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287 メープルさんが里へ帰る?


「やはり、私からになったわ!」


 嬉しそうな顔をしてフレイヤが俺に抱き着いてきた。

 カテリナさんの投薬は、内服薬のカプセルだけでなく、無針注射器による筋肉注射まであったらしい。

 カテリナさんから「さあ、頑張ってきなさい!」と送り出されたらしいけど、別に普通で良いんだよね。

 2日間、ほとんどフレイヤとベッドで過ごすことになったけど、3日目のカテリナさんの検査で妊娠が分かった時は、跳び上がって喜んでいた。

 俺にキスをするとパレスを飛び出して行ったみたいだけど、どこに行ったんだろう?


「たぶん、お母さんのところじゃないかしら。次にアレクに報告かしらね。サンドラかもしれないけど」

「サンドラ達が焦るんじゃないですか?」

「そうねぇ……。1か月もしたら分かるかもしれないわよ」


 妊娠してもしなくてもカテリナさんの診察を受けに来るということかな?


「それで、ちゃんと飲んでるんでしょう?」

「言われた通り、朝に2錠飲んでますよ」

「こっちに変えてくれない?」


 大きなプラスチック容器に濃紺のカプセルがたくさん詰まっている。

 効き目よりも、この色を何とかして欲しいな。何となく体に害がありそうに見えてしまう。

 ラベルは無く、マジックで1日2錠。リオ君専用と書いてある。

 書かなくても、誰も飲もうとしないと思うんだけどねぇ……。


「これで、フレイヤは終ね。次はエミーだけど……、2日後にリオ君のところに向かわせるわ」

 

 仮想スクリーンに映しだされたエミーの身体モニター情報を見ながら、カテリナさんが呟いた。


「それじゃあ、1件片付いたんだから、少し別の計画の話をしましょうか」


 そんなことを言いながら席を立つと俺の腕を掴んだ。

 俺に腕を絡ませながらリビングを出てエレベーターで2階に下りる。歩く先にあるのは、岩風呂だ。

 岩風呂で設計の状況を確認し合うってことか?

 やはりカテリナさんの考えは良く分からないところがあるなぁ。


 10人程なら余裕で入れる岩風呂で体を重ねながら、仮想スクリーンの画像を眺める。

 カテリナさんが結構動くから、俺の体から落ちないように抱きしめるんだけど、やっぱり動くんだよなぁ。

 ドミニクがおとなしいのは父親譲りに違いない。


「アリスのおかげで詳細設計まで進んだわ。この状態でリオ君と再度見直したいんだけど……」

「やはり白鯨に似ていますね。これでラグランジュポイントを往復することになるんですが、飛行時間と居住区の生命維持装置の稼働時間は問題ないんでしょうか?」


『片道2日間ですが、燃料は重力アシスト核融合炉を使いますから、10往復は可能です。生命維持装置は20名の乗員が1週間過ごせるだけの補給タンクを設けました。緊急用酸素発生装置は、20名で12時間です』


 仕様説明はアリスのようだ。アリスが監修しているなら大きな問題はないんじゃないかな。


「宇宙船の制御と機関要員は?」

『ブリッジ要員は3人ですが3当直で行います。機関要員は5名を想定しています』

 

 余裕代はあるということか。

 

「生命維持装置の多重化をしてくれないか? それと、この機体を本当に3人で動かせるの?」

『フレイヤさんは1人で操縦してますよ。駆動システムと制御システムはパンジーと同じです』


 確かにそうだけど、大きさが全く違うんだよなぁ……。


「私からは特に無いわ。リオ君の心配症に答えれば十分だと思う。施工設計に移ってくれない?」

『了解しました』


 仮想スクリーンが閉じられ、岩風呂に虫の声が聞こえてきた。

 第2離宮の庭からサンプリングしたものだけど、やはり風情があるな。


 カテリナさんが俺から離れて、岩風呂の中で向き合う形になった。

 さっきの宇宙船について素朴な疑問が湧いたので聞いてみようかな。


「ところで、疑問というか分からないことが2つあるんですけど」

「あら、何かしら?」


「宇宙船をどこで製作するんですか? それと名前があれば教えてください」

「あら、教えてなかったかしら。軍の工廟でユニットを作り、西のオアシスで組み立てる計画よ。3隻作るし、西のオアシスに作る拠点に発着場を作るの。宇宙船の名は、『アルゴー』と命名するつもり」


 ギリシャ神話から取ったんだろうな。ライデンでは故郷の神話ということになっているようだ。


「そこで、フェダーンから注文が出たのよ。安価にオアシス拠点を防衛する手段を考えて欲しいとね」

「軍の艦隊も停泊してるんじゃないですか?」

「結構、出動する頻度が多いらしいわ。できるなら点検修理で停泊させたいぐらいとの話よ」


 それだけ騎士団が西で活動しているということなんだろう。

 とは言っても、安価の目安が分からないな。


「スレイプニールを越えないぐらい?」

「その三分の二程度なら問題ないんじゃないかしら?」


 カテリナさんの答えもあいまいだな。

 そうなるとどんな形になるんだろう? おもしろそうだから少し考えてみるか。


 岩風呂を出ると、そのまま執務室に向かう。

 カテリナさんは3階に向かったからパンドラと遊んであげるのかな?

