271 超長距離攻撃
小惑星に張り付いて30分ほどが経過した。
仮想スクリーンに表示されていた探査用のドローンの表示が1つが突然消えた。
『敵戦闘艦よりの攻撃を受けたようです。使われた武器は炸裂弾をマスドライバーで射出したものと推定します。敵戦闘艦の画像がステルスドローンより送られてきました。最大望遠で捕らえた画像ですが、画像解析でおおよその姿が分かります』
新たに仮想スクリーンが表示されて円錐形の戦闘艦の姿が映し出された。直径40mで全長が200m近いから、地上の重巡洋艦クラスになるな。
砲塔が船首の上下左右に設けられている。2連装のレールガンというところだろう。
炸裂弾を放ったマスドライバーは……、ずんぐりしたブリッジの後方に付いていた。カタパルトのように見えるから、次弾装填に時間が掛かりそうだな。
だけど、そんな武装が艦の前に集中しているのが気に食わない。いくら燃料が必要であっても、外部に設ければ済むことだ。戦闘前に加速と減速は終えているはずなんだが。
『艦の中央に戦姫を格納するカーゴ区域があると推定します』
「俺も同じ考えだ。すると次にやって来るのは……」
『発進した模様です。4機が高速でリバイアサンに向かっています。第2波4機がただ今発進しました』
「推進機関を推定できるかな?」
『初歩的な半重力推進です。ムサシの半重力推進機関と類似のものと推定します』
ムサシ並みの機動ができるとなると厄介だな。
ん! 待てよ。ムサシの機動は無人化することで可能となったはずだ。同じ駆動装置であれば、半重力をコクピット内に設けることが人間による制御を行う絶対条件になる。
「敵の戦姫の動きに注意してくれ。特に機動性能をね」
『了解です』
戦姫がリバイアサンの近くに到着するには20分ほどかかりそうだ。その前に、リバイアサンは小惑星帯の中に入ってしまう。大小の小惑星をかいくぐっての攻撃だから、その前に機動性能を知ることはできるだろう。
戦姫のレールガンは強力だけど、カテリナさんの話しでは何とかできるみたいだ。もうしばらくここで様子を見ていよう。
『リバイアサンが放った砲弾の3発が炸裂しました。距離は3千kmほど離れていますから、被害を与えたか否かは判断できません』
「そうなると、いよいよ会戦が始まるぞ。相手が約定を破っているから、撃沈しても構わんだろう」
『もう少し様子を見た方が良さそうです。ステルスドローンの移動信号を確認。移動方向は戦闘艦です』
カテリナさん達も、どんな連中かを知りたいみたいだな。
「アリスの関心はどこに?」
『戦姫の攻撃方法です。射点位置と発射間隔、それと集束率ですね。それに射撃後のコース変更も興味があります』
レールガンの性能と、射撃制御ってことか。コースの変更は、弾丸の集束率を上げるためのコース取りというかフィードバック制御の度合いを見たいということだろうか?
ローザの駆る戦姫よりバージョンが上だと力説してたから、それがどれぐらいかを見たいということなんだろう。
「リバイアサンが危険だと判断したらすぐに介入できるかな?」
『もちろんです。でも、カテリナ博士もそれなりに考えていると思いますよ』
確かにやられてばかりでは納得しないだろうな。だけど、戦姫に対抗できる武器なんかない筈なんだが……。88mm砲では、当てることもできないはずだ。パンジー用の30mm機関砲では、戦姫に傷さえ付けられないだろう。
『戦姫が編隊を組んだ状態でレールガンを発射しました。発射間隔5秒で3発です。編隊を組んだ状態でリバイアサンの右下方向にコースを変えました。かなり大きな曲線でコースを変えています……、減速を始めたようです』
『小惑星への着弾を確認。相対位置と時間差から敵戦姫のレールガンの弾速は秒速10km程度と推定。やはり小型化された核融合炉が動力源のようです。重力アシストの程度は王国の戦姫並みと推定します』
なるほどね。それに8機で放った合計24発の弾丸はリバイアサンには当たらなかったようだ。
射撃制御システムもお粗末だな。まさか目視ってことは無いんだろうけど、1万km程度の距離なら1発は当たっても良いんじゃないかな?
『小惑星帯の運動に戦姫の速度が近づいたようです。リバイアサンとの距離は7千km次は当たるかもしれません』
「半重力制御で物体を排斥することが出来るらしい。リバイアサンの反撃はその後になるんだろうな」
さてどうなるかな?
