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273 勝利の酒宴なのか


 動力炉が暴走しても、戦闘艦の進路変更と加速は緩やかなものだ。

 船内では怒号が飛び回っているに違いない。そろそろリバイアサンに戻ろうかな。


『マスター、戦闘艦より救援信号が後続の戦闘艦に向かった発信されています』

「近づいたら巻き込まれるんじゃないか? 脱出艇の収容ではなくて、救援を依頼する信号なんだな?」

『はい。「我、操舵不能、至急救援に来られたし」この文を送っています。音声、画像は送らないようですね』


 たぶん、状況がバレると思っているのだろう。

 とんでもない連中だな。


「船外から撮影した映像と、先ほどのブリッジの会話付きの映像を送ってやろう。後続の戦闘艦のコードは分かってるのかな?」

『解析完了です。1番違いのコードですから、常に2隻で活動しているのかもしれません。送信完了しました。追記として「動力炉の暴走中、接近は危険」と付け加えてあります』


 これで十分だろう。そう言えば、被弾した戦姫が2機こっちに向かっていたはずだ。

 重力場航行に切替えて、リバイアサンに向かう。

 途中ですれ違った戦姫に「後続の戦闘艦に向かえ!」と通信を送っておいた。

 母艦に向かえばどうなるか分からないが、後続の戦闘艦に向かえば助かる可能性は高くなるだろう。


「これで近づくことが無ければ良いんだけどねぇ」

『離れた場所で監視を続けると推測します。高性能の戦姫と戦闘艦がいるのですから』

「リバイアサンは戦闘艦じゃないよ。採掘船だ。それにアリスは戦姫という概念を越えてるんじゃないか? 俺の良い友人だと思ってるけど」


『ありがとうございます。私は何時までもマスターと共におります』


 どちらが先に機能停止をするか分からないけど、たぶんそれは遥か未来のことに違いない。

 そんな未来にまでヴィオラ騎士団は続いているのだろうか?

 歴史の中に埋もれてしまう騎士団だってあるはずだ。12騎士団でさえ、その歴史は2千年を超えることが無いんだからね。


『リバイアサンより通信を受信「帰還せよ」以上です』

「返電は『了解』で良いだろう。向こうは無事なんだろうね?」

『ドロシーとのリンクでは問題を確認できません』


 戦姫を6機落としたんだから、祝杯を挙げて騒いでるんじゃないかな。採掘だってしなければいけないんだが、それは明日以降になってしまいそうだ。


『航路管理局の戦闘艦の監視宙域を出ました。亜空間移動を行います!』


 アリスの連絡に、了解を告げる間もなくコクピットの光景が歪む。それが再び戻った時にはリバイアサンのカーゴにあるアリスの固定装置の前にいた。

 ゆっくりと開かれた固定ジグの中に歩いて行くとアリスがくるりと正面を向く。

 それを合図に固定用の腕が延びてきた。


「コクピットを開いてくれ」

『カーゴ区域の環境データを確認。通常の待機成分です。マスターの戦闘形態を元に戻します』


 ゆっくりと開いたコクピットからカーゴ区域に飛び出す。

 重力が1割程度らしいから、床に落ちるのもゆっくりだ。

 床に降り立つと、休憩所の窓越しにベルッド爺さんが手を振っている。機嫌が良いのは、仲間達と飲んでるからかな?

 あの操船なら、あちこち無理が出ているんじゃないかと心配だったけど、全くの無傷で常に制御下にあったということなんだろう。

 さすがは、アリス。そしてカテリナさんだ。


 片手を軽く上げてアリスに挨拶したところで、カーゴ区域を後にした。

 たぶん派手に騒いでるんだろうなぁ。

 あまり気乗りはしないんだけど、先ずは報告だけでもしておかないとね。


 展望ラウンジのエアロック扉を抜けると、思った通りの騒ぎになっている。

 低重力が働いているから良いようなものの、飲み物が床に零れてる。

 無重力にしていないだけの理性はかろうじて保っているようだ。

 グレーのツナギを探してドミニクを見付ける。

 近寄って行ったら、いきなりハグされてキスされた。次は私とやってきたのはカテリナさんだ。娘よりも濃厚なキスをされてしまった。


「それで?」


 カテリナさんにハグされたままの俺にドミニクが問い掛けてきたけど、少し目元が怒っているように思える。

 

「リバイアサンに攻撃してきた戦闘艦の動力炉を暴走させて、小惑星軌道から恒星に向かって落下させた。恒星に焼かれるのはだいぶ先になるだろうけど、その前に爆散するんじゃないかな」

「きちんと始末はしてきたんだから、ドミニクもそんなに怒らないの。このリバイアサンは航路管理局の戦姫を凌ぐのね。さすがはアリス。そして私だわ」


 感受性は俺と同じだな。だけど自分を褒めるのは、ちょっと子供じみてる気もする。


「それは認めるわ。だから祝杯を挙げてるんじゃない。ほらほら、リオも飲みなさい。今日は好きなだけ飲んでいいわよ。明日は1日お休みだから」


 エミーから渡されたカクテルを飲んで、次はクリス~ビールを受け取った。こんな感じで飲んでたら、次に攻撃された時はどうするんだろう?


