281 たまたま上手く行ってるだけなのか
盛大に焚き火を作ってネコ族のお姉さん達がその周りを囲んでダンスをしている。フォークダンスのような感じにみえるな。直ぐにローザ達が飛び入り参加してるし、フレイヤ達も一緒に騒いでいる。
嬌声を聞きながら、俺達はひたすら肉や魚に野菜を焼いている。そろそろ食べようかと思っていると、ライムさん達がトングでどんどん取って行ってしまうんだよなぁ……。
とりあえず少し温くなったビールを飲みながら次の肉を鉄板に乗せる。
「俺達は何時になったら食べられるんですかねぇ……」
「まだまだ肉や野菜があるじゃないか。早めに魚を焼いてしまえば良い」
ベラスコのボヤキを、アレクが慰めている。
アレクとしては早めに魚を処理したいらしいが、俺の後ろのクーラーボックスにたっぷりと入ってるんだよなぁ。無くなることは無いと思うぞ。
「少し釣りすぎたかな? 明日は俺達も潜ってみるか!」
「それなら俺達が釣りをしてみます。少しは自信がありますからね」
「おお! 俺達に迫るつもりか。釣りの奥は深いんだぞ。そう簡単ではないんだ」
素潜りで水中銃を使うのも難しいと、俺には思えるんだけどなぁ。
ひょっとして、明日は漁果が半分以下になるかもしれない。ライムさん達に恨まれなければ良いんだけどねぇ。
「それで、リオは何をするんだ?」
「そうですねぇ。南の浜の波が俺を呼んでいるような気もします」
「サーフィンですか! 俺もやってみようかな」
「彼女がサーファーの雑誌でも見てたのか? あれは直ぐにできるとは思えないんだが」
確かに難しい。
俺の場合はズルして覚えたようなものだからね。
「ローザはかなり上手いんだよね。フレイヤ達と一緒に、教えて貰えば良いんじゃないかな」
「フレイヤさん達とですか! そうですねぇ。ジェリルと相談してみます」
「おいおい、相談ではなくて連れてけば良いんだ。そんなことだと尻に敷かれるぞ」
アレクの言葉に苦笑いをしながら頭を掻いているから、すでに手遅れということなんだろう。
それでも、2人一緒に楽しめるなら良いんじゃないかな。
2時間が過ぎると、さすがに俺達が焼いた肉や魚を取りに来る人がいなくなった。
この時間を利用して急いで取り皿に料理した品を取り置いて、残りを一気に焼くことにした。
早めに食べてしまおう。ネコ族のお姉さん達がお腹を空かして殺到しそうだからね。
30分後の大騒ぎを終えると、さすがに疲れて砂地に寝転がる。
「明日も、こんな感じになるんですかねぇ」
「たぶん明後日もだな。リオ、ドミニクに1日おきにしろと伝えてくれ。俺達の実が持たないぞ」
「ですね。1日というより中2日を提案してみます」
タバコを加えた3人が寝転がっているのを誰も気にしてないようだ。
渚の方から嬌声が聞こえてくるから、夜の海で遊んでいるに違いない。
「こうやって寝転んでいると昔のヴィオラを思い出しますね。入団して直ぐでしたが、俺は直ぐに馴染めましたよ」
「騎士団は色々だ。俺達はたまたまうまく言っているんだろう。零細騎士団の連中は北緯40度を超えるのも大きな決断がいるらしいからな」
たまたまなのかはわからないけど、確かに上手く行きすぎているようにも思える時がある。
それも運命ということになるんだろうな。
「ほらほら、こんなところに寝てないでホテルに戻る! 皆、帰って行くわよ。あんた達がここに寝てると片付けられないでしょうが!」
フレイヤの理不尽な文句に、反論も出来ずに体を起こす。
パタパタと体の砂を払ったところで、3人でハイタッチ。手を振って別れた俺達をフレイヤが呆れたような表情で眺めてるんだよなぁ。
「ちゃんと食べたの?」
「それなりに……。でも帰ったら、何か摘まみたいね」
「ちゃんと頼んであるから、早く帰りましょう」
それなりに俺達の働きを評価してくれてるのかな? 同じようにアレクやベラスコ達も帰ったならシレインやジェリルが用意して待っているに違いない。
こういうのを飴とムチというのだろうか?
