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296 禁忌を冒してまで


「幽霊じゃないですよね?」

「ちゃんと足もあるわよ。メープル、私の飲み物もお願いするわ」


 メープルさんが席を立って奥に向かった。あの辺りに台所があるのかもしれないな。

 直ぐにアイスコーヒーを持って戻って来ると、カテリナさんの隣に腰を下ろす。


 カテリナさんに間違いはないだろうが、少し若返ってないか? ドミニクよりもわかく見えるんだよなぁ。フレイヤ達と同年代にしか見えない。

 相変わらず布地の少ないビキニを着ているから目のやり場に困ってしまう。


「カテリナさんの研究って、不老不死の研究だったんですか?」

「そうよ。と言っても私達限定になるのかしら……。それぐらいゲノム研究は奥が深いの。少し禁忌にも手をふれたかもしれないわね」


 禁忌というのが穏やかではないな。


「本来起こらない進化を起こした感じね。私の遺伝子は人間だけではないの。植物の遺伝子を一部取り入れたのよ」

「細胞分裂回数の制限を取り除いたんですか?」

「それだと暴走してしまうから、もう1つ遺伝子情報の変化を監視するDNAも組み込んだの」


 完全に人体実験の世界だ。禁忌に手を触れたのではなく、禁忌を犯したと言うんじゃないか?

 だけど情報変化を監視しるDNAなんてあったんだろうか。聞いたことも無いんだが。


「ドミニク達の子供をどうやって作るのかを考えている時に気が付いたのよ。そのDNAはリオ君の中にあったわ。ゲノム解析をしながら突き止めたんだけど、私には無理だった。ラムダに頼んだらすぐに出来上がったわ」


「ひょっとして、メープルさんが最初の試験体ですか?」

「何とかしてくれって頼まれたんだもの……」


 悪びれる素振りさえない。どちらかと言うと、胸を張って答えている。

 メープルさんも笑みを浮かべてるぐらいだから、結果OKということなんだろうか?

 やはり、マッドだと心の中で思うことにした。


「ある意味、リオ君と同じ体よ。リオ君たちはナノマシンの集合体だけど、私は生体ナノマシンの集合体に近いのかもしれない。メープルの場合はハイブリッドのなるのかしら」

「昔と同じに動けるにゃ。これで十分にゃ」


 満足してるなら、問題ないってことなんだろうけどねぇ……。

 2本目のタバコの火を点けながら、少し温くなってしまったアイスコーヒーを飲む。

 

「マスター!」


 聞き覚えのある声に後ろを振り返った。

 どこからやってきた美人なんだろう? カテリナさんの同類にも思えないけど……、今、マスターっていったよな!


「アリスなのか!」

「ええ、ようやく目を合わせることが出来ました」


 ととと、と走って来ると俺の首に手を回して抱き着いてきた。

 カテリナさんより若く見える。健康な娘さんそのものだ。

 俺が座ると隣に腰を下ろして肩に頭を乗せている。アリスはこんな性格だったのかな?


「まるで恋人同士ね。私は愛人で良いわよ」


 カテリナさんが笑みを浮かべているのは、俺で遊ぶ気でいるんだろうな。


「それはともかくとして、もういないんですよね?」

「もう1組がカプセルで身体を構成中。リオ君も知ってる2人だから問題ないはずよ。ところで、リオ君の口座はまだ配当があるんでしょうね?」


 カテリナさんの問いにとりあえず頷いておく。ドミニク達の資産は譲渡しているけど、俺の口座はそのままだ。それを見込んでカテリナさんは資産を俺に移していたのかな?

 たっぷりとあるけど、ここでのんびり過ごすのは直ぐに飽きてしまうんじゃないか。


「次の計画も順調よ。地下で製作中だけど、半分は終わっているわ」

「今度は何を作ってるんですか?」

「小惑星帯までは出掛けたけど、宇宙は広いのよねぇ」

「恒星間飛行に挑もうと?」

「リオ君の夢だったんでしょう? それなら、私達も参加しなくちゃ」


 たぶん小惑星帯に行った時に、この計画は始まっていたんだろう。

 カテリナさんだからなぁ……。それで終わるということを知らないみたいだ。

 

 得意げに新たな宇宙船の説明をしてくれたんだが、これって少し小さくないか?

 巡洋艦クラスにしか見えないんだが、これで大丈夫なんだろうか。


「小さいと思ったのかしら? でもね。体積の三分の一が駆動装置なの。ブラックホールエンジンだから燃料は初期投入で十分なんだけど、2回分の投入量は確保してあるわよ。船体中央部にカーゴ区域。ブリッジ周辺部が生活空間になるわ。長期の航海になるでしょうから、食料や生命維持に必要な物資は2つの倉庫に入れる予定。でも、大部分はアリスの作る亜空間に納めることにしたの。武装はレールガンに荷電粒子砲よ」


 どこの世界に殴り込みに行くんだろう。

 カーゴ区域にはアリスと大型のゼロが設置されている。どう考えてもレジャー船とはいえないんじゃないのか。


「ゼロまで乗せるんですか?」

「ああ、それねぇ。ゼロじゃなくてパンジーよ。ノンノ達が動かすなら生命維持装置はいらないでしょう? それでコンパクト化が出来たの。武装は50mmレールガンが2門あるし、起動は船姫を越えるわよ。アリスには敵わないけどね」


