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270 2隻の大型戦闘艦


 小惑星帯へ到着する1日前に、ステルスドローンを2個射出する。

 その後で、通常の探査ドローンを3個射出する念の入りようだ。

 5個のドローンはドルフィン用の電磁カタパルトを使ったから、かなり速度を上げることができたようだ。


「もうそろそろブースターが点火するわよ。さらに速度を上げられるわ」


 カテリナさんの言葉に、俺達は窓の外を眺めたんだが、すでに1千kmほど離れているのでは点火は見ることができないようだ。


「通常ドローンはダミーなんでしょうけど、最終位置はどの辺りに?」

「私達の採掘位置よ。せっかく先行させるんですもの。状況信号を派手に送って来るわ。通常の10倍以上でね」


 その上あちこち動き回るんだろう。航路管理局の機動艦隊が気付くのは通常ドローンがリバイアサンより先になるんじゃないかな。


 ドローンを射出して12時間後。通常ドローンの信号がリバイアサンに届いたらしい。ドロシーが機動艦隊の位置を報告してきた。


「ドローンからの信号を受信。今表示する!」

 

 クリスの隣でジュースを飲んでいたドロシーが突然声を上げたから、フレイヤ達が驚いている。

 いつもの仮想スクリーンではなく、球体の仮想スクリーンがテーブルの上に出現した。俺としては、こっちの方に驚いてしまった。

 確かに宇宙空間での位置を表示するなら3次元座標になるんだろうけど、前回にはこんな機能が無かったから、カテリナさんが改良したんだろうな。


「緑がリバイアサンで、緑が通常ドローン。紫はステルスドローンで、赤が機動艦隊だよ。リバイアサンと機動艦隊の直線距離は6千万Km。毎時8百万kmで接近してる」


 会合時期は7時間後ということなんだろう。

 さて、ドミニクの判断は? と顔を向けると、皆が俺に視線を向けていた。


「ヴィオラ騎士団の団長は私だけど、提督はリオだからね。それで、どうするのかしら?」


 ドミニクの問いに、カテリナさんまで頷いてるんだから困ったものだ。

 とりあえずは、約定の通りで良いんじゃないかな。


「航路管理局の約定通りで行けば良いんじゃないかな。俺達から10万km以内に入ったなら戦闘意思在りと判断しよう。

 とはいえ、いきなりではまずいだろうから、先ずは警告からだね。

 ところで、カテリナさん。外に何を積んできました?」


「え~と……。前回の採掘で大きな小惑星を割るのに苦労したから、ガリナムの砲弾を10個ほど、それに宇宙空間での爆弾の威力を確認するために10t爆弾を1個フェダーンから強請ってきただけよ」


 ドミニクの目が丸くなった。俺も開いた口が塞がらない。

 まったく困った人なんだけど、ある意味感心してしまうな。


「それもドルフィンの電磁カタパルトを使うんですか?」

「ううん。攻撃に使うなら500tコンテナの射出機を使うわ」

『マスター。あの射出機のスペックを確認しました。複数のバイパス回路が増設されてます。加速終端で30Gを越えます』


 アリスの話からだと、軍事用マスドライバーになるんだろうな。

 ちらりとカテリナさんに視線を向けると、笑みを浮かべて頷いている。確信犯ってことだな。


「問題はどちらも射出後にコースを変えられないことかな? 遠隔とタイマーの2つの起爆装置を組み込めば少しは役立つかもしれないわよ」

「それでも、相手に到達するまでに時間が掛かりそうですねぇ。牽制にはなると思いますよ」

「1つ忘れてるんじゃないかしら。宇宙空間だから爆発で飛び散る破片は減速しないのよ。砲弾の破片を直近で受けようが、10万km先で受けようが運動エネルギーは同じなの」


