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037 傭兵団長クリス


 戦機を2機も発掘したのはいいのだが、大きな問題に直面してしまった。

 ガリナムがバージを曳いてこなかったということだ。こんな状態で他の騎士団にでも見つかったら争奪戦が勃発しかねない。

 丸々1日掛けて、獣機とアリスの共同作業でガリナムの倉庫甲板に発掘した戦機をワイヤーで縛りつけると、最大船速で拠点に戻ることになった。

 

 装甲甲板の耐荷重をオーバーしている感じだが、捨てていくなど問題外だ。歪みは後でいくらでも直せるとクリス傭兵団長の一言がそんな作業を可能にしてくれた。

 とはいえ、次も無いわけではない。やはり200tバージぐらいは曳けるように早期な改修が必要だろう。


 今は順調に拠点に向かって航行中だ。この位置で東に真っ直ぐに向かって、拠点の経度で北上すると言っていた。

 俺は、のんびりと元仕官室だったらしい個室で貰い物のビールを飲んでいる。

 ガリナムの巡航速度はヴィオラよりも遥かに速い。現在の速度は時速45kmとの事だが、この速度でも拠点に到着するまでに3日は掛かるらしい。直線コースならば早いかも知れないが、荷を守る事を優先するとクリスが言っていた。


 拠点に暗号化した通信を贈ったところ、かなり驚いていたそうだ。

 1年間に3機の戦機を見つけた例は今までに無かったらしい。

 上手く行けば、もう1機位は……。何て皮算用をする者も現れ、それを懸けの対象にする動きもあるようだ。

 まぁ、娯楽が少ないからな。俺も帰ったら一口乗ろう。

 それ位は構わないだろうし、アリスの電脳とレイドラのお告げで結構良いところに行くんじゃないかな。


 トントンと扉が叩かれた。

 急いで扉のロックを外そうと腰を上げると、扉のロックが外されて部屋の中にクリスがボトルを抱えて入ってきた。


「1人じゃ、寂しいでしょう。もうすぐドミニクに渡すのは勿体無い感じがするの。すでにお相手もいるんでしょうけど、それまではここにいてね」

「急いでいるんでしょうから、クリスさんもお忙しいでしょうに……」

「真直ぐ進んで90度左に曲るぐらいなら子供でもできるわ。それに、折角私達の戦機を見つけてくれたんだからお礼は必要でしょう!」


「お礼はここでのんびりさせて貰える事で十分です」

「まあ、それは後にしてとりあえず乾杯しましょう」


 部屋の片隅にある小さな冷蔵庫からグラスを2つ持ち出すと、申し訳程度のテーブルに置いた。クリスの持ち込んだ酒は年代物のようだ。そのボトルの封を切るとグラスに注ぐ。

 きっちり8分目って感じだな。

 渡されたグラスを手に取ると、クリスの持つグラスにカチンっと合わせる。

 

 一口飲んでみると、今までに味わったことない美味しさだ。思わず、グラスを眺めてしまう。


「このボトルは父から騎士団を引継いだ時に貰ったものよ。『嬉しい事があった時に飲みなさい』ってね」

 確かに嬉しいのだろう。戦機を持つという事は父をある意味越えた事になるからな。

「俺と一緒で良かったんですか?」

「ええ。貴方と一緒に飲みたかったの」


 2時間程でボトルを空にしてしまった。

 クリスの足元はおぼつかない感じだな。ベッドに寝せてしまおうか?

 クリスを抱えてベッドに寝かしつけると、俺はコーヒーで酔いを醒ます。

 舷窓の外は真っ暗だ。

 小さなシャーっと聞こえる音は、多脚式駆動装置が荒地を駆ける音だな。一服を終えて、ソファーに横になる。

 たぶん、明日には進路を北に変えるだろう。明後日には拠点に着くかも知れないな。


 朝起きると、世界が金色だった。

 その上、体の身動きに制限が掛かっている。もぞもぞと動くと柔らかな何かが俺に乗っているようだ。

 突然、視界が開ける。


「あら、お目覚めかしら? ぐっすり寝てたから、先に楽しませて貰ったわ」


 そう言って俺の顔をクリスが覗き込んだ。

 裸のクリスが俺から上半身を起こすと、俺も急いで体を起こしたが腰にはまだクリスが乗っていた。

 俺も何時の間にか服を脱いでいたようだ。

 記憶に無いのが不思議なんだが……。まあ、ここに至っては態度で示さないとな。


 クリスの腰を持ち上げて、抱ええるようにしてベッドに運ぶ。

 そして、ゆっくりとクリスと楽しむことにした。

 昼食を取る前に2人でシャワーを浴びる。

 クリスは戦闘服ではなく、他の艦内乗組員と同じ服装をしている。この辺りはドミニクにも見習って欲しいものだ。


 昼食は例の休息室を兼ねた場所だ。メニューは1つしかないから選ぶ必要が無い。

 ピザのような物に濃いスープと小さなワイングラス。

 これはこれで美味いと思う。アレクならワインをお代わりしそうだけどね。

 食後のコーヒーは士官室でクリスと一緒に味わう。


「どうしようかな? 北上する為に回頭するのは真夜中なのよ。まだ12時間以上あるわ」

「少し、速度が速いような気がしますが、駆動系に問題は無いんですか?」

 俺の言葉にマグカップを抱えてクリスが笑い出した。


「ガリナムが出せる最高速度は時速55kmよ。現在は戦機を装甲甲板に乗せているからそこまで速度を上げられないけど、時速50kmを超えているわ。そうでないと、私達傭兵団を雇うような騎士団が現れないわ」


