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255 機動艦隊がさらにもう1つ


 002番の区画に入って、海賊の掃討が始まる。

 アレクとバルトは逃げ出す戦車を待ち伏せするかのように、003番、012番の2手に分かれて監視線を作っていた戦車群を叩いている。

 たまに投降する海賊も出てきたが、軍の巡洋艦が捕縛に来るまでは荒地で待つことになっているようだ。

 武器を下して荒地で待つなど俺には出来そうもないな。かなり物騒な野獣が夜には出てくるのだ。

 

「軍の動きが遅いですね」


 先行している駆逐艦はガリナムを旗艦に動いているようだ。時速50km以上の速度で荒野を駆けているけど、ガリナムにはまだまだ余裕がある。メイデンさんがさぞかしイライラしてるんじゃないかな。


「ナルビクが誇る高速巡洋艦なんだけど、時速50kmを常時出すことはできないみたいね。戦機と行動を共にできないのは問題だわ」

「アンゴルモアは、あの巡洋艦より高速で動けるようですが、ローザ達の戦姫はアンゴルモアの2倍以上の速度で動いてますよ」

「活動範囲が戦機とは比べられないわ。でもリンダ達の戦機とは行動を共にできるのよ」


 仮想スクリーンで作戦区域の状況を見守るドミニク達の話し声が隣の席まで聞こえてくる。軍と敵対したこともあるから軍への評価は辛辣だな。

 だがそれも理解できるところだ。

 巡洋艦と行動を共にする戦機はどうしても巡洋艦の速度に合わせることになる。戦機の活動時間を4時間とすれば、3時間活動したところで帰還することになる。

 1時間で移動できる距離はおよそ50km以内だから、巡洋艦からあまり距離を取ることができないんだよな。

 同じことが戦姫にも言えるんだけど、グランボードの最大速度は時速150kmとカテリナさんが言ってたし、戦姫自体の動力が重力アシスト核融合炉という物騒な代物だ。パイロットの活動限界が戦姫の活動限界ともいえるから広範囲の単独行動ができるということになる。

 一緒にやって来た戦闘空母はテンペル騎士団のラウンドクルーザーとバディを組んでの行動だ。

 ゼロを6機搭載しているのだが、ゼロの作戦回数が5回だから今回は補給に課題が出ているようだ。


『テンペル騎士団より連絡。「ウエリントン王国軍の第2軍の機動艦隊が中緯度のコンテナターミナル近辺で演習予定。この移動に伴い、エルトニア軍の機動艦隊がテンペル騎士団の作戦管理下に入る」以上!』


 ん? ヒルダ様達が動いてくれたのかな。

 3つの機動艦隊が軟化した形になるな。今やってる掃討戦も機動艦隊が1つ増えれば東からのローラー作戦が出来そうだ。

 

『東の方で少し動きが出てきたようですね』

『ナルビクやエルトニアで?』


『散発的に、自爆的な攻撃を掛けているようです。陽動でしょうか?』

『だろうね。大きな被害にならなければ良いんだが……。軍は動いてるの?』


『戦車数台の攻撃では中規模騎士団の敵ではありません。まして奇襲を仕掛けてはいませんから、ラウンドクルーザーに接近する前に破壊されているようです』


 それで自爆的ということなのか。

 無理な行動を強いれば海賊の統制にも関わるだろう。たぶん無人戦車ということなんだろうが、それを制御する連中も近くにいることになるんだろうな。


『状況をたまに教えて欲しい。それぐらいでは陽動にもならないだろうけど、ここでの作戦に連動しているとなれば少し面倒な話になりそうだ』

『了解です。闇ギルドの通信も解析してみます』


 アリスも忙しそうだな。でも口調が嬉しそうなのは、楽しみが出来たと喜んでるのかもしれない。情報の分析はクロスワードパズルを解くようなものらしいから、解析するといろんな情報が浮かんでくるとレイドラが教えてくれた。俺にはちんぷんかんぷんな話だけど、情報戦を担う連中にとっては当たり前のことなんだろうな。


「この艦隊が新たに傘下に入るのね。この作戦で海賊組織が一網打尽に出来そうね」

「少なくとも数年はこの区域には近づかないんじゃないかしら。でも海賊って、Gと一緒らしいわよ。1つ見付けても10は隠れてると母さんが言ってたわ」


 母さんって、カテリナさんのことだよな。カテリナさんもかつては騎士団として活躍していたらしいから、その時の経験をドミニクに教えたんだろう。

 それにしてもGとはねぇ……。ゴキブリってことだよな。


 002には臼砲による砲撃を受けて慌てて移動しよとする潜砂艦は確認できなかった。

 だけど監視線が2つもあるしピケット艦は3隻もいるから、003区画への移動は深夜になってしまった。

 さすがに夜間攻撃は控えるようだ。明日の