表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/300

275 強化人間だと思われたかな


「これは……、派手にやりましたな」

「一応、正当防衛の範囲です。襲うなら相手を良く調べてほしいですねぇ。アリスをこの区画に残しますが、調査はしないほうが良いですよ。放射線、電磁波を浴びせると攻撃と判断してこの衛星を破壊するようにしておきました。もちろん分解などは論外です」


 入ってきた男性は、惨状に目を見開いていたが、私の言葉に頷いてくれた。

 

「伝えておきましょう。それでは、私についてきてくれませんか?」

「武器の携行は必要ありませんよ」


 隣の女性がやんわりと断ってきたけど、こんな連中もいることを考えると断った方が良さそうだ。


「一応騎士ですから、武装は外しませんよ。物騒な出迎えもありましたから、自衛手段として黙認してください」

「使いどころは心得ているということなら問題ないでしょう。それでは、ご案内いたします」


 水掛け論では負けると悟ったらしい。

 2人の後ろを歩いてエアロックをさらに1つ抜けると、通路が遠くまで続いていた。

 ずっと歩くのかと思ったら、すぐにエレベーターホールが現れた。この通路には一定の距離でエレベーターホールがあるようだ。

 2つあるエレベーターの1つに乗り込んだが、床面積が4m四方ほどありそうだから2個分隊を一度に運べそうだな。

 15と表示があるが、到着したエアロックはほぼ赤道面だったから少なくとも30階層はあるのだろう。

 全体の床面積を合わせるとちょっとした町よりも大きいかもしれない。


 表示された数字が減っていく。10の数字で止まったところでエレベーターホールに出たのだが、最初に乗った通路と同じような通路が左右に延びていた。

 よくも迷子にならないものだと感心してしまう。


「この先になります。ミレーネ様がお待ちです」


 男性が教えてくれたけど、窓もないから全くどのあたりを歩いているのかもわからない。

 会談を終えたら、アリスのいるエアロックまで案内してくれるのかと不安になってきた。

『迷ったら亜空間移動をすれば問題はありません。制御は私が行います』


 俺の心配を無くしてくれた。確かにそれも使えるんだよね。最悪手段として外壁まで破壊しながら出ることはしなくても済みそうだ。


 先を歩く2人が、急に立ち止まる。扉があるから、ここが会見場所ということになるのかな。

 男性が扉を軽く叩くと、扉が開く。


「リオ殿をお連れしました。少しエアロックで問題があったようですが、リオ殿はご無事です」


 部屋の中に向かって話をしていた男性が俺に顔を向ける。


「どうぞお入りください。運行管理局ライデン支局の局長がお待ちです」

「案内、ありがとう」


 2人に感謝の言葉を掛けたところで部屋の中に足を踏み入れた。

 年代物のテーブルは木製だな。10人程度の会議を想定しているのだろう。

 部屋の右手に2人の男女が座っていた。女性はミレーネさんだが隣の初老の男性は初めて見る。局長がいると言っていたから、彼がそうなのかもしれない。

 扉を閉めようとして振り返ると、2人の男性が立っている。護衛ということかな? ご苦労なことだ。


「お久しぶりですね。どうぞお掛けください。隣はこの衛星の総責任者ドレイク様です」

「呼び出しを受けてやってきたんだが、その理由を聞きたい。こちらも採掘で忙しいところだからね」


 席に座りながら話をすると、老人が鋭い視線を俺に向けてきた。


「救難信号、その後の救助報告……。いろいろと通信が舞い込んできた。先ずはその真意を聞きたい。大型戦闘艦1隻が大破し、戦姫が7機喪失している。随伴した大型戦闘艦が救助艇を何隻か回収したらしいが被害状況の詳細はまだわからない状況だ」


 やはりそれが原因ということか。

 テーブルの上に灰皿が用意されているのは俺の席だけだ。煙草を取り出してミレーネさんに小さく頷くと、向こうも頷いてくれたから、先ずは一服して余裕を示そう。


「我らの採掘を邪魔する連中がいたので相応の措置をしました。約定の範囲でこちらが動いている以上責は襲った連中にあると解釈しますが、運行管理局は海賊行為を是としておられるのですか? それなら我等も何らかの手段を構築しなければなりませんが」


「約定は違えておらぬと? だが、亡くなった乗員は帰ってこん!」

「運行管理局の構成員は善人ぞろいということですか……。我等は攻撃されれば、攻撃します。座して首を差し出すようなことはしませんよ。それに、俺を呼びつけておいていきなり銃撃をするような輩がいるのは、先ほどの話と矛盾しませんか?」

 

 俺の話を聞き、ミレーネさんが慌てて仮想スクリーンを操作している。状況確認をしているのだろうか?

 目を見開いてため息を吐くと、仮想スクリーンを隣の老人の方に移動させた。

 老人も少し顔つきが変わったようだ。俺と仮想スクリーンを交互に眺めている。


「これは我らの不手際だった。謝罪するぞ。となると……、例の組織が動いたのかもしれんな。治安部隊に連絡して関係者の背後を洗い出せ。抵抗するならスタンガンの使用を許可する」

 

 最後の指示はミレーネさんへの依頼なんだろうな。各部の取りまとめをする立場なんだろうか?