 気密区画は案外小さく抑えているようだ。非常時の待機カプセルも2つ設けてあるから安全度は高いんだろうな。


「先ほど、半分は完成したと言ってましたね。すべて完成するのは何時頃に?」

「アリスが目覚めてくれたし、ドロシー達やリオ君も来てくれたから……、50から100年ほどかしら?」


 しばらくはこの世界で暮らせるということだな。

 子供達もこの世を去っているだろうから、心残りは無いだろう。

 明日から頑張って手伝うことにするか。

                 ・

                 ・

                 ・

 夕食は、魚じゃなかった。メープルさんとノンノ達が作ってくれたのは大きなピザだった。

 ワインを頂きながら久しぶりにメープルさんの料理を頂く。

 明日は私達が手伝うとドロシーとシグが言ってるから、思わず笑みが浮かんでしまう。

 ドロシーは中学生ほどに、シグはドロシーほどの年齢にまで体が成長したようだ。成長と同時にナノマシンのバージョンアップも行ったらしいが、それによってどんな変化があるのかはまだわからないな。


 約束通り、メープルさんにタバコを1カートン渡したら、カテリナさんにも渡すことになってしまった。

 大人買いしといてよかったと思う。


 部屋は俺の隣がカテリナさんらしい。その隣がアリスで、ドロシー達は2つの部屋を確保したようだ。3人部屋らしいからドロシーとシグの部屋にメープルさんが入ると言っていた。

 それでも部屋が2つほど余っているのは、来客を考慮したのだろう。

 カテリナさんも禁忌の実験はさすがに4人で止めたみたいだな。


「お風呂もあるのよ」

 そう言って俺の手を取る。


 アリス達は既に部屋に入っているから、リビングにいたのはカテリナさんと別れた後の暮らしを話していた俺達2人だけだったんだよなぁ。


「熱帯なんですから、シャワーで良かったんでは?」

「ぬるま湯だから問題なし。こっちよ!」


 俺達の部屋が並んだ場所を過ぎると下に下りる階段があった。

 とことこと下りていくと、熱帯の植物が行く手を阻んでいる。その中にある小道を進むと、丸い石を並べた岩風呂があった。

 リビングから見ても大きな空間だと思っていたけど、下は思った以上に広い。

 ここなら誰にも気づかれないんじゃないか?


「さぁ、さっさと入る!」

 

 そんなビキニなら来ても脱いでも変わらない気もするけど、気は心ということなのかな?

 平たい石の上にサーフパンツを脱いで、岩風呂に入る。

 少し熱いんじゃないか?

 少し離れた場所に、石を背にしてカテリナさんが俺を見てる。


「ほらほら、こっちに来る! 昔は散々一緒に入った仲でしょう」

「それは、そうですが……」


 親しき仲にも礼儀あり、という言葉もあるぐらいだからねぇ。

 だけど俺の記憶にあるカテリナさんの姿態とは、微妙に違うんだよなぁ。

 腰ほどの深さのお湯を、俺に向かってカテリナさんが歩いてきた。俺に抱き着いて顔を寄せてくる。


「どう? 19歳の私よ……」

「やはり、体の再構成はそこまで可能なんですか」


「アリスは18歳の姿らしいんだけど、誰の体を基にしてるのかは私でも分からないわ。アリスの記憶の中に、誰かの身体データがあったのかしら」


 聞いても教えて貰えなかったそうだ。

 アリスには色々と秘密があるようだけど、俺の良い友人でいてくれたからね。今後は恋人ということになるんだろうけど。


「やはり、若い体は良いわねぇ。アリスから薬は渡して貰っているはずだけど、少し変えてみようかしら」

「あれをまだ飲むんですか?」

「ナノマシン流出による微量金属元素の摂取は必要でしょう? 甘い飲み薬の方が良いの?」


 子供じゃないんだから錠剤で十分だけど、あの色がねぇ……。

 体が火照ってきたと思っていると、カテリナさんが俺の手を引いて熱帯植物の奥へ向かった。

 上から垂れ下がった蔦を引くと、目の前の壁がスライドする。その先に会ったのは10m四方のテラスだった。

 見渡す限り海が広がっている。上を見れば満点の星空だ。

 

「こっちに座って!」

 声の方向に顔を向けると、デッキチェアーが2つ。その間にパラソルとテーブルが一緒になったものがあった。ここに出た時には無かったはずなんだけど……。


「ここなら満遍なく日焼けができるわよ。誰も気が付かない場所だから」

「趣味に走りましたね……」


 椅子に腰を下ろして、カテリナさんがどこからか取り出した缶ビールを開ける。

 確かに閉鎖空間で暮らすには、こんな場所も必要かもしれないな。

 この島を建設している時に活用したんだろう。

 それにしても……、満天の星空を見ながら岩に波が当たる音を聞くのも良いものだな。


「気に入った? アリスも御気に入りだから、ここで私を抱く時には注意するのよ」

 

 それなら、抱き着かなければ良いんじゃないかと思うんだけどねぇ。

 ずっと1人で寂しかったのかな。

 案外、カテリナさんはロマンチストの面もあるんだよなぁ……。



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[気になる点] 後二人?いったい誰だろう? [一言] ここまで来たら、嫁さん達全員蘇らせたら?
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