スイートルームに到着すると、全員が揃っている。リビングのソファーに座って、ワインを飲んでいるようだ。
空いているソファーに腰を下ろすと、メープルさんがコーヒーとサンドイッチを運んできてくれた。
パクついていると、ドミニクが問い掛けてくる。
「それで、どうだったの?」
「3王国の援助は確定だ。至近や資材援助もしてくれるらしい。もっとも、ラグランジュポイントに作る衛星だけで、小惑星帯に作る拠点は話していない。あっちは俺達で作るべきだろう」
「それで母様達がやって来るのですね。細かな交渉は私達で行ってもよろしいでしょうか?」
エミー達の申し出にドミニクが頷いているから、俺は解放されるようだ。
ようやく自由な時間が取れると思うと涙が浮んでくる。サンドイッチのマスタードが効いているんだろうか?
「1つ確認したいんだが、ドミニクの実家の権利と俺達の小島を好感した様な話をカテリナさんに聞いたんだけど?」
「資金援助も含めてだから交換に応じたわ。あの土地に私は愛着は無いし、この島と中継点があるんですものね。老後はこの島に別荘を作って皆で暮らすつもりよ」
ドミニクの言葉に皆も頷いているから、すでに合意は出来てるということか。なら何の問題もない。
「さて、今夜は私達で良いのよね!」
フレイヤとエミーが立ち上がると、コーヒーを飲んでいた俺の両脇を抱えるようにしてソファーから立ち上がらせた。そのままジャグジーに向かって歩き始めたんだが、俺は宇宙人じゃないんだからね。ちゃんと1人で歩けるぞ。
そのまま大きなジャグジーに入ると、周囲からお湯が入ってくる。
水着を脱ぎ去り、2人が俺の体を合わせてきた。
部屋の明かりが消えると、満天の星空が天井に現れる。このジャグジーにも色々とギミックが付いているようだ。
ジャグジーで濡れた体を照らすに出て乾かす。
タオルを巻かずに、ジャグジーから出たままでベンチに腰を下ろし、ワインを楽しんだ。
まだ浜辺を歩く人もいるようだ。2人だけだから恋人同士なのかな?
そんな光景を見ながら潮騒の音を聞く。
時間がゆっくりと進んでいるように思えるな。
「リオ様の明日の予定は?」
「南の浜でサーフィンをしようかと思ってるんだ。ローザ達もそっちで遊んでるんだろう?」
「私も同行してよろしいでしょうか?」
「構わないよ。フレイヤもどうだ!」
「そうね。少しはできるんじゃないかな」
その自信はどこから来るんだろう? 前にやった時には波間でぷかぷかしてたんだけどなぁ。
冷えた体を、再びジャグジーで温めて先にベッドに入った。
今日の出来事を振り返ろうとしていると、いきなりフレイヤが飛びついてきた。
まるで肉食獣のような身のこなしだ。
直ぐにエミーもやって来るに違いない。やはり俺の睡眠時間は短いものになりそうだな。
翌朝。目を開けると2人が俺にしがみ付いている。そっと手を外してベッドを下りて軽くシャワーを浴びた。
あちこちにフレイヤとエミーの詰めの跡があるけど、深いものじゃないから直ぐに消えるだろう。
サーフパンツにTシャツを着てサンダルを履いてリビングに向かう。
窓辺のソファーに腰を下ろして一服を始めると、メープルさんがコーヒーを持って来てくれた。
大きなマグカップに底が見えるほどの薄いコーヒー。飲むと甘さが調度良い。
「ありがとうございます」
「朝食は、皆が起きてからにゃ。いつも9時を過ぎてしまうにゃ」
困った連中だと、メープルさんの目が言っている。
とりあえず頭を下げておこう。一応、俺を国王とした王宮の縮図のようなものになるのだろうが、生憎と全員がその自覚を持っていない。
休日はのんびりを決め込んでいるんだろう。
「どうにゃ。今なら浜辺に誰もいないにゃ?」
