくれない?」

「どう答えれば良いでしょう?」


「そうね。……『ここにいる』で良いかしら」

 『ここにいる』ねぇ。まあ良いけど、それでどうなるんだろう?

 それは、カテリナさん達が考えれば良いか。博士だしね。


「良い事を教えて貰ったから、サービスしなくちゃね」

 そう言って、俺をベッドに誘う。

 確か、6時間の休憩だから、もうすぐ終るんじゃないのか?

 

 結局、カテリナさんがルンルン気分で帰ったにはそれから2時間経ってからだった。

 ラボの連中が怒ってるんじゃないかな?

 それとも、とうとう気がふれたか? と思うかも知れないな。来た時と帰る時の落差があまりにも酷すぎる。

 衣服を整え、ソファーでマグカップのコーヒーを飲みながら、アリスの意見を聞いてみた。


『答える分には問題ないでしょう。2度目の電波強度は最初よりも大きくなっています。たぶんマスターを探す為に電波強度を少しずつ上げているのでしょう。3度目はもっと大きくなると推測します』

「もし、答えたら俺を探しださないか?」


『たぶん、交信を試みる筈です。私を通すように言い付けてください。私があの戦機のコードを解析しながらマスターに伝えます。返事は、私を通して伝えます』

 アリスが通訳するってことだな。


 となると、次の呼び掛けが楽しみだな。

 タバコを楽しみながら、時計を見ると18時を過ぎている。誰も帰ってこないから、早目の夕食を取っておこう。


 夜半に戻って来たフレイヤと2人で寝ていると、3度目の呼び掛けがあった。

 答えろって言ってたな。


「俺は此処にいる!」

 声に出したから、隣のフレイヤが驚いて半身を起こして俺を見る。


「どうしたの?」

『戦機から返信。マスター認証。呼名を要求しています』


 心配そうに俺を見ているフレイヤの膝を叩いて安心させる。

 

「『ムサシ』と命名する」

『戦機より、ムサシの了承確認。……言語変換プログラム転送開始。……ムサシのロード確認。これからは私を介さずともマスターが指示すれば動きますよ』


「ありがとう」

「ねえ、どうしたの?」

 心配そうに俺の顔をフレイヤが覗き込んだ。


「例の戦機が呼び掛けてたんだ。それに答えたって感じかな。アリスの話では具体的な指示に従ってくれるみたいだ」

「リオなら動かせるの?」


「そうみたいだけど、俺はアリスがいるからな。ヴィオラの直援機になりそうな感じだ」

「戦姫と戦機では性能に違いがありすぎるわ。たぶんそんなところでしょうね」

 

 何か目が冴えてしまったな。

 フレイヤと一緒にタオルを体に巻いてソファーでワインを飲み始めた。

 窓の外では、獣機達が忙しそうに動いているのが見える。俺達だけが休暇を取っているのが申しわけない気持ちだ。

 今頃は、戦機の回りでカテリナさんが大騒ぎしているだろうな。

 タバコを吸いながら、ふとそんな光景が脳裏に浮かぶ。

 


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