282 フェダーン様の相談事
「これ、良く撮れてるでしょう?」
フレイヤが皆に、サーフィンの光景を映した画像を大きな仮想スクリーンに映し出して悦にいっている。
確かに良く撮れてる。フライヤがポーズを取った後ろには大きな波が青空にそびえて、その上にはサーフボードから放り出されたローザが大の字になって空を舞っている。
波の中ぐらいの位置をフレイヤの方に向かって滑っているのは俺なんだが……。
「フレイヤって、こんなに上手かったかしら?」
ドミニクの疑問に、皆が頷いている。
「失礼な! ちゃんと立ってるでしょう」
「確かに立ってるわねぇ……。フレイヤ、こんな画像もあるんだけど」
カテリナさんが映し出した画像を見て、皆が呆れた表情をしている。
合成ではないけど、フレイヤがボードに立っている場所は、ほとんど波打ち際なんだよなぁ。ネコ族のお姉さんが俺達の画像を撮っていたらしいだけど、その中の1枚が、先ほどフレイヤが皆に見せた画像だ。
10m程離れた場所だと、直ぐにバレてしまうんだけど、嘘は言ってないんだよね。映像のマジックということなんだろうな。
「もう! ばらすことないでしょうに。でも、よく撮れてるから部屋に飾っておくの」
「しょうがないわね。でも、ちょっとしたカメラアングルでこんな画像が撮れるんなら、私も行ってみようかな?」
クリスの言葉にレイドラが頷いている。
「我は反対するぞ! あのような姿は不敬罪ものじゃ!」
「でも、空に飛んで行ったんでしょう?」
「まぁ、そうなんじゃが……」
ローザとしては残したくない画像なんだろう。だけど、ローザに子供が出来たら、是非とも見せてあげたい気もするな。
「明日は釣りに行くぞ! ベラスコにあんな大きな魚が釣れたのじゃ。我ならもっと大きなものが釣れそうじゃ」
アレクの竿を借りたベラスコが60cmを越えるタイを釣り上げた。夕食にカルパッチョになって出てきたんだけど、釣り上げたベラスコはジョエルと一緒に大きな笑みを浮かべていたらしい。
今日の出来事と明日の予定を放しながらワインが進む。
ローザの婚約者はウエリントン王国の伯爵家の長男ということだ。リックと呼んでくださいと丁寧に話してくれたから、貴族風にとらわれぬ人柄のようだ。ローザの良き理解者になってくれるだろうし、現在はアンゴルモアの艦長をしているというんだから将来は有望なんだろうな。
「それで、会議の方は?」
「3王国とも、軍の拠点を1つずつ、民間のヤードを2つ閉鎖して対応してくれるそうです。それに、プラスすることの各国の商会からの派遣者各々60名。合計で1300人程を派遣して頂けることになりました。
ラグランジュポイント衛星には300人程とこちらから言いましたから、西のオアシス拠点と衛星の2カ所で働く形になります。
資金と資材の調達については明日の会議で再度調整しますが、私達の資金は2割程度になりそうです。
それと、3王国の要望として、貨客船に出来ないかと……。リバイアサンの放送で、宇宙に行きたいとの要望が高まっているようです」
「それで、商会も絡んできたのね……。リオ君、少し考える必要が出てきたわよ」
「まぁ、人員の輸送に余裕を持たせる形になるんでしょうね。500tカプセルを美味く使えば人員移送は問題ないでしょうが、資材運搬の頻度が上がってしまいそうです」
500tカプセルのタンデム搭載を考えていたんだが、やはり根本的な見直しが出てくるのかなぁ。
明日は遊びを止めて、ハンモックに揺られながら少し考えてみるか。
夜が更けてきたところで、皆が自室に戻る。
一服を終えて部屋に戻ると、ローラとオデットが出迎えてくれた。
そのまま拉致されるようにジャグジーに向かう。
やはり妻が多いというのは問題だと思うな。ハーレムは男のロマンなんて言ってる奴が羨ましくなってくる。
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休暇3日目の朝が来た。
俺が目を覚ました時には、2人の姿がどこにもない。
すでに着替えて去って行ったのだろうか? ベッドを抜け出してシャワーを浴びていると、2人が乱入してきた。
どうやら、テラスで朝の空気を楽しんでいたらしい。
汗を流しに来て汗をかくという不思議な体験を終えたところで、部屋に戻って着替えを済ます。
リビングに3人で向かうと、メープルさんがコーヒーを持って来てくれた。
「またお願いするにゃ」
「次はメープルさんを担いできますよ」
「出来たら良いにゃ」
俺の言葉に笑みを浮かべている。やはり強敵だ。
「王宮が、よくもメープルさんを手放しましたね」
「すでに老境にゃ。リオ様のお相手がどうにかできるにゃ」
たぶん今でもウエリントンで一番強いんじゃないかな。とはいえ、次の世代にバトンタッチしたのだろう。いくら強いと言っても、最後まで仕事をさせようとは王宮も思わなかったんだろう。
だけど、俺達のメイド長になってるんだよなぁ。その辺りをメープルさんはどう考えてるんだろう?