「一応、交戦記録を持ってきました。お渡ししますから、その後に今後の対応を協議したほうがよろしいかと思っております」

「そうしてくれるとありがたい。一方的な情報で判断するには事が大きすぎるようだ」


 後ろの護衛を手招きして記録用のクリスタルを手渡す。

 すぐにミレーネさんに届けるとテーブルの上に仮想スクリーンが映し出された。

 これで時間ができるから、一服しながら次の交渉の要点をまとめようかな。


 目を閉じて考え込んでいると、コトリとテーブルで音がする。


「どうぞ。お口に合うか試してください」


 コーヒーが出てきた。前の2人はすでに飲んでいるようだな。このまま飲んでも礼儀的には問題がないだろう。

 香りを楽しんだところで、口に含む……。

 笑みを浮かべて飲みこんだところで後ろに体を向けた。


「良いコーヒーだよ。できればもう1杯欲しいな。アルカロイドではなく砂糖をたっぷりと入れたやつをね」


 こちらに体を向けて頭を下げようとしていた若い男が、驚いた表情を俺に向けた。ポケットから小さな拳銃のようなものを持ち出し、何の躊躇もなく俺に向けて発砲してきた。

 慌てて護衛が拘束したけど、さてこれはどのように評価すべきなんだろう?


「本当にアルカロイドが入っているのでしょうか?」

「これかい? ミレーネさんが一口飲めば1時間も持たないんじゃないかな?」


 連れ去られる男に視線を向けていたミレーネさんが、ふと気が付いたような口調で問い掛けてきた。

 俺の答えを聞いて顔の血の気が無くなっていく。


「直ぐに医務局に行きましょう! 胃の洗浄をすれば手遅れにならずに済みます……。それに銃弾を受けてますよね? 小型拳銃といえ銃弾は鉛です」

 

 席を立ったり座ったり、仮想スクリーンを展開しようとしても、どこに連絡しようかと指先があちこち動き回っている。


「心配は無用です。銃弾ならエアロックで少なくとも20発以上受けていますよ。このツナギの下のインナーがどうにか食い止めてくれているようです。そして、私に毒は効きません」

「生体強化を受けているのか……。さらに進んで人工臓器も組み込んでいるのだろう。それなら毒は効かないし、小銃弾も防げるということになるのだろうな。クリスタルには対物狙撃銃で至近距離で撃たれていたようだな。その体は我等が望む宇宙空間適用に近いのかもしれん。だが、情報は開示してくれぬのだろう?」


 老人は事態の急転に着いてこられずに呆けていると思っていたんだが、冷徹に助教分析をしていたようだ。

 さすがに俺がナノマシンで構成された体だとは想像できなかったのだろうが、人工臓器と生態強化の技術は航路管理局でも継続していたらしい。

 彼等の技術の終点はサイボーグとなるのだろう。

 宇宙空間での作業は過酷だ。ライデンの恒星が噴き出す太陽風に炙られ、大規模フレアの放出する高エネルギープラズマが体を焦がすのだろう。

 

「ライデン内惑星で鉱石採掘が行われない理由が理解できました。我等の情報開示は行いません。それが航路管理局を構成する一大組織の寿命を延ばすことであっても、それは航路管理局で考えるべきものでしょう。それを開発する予算は十分にあるとかんがえますが?」


 老人に笑みが浮かんだ。

 痛いところを突いたつもりだったんだが、相手はそうは取らなかったようだな。


「確かに莫大な資産を使っている。確かに効果はあったのだろう。130年と言われた我等の寿命が150年以上に伸びたのだからな。研究ではさらに30年ほど伸ばすことも可能だと分かったのだが……」

「脳細胞は強化できなかったようですね」


 老人が小さく頷いた。

 ちょっと待てよ。カテリナさん達の老化防止技術と航路管理局の生態強化技術はどこが違うんだろう?

 ベルッド爺さんはかなりの歳なんだろうけど、ボケる様子も無いし、若い連中を怒鳴り回ってるぐらいだ。

 体の衰えを理由に引退する人物を、見たことが無いんじゃないか?


「まぁ、それも運命というものだろう。若くして艦と共に宇宙に散じるより遥かに良い。

我等の戦闘艦を破壊した見返りとして、あの大型艦を提供してもらおうと思ったが、この記録を見る限り我等に非があることは間違いないようだ」

「できれば適当な妥協点を探したいところですね。約定を破った以上、我等は交戦状態に入ったままです」


「それで、ヴィオラ騎士団の要求は?」

「ラグランジュポイントに中継基地を設けたい。その中継基地での荷渡しでどうでしょうか?」


「あまり聞かぬ言葉だが……」


 老人の言葉に、ミレーネさんが仮想スクリーンに情報を表示させているようだ。

 老人が読みながら頷いている。


「今、新しいコーヒーをお持ちします。今度は私の部下ですからだいじょうぶですよ」


 ミレーネさん達が相談を始めたようだ。コーヒーを運んできたお姉さんに礼を言って受け取る。

 一口飲んで味を確かめる。今度は問題ないようだ。甘さも調度良い。

 一服を楽しみながら、2人の相談がまとまるのを待つことにしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