 メープルさん達がいつも抱っこしたりしてるんだけど、ドロシーが戻ると渋々手渡しているように思える。

 ライムさん達もお年頃なんだろうから、相手を探しても良いんじゃないかな?


 執務室に届けられた書類を分類して、報告書はさっさと目を通してサインをする。

 問題は俺の意見を求める書類の方だ。

 じっくりと考えないと、とんだことになりそうだからね。


「頑張ってるにゃ」

「一応、領主ということになってますから、それなりの責任があるみたいです」

「適当にやっても、長期的に見ればどうにかなるにゃ」


 メープルさんの考えでは、全て長期的には対応せざるを得ないということなんだろうな。それが早いか遅いかの違いでしかないということか……。

 そんな考えで適当に処理する領主もいないわけではないってことなんだろう。それも1つの考え方だけど、やはり対処の優先順位ぐらいは決めてあげたいところだ。


 メープルさんが運んでくれたコーヒーを飲んでいると、俺の前に立ったメープルさんが何か言おうとして戸惑っているようだ。

 また、嫁さん達の奇行に対するお小言なんだろうか……。


「……だいぶライム達もマシになってきたにゃ。リオ様とも遊べたから楽しかったにゃ。そろそろ里に戻るにゃ」

「帰ってしまうんですか?」


「体が言うことを効かなくなってきたにゃ。自分の体は自分が一番分かるにゃ」

「休養ならば許可しますよ。俺は何時までも一緒にいて欲しいですからね」


 俺の言葉に涙ぐんでいる。

 かなりの高齢と聞いたこともあるから、ここを去れば2度と会えなくなってしまいそうだ。


「きっと、また会えるにゃ。それじゃあ、しばしのお別れにゃ」

「ご苦労様でした。いつまでも待っていますよ」


 席を立ってメープルさんに深々と頭を下げる。

 俺の仕草に、ぺこぺこと頭を下げているけど、俺達の周囲を見てくれるのがライムさん達だけになってしまうな。


 メープルさんが部屋を出る前に、もう1度深々と頭を下げて去って行った。

 故郷に戻って、死を待つだけになるのだろうか。

 大量の名のマシン投与は、メープルさんの人生にとって幸せだったのだろうか……。

 ある意味、人体実験だったのかもしれないな。

 それを行ったのがカテリナさんではないことは確かなんだけどね。


 書類を置いて、タバコに火を点けた。

 ゆっくりと天井の換気扇に吸い込まれる煙に目を向ける。

 何もしてあげられない自分に腹が立ってくる。今までの貯蓄で老後は安心して暮らせるのだろうが、寂しい老後を送ることになるかもしれないな。


 その夜。夕食を運んできたのはライムさんだった。

 フレイヤが気が付いて、メープルさんのことを聞くと、故郷に帰ったとの返事が帰ってくる。


「ずっといてくれると思ってたんだけどなぁ……」

「貴方達の周囲を守っていたんだけど、役目が終わったと思ったんでしょうね。でも、その間は、ライム達を鍛えてくれてたみたいだから、安心していいわよ」


 やはりカテリナさんは知っていたみたいだな。

 とは言え、急な話だった。


 翌日。執務室にコーヒーを運んでくれたのは、カテリナさんだった。

 2人でコーヒーを飲みながらカテリナさんが真相を教えてくれた。


「内臓の壊死が始まったの。かなりの強化をしていたらしいんだけど、さすがにこれ以上体が持たないことは本人も分かっていたみたい」

「それじゃあ……」

「1週間は持たないかもね。メープルの遺産は親類がいないから里に還元されることになるわ」


 あれほど俺に迫れるのに……。

 思わず天井を仰ぎ見た。


「慣れなさい。直ぐに慣れろとは言わないけど、いずれフレイヤ達も貴方の下から去っていくのよ」

「でも子供達は俺達の意思を引き継ぐことになるんですよね。それが人類発展の理由なんでしょうけど」


「親の代で出来なかったことを子供や孫が実現する。確かにそうなんでしょうね。私の研究の意思はパンドラが引き継いでくれるかしら? アリスなら引き継いでくれるでしょうけど……」


 天才の子が天才とは限らないということなんだろう。

 それも理解できることだ。だけど、世界は広いからなぁ。カテリナさんの意思を引き継ぐ人物が現れないとも限らない。


「世代交代が進めば、リオ君の直系でもリオ君と意見が合わないことになるはずよ。その時はアリスと私のラボに来なさい。暮らしに困らない設備をそれまでには用意しておくわ」

「あの島を財団に管理させるのはそんな理由があったんですか?」

「当然よ。いつまでもパレスで暮らせるわけではないでしょう? 精々孫の世代まででしょうね。妻の遺骨はあの島に持って行けば良いわ。レイドラが最後まで一緒にいてくれるでしょうけど、龍神族だって寿命はあるのよ」


 それが俺の唯一の課題でもある。

 死ぬことがない……、この容姿をいつまでも保てるのだ。

 だけどその時には、この恒星系から旅立つのも1つの方法じゃないかな。

 アリスが一緒だから寂しくはないだろう。どこまでも人類の移民船の後を追いかけてみるのもおもしろそうだ。


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