「孫は大きくなってしまったし、近所の子供相手に暮らしてたにゃ。ここは孫より手のかかる連中ばかりだから退屈することがないにゃ」
心を読まれたかな?
俺の疑問の答えが返ってきた。
それにしても、孫より手が掛かるって……、俺のことじゃないよな?
俺とメープルさんの会話に笑みを浮かべたローラ達がメイクを終えてテーブル越しの席に着く。
やはり美人だよなぁ……。よくも俺のところに来てくれたものだ。
「どうしました? 私達の顔に何かついてます?」
互いに顔を見合わせて確認している。
「いや、改めて美人だと思ってね」
「まぁ!」
嬉しそうに微笑んでくれた。
フレイヤだと当たり前でしょう! と言うんだけどね。
「今日も会議になりますが、フェダーン様は単独でリオ様とお話をしたがってましたよ」
「何だろう? ヨルムンガンドに問題は無いと思うんだが」
「新たな軍の創設とか言ってました。今日の予定が無ければ午後にでもセットしますけど」
ローラ達の会議は衛星の運用管理の筈だ。フェダーン様にとっては退屈な話になるのだろう。
とりあえずOKを出しておく。
都合が悪ければヤシの葉陰でハンモックに揺られて過ごそう。
せっかくの休暇なんだから、何もしないでぼんやり過ごしたいんだけどねぇ……。
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「済まんな。せっかくの休暇なのに、私に時間を割いてもらうことになって」
ホテルの裏にある庭園の一角に小さな東屋がある。
その東屋で、フェダーン様と2人でトロピカルジュースを頂きながら過ごすことになってしまった。
さすがウエリントン王国のお妃様だ。美人だけでなくビキニ姿も良く似合う。
こんな場所を盗撮されたら、明日のゴシップニュースに皆が飛びつくかもしれないな。
「それで、どんな話なのでしょう? フェダーン様と俺だけとなれば、変な噂も出てきそうで怖くなります」
「そうか? 私はそんな容姿ではないと思うのだが? リオ殿は我のような女性が好みだったのか?」
斜め上に捕らえられてしまった。
決して嫌いやないし、ストライクな肢体なんだけどそれを口に出したら大戦争がはじまりそうだ。
トロイヤ戦争の原因は俺だって知ってるんだからね。
「好みではありますが、高嶺の花でもあります。今日はお目に掛かれただけで満足です」
「我は構わぬが、他の目ではそうもいかぬであろうな。3王国の王女で満足することだ」
そう言って笑みを浮かべている。
悪い気分では無さそうだから、そろそろ本題に入ろうか。
「ローラ達から新たな軍を創設すると聞いておりますが、すでにヨルムンガンドの運用で3王国の連合化は出来ているように思えます。今更あ新たな軍の創設は必要ないのでは?」
フェダーン様は俺に笑みを浮かべたまま右手の指を上に上げた。
ここで天上天下唯我独尊という話ではないよな。となれば……、フェダーン様の指先をジッと眺めその先に視線を移した。
「まさか宇宙軍と!」
「そのまさかだ。航路管理局との会見を確認した。リオ殿ははっきりと防衛用の衛星の話を相手に告げているぞ。リオ殿が防衛衛星作りを直ぐに始めるとは思えぬ。それに人員不足は聞いている。となれば、我等が協力することになると思うのだが?」
荷役をメインにした衛星を航路管理局に併合されかねないと思って口に出した防衛用の衛星なんだが、3王国が興味を持ってしまったか……。
「何も起きないかもしれませんよ」
「軍とはそういうものだ。本来は抑止力として設けるものだと思っている。リオ殿の中継拠点の防衛隊も抑止力の範囲を越えていないのでは?」
抑止力というより、巨獣対策の防衛隊なんだけどね。戦を考えたことは無かったな。
だが、約定の範囲内だから設けることは可能だろう。
作れば航路管理局の戦闘艦も近づく可能性が少なくなるはずだ。
ここは3王国の思惑に乗っても良いかもしれないな。
「ラグランジュポイント周辺宙域の防衛が目的ですよ!」
「無論だ。3王国とて、かつての対戦を経験している。宇宙に王国軍を送ることでかつての留飲を下げたいのだろう」
小型の防衛衛星と、小型戦闘艦。それに貨客宇宙船の救助船を考えれば良いのかな?
カテリナさんだと、攻撃衛星を作ってしまいそうだから、俺とアリスで考えなければなるまい。
「ところで、どれぐらいの軍を想定してるんでしょうか?」
「王国間での調整は必要だろうが、各王国とも1個中隊以上は確実だ。私の一言で3個中隊が直ぐに集まるぞ」
「できれば、工廟の協力も欲しいですね。カテリナさんは友人に居住ユニットの製作を依頼しています。それを運ぶ宇宙船はこれからになりますが、案外早くできるんじゃないかと」
「王国直営の工廟が利用できるだろう。それはこちらで調整できる。詳細設計をだ知って貰えば形に出来る連中だ。ヨルムンガンドも形になったのだからな」
ヨルムンガンドを製作した連中なら腕も良いだろう。
少しは安心できそうだ。
互いに手を伸ばして、握手をした時だった。
「あらあら……。リオ君、ダメよこれ以上増やしたら」
一番見つかっては不味い人に見られた感じだ。