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299 船の名前を忘れてた


 2年後に宇宙空間での試験飛行を行った。

 さすがはカテリナさんとアリスの作った宇宙船だな。全く問題がない。

 現在は、宇宙に出るための資材を積み込んでいる最中だ。

 食料に水。液体酸素などの化学燃料、空気だって液状にしてタンクに詰め込んでいるみたいだ。

 アリスの作る仮想空間に限界はないらしい。次々とアリスが収納していく。

 当座の嗜好品や衣服は4つある船室に入れたんだが、俺の船室はアリスとカテリナさんが一緒だ。

 レイトン夫妻が1つを使ってメープルさんとドロシー達が少し大きな船室を使う。中は2段ベッドが4つあった。1つ余るけど何に使うんだろう?

 さらに1つ船室があるのは予備らしい。


 船室の2倍ほどのリビングは食堂兼用だ。壁際に調理器具が並んでいる。

 その他に洗濯場とシャワー室がある。さすがにジャグジーを作るわけにはいかなかったようだな。


 居住区の上階には指揮所と操舵室が合体したブリッジがある。その後方に電脳室があるのだが、演算よりは記録に重点が置かれたようだ。

 武器の操作は全てブリッジにて遠隔に行われる。

 居住区の真下には4つのラボと倉庫が2つ。ここまでは全て気密区域だ。

 気密区域に準じた区域はカーゴ区域と動力室になる。

 気密化するかどうかは、その時の状況とカテリナさんが説明してくれた。


「ブリッジとリビングに10着、リオ君とラムダの部屋に3着ずつ簡易宇宙服があるわ。生命維持装置の駆動時間は20分だから、それが停止する前に緊急ポットに入るのよ。10人が1日生存できるだけの環境が揃っているわ」


「ワインを積み込んだの? たまにはワインも飲みたいわ」

「2ダース積み込んだそうよ。良いことが会ったら飲みましょう」


 普段は水割りで我慢ということなんだろう。俺の部屋のワインは黙っておこうかな。


「タバコは喫煙室だけだからね。電子タバコをなるべく使って頂戴。複合フィルターの性能が良いから、喫煙室でタバコを楽しむのは問題ないと思うんだけど……」


「医薬品は?」

「一応、緊急用医薬品を3セットというところかしら。ウイルス抗体はラムダも作れるでしょう?」

「それぐらいわね。4つ目のラボがそれなのかしら?」

「医療設備も1式揃えてあるわ。手術も可能よ」


 ほとんど搭載してあるんじゃないか?

 俺の部屋の壁を改造して、ライフル銃や弾薬も揃えてある。騎士団の標準装備だから、操作の難しい銃は1つもない。


「これで搭載するものは全て搭載したんじゃないかしら。歯ブラシまで入れたぐらいだもの」

「化粧品もね。あるとすれば、向こうの世界へ着いた時の換金物だけど、金のブロックが2つに宝石の原石を入れたわ」


「植物の種に、家畜の胚。レイトンは釣竿まで入れたぐらいよ」

「池があれば釣りをしたくなるじゃないですか。ここで覚えたようなものですが、もっと早くやってみたかったですよ」


 俺も持ってたな。部屋に置きっぱなしだから、そのまま持って行けば使えそうだ。


「ノンノの作業が終わるまでは出発できないんだから、再度考えて頂戴。出航したら最後、戻って来られないんだから」


 退屈しのぎに、ゲームや本を買うべきかもしれないな。

 ボードゲームはドロシー達がたくさん買い込んでるみたいだけど、RPGやシミュレーションゲームなら暇つぶしに良いかもしれない。本は文学書を集めてみるか。レイトンさん達は専門書をスキャニングしたみたいだけどね。


 やがて届いたゲーム機やソフト、それに文学書でトランクが1つ出来た感じだ。ゲーム機の1つをリビングに置いておけばドロシー達も楽しめるだろう。

 いくつかのソフトと本を自室の俺専用のボックスに入れると、残りはアリスに預けて亜空間に保存してもらう。


 5日おきに高速艇が荷物を運んでくる。食料の備蓄300年分は半端じゃない量になるようだ。

 亜空間での時の流れが無いということで生鮮食料も保管できる。アリスがいなければそもそも計画が出来なかったんじゃないか?


「明日の便が最後になるけど、忘れ物は無いわよね」

「タオルまで用意したわ。レイトンは整髪料まで購入したぐらいよ」


「だいじょうぶ。マスターの分は私が用意してありますから」

 忘れた! という表情を出してたのかな? アリスが耳元で囁いてくれた。


 うんうんと頷いているカテリナさんはだいじょうぶなんだろうか?

 案外うっかりしているところもあるんだよな。


「衣食住と言いますからね。それが整っていれば問題は無いでしょう。工作装置もあるようですから、必要に応じて作るということも出来そうです」

「そうね。明日は引っ越しで良いかしら。置いて行っても良いものは残しておいても大丈夫よ。私達が出発して10日後に財団の研究者が派遣されると聞いているわ」


 翌日は、朝から荷物の整理と運搬で過ぎてしまった。

 ドロシー達がいくつもぬいぐるみを運んでいる。あの余ったベッドはぬいぐるみ専用なのかもしれない。


「マスターはそのバッグで最後ですか?」

「そうだね……。アリスは荷物が少ないんだね」

「これが最後ですから。昨夜の内に少し運んでいたんです」


 アリスのビキニ姿もしばらくは見られないかもしれないな。宇宙船の中では赤いツナギになるらしい。メープルさんと同じだ。

 ドロシー達はグレーで、カテリナさん達は薄いグリーンだ。ピンクでないなら問題ない。


 その夜はリビングで豪華な食事を取る。

 ここで暮らすのもこれで最後だ。のんびりとお風呂で手足を伸ばし、今夜からは宇宙船の部屋に泊まる。


 何本目かのシャンパンが新たに開けられ、俺達のグラスが満たされる。

 今夜は特別ということでアリスやドロシー達もシャンパンを飲んでいるんだけど、酔うことは無いだろうな。

 二日酔いで宇宙に飛び立ちたくはない。


「さて、食器だけでも片付けましょう。アリス達は先に行ったんでしょう?」

「いなくなってから1時間は経ってるんじゃないかな。どうやら宇宙船の部屋にいるみたいだよ」

 