 戦機の代わりを務める傭兵団であれば、その陸上艦は高機動と重武装が必要になるということなんだろう。中々にシビアな仕事をこなしてきたようだ。

 それが、今回は戦機2機だからな。約定でガリナム傭兵団は1機の戦機を受け取れるんだろうけど、出来ればもう1機欲しいところだな。戦機が2機あれば傭兵団から騎士団に仕事を変えることもできるんじゃないか。


「時間があるなら、する事は1つしかないんじゃないか?」

 そう言って、クリスを立たせるとゆっくりと衣服を脱がせていく。

 こんな行為も何時の間にか慣れてしまったな。

 アレクが知ったら大笑いしそうだ。


 日付が変わったところで、俺達はベッドを出る。

 クリスと一緒にシャワーを浴びて衣服を整えた。


「今日中に拠点に着くのは無理でしょうね。明日中には着くわ」

「拠点のホールが気になりますね。上手く置換処理が終っていれば、拠点で調整が出来るんでしょうが……」

「そうね。今日中には拠点と通信が出来るから確認してみるわ」

 

 そう言って、俺をハグすると部屋を出て行った。

 やはり艦長である以上、コース変更には立ち会わないとな。

 クリスを見送ると、窓から真っ暗な外を見ながら一服を楽しむ。

 皆どうしてるかな? そんな事を考えながらベッドに戻ると、今度はゆっくりと眠る。

 

 俺が目覚めたのは、昼近くだった。

 隣にはクリスが寝ている。

 何時の間に戻ってきたんだろう。ぐっすり寝ているところを見ると、朝早く戻ったんだろう。

 クリスを起こさないように気をつけて窓際のソファーでコーヒーを飲む。食事はクリスが起きてからで良いだろう。

 外は荒地がどこまでも広がっている。小さな潅木が所々に生えているぐらいだ。

 荒涼とした世界だが、騎士団にとっては豊饒の地でもある。巨獣さえいなければ、安心して採掘出来るんだが、そう上手くは行かないのが世の中なんだろうな。


 う~ん! と大きな伸びをしてクリスが起きてきた。

 壁際のシンクでコーヒーを作ると、俺の分も持って来てくれた。

 

「起こしてくれたら良かったのに」

「良く寝てたからね。それに……」

「確かに、ドミニクは寝起きが悪いわね」

 そう言って俺を見ながら微笑んだ。

 

「拠点との通信が朝方可能になったわ。未だにお祭り騒ぎが続いているみたいだけど、ホールの置換は5日ほど前から始めたみたい。どうにか置換が完了したところにあの連絡が入ったから、ホール全体で大騒ぎしたらしいわ」

「となると、この戦機は拠点で調整が出来そうですね。もう1つの問題は機士を探す事です」

「それは、拠点で相談することになっているわ。私に知り合いはいないし、アデルも似たようなものよ。ドミニクに頼ることになりそうね」


 先々代から騎士団を率いていたという事はそれだけネットワークがあるという事なのかな。

 まあ、それは俺には直接関係しないだろうから、当てがあるならそれで良い。


「このまま進めば、明日の朝には拠点に到達するわ。楽しめるのも今日限りね」

「なら、楽しんでから食事にするか……」

 腰を上げるとクリスをベッドに運んで行った。

               ・

               ・

               ・

 アレクの生活を地で行っているような船内の暮らしをして3日目の朝。

 遠くに北の尾根が見えてきた。あの伸びた尾根の合間に俺達の拠点と中継点がある。


 キチンと服を調え、食堂兼休息室でジッと前方を見据える。

 まだ10日も経っていないがヴィオラが懐かしくなってきたな。

 昼近くなって拠点から何かが飛び出してきた。

 グランボードに乗ったデイジーだから、王女様が迎えてくれるのかな?

