263 3方向に溝を掘る?
多目的円盤機2機がカーゴ区域に下りたようだ。
短距離の移動はやはり円盤機が適しているし、リバイアサンは上空に浮んでいるからそれしか方法が無かったとも言える。
ドミニク達が出迎えをしに出掛けたけど、俺はここにじっとしているように指示されてしまった。
名目上は一国の国王ということになるらしいが、本人にまったく自覚が無いからなぁ。
「リオ様は、それで十分だと思いますよ。別に不敬ではありません」
メープルさんの慰めも何となく耳に痛い。やはり礼儀知らずということになるのだろう。ドミニク達だけなら、騎士団の流儀と言っていいわけもできるということなんだろうか?
悩んでいるところに、携帯の着信音が鳴る。腕時計型だけど小さな仮想スクリーンが開いて、相手先であるフレイヤの顔が映っていた。
「そろそろ会議室に来てだいじょうぶよ。走って来ないで頂戴とドミニクから注意があったわ」
「了解。できるだけ静かに行くよ」
通路は走るなと言ってもねぇ……、程度問題だと思うな。
とりあえず小走りに会議室に向かうと、扉が見えたところから足音を立てずに歩くことにした。
軽く扉をノックすると、ライムさんが扉を開けてくれた。
どうやら飲み物を配り終えたところらしい。俺の低位置にもグラスが置かれている。
よそ見をしないようにして自分の席に座ると、改めて来客に顔を向ける。
ヒルダ様にフェダーン様、それと初めて見るお妃様が2人に副官らしき数人の男女が左手に並んでいる。俺達は全員揃っているな。カテリナさんも末席にいるのはおもしろそうなことがありそうだと、期待しているのかもしれない。
「これほど大きな船だとは思いませんでしたわ。リバイアサン……、ヨルムンガンドと同じく遥か地球の神話の中にある名前でしたね」
調べてみたのかな。ヒルダさんの言葉に頷くことで答えておく。
「ヴィオラ騎士団への要請は、我等がやってきたことで達成したことになるのだが、例の件は、協力して貰えるのだな?」
「一応、そのつもりです。どうにか50km四方にまで特定することが出来ましたが、地下55m付近で成りを潜めています。臼砲では届きませんので、大型爆弾を製作しました。それを使って撃沈するつもりです」
フェダーンさんの質問に答えると、御妃様達が笑みを浮かべている。やはり、自分達だけでは撃沈が不可能と結論を出したんだろう。
「リオ様とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私は、エルトニアのフランベルジュと申します。フランとお呼びくだされば結構ですわ。
リオ様に注文を付けることが失礼に当たるとは存じますが、可能であれば捕えたいと思っておりますの」
やはり、それが目的なんだろう。
それにしても、ストレートに注文してきたな。
「俺としても出来ればその方がよろしいかと思っています。とはいえ……、この場で、俺達の作戦をお伝えした方がよろしいでしょう。テーブルに仮想スクリーンを出しますから、それを見ながら聞いてください」
スタートは臼砲の一斉射撃から始める。これは駆逐艦の艦長に同意を貰っているから、ヒルダ様達も知っているはずだ。
「この段階で動いてくれれば良いのですが、それでも、潜砂艦の振動反射波を拾えば、3km四方にまで特定できるところまで来ています。この状態で地上に現れれば、俺達は手出しをしませんから、軍の方で対処してください」
2番手は、10t爆弾を至近距離に落として様子を見ることになる。
「10t爆弾の地中貫通深さはおよそ20m程度。50m以内に潜んでいれば、これで勝負がついてしまうでしょう。かなり大きな爆発ですから、潜砂艦の振動反射波も明確になるはずです。およそ100m四方にまで特定できるでしょう」
「慌てて逃げ出すことも考えられるのでは?」
「逃走方向に沿って爆弾を投下します。潜砂艦が動いてくれるならm単位での特定も可能ですからね。ここからは投降するか、撃沈するかまで攻撃を続行することになるのですが、問題が1つ。爆弾の総数は10個ですし、搭載に1時間ほどを要します」
それほど時間が掛かるのかという感じで俺を見てるけど、新型獣機を使ってもそれぐらい掛かるというのがカテリナさんの推測なんだよなぁ。俺の推測じゃないと言いたいけれど、カテリナさんまで俺を見ている。
「長い戦になりそうですね。なら、1つ私からも作戦に追加したいところです。潜砂艦は進路変更に難があると聞いております。この位置で逃走するとなれば西に向かうことは無いでしょう。推定箇所が明確になったところで深い溝を掘ってみようと思っているのですが」
提案してくれたお妃様はナルビクのお妃様だった。エステルーゼと自己紹介の後に『エステルとお呼びください』と笑顔で挨拶してくれたんだよね。
『おもしろい考えですね。かなり有効ですが溝の規模と掘削時間が比例することに注意する必要があります』
脳内にアリスからの具申が伝わって来た。
なるほどね。確かに規模と時間は比例するだろう。
「エステル様は、どのような溝を想定しておられるのですか?」
「潜んでいる場所が1km以下になれば、30kmほど先に幅と深さを20mほどとした溝を掘ってみようと思っています」