 仮想スクリーンに表示される各自の位置を見ると宇宙船に纏まっている。メープルさんまで一緒のようだな。


 自動食器洗浄機に、ポンポンと食器を投げ込んだところで、一服を楽しむ。

 明日からは量を減らすことになりそうだ。

 この島にいる間は、ゆっくりと楽しもう。


 火山島最後のお風呂は岩風呂になった。

 カテリナさんとゆっくりと手足を伸ばす。

 まだビールがあったらしく、カテリナさんと奥のデッキで一服を楽しみながらビールを飲んだ。


「明日は、あの空の中にいるのよね」

「どこに向かうか決めたんですか?」


「過去の移民船の航路を調べてみたの。オリオンの腕に沿って何隻もの移民船が地球を出発したそうよ。ここが最後ではなくて、さらに遠くまで移民船は向かったらしいわ」


 どこまでも行ってみるか。

 どこかに俺達を受け入れてくれる恒星系があるかもしれない。


 すっかり酔いが回って動けなくなったカテリナさんを、背中に担いで宇宙船に向かう。

 アリスが整えてくれたベッドにカテリナさんを横にすると、アリスが抱き着いてきた。


「いよいよですね。この惑星に落ちて300年ほどになりました。この惑星から出られないのではと思っていました」

「心配かけたね。本来ならアリスと2人だけだたんだろうけど……」

「おかげでこの体を作ることも出来ました。私はこの世界の暮らしが楽しかったですよ」


 思わずフレイヤ達の笑顔が脳裏に浮かんできた。

 今は中継点の尾根で荒野を眺めているのだろうが、生きていたら一緒に出掛けたかったに違いない。

 だけど、彼女達との子供は世代交代を繰り返してヴィオラ騎士団を大きくしていることも確かだ。

 いつか星の海に自分達で出発できるんじゃないかな。

 

 アリスと体を重ねて眠る。

 明日はいよいよ出航だ。

                 ・

                 ・

                 ・

 出発当日の朝食はハムサンドとコーヒーだった。

 宇宙船の製作場所にある休憩所で頂くことになったのは宇宙船の中で余分なことはしたくないということなんだろう。

 ちょっと前途多難な思いを浮かべたのは俺だけかもしれない。

 これからの準備で簡単な食事というのは理解できるけどねぇ……。


「2時間後の1000時に出発します。ドロシーは航路管理局にこの船の進路を告げて頂戴。ラムダは財団の方をお願い。リオ君の資産はアリスが手続きをしてね」

「カテリナ博士。この船は何という名前なんですか?」


 ドロシーの素朴な質問に、全員の視線がカテリナさんに向けられた。


「えぇ~と……。そうだ! ヴィオラ騎士団の新たな船は全てリオ君が付けたんでしょう? この船もその範疇よねぇ」


 俺に振られてしまった。

 急に言われてもなぁ……。適当に付けるわけにもいかないだろうし。


「そもそもがヴィオラ騎士団によって、今の俺達がいるようなものです。『ヴィオラⅢ』で良いんじゃないですか?」

「そうね。確かにリオ君の言う通りよ。ヴィオラⅡまでは作られたから、三番艦になるのよね。出発を11時に変更します! アリス、急いで艦橋にロゴマークを入れるわよ!」

「了解です!」


 空間が開かれてアリスが現れる。近づいたアリスが大きなアリスに吸い込まれるようにいなくなった。


『マーク用のペイントは?』

「こっちの倉庫にあるわ。何とかなるかしら!」


 やはり肝心なところを忘れてたようだ。


「ドロシー、これで連絡できるよね」

「1100に出発。予定航路はそのまま……。うん、大丈夫!」

 

 のんびりとコーヒーを飲みながらアリスの作業を見守る。

 ここでタバコが楽しめるのも後少しだな。


「財団には連絡を終えましたよ。明日にはこの島にやって来るでしょうね」

「誰も住む人がいないのでは問題ですが、使う人がいるなら安心して飛び立てますね」


「もう忘れてることは無いんでしょうね!」

「うっかりしてただけじゃない。そんなに怒らなくても……」

 

 カテリナさんは昔から問題児だったのかもしれないな。

 ラムダさんがいてくれて助かる感じだ。カテリナさんも少しは自覚しているのかもしれない。この計画にラムダさんを誘ったぐらいだ。


「終了しました。やはりロゴがあると立派に見えます」

 

 アリスが帰ってきて報告してくれたけど、スミレの花なんだよなぁ。フレイヤに連れて行ってもらった農場の畑尾土手にたくさん咲くらしい。

 平凡だけど、誰もがその花を見て笑みを浮かべる。

 初代騎士団長はそんな騎士団を作りたかったのかもしれない。


「残り30分よ。やることをやって、さっさと搭乗しなさい!」


 カテリナさんの大声に、レイトンさんと思わず顔を見合わせてタバコに火を点ける。

 次にタバコの火を点けられるのは何時間後になるのだろう。



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