 思わず、笑みを浮かべてしまった。

 フレイヤ達はキョトンとした表情だけど、たぶん運動の法則を知らないんだろう。

 確かに効果的だ。もっとも爆散した破片は4π方向に広がるから当たっても1個ぐらいなんだろうが、装甲板はそれほど厚くないだろう。簡単に突き抜けるに違いない。


「10t爆弾の方も改造して欲しいですね」

「周囲に金属板を張るつもりよ」


 それで十分だろう。そもそもが地上で使うための兵器なんだから、宇宙で少しは使えることが分かっただけでも十分だ。

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 宇宙空間では、昼夜の区別が無い。

 とりあえずは、ウエリントン王国の標準時を採用している。

 機動艦隊との会合時刻が朝方の3時ということだから、少し睡眠を取って展望ブリッジに戻ってきた。

 誰もいないし、時刻は2時前ということもあり喫煙が許可されているテーブルに座ってストローの付いたカップでコーヒーを飲みながらタバコに火を点けた。

 仮想スクリーンを開くと、だいぶ機動艦隊との距離が狭まっているのが分かる。すでに500万kmほどになっているから、どちらかが増速したに違いない。

 緑の点滅がリバイアサンの目的地ということかな? 破線がリバイアサンと点滅している輝点に向かって伸びている。

 先行したドローンもかなり先に行ったようだ。リバイアサンの目的地周囲を取り囲むような位置を目指して進んでいる。


「あら、早かったわね。皆はまだ寝てるみたいよ」


 声の主はカテリナさんだった。ピンクのツナギが乱れたままだから、ずっと起きていたのかな?

 コーヒーカップをテーブルに置いて俺の隣に腰を下ろした。


「かなり近づいてますね。やはり拿捕が目的とみて間違いなさそうです」

「ドローンが信号を送り始めた途端に増速したの。リバイアサンとステルスドローンには気付いていないようね。リバイアサンより先行しそうだから、目的地まで10万kmを過ぎたところで警告信号がドローンから送られるわ」


「それでも接近するとなれば攻撃ということでしょうけど、準備は出来てるんですか?」

「360mm砲弾を6発射出するわ。向こうも動くと思うわよ」


 さて、どんな手で来るのかな?

 拿捕するのであれば、小型機でリバイアサンを損傷させたところで乗り込んでくるのがセオリーだと思うんだけどね。


「アリスを使うことになりそうですね。とはいえ、向こうの状況次第ですけど」

「いきなり戦闘艦の目の前にも出られるんでしょう? きちんと記録を取ってからにした方が良いんじゃないかしら」

「その辺りはお任せします。国王陛下が楽しみにしてると思いますよ」


 俺の言葉を聞いて、カテリナさんに笑みが浮かんだ。

 すでに対応済ってことなんだろう。


 リバイアサンが予定の小惑星帯空域まで50万kmに近づいたころ、ぞろぞろとドミニク達が展望ブリッジに入って来た。

 どうにかベッドから出て、シャワーを浴び終えたんだろう。彼女達からほのかに香水の匂いがする。


「どんな感じ?」

「80万kmまで接近してるね。このまま近付いてくるに違いないだろうけど、その前にドローンの1つに3万kmにまで近付きそうだ。予定通り、ドローンまで10万kmで警告を出す」

その時までには機動艦隊の武装が分かるでしょう。相手は2隻。大きさは重巡洋艦クラスよ。戦機、いえ、この場合は戦姫なんでしょうけど1個分隊以上放って来ると思うわ」

 

 ライデンならば1個分隊は戦機が4機ということになるんだろうけど、航路管理局の方の単位が不明だ。

 2機以上10機以内というところじゃないかな。

 かつてライデンの3王国と戦い、勝利したという戦姫はどの程度の性能なんだろうか?