「潜砂艦が浮上しなければ、あまり意味を持たないであろうが、それでもその深さを先に掘っておくなら、我等の200kg爆弾も使えるだろう。ゼロで集中爆撃を行うつもりだ」
「進行方向が特定できればさらに深く掘ることも可能です。その場合は直接照準で艦砲が使えるのではないかと」
フェダーン様やヒルダ様も賛成してるということは、すでに作戦の準備が整っているということだろう。
「皆さんがすでに作戦を立てているのであれば、俺の方から横やりを入れることはありません。溝に追い込むように爆撃をすればよろしいですね」
「すまんな。だが、溝を越えた時には直接照準で構わんぞ。さらに深い溝を作ることは可能だろうが、取り逃がす可能性が高くなる」
細かな作戦の調整は、レイドラとお妃様が連れてきた副官達がやってくれるはずだ。
顔見世と作戦骨子が固まったところで会議室から展望ブリッジに場所を移しての会談になる。
「レイドラと一緒にクリスも残ってくれたわ。ドロシーが補佐してくれるはずだから、向こうは任せておいてもだいじょうぶよ」
「とりあえずお妃様達の機嫌を取っておけば良いってことだね。了解だ」
ドミニクと軽く打ち合わせをして、4人のお妃様と歓談に入る。
話題はリバイアサンに集中してくるから、カテリナさんに任せたところ、軽く上空に飛び立つことになってしまった。
「白鯨の最大高度は3千m程度なんだけど、このリバイアサンは宇宙に飛びたてるの。このまま行っても良いんだけど、航路管理局が文句を言いださないとも限らないから、ここまでにしておくわ。御覧なさい。惑星ライデンが丸いことが良く分かるでしょう?」
地上からの高さ5万m。成層圏の上限に近いんじゃないかな?
お妃様達はソファーから立ち上がって、展望ブリッジの窓近くで景色を眺めている。
すでに空気も薄くなっているから、上空を見上げれば漆黒の空だ。この状態で太陽を直視することは出来ないから、太陽の位置にある窓は二重偏向措置で減光処理が行われている。
「あれが大陸の西の端ですか……。初めて目にしました」
「最初の到達者に成れるだろうな。記念碑を用意しておくのも一興だろう」
お妃様達の話が、俺達のところまで聞こえてくる。
記念碑もおもしろそうだけど、どんな文句を刻むんだろう?それを考えるのもおもしろそうだ。
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お妃様達が帰ったところで、俺達の準備が始まる。
とは言っても、すでに10t爆弾をオルカに搭載してあるようだから、振動解析用のプローブの位置と状況確認がメインになっているようだ。
展望ブリッジの一角に大きな仮想スクリーンを広げて、カテリナさんとドロシーが小さな仮想スクリーンを手元に仕事をしているのを俺達はジッと眺めるばかり。
まぁ、適材適所なんだろうけどね。
「ヨルムンガンドから通信。『作戦開始時刻を1200時としたい』以上!」
「カテリナさん。1200時に爆弾を投下しますけど、だいじょうぶですか?」
「十分余裕があるわ。OKと伝えて頂戴!」
ヨルムンガンドとの通信は常時ドロシーが確保している。
フレイヤとローラ達は爆弾投下の状況と周辺監視に向かってしまった。ヨルミンガンドとリバイアサンは推測位置から50kmほど離れた場所で状況を見守っている。
「それにしても東側の溝堀りを既に始めていたとはねぇ……」
「小規模騎士団に依頼したみたい。戦機でも出てくれば良いんだけど」
その思惑も少しはあるんじゃないかな?
普段よりも深く掘るわけだし、すこしはマンガン団塊も手に入るだろう。王国からはきちんと報酬が支払われるから、出てきたものは自分達のものに出来るぐらいの契約条件は書かれていたに違いない。
「北もそうかな?」
「4つほど騎士団が集結してるわね。ダモス級のラウンドクルーザーだから中規模騎士団ということになるわ」
「改造デンドロビウムがこちらに向かってきています。あれも作戦の一部なんでしょうか?」
ひょっとして王都から工兵部隊を移送してきたのかもしれない。
王族達の作戦だからやることの規模が大きいんだよね。見てるだけで感心してしまう。
「準備完了! いつ落としても良いわよ」
カテリナさんが大声で教えてくれた。ドロシーも頷いているから、すでにヨルムンガンドには伝えたんだろう。
「それなら、コーヒーでも飲んでくつろいでください。爆弾投下まで20分近くありますよ」
カテリナさんとドロシーが俺達の席にやって来る。
テーブルに置いてあった俺のシガレットケースから1本タバコを抜き取って火を点けた。
「ヒルダ達はもう始めたの? これから始めるようなことを言ってたけど……」
「確認だったんでしょうね。王国としては深く潜れる潜砂艦の秘密を知りたかったんじゃないですか?」
俺の言葉に納得しているような表情だったけど、急に俺に視線を向けた。
「リオ君のことだから、すでに推測を終えてるんじゃない?」
そんなことを言うから、皆の視線が俺に向いてしまった。
少しは考えてたけど、まだ推測も良いところだ。同じとは限らないんだけど、少し披露しておかないと俺まで殲滅されかねない。