「当直はいるんでしょうね?」

「ちゃんとここで飲んでるわよ。後続艦の位置は変らず。たぶん中破した戦姫を収容しようとしてるんでしょうね。その後はこの宙域から離れると思うわ」


 それなら良いんだけど……。


『先ほどの戦闘艦が爆散したようです。脱出艇が1隻だけ射出されましたが爆散に巻き込まれた模様です』

『後続の戦闘艦の動きに注意しといてくれ。それとこの位置に近付く他の船があれば教えて欲しい』

『了解です』


 フレイヤから受け取ったブランデーを飲みながらの会話だ。少しナノマシンを活性化しときたいところだ。これでは絶対に二日酔い確定だからね。


「どうしたの?」


 ちょっと感慨深い表情をしていたのかもしれない。カテリナさんが近づいて問い掛けてきた。


「先ほど爆散したとアリスの報告がありました。巡洋艦並みの船体でしたから乗員は200名を越えていたでしょう」

「そういうことね。その責任は艦長であり、私達に無謀な戦いを挑んだ指揮官に帰すべきもので、リオ君ではないわ」


 そうは言ってもねぇ……。何かもやっとしたものがあるんだよな。

 この感情がある内は、どんな体になっても俺が人間であるということになるんだろう。

 罪悪感とは違うのだろうが、このやるせなさを無くすのは時間だけなんだろうか?


「まだまだ飲み足りないんじゃない? これを持って……」

 

 カテリナさんがテーブルの上に乗ったワインを1本手に取ると、俺に腕を絡めて展望ブリッジの扉に向かった。

 まだまだ騒いでいるから、俺達がいなくなっても誰も気が付かないんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 カテリナさんとベッドで体を重ねながらワインを飲む。グラスで飲むんじゃなくてビンから直接なんだけどね。


「やはり小型戦闘艇は必要なんじゃないかしら?」

「相手が戦姫となると、だいぶ具合が悪くなりますよ」


 男女の関係の最中でも、カテリナさんは別の思考ができるのだろうか? そんなことを考えながらも、リバイアサンと戦姫との交戦を思い浮かべてみた。

 いくら機動が優れていても全方位攻撃が可能な兵器とドロシーの演算能力が結合すると戦姫でさえ破壊できるということになる。

 カテリナさんとしてはその前段階で戦姫を退散させたいのかな?


『可能性が無くもありません。機動爆雷の爆散圏内に戦姫を捉えれば十分です。数個の機動爆雷を戦姫を取り巻くように配置したところで炸裂させれば落とすことも可能であると推測します』

「アリスは落とせないわね」


 笑みを浮かべて俺を抱く力を強めた。

 

『私を落とすことは容易ではありませんよ』

「冗談よ。時空間を操れるアリスの能力に干渉できるシステムが思いつかないわ。それにアリスは私の友人ですからね。そんなシステム開発を行っていることを知っただけで、その組織を壊滅させてあげるわ」


 かなり強引な話だが、将来的には可能になるんじゃないかな。

 理論はあるようだし、その理論を形にすることができないのが現状らしい。

 カテリナさんの考えはアリスと共にある今の俺達を考えてのことだろうが、他者はそうではない。あまり強引な方法を使えば、科学の発展を阻害する可能性も出て来るし、犯罪行為になりそうな気もする。


 その時に、まだ俺とアリスが健在なら争いを起こすのではなく、この惑星系を去れば済むことかもしれない。

 だが、それはだいぶ先の話だ。


 一際強く俺を抱きしめたカテリナさんの腕が力を失ったかのようにスルリと俺の殻だから離れた。

 どうにか解放された感じだ。カテリナさんをベッドに残して軽くシャワーを浴びる。

 衣服を改めたところで、備え付けのレンジでコーヒーを作る。


『多弾頭型の機動爆雷の設計を終えましたが、カテリナ博士はお休み中でしたか……』

「疲れてたんだろうね。このまま明日まで寝かせてあげるつもりだ。それでその機動爆雷を使っての一撃離脱は可能なのかい?」


 俺が座るテーブルに仮想スクリーンが現れると、シミュレーション画像が現れる。相対距離5千kmで発射したところで180度回頭しての脱出になるのか……。半重力装置によって作られる加速度の無効化ができないと、船体どころか中のパイロットが潰れてしまいそうだ。

多重化して故障を防ぐことになるのかな? それより、進路を少し変えることで戦姫との接触を回避する方が良いように思えるのだが……。


「少し過激すぎないか? アリスでなら可能に思えるけど、生身の人間に出来るとも思えないぞ」

『戦闘機は必要としません。マスターの考え通り、パイロットの危険が高すぎるでしょう。半重力装置もこのような戦闘を行うにはかなりの出力を必要とします。

 よって、機動爆雷そのものをリバイアサンの中から誘導することにしました。敵の位置をかなり正確に把握できますし、デコイなどによる欺瞞を避けることもできます』


 要するに、人的誘導を行うってことなんだろうな。

 自己誘導は、AIの能力次第のところがあるから、それをドロシーのアドバイスに基づいて人間が行うならかなり正確な誘導ができるだろう。

 ある程度距離が詰まったところで弾頭を分離して戦姫を爆散円の中に捕らえるということか……。


「問題はコストだな。3基作るとどれぐらいになるか、工期と一緒に計算していてくれないか」

『了解です。それと、先ほど航路管理局のミレーネ様からリバイアサンに通信が届いたようです』


 どうやら戦闘を知ったということかな?

 どんなことを言ってきたんだろうと、コーヒーを飲んでいると艦内放送が始まった。


『緊急連絡。リオ提督、至急展望ブリッジに来てください。……繰り返します。リオ提督……』


 お呼びだしだ。

 無理難題を押し付けて来るとは思えないんだが……。


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