興味深々で、探査用ドローンが捉えたリバイアサンの画像を眺めていると、舷側が開いて、小惑星が飛び出してきた。
いつ、手に入れたんだろう? 近くにあったのをリバイアサンの口で直接食べたんだろうか。
「リオ君、聞こえる? 適当に敵の重巡洋艦に向けて撃ち出したけど、当たらないでね! 榴弾が2発混じってるわ」
突然カテリナさんの声が聞こえてきた。
俺が潜んでいる位置が分からなかったから、一応注意してくれたみたいだな。
「あれですね。直撃はしませんが、敵の戦闘艦に届くとは思えません。途中で他の小惑星に衝突してしまうでしょう」
「それも作戦じゃないかな。衝突してバラバラになった岩塊が戦闘艦に向かうはずだ。かなり散布界が広いし、戦闘艦も近づいているからね。最初の6発よりは効果があるんじゃないかな」
『そうですね。それより、そろそろ始まりますよ。リバイアサンと戦姫との距離は3千kmです。戦姫が編隊を解いて四方から攻撃しようと動いてます』
「戦姫の形が見たいところだね。宇宙用なら少しは変ってるんじゃないかな?」
『ドローンの画像に注意します』
それにしても、戦闘艦の減速はまだ続いているようだ。半重力による制動なんだろうが、やはり出力が小さいのだろう。
宇宙空間での艦隊戦は案外のんびりした戦なのかもしれないな。
『リバイアサンに向けてレールガンが使われています。距離およそ1千km。さすがに近づけば当てることはできるようですが、リバイアサンの周囲で全て運動方向を変えられています』
「命中してるが当たってない、ってことかな?」
『そのたとえの通りです』
小惑星帯での鉱石採掘だから、大きな船体に小惑星が衝突する可能性は極めて大きい。いや、必ず当たると言って良いだろう。
それを未然に防止するバリヤーのようなシステムがこれほどの性能だとは思わなかった。
もっと大規模なものを作れば拠点を守るのは容易かもしれないな。
ん! この輝点は何だろう?
かなりの速度でリバイアサンに向かってるんだが……。
『マスドライバーにより射出された実弾兵器だと推測します。もう直ぐ、ステルスドローン近傍を通過しますから、もう少し詳細な情報が分かると思います』
「リバイアサンも射出してたけど、どうなってる?」
『もう直ぐ、小惑星に着弾します。同時に炸裂するでしょうから、ちょっとした散弾になりますよ』
アリスと他人事のような会話をしている時だった。突然、空の一角で何かが点滅を始めているのに気が付いた。
方向的にはリバイアサンの方なんだが、敵の攻撃で機体に損傷でも受けたんだろうか?
『おもしろいことをカテリナ博士は考えたようです。リバイアサンを3次元的に回転させているようです。リバイアサンの形状はマスターの言う様に綿の多い座布団型ですから、回転することで太陽光の反射面積が変化するので点滅しているように見えるのでしょう。あれなら、全方向に荷電粒子砲を発射できます』
うるさく飛び回っている戦姫を落とそうというのだろうか?
いくら何でもねぇ……。困った人達だなと思いながら光の点滅を眺めていた時だった。
点滅していた光の近くに一際明るい光が現れて、急速に消えて行った。
『当たったようですね。さすがはドロシーです』
「戦姫を落としたってことかい? あの点滅だからとんでもない速度で振り回されているようにも思えるんだけど」
『リバイアサンの艦内呪力成魚の賜物でしょう。荒れ地を偵察車で走るより加速度を体感することは無いと思います』
小惑星帯までかなりの速度で飛んできたはずなんだが、小惑星の運動速度に合わせた減速時にはブレーキを掛けたような逆加速度を感じることは無かった。
それが、リバイアサンの重力制御のおかげであるなら、確かにアリスの言う通りなんだろうな。
『2機目が落とされたようですね。リバイアサンの方は全くの無傷です』
「なら、今の内に航路管理局へ状況報告をしておいた方が良いのかもしれない。リバイアサンに状況報告を航路管理局にするよう伝えてくれないか」
『了解しました……。リバイアサンからの受信信号を確認。ステルスドローンからの情報を受信しました。実体弾は直径3mほどの岩石のようです。運動エネルギーは戦姫のレールガンを越えますが、あの様子なら、接近途中で撃ち落とすのではないかと』
「そうなると、こっちの攻撃の程度が知りたいね。敵戦闘艦の距離は?」
『現在、4万5千kmまで接近しています。私達は何時攻撃するのでしょうか?』
「できればレールガンの性能も見たいところだ。まだ撃たないところをみると、射程が短いというよりは射撃制御に難があるみたいだ」
射撃制御に難があっても、再発射までの間隔が短いなら機関砲のようにレールガンを使えるはずだが、連中はそれをしないようだ。
それができない理由としては、レールガンのエネルギーチャージまたは砲身の材質辺りに課題があるのかもしれないな。
『榴弾炸裂。4発が連鎖して炸裂しました。推定直径200m程の小惑星が爆散。4分後にこの付近まで飛んできます!』
「小惑星の後ろでやり過ごせるかな? それと敵戦闘艦の方は?」
『この小惑星が割れるようなことがあれば、亜空間に一時避難します。敵戦闘艦は、もろに爆散した小惑星の破片を浴びることになるでしょう。先行する敵戦闘艦の後ろ2万km付近にもう1隻がこちらに向かってきます。後続艦のほうは衝突するとしても3個以内だと推測します』
それだけ広範囲に飛散するということなんだろう。距離が倍になれば四分の一に密度が減ることになる。
「そうだ! 相手の通信コードを調べといてくれないか? 破壊する前に、誰に喧嘩を売ったのか知らせてあげないとね」
このまま引くなら、初回ぐらいは大目に見てあげよう。
もっとも、リバイアサンに被害が出てないことが前提ではあるけれど。




