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274 航路管理局の拠点衛星


 喧騒に包まれていた展望ブリッジがシンと静まりかえっている。

 皆はどこ? と見ましてみると強化ガラスの窓近くにある半円形のソファーに固まっていた。


「航路管理局より通信があったようだけど?」


 空いている席に座ってドミニクに尋ねると、全員の視線が集まる。

 俺が悪いって顔なんだけど、まだ何もしてない気がするんだけどねぇ。


「釈明を求めているの。場合によっては契約を破棄すると脅しを掛けてきたわ」

「こっちの非はまるでないんじゃないか? 最初にやってきたのは向こうだしね」

「過去の栄光にとらわれているのかもしれません」


 まあ、水掛け論になりそうな気もするな。


「それで、ドミニクとしてはどう動くんだい?」

「戦闘時系列に、戦闘映像、広域レーダーと宙域図を用意するわ。交渉してきて頂戴!」


 思わず目を見開いてドミニクの顔を見てしまった。

 そんな俺に真剣な表情で頷いてるんだから本気のようだ。


「団長の指示には従うけど、俺一人?」

「リオ一人なら、万が一の時でもアリスが助けてくれるでしょう? 私達も行きたいけど、あの戦闘の後になるから……」


 無事に帰れるかどうかは俺にも保障できないな。確かに俺一人ならたとえ連中の軌道ステーションを爆破しても帰れそうだ。


「それしかないか……。それで記録クリスタルは?」


 俺の言葉に、ドロシーがとことこと歩いてくると、。俺の前ののテーブルにポケットからクリスタルを置いてくれた。

 すでに準備は終わってるということか。


「全権を預けられたということで良いのかい?」

「交渉はリオに一任するわ。なるべく有利に妥協点を決めて頂戴」


 それが一番難しいんじゃないか? 場合によっては星間戦争に発展してもおかしくない事案なんだからね。

 まぁ、いまさらそんな話をしても仕方がない。

 向こうでコーヒーでもご馳走になってくるつもりで出掛けよう。


 テーブルのクリスタルをポケットに入れたところで席を立つ。

 展望ラウンジ奥の専用エレベーターでカーゴ区域に向かった。

 そんな役割にも思えるけど、俺達の仕事は鉱石の採掘だ。さすがに直ぐにはやらないだろうけど、明日には始めるに違いない。

 採掘が順調なら、俺の仕事はないからねぇ。ドミニクが俺に頼むのも仕方がないのだろう。


 カーゴ区域に入ると、ベルッド爺さんが休憩所で一人酒を飲んでいた。

 窓を軽く叩いて外に出ることを告げると、カップを掲げてくれた。アリスがカーゴ区域の扉を開けなくとも出られることを知っているからなんだろう。体をこちらに向けてアリスに向かう俺を見ている。


 アリスにコクピットを開放してもらったところで床を蹴る。それだけで体が10m近く飛びあがるんだから低重力とはすごいものだ。

 コクピットシートに納まると、コクピットが閉じスクリーンが全周を映し出した。


「ライデンの静止衛星軌道にある航路管理局の衛星に向かうよ。戦闘後の調整ということなんだろうね」

『了解しました。到達時間の指定はあるのでしょうか?』

「ドミニクは何も言ってなかったから、アリスの方で確認してくれないか。とりあえず航路管理局の衛星の探知範囲外で、時間を調整しよう」


 小惑星軌道からライデンまではかなりの距離だ。電波でさえ20分近くかかるんじゃないかな。

 一方通行の交信ならそれでも良いけど、相互に確認しあうなら近くまで行くしかないだろう。

 

 いきなり全周スクリーンに映しだされていた光景が変わり、周囲が星空に変わる。

 遠くに小さく輝く青い円盤状の星が、惑星ライデンということなんだろうな。いったいどれぐらいの距離なんだろう?


『ライデンから50万Kmの空間です。月からも20万kmほど離れていますから、航路管理局の大型レーダーでの探知は不可能でしょう。会談の時刻と船舶用エアロックの位置を確認すればよろしいでしょうか?』

「それでいいよ。ところで航路管理局の衛星に戦闘艦は接岸してるのかな?」

『航路管理局の電脳はすでにハッキングしてありますから他の情報もあわせて確認します。……航路管理局衛星に接近中の戦闘艦はありません。一番近い軌道艦隊は第4惑星軌道付近を巡航中です』


 元々がボーマン軌道で採掘した資源を、ライデンの最外部に運ぶ航路の安全を図るための艦隊だ。

 デブリの少ない宙域を哨戒することはあまりないに違いない。


『航路管理局のミレーネ様と交信終了。衛星の第5エアロックに入るよう電源を受けました。2040GHzのパルス信号がビーコンとなるようです。すでにビーコンパルスを確認しています』

「ここからは、重力場推進で向かうよ。いきなり出現したら向こうも驚くだろう」


 アリスが空間を滑るように移動し始めた。

 移動に1時間も掛からないと言ってたけど、そうなると時速50万kmということになる。リバイアサンに攻撃を仕掛けてきた戦姫の10倍以上の速さだから、アリスの情報開示を迫ってくることもあり得るかな?


