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261 2つの巨大艦


 誰もが、その威容釘付けになってしまった。

 動く黒鉄の城というような表現では生ぬるく感じてしまう。まさしく山が俺達に迫って感じに見える。


「リバイアサンも凄いんでしょうけど、宇宙では比較対象物がないせいでしょうか? ヨルムンガンドの方が大きく見えます」

「リバイアサンの方が少し大きいのよ。でもヨルムンガンドの方が体積としては勝ってるのよねぇ……」


 ちょっと残念そうなカテリナさんの表情だけど、設計には関与してるんだからやはり誇った表情を見せるべきじゃないかな?


「ほとんど中緯度のコンテナターミナルほどあるんじゃないの!」

「その認識で構わないよ。鉱石の受け渡しや、ラウンドクルーザーの修理もできる桟橋を持ってるんだからね。だけどヨルムンガンドの凄いところは、ナイトとゼロを中隊規模で持てることなんだ。作戦可能なゼロが32機なんだから、とんでもない船だと思うよ」


 大きさに驚いているフレイヤに少し説明してあげた。

 まだ偽装が途中らしいけど、テンペル騎士団の桟橋から眺める限り完成したように見える。何が残ってるんだろうな。


「艦砲を搭載してないんでしょうか?」


 フレイヤへの説明で、俺が設計に加わっていると分かったんだろう。ユーリーさんが軍船になら必ずあるはずの砲塔群が見えないのに気が付いたようだ。


「艦砲は、巡洋艦クラスの連装砲塔をいくつか持っているはずですよ。あの大きさですから、砲塔を可動式にしたんです。少し大きくなりましたけどリニアレールの上を半重力装置を使って重量軽減をした砲塔が動くんですが、あのブリッジに隠れているんでしょうね」


 ブリッジというよりも山そのものだな。

 高さは300mを越えているだろう。表面が黒いのはガルナバン鋼で覆われているからなんだろうが、巨大なピラミッドに見えなくもない。

 上部装甲板までは切り立った崖のような高さ100m程の装甲板で覆われている。かなりの数の小口径砲用の開口部があるはずなんだけど、今は全て閉じているみたいだな。

 地上から10mほど浮上しているように見えるのは、下部に渦巻のように配置した多脚式走行装置によるものだ。さらに数mは浮上するらしいのだが、現在は巡航モードということになるんだろう。


「途中に丘があったらぶつかって停止するんじゃないの?」

「丘を平地にしてしまうよ。ヨルムンガンドの重量は600万tだからねぇ。最大速度で丘に当たったら丘の方が崩れてしまう」

 

 岩山でも同じことになるだろうな。ガルナバン鋼の強度は戦機の装甲にだって使っているくらいだ。

 もっとも、戦機の場合は厚さ20mm程度だが、ヨルムンガンドは1mを越えるらしい。

相手にぶつかることも攻撃の1つとして、周囲を取り巻く障壁の一部をさらに強化している可能性もありそうだ。


 30分以上眺めていた感じだけど、ヨルムンガンドが視界から小さくなるにつれて、桟橋の装甲甲板にいた黒山のような見物客が徐々に姿を消していく。

 フェダーン様が円盤機に乗って出掛けて行ったから、今回の試験航海の責任者がやって来るかもしれないな。

 

 ユーリーさん達に挨拶して、俺達は白鯨に向かった。

 展望ブリッジに行くと、アレク達がいつもの場所でグラスを傾けている。今日は出撃せずにのんびりしていたようだ。

 それが出来るのもフェダーン様がナイトを率いてやってきてくれたおかげに違いない。海賊掃討はそろそろ軍に任せた方が良いのかもしれない。

 当初の予定ではヨルムンガンドがやって来るまで、という約束だった。

 とはいえ現状を考えると、地下深くに潜む潜砂艦の撃沈を区切りとした方が良いだろう。


「凄いの一言だな。機動要塞そのものじゃないか」

「カテリナさんの話しではリバイアサンの方が大きいと言ってましたよ。でも、外から全体像を眺めてませんから実感が無いんですよね」


 ソファーに腰を下ろした俺に、サンドラがグラスを渡してくれた。先ずは1杯ということかな。


「これで終わりになるのか?」

「約束はそうなんですが、例の潜砂艦の始末は見届けたいですね。10t爆弾を用意しても、精密爆撃が可能なのはオルカを使用することになりそうです。帰還後の点検と改修が終わったリバイアサンと白鯨を交換することになると思います」


「最後までは見られないか……。まぁ、俺達の本業はマンガン団塊の採掘だからな。荒野の掟を海賊に教えることが出来たことで満足するよ」

「ヴィオラ艦隊に採掘を任せっきりですから、よろしくお願いします」

「そうだな。ベラスコ達にはのんびりとヴィオランテで休暇を楽しんでもらおう」


 そういえば、俺達もしばらく休暇を取ってなかったんじゃないか?