 そんなところが、可愛らしく思う。

 だけど、その速度はどう見ても時速100kmは超えていそうだ。十分に中継点を任せられそうだな。


 ポンっと肩を叩かれて後を振り帰ると、クリスが立っていた。

「もうすぐお別れね。何時でも訪ねてきて良いわよ」

「たぶん、来られないと思います」

「なら、訪ねていくわ。……だいじょうぶよ。状況を確認してから訪ねるから」


 そう言って、俺を近くのテーブルに誘う。コーヒーが運ばれてくると、コーヒーカップで乾杯をした。


「発掘は大成功よ。やはり、ドミニクには運が付いてるのね。10年の同盟期間が過ぎても私は再度同盟にサインするつもりよ」

「そう簡単に見付かるでしょうか? やはり運不運があると思います」

「でしょう? だから、ドミニクと一緒にいることにするの。20年過ぎたら一体何機の戦機を手に入れられるかしら?」

 そう言って微笑みながら俺を見詰める。


「そして、最大のラッキーボーイは貴方ね。この後、どんな事が起きるか分らないけど、貴方の近くにいる限り安心だわ」


 突然、ガリナムの傍を白いものが通り過ぎた。

 デイジーだな。周囲を探索して戻ってきたようだ。ガリナムに片手を上げて挨拶しているようだが、あんなに遠くなっては意味が無いんじゃないかな?


「もう1つの戦姫も使えそうね。あの速度で動くなら巨獣は敵にもならないわ」

 デイジーを見送ったクリスが、ちょっと欲しいような表情を見せる。


 まあ、戦姫1機あれば十分に巨獣からラウンドシップを守れるだろう。少なくとも、この辺りではね。

 さらに北上したり、西に向かったりしたら、どんな巨獣が出てくるか分らないからな。


 クリスが携帯を取り出して、どこかと通話を始めた。

 だいぶ拠点に近付いたからブリッジから、戻って来いって言ってきたんだろう。


「……分ったわ。リオに伝えておく。そして私もそっちへ戻るわ」

 携帯を戻すと、改めて俺を見詰めて笑い出す。


「自分で戻るように言ってるわ。確かに一緒でないと大型クレーンを使わないといけないわね」

「そうですね。まだ見えませんが、2時間ほどでしょう。エアロックがある筈ですから、装甲甲板を貸してください」

「堂々と艦首に立って欲しいわ」


 そう言い残して、クリスは食堂を出て行った。俺もそろそろお暇するか。

 厨房に礼を言って砲塔に向かう。狭い砲塔内を潜って点検口から外に出るとアリスに搭乗した。

 早速、ヴィオラに通信を繋いで貰う。


「ドミニクよ。大漁だったじゃない。新たな戦機を皆が楽しみにしてるわ」

「その戦機なんだけど、1機は少しタイプが違うみたいだ。良くは分からないけど、超レズナン合金反応が全く無い」

「その話を聞いて、母さん達の出発を止めるのが大変だったわ。私達の桟橋にラボの連中を率いてベルッドと対立してるの。全く困った人達ね」


 どちらも戦機については十分な知識を持っている。変わった戦機と聞いてはしゃいでいるのも理解出来るな。


「ガリナムとエアロックを通過する。ホールの置換が終ってるならヴィオラの昇降ハッチを開いといて欲しい」

「了解よ。待ってるわ」

 さて、これで元通りになるのかな。


『マスター……。2機目の戦機を調べていたのですが、あれは、無人機です。そして、自律思考型の電脳が搭載されていますが、基本行動を入力しなければならないようです』

「人が介在しないのか?」


『元々戦機は外宇宙探査用に作られています。初期から入植が可能であれば、人が動かす戦機を使うことになりますが、そうでない場合は、多数の自律行動型の電脳を搭載した戦機を少人数のチームが運用することになります』

 

 戦機には幾つかのタイプがあるという事だな。そう考えると戦鬼も広い意味では戦機になるんだろう。

 だが、人が操縦しない戦機は戦機として役に立つんだろうか? それより、どうやってその機動命令を与えるんだ?


『マスター。マスターならば、あの戦機を動かせますよ』

 アリスの言葉が俺の脳内にこだまとなって滲みていく。

 俺が動かせるだと?

 その言葉が何時までも俺に留まる。


 ふと前方を見ると洞窟がポッカリと開いている。左右にスライドした岩を模した扉が目新しいな。

 投光器が20mほどの距離で繋がっている。

 ぼんやりとした明かりの中をガリナムが進んでいくと、ゆっくりと停止する。

 エアロックのようだ。


 そんなエアロックを2回通過すると、いきなり大きなホールに出た。

 周囲の作業員は、以前のように防護服を着ていない。おかげでホール内の喧騒が聞こえてくるようだ。まだまだ中継点は建設途上のようだな。


 ホールの真中を過ぎた辺りで大きく右に回頭する。

 東のヴィオラ専用の東の桟橋に近付けると、ベラドンナの後ろにガリナムが停泊した。


 直ぐに桟橋の巨大なクレーンが、戦機を装甲甲板から桟橋内の整備工場に運び入れ始めた。

 反重力アシストクレーンだろうが、やはり大きいな。

 

 そんな光景をしばらく見ていたが、早めにヴィオラに結果を報告せねばなるまい。

 慎重にアリスが桟橋を歩いて、ヴィオラの昇降装置に乗り込んだ。

 ようやく、帰ってきた感じがする。明日は1日、ゆっくり寝ていよう。


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