 全周スクリーンに航路管理局の衛星が小さく見えたところで、アリスが減速を始める。

 距離は20km程度らしい。

 ここからはビーコンに乗ってゆっくりと衛星に向かう。


 それにしても大きい。

 直径は3㎞近いんじゃないか? 点滅を繰り返す光点がいくつも赤道付近の開口部を出入りしている。

 ライデンのマスドライバーから放たれるカプセルの回収はかなり面倒なのかもしれないな。


『前方の解放部分が第5エアロックのようです。開口部に2人を視認しました。航路管理局の作業艇の離着には外部の介添えが必要なのかもしれませんね』

「武装してなければ問題ない」

『武器の携行はありません』


 会議は平和的に行いたいものだ。

 宇宙空間に飛び出しても問題ない程度に体の強化をアリスに頼んだ。アリス自体もアリスが攻撃を受けるあるいは受ける恐れがあると判断した場合はエアロックを破壊して、衛星外から俺の救出を行うように指示を出しておく。

 

『武装は必要でしょう。リボルバーの持参程度は問題がないと推測します』

「敵の戦闘艦もひどかったからねぇ。了解だ」


 心配なのは俺よりもアリスの方だと思う。

 電脳は航路管理局よりもライデンの方が進んでいる。カンザスのAIであった電脳は自意識を持ったぐらいだ。

 今では一人の少女のように思えるぐらいだからねぇ。

 科学の発展には、たまに現れる天才が必要なのかもしれない。優秀な人材だけでは現状を維持するだけなんだろうな。


 エアロックはパンジーが3機ほど収容できるほどの大きさだ。リバイアサンのカーゴ区域に似ているが天井はあまり高くない。アリスの身長より5mほど高いだけだから、ここに戦鬼は入れることができないだろう。

 もっとも、航路管理局が運用するのは戦姫だけらしいから、これで十分と考えているのかもしれない。


『気圧の上昇を確認。右前方の扉付近に数人が待機しているようです』

「あの扉だね。扉の上の表示が赤だから、まだ扉がロックされてるんだろうね。アリス一人になるけど、調査は攻撃と判断してくれ。後の回収はよろしく頼む」


 アリスに2度指示を与えることになったけど、航路管理局がどんな行動を取るのか想定もできない。そんなときは悪い方に考えておくのが得策だろう。


 やがて扉の上の表示灯が赤から緑に変わる。開いた扉から入ってきたのは1人の若い男と小型の銃を構えた屈強な男達3人だった。

 これは面白くなってきたな。

 胸の装甲板を開いてコクピットから体を乗り出すと、3人の銃口がこちらに向けられた。


「そのまま撃っても良いぞ。責任が取れるならな」

「お前を殺して新型戦姫が手に入る。責任が私に取れるなら指導階梯を上げることもできるんじゃないか。武装を解いてゆっくりと下りてもらおう」


 自分達の立場が理解できないのかな?

 すでに戦闘形態に体が変化している。小銃弾程度で俺を倒すことはできないのだが、相手がそれを知るすべは無いんだよな。


 10m程の高さから飛び下りる。床にトン! と音を立てて降り立った。

 衛星内の重力はライデンよりも少し低いくらいだ。

 人間が俺の真似をしたなら足を折る可能性もあるだろう。銃を構えた男達が少し驚いている。


「ゆっくり両手を上げるんだ!」

「おいおい、来客を脅すのか? 記録は既に始まっている。お前達の立場が悪くなるぞ」

「貴方が、ここで死を迎えるなら記録は意味もないのでは?」

 

 銃を持った男達の後ろから、若い男が笑みを浮かべて俺に答えてくれた。

 と同時に、俺の足元に銃弾が撃ち込まれる。

 着弾跡が床に残る。まるで粘土のような弾丸だな。粘着弾の一種かもしれない。


「威嚇は攻撃とみなすぞ。次はない」

 ゆっくりとリボルバーを取り出した。構える間もなく着弾の衝撃が俺を襲う。


「アーマーベストの性能が良いようですね。次は頭を撃ちますよ」

「撃てれることは無いさ!」


 続けざまに4発を発射した。

 3人の男が倒れ、若い男が唖然とした表情で膝を折る。


「次は頭だったか? まあ、命までは取らんでおこう。お前から銃弾を受けてはいないからな。かと言って、指示を与えたことは確かだ。腕が対価で良いだろう」


 2発の銃弾を受けて腕が千切れる。着弾衝撃で弾頭が開くから悲惨なものだな。片腕で止血をしているようだがどんどん顔に血の気が無くなっていく。


「ただでは済ませないぞ!」

「こちらも同じだよ。襲えば襲われる。それぐらいのことが理解できないのか?」


『アリス、ミレーネに緊急連絡。「指定場所に到着後襲撃を受けた。当方に被害は無いが、招いた客を殺すのが航路管理局のやり方なのか?」と言って、着信を確認してくれ』

『了解です。航路管理局衛星の反応炉3基の場所を特定。いつでも破壊出来ますよ』


『ん? 暴走させるんじゃないのか』

『さすがに手動停止が可能です。それに燃料供給を停止するだけで止まりますから、戦闘艦のようにはいきません』


 大型なら動力炉の停止が楽というのも問題がありそうだな。

 陸上艦の巡洋艦クラスなのだが、核融合炉の構造がそもそも違っていたのだろうか?

 カテリナさんなら興味があるかもしれない。


『返信が届きました。どうやら情報操作があったようです。直ぐに直属の部下を向かわせると言っていましたから、もう直ぐここにやってきますよ』

『はねっかえりは、どこにでもいるということなんだろうね。こっちの被害はツナギに穴が開いたぐらいだ。被害請求ができるかな?』

『その辺りも交渉すべきでしょう。……どうやら、やってきましたよ』


 足音が聞こえないけど、アリスは足音の振動を解析したということなんだろう。

 4人の男は血だまりの中だ。まだ息があるようだが、この衛星の医療技術が試されそうだな。


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