「試合じゃないですよね。軽い運動程度ならお付き合いします」
俺の言葉に、慢心の笑みを浮かべてうんうんと頷いてくれた。
軽い運動なら、アリスのアシストが無くてもだいじょうぶだろう。
まだ、カポエラは覚えているはずだ。
脳内にアップテンポのリズムが浮かんでくる。うん!これならだいじょうぶじゃないかな。
競泳用の水着のようだけど、よく見るとセパレートなんだよな。フレイヤ達もこれぐらいおとなしめの水着が良いんだけど、皆で布地の少なさを競ってるんじゃないかと思いたくなるようなビキニを着こんでいる。その内に波でポロリが起きそうで心配になってしまう。
その点、ジェリルはフレイヤの水着が2着は作れそうなビキニだった。せめてあれぐらいなら良いんだけどねぇ。
エレベーターでエントランスに向かい、ホテルの玄関を出ると直ぐに砂浜が広がっている。
下げ潮なんだろう。だいぶ沖まで砂浜が広がっていた。海水で締まった砂がちょど良い。顔を合わせて頷いたところでサンダルを脱ぎ捨て波打ち際に走った。
メープルさんはどこだ? と顔を向けようとした時だ。
朝の空気を斬り裂くような回し蹴りが顔面に迫って来た。思わず体を落としてやり過ごしながら、腕を支えに体を捩じりながらメープルさんの足を刈に行った。
「中々にゃ。裏の連中なら最初で勝負がついてたにゃ」
「軽い運動って、言ったじゃないですか!」
「軽い運動にゃ。でもリオ様から聞こえてくる音楽で体が動いてしまうにゃ」
そう言えば、前にもそんなことを言ってたな。
なるべく怪我をしないように動き回るしかなさそうだぞ。
低い姿勢で体を前後に動かしながら近づき、回し蹴りが俺に襲いかかる。
反対方向に体を捻りながら回避するのがどうにかできるだけだ。前回は戦闘モードに移して対峙したんだけど、今回はそこまでしなくとも良いと思ったのが間違いだったのかな?
だからと言って、アリスの救援を今更求めるのも大人げないし……。
「隙ありにゃ!」
メープルさんの回し蹴りをどうにかやり過ごしたところでもう1本の足が俺の側頭部に食い込んだ。
視界が急激に暗転する……。
「……どうやら、気が付いたみたいね。ほら、ちゃんと目を覚ましたでしょう。メープルと遊んでただけだから、それほど打撃は受けていなかったみたい」
「う、う……うん。あれ? いつからカテリナさんはいたんですか?」
俺の問いに、呆れた表情をしている。どうやらソファーでカテリナさんに膝枕をされているようだ。いつものようにきわどいビキニを着ているから、下から見上げるとまるで裸のように見えてしまう。
「リオ君を探してたら、メープルがリオ君を担いできたのよ。側頭部を痛撃させてしまったと言ってたけど、今回は手を抜いたわね?」
「軽い運動だと思ってましたから……。それと、あくまで運動でのハプニングですから、メープルさんは悪くはないですよ」
「そうね。生身でメープルとするのは問題よ。私からメープルにはいつものことだと伝えてあるからその点はだいじょうぶよ」
いつものことって、何だろう?
思わず考えてしまった。
「気が付いたかにゃ? 申し訳ないにゃ。つい、何時もの癖が出てしまったにゃ」
「こちらこそ、すみませんでした。ちょっとした油断がこの結果ですから、今度は油断しないで行きますよ」
うなだれていた表情が急に明るくなった。尻尾まで嬉しそうに振られている。
悪い人じゃないんだけどねぇ。ちょっと力がありすぎるのが欠点なんだよね。
カテリナさんの膝から頭を上げて、ソファーに座り直す。
メープルさんが持って来てくれた冷たいジュースを頂きながら時計を見ると、10時近くになっている。
今日は、サーフィンを楽しむんだったな。上げ潮はまだだろうから、少し早めの昼食を取って出掛けてみよう。