 次の航海前には休みを取ってみたいな。


 その日の夕食が終わったところで、ドミニクから作戦変更の伝達があった。

 やはり白鯨とリバイアサンの交代だな。

 それも明日の夕刻を持ってということだから、かなり急な話に思える。


「ヨルムンガンドの搭載機で十分に私達の役目をこなせるわ。それに、10t爆弾を搭載できるのは現在のところオルカだけらしいのよ」

「リオと団長達が残るということで良いのかな。できれば休暇が欲しいんだが?」

「ヴィオラ艦隊も中継点に2、3日で到着できるそうよ。ベラスコ達と楽しんだところで採掘を始めて頂戴。休暇は10日で良いわよね」


 ドミニクの言葉に、白鯨のクルー達が声を上げて喜んでいる。

 ついでにボーナスも、といきたいところだが、そこまで期待しなくとも数年前と比べて給与は3割増しになっている。遊ぶための軍資金が無いと嘆くことにはならないはずだ。


「団長達の帰還は?」

「例の潜砂艦の末路を見てからになりそうね。王都の工廟で10発製作したところで最後の作戦を遂行するつもりよ」


 早ければ2週間後には始められるんだろうけど、大型爆弾の製作は順調なのかな?


「カテリナさん。爆弾の見通しは?」

「基本は徹甲弾モドキだからそれほど時間は掛からないと思うんだけど……。そうね。後で確認しておくわ」


 最後の詰めはそれ次第なんだから、もう少しフォローしといてくれると助かるんだけどね。


 翌朝。白鯨のラウンジで簡単な送別会をしたところで、俺達はコンテナターミナルの喫茶店に荷物の詰まったトランクと共に時間を潰すことになった。

 ガリナムは昨夜の内に北東に移動したようだ。中継点まで3日以上掛かりそうだから早めに発ったのだろう。


 昼食が近づいたところで、レストランに移動する。

 簡単なランチを頂いていると、ドロシーがリバイアサンの接近を知らせてくれた。


「10分後にはコンテナターミナル上空に到着する。真上ではなく1kmほど北の上空2千mに待機すると言ってた」

「直ぐに迎えに来るの?」

「新型で来ると言ってた」


 フレイヤの問いに答えたドロシーの言葉を聞いて、皆の視線がカテリナさんに向かうのは自然の流れだろう。

 俺もそんな話は聞いてないんだよな。


「あら、言ってなかったかしら? パンジーの設計を流用して、多目的輸送機を作ったの。乗員は最大で15人。荷物だけなら5tを運べるわ。宇宙空間での利用が目的なんだけど、大気圏内の運用も可能よ」


 仮想スクリーンを開いて説明しててくれたけど、パンジーよりも高さはあるようだな。長時間の運用を考えていないから緊急退避室は設けていないようだ。

 小惑星帯やラグランジュポイントでの拠点作りを視野に入れて先行製作したのだろう。


「連絡艇という感じですね」

「近距離輸送と言っても、半日程度は飛行できるわよ。拠点作りに使えるんじゃない?」


 オルカだけでは不足ということだろうな。そうなると、この連絡艇とドッキングする居住ユニットの製作も始まってるのかもしれないな。


「要するに、リバイアサンを地上に降ろさなくても乗り込めるということね?」

「そうよ。オルカやパンジーもあるけど、乗員が限られてるから」


 あるなら困らないということで納得してるみたいだな。

 だけど、これからの一大事業にはなくてゃならないものだ。この機体をベースに多目的作業船だってできるんじゃないかな。

 とりあえずは、長いマニュピレータを2、3個背負わせて、専用工具類も背負い式にすれば良いのかな? 後で設計図を開示して貰ってアリスと考えてみるか。


 そんなことを考えながらタバコを吸い終えると、レストランのお客がかなり減っていることに気が付いた。まだ1230時だから、客足が遠ざかる時間じゃないように思えるんだけど……。


「急にお客が減ったけど、何時もの事なの?」

「北の上空にを見ればすぐに分かるにゃ。機動要塞も凄かったけど、あれと同じぐらいの物体が浮かんでると言ってたにゃ」


 なるほどね。見物で食事どころではなくなった、ということに違いない。


「新型が15分後に桟橋に来るって連絡があった!」

「なら、そろそろ出掛けないとね。レイドラ、テンペル騎士団に桟橋の東端を開けて貰えるようにお願いしてくれない?」

「了解です。連絡コードが変わりますから、それも合わせて連絡します」


 荷物を持って俺達はレストランを後にする。

 会計は俺がしたんだけど、これって後で戻って来るんだよね。

 何となく心配になってきたぞ。


 エレベータで桟橋の装甲甲板に出ると、やはり大勢の人達が北の空を見上げている。

 ヨルムンガンドの時よりはさすがに人が少ないのは、上空に浮んだままで動かないからだろうな。それに、似た形の船が最近まで桟橋の上空に浮んでいたことも人数が減った理由の1つかもしれない。


 桟橋ん東の端50mほどの広さを、テンペル騎士団の警備員が空けていてくれた。

 やがて上空から見慣れた形の連絡艇が下りてくる。

 どんな乗り心地なのか少し楽しみだな。


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