「ドローンの警告信号を受電。航路管理局の艦隊通信コードを使ったから、受信できなかったことにはならない。敵重巡洋艦間で通信量増大。確認出来てるみたい」


 この記録も取ってあるはずだ。

 艦隊間の通信は暗号が混じってるから解読は困難だ。


『どうやら、2隻の間で意見が割れているようですね。片方の艦が戦闘行為を戸惑っているようです』

「必ずしも1枚岩ということじゃなさそうだけど、ドローンの攻撃もしくはリバイアサンに10万km以下に近づくならこっちから攻撃する」


「約定通りということね。私達はリオの指示に従うわ。ところで砲弾はどの辺りを飛んでるの?」

「すでに小惑星帯の軌道に隠れてるわ。爆散してから12時間は船外活動ができないわよ」


 狙いは重巡洋艦だけど、どの程度効果効果があるのか予想できないんだよなぁ。

 とりあえず、リバイアサンの性能を信じて対応することにしたけど、ドミニクの提案で、簡易型の宇宙服を着ることになった。

 ヘルメットのバイザーを開けば食事もできるし、万が一船体に損傷が起こっても他の密閉区画に逃げるだけの時間が稼げるとの判断だ。


「リオはどうするの?」

「10万km以下になったら、アリスで出撃するよ。カテリナさんもあまり過激な行動は避けてくださいね」

「あら、私は至って冷静よ。やれれたらやり返すのは問題ないと思うけど?」


 10t爆弾と砲弾が4発残ってるんだよな。案外、早めに使うんじゃないかな。

 やれやれという表情をしている俺に手を振って、全員んが操船ブリッジに出掛けて行く。

 他の乗員達もそれぞれの部署で待機しているようだ。


『リバイアサンの目的地から10万kmのラインより、敵重巡洋艦2隻が越えた。最終警告を送信!』


 やはり一戦しなければらちがあかないようだ。

 俺も、そろそろ出掛けなければなるまい。

 灰皿をターブルに格納して、コーヒーカップを持って席を立つ。

 壁際に置かれたダストシュートにカップを投げ込んで、アリスのいるカーゴ区画に向かう。


 カーゴ区画には、ベルッド爺さん達が待機していた。すでに簡易宇宙服を着ているから、ドミニクがすでに指示を出しているんだろう。


「今回は少し荒れるみたいですよ」

「宇宙も地上も変わらんな。海賊は徹底的に叩くんじゃぞ!」


 俺の傍に寄ってきたベルッド爺さんと軽い冗談を言い合ったところで宇宙に出ることを告げた。


「おもしろい武器を手に入れたからのう。ワシ等も頑張るつもりじゃよ」

「あの砲弾ですか? 発射時は船外活動用の宇宙服を着てくださいよ」


 俺の言葉を聞いて、ベルッド爺さんが「分かっとるわい!」と俺の肩を叩く。

 アリスの手を借りて、コクピットに乗り込むと、仕手で見ているベルッド爺さんに手を振った。

 地上勤務ではなく、このリバイアサンのクルーに志願するぐらいだから、まだまだ冒険心を失っていないんだろうな。

 カテリナさん同様に、今回の争いを楽しんでいる感じがする。


「さて、カーゴの外壁が開いたら出発だよ」

『この辺りでどうでしょうか? 小惑星に隠れていれば見つかることはありませんし、砲弾の炸裂にも対処できそうです』

「アリスに任せるよ。ところで、重巡洋艦の速度が低下してないか?」

『相対速度を合わせるために1時間程前から減速を始めてます。イオンエンジンでは対処できずに、かなりの化学燃料を使っているようですね』


 宇宙では加速をした分だけ減速しなければ止まることができない。

 リバイアサンなら半重力制御により容易に行えるし、急激な速度変化もリバイアサンの船内重力制御により打ち消すことが可能だ。

 それが出来ないとなれば、船首に設けたロケットエンジンを使うしかないだろう。急激な逆Gが船体に掛かるから、人体に影響が出ないように長時間での減速ということになっているようだ。


「かなり遅れた宇宙船ということかな?」

『数世代前になりますね。ステルスドローンの信号は私にも受信できますから、先ずはい手をもう少し探りましょう』


 ゆっくりと開いたカーゴ区域の外壁にアリスが滑るように飛び込んでいく。

 リバイアサンを振り返ることなく離れたところで、全周スクリーンに映し出されていた星のきらめきがぐにゃりと歪む。

 直ぐに通常の光景に変わったけど、目の前に直径100m程の小惑星が視界を妨げている。


『ここで様子を見ます』

「リバイアサンから4万kmというところか。良いんじゃないかな」


 仮想スクリーンを作って、戦場の相対図を作りだす。

 敵がこの辺りまで近付くには、もう少し掛かりそうだな。


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