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291 騎士団の為にできること


 だいぶ小さくなった気もする。

 横幅8m、長さが20mほどだ。部屋数はダブルが6部屋だからねぇ。

 カタマランではなくなったが、結構速度も出るんだよなぁ。


「あれって!」

「どうやら、兄さん達みたい!」


 無線機を操作していたフレイヤが、驚いたような顔を俺達に見せてくれた。

 船で暮らしているとは聞いていたけど、4本の仕掛けを伸ばしたトローリング船らしい。


「向こうに見える島で会おうと言ってたわよ」

 フレイヤが腕を伸ばして左手に見える島を教えてくれた。

「方向を変える。シグ! 回頭左30度」


 ドロシーの声に、シグがヨットの方向を変える。20ノットほどの速度だから、それほど速くはない。それでも向こうに見える島なら30分も掛からないだろう。


「どうやらベラスコもいるみたい。今日は皆で騒げそうね」

「それにしても、何年振りかしらねぇ」


 皆の懐かしがる声が聞こえてくる。

 昔は、ヴィオランテの海岸でバーベキューを楽しんだものだ。今夜は久し振りにそんなことができるかもしれないな。


 島はそれほど大きくはなかった。それでも大きな砂浜には2つの桟橋があったし、小さなホテルさえ見えてきた。


「どうやら、ベラスコ達が所有している島みたいね。一緒にカンザスに乗り込んでいた騎士達と共同購入したみたい」

「へぇ~、かなり貯えてたのかな」


 フレイヤの言葉に感心してしまった。

 ベラスコというよりジェリルが頑張ったんじゃないかな? 指導したのがアレクだからねぇ……。


 桟橋にヨットを停めると、水着姿で桟橋に下りる。

 砂浜で手を振っているのはベラスコのようだ。すでに連絡を受けていたんだろう。


「よく来てくれました。久しぶりですねぇ」

「ベラスコも元気で何よりだ。ところでアレク達が先行してたはずだが?」


「この島の裏手に専用桟橋を持ってるんです。この桟橋は保養客専用なんですよ。材料はふんだんにありますから、久しぶりに浜で楽しみましょう」


 ベラスコに連れられて砂浜に向かうと、ジェリルがネコ族の男女にバーベキューの準備を手伝って貰っていた。

 フレイヤ達が手伝いに入り、俺とベラスコはヤシの木陰でアレク達を待つことにした。


 タバコを1本楽しむ間もなく、アレクがバギー車に乗って現れた。

 後ろの荷台に乗っている大きなクーラーボックスは、今日釣れた獲物なんだろうか?

 俺達に気付いて、アレクが操縦をサンドラに変わって貰っている。

 そのまま俺達のところにやって来ると、ドカリと腰を下ろした。


「久しぶりだな。ヨットを買ったとは聞いていたが、ずっと釣りをしていたのか?」

「どちらかと言うと、遊覧の旅ですね。いろんな島を巡ってますが、まだまだ行ったことがない島もあるようです」


「まだ始まりませんから、これでも飲んで待ちましょう」


 ベラスコが小さなクーラーボックスから、良く冷えたビールを取り出して渡してくれた。

 プシュッ! とプルタブを空けて先ずは一口。

 夕暮れ近い時間ではあるけど、まだまだ日差しが強いからなぁ……。ビールは糸版の御馳走だと思うぞ。


「それで、どこに行くつもりだったんだ?」

「気の向くままです。あちこちの海に潜りましたよ。釣りもおもしろそうですが、あまりやりませんでした」


「この周辺は、素潜り漁も盛んなんです。たまに潜って突くんですが、ほとんどは中継点に冷凍して送ってますよ」

「俺もそうだな……。フライは食べられるようになったが、魚は余り食べないからなぁ」


 アレクの魚嫌いは、少しは改善されたみたいだ。


「すでに人生の三分の二が過ぎている。ヴィオラ騎士団から貰う報酬が今でも続いているからこんな暮らしができるんだが、他の騎士団員の多くはこんな暮らしができないそうだ。12騎士団でさえ、小さな別荘を持てる程度らしい」


 それだけ、皆が頑張ってくれたおかげなんだろう。資金難で採掘した宝石の原石をアレク達は今でも持っているに違いない。

 それを売るだけで十分に余生を送れるはずだ。


「だが飽きてきたんじゃないのか?」

「そうなんですよ。たまに騎士団の総務に仕事を回すように言ってるんですけど……」


 すでに数十年を遊び暮らしている状況だ。さすがに飽きてきたんだろうな。


「そうですね。俺も似た心境です。ドミニクに頼んでみますか。すでに現役は退いてますけど、騎士団への発言権はありますからね」

「頼んだぞ。そうは言っても、向こうにだって都合があるだろう。俺達が交代してその仕事に就いても良さそうだ」


 シェアするってことかな?

 それも1つの方法に違いない。かつての経験が現状でどれだけ生かせるかはわからないが、ぼんやりと海を眺めているよりも生きがいにはなるだろう。


「そうだ! 思い切って、俺達で漁をするのはどうでしょう?」

「そうは言っても、猟師は漁業ギルドに所属している。そのほとんどが先祖代々からの漁師だ」

「新参者は参加できないと?」


 俺の提案にアレク達が話しを続ける。

 それもあるだろうな。何と言っても畜産と並ぶ有名なギルドでもある。農家よりも参加資格は厳しいということなんだろうか?


「待てよ……。要するに、一般市場に出さなければ良いわけだ。全てヴィオラ騎士団に買い上げて貰うなら問題ないんじゃないか?」

「漁業権とかは無いんでしょうか?」


 ベラスコが心配そうな表情でアレクに問い掛けている。


「網は禁止だな。釣りと素潜りなら問題ない。ギルドの漁業権は大陸から100kmまでだ。この島は既に範囲外だよ」


 沿岸漁業について、ギルド構成員以外の漁業を禁止しているということなんだろう。リゾート客が釣りをしたり素潜りをしたりして獲る魚は対象外と認定しているのだろう。


「だが、ギルドとは1度話をしといた方が良いだろうな。騎士団で消費する魚とすれば向こうも強くは出られまい。上納金は売り上げの2割程度なら許容できるだろう」

「運搬だってありますよ」

「それぐらいは騎士団の高速艇で何とでもなるはずだ。ウエリントン王国と定期航路を作ってるぐらいだからな」


 こんな話だと、直ぐにアイデアが出るんだよな。

 自分達が中継点の食料事情に寄与するとなれば、のんびりと過ごすこともできないだろうが、昔の仲間と一緒なら楽しく過ごせるかもしれないな。

                 ・

                 ・

                 ・

「漁師を始めるですって!」


 バーベキューでお腹を満たし皆でビールを飲み始めた時に、アレクが俺達の計画を女性陣に説明したんだが、終わった時の最初の声が、呆れた口調のフレイヤの声だった。


「まあ、ちょっとした騎士団へのサービスかな。中継点は北緯50度近くにあるんだから新鮮な魚は足りないはずだ。どうにかレイトン博士のおかげで野菜が自給できるぐらいだからね。暇に任せて島巡りをしているよりは張り合いがあると思うんだけど」

「そうねぇ……。退屈している人達もいるんじゃないかしら。ヨットを持っている人達で初めてもおもしろそうね」

「ギルドとの調整もあるんでしょうね。それは中継点の商会にお願いしても良さそうだわ」


 サンドラの言葉に、ドミニクが頷きながら話を繋ぐ。


「今でも騎士団から報酬を受けてるのが何となく気になっていたけど、恩返しも出来そうだし、売値を民生局に寄付しても良いんじゃないかしら」

「寄付は構わないが、俺達の酒代ぐらいは欲しいところだ。少しは励みになるからな」


 アレクが全額寄付と聞いて、自分達への還元尾主張している。

 さすがに全額は無いだろう。俺達の定期的な宴会費用にはなるんじゃないかな。


「確かにおもしろそうではあるんだけど、そんなに獲れるのかしら?」

「1日でこのクーラーボックス1つにはなるだろう。俺達3人でだ。皆で行うなら、毎日クーラーボックス3個分にはなるだろう。仲間が増えればさらに増えるぞ」


 所詮は趣味の延長のような仕事だ。

 ギルドも文句は言わないだろうが漁獲高の上限と参加人数はある程度決めておいた方が良いのかもしれないな。


「アレク、年間漁獲高と俺達の人数を決めといた方が良いと思うんだが?」

「そうだな……。船は10隻で、1日の漁獲を100kgとすれば1tになるんだが、それで暮らそうとは思わんから1か月の出量は10日程度だろう。1か月で10t、年間120tで良いんじゃないか。釣るのは俺達でも、手伝いは必要だ。1隻に10人として100人だが、交渉では150人とすれば十分だ。昔のヴィオラ1艦ほどだな。それと、代表はドミニクで良いんだろう?」


「しょうがないわね。私とレイドラの名前を使いましょう」

「拠点をここにするのは、ちょっと小さいように思えるんですが?」


 ドミニクの答えに、このまま交渉が始まってしまうのを心配したのか、ベラスコが問い掛けてくる。


「150人以上になるはずよ。500人程が暮らせる宿舎も必要かもしれないわ。生憎と、ヴィオランテはあれ以上説bの増築は出来そうも無いから適当な島を借りることも交渉し解けば良いわね。島に必要な設備費用は私達が出しても良いわよ」


 かなり貯えているからね。子供達に譲渡するにしても金額が多すぎるように思えるほどだ。


「そうだ! 他の騎士団にも声を掛けた方が良いかもしれないな。少なくとも12騎士団には枠を与えても良いかもしれない」

「なら、俺が言った数字を2倍にしてくれ。他の騎士団枠は全体で俺達と同数で十分だろう。分配も考えるべきかもしれないぞ」


 俺の提案にアレクが規模の修正を提案してきた。ドミニクが頷いているから、後はドミニク達に任せておけば十分だろう。


 ベラスコ達の島でのんびり過ごしている間に、ドミニク達が王都へ出掛けて行った。

 女性達全員が出掛けたところをみると、王都でのショッピングも計画に入ってるんだろうな。


 ネコ族の娘さん達がいるから食事には困らない。毎日のように朝からビールを飲んでいる。


「上手く行きますかねぇ……」

「俺達の要求以上の成果を持ってくるはずだ。何と言ってもヴィオラ騎士団の名はライデンで知らぬ者がいないからな」

「俺達のヨットも改造しなければいけないんでしょうねぇ……」


 俺の言葉に、アレクがそうではないと説明を始めた。

 どうやら、いまさら改造すればヨットの居住性が犠牲になるとのことだ。当然、女性達は反対するだろうから、せいぜい大きなクーラーボックスを船尾に設ける程度にするらしい。


「ベンチ代わりにもなるから、文句は言わんだろう。釣竿が数本にタモとギャフを船尾の壁に置けば十分だ。それに大物はだいぶ釣ったからなぁ……。美味い魚を釣るように心がければ十分だろう」


 アレクが美味い魚と言うだけで、説得力がなくなるんだよなぁ。ベラスコと思わず顔を見合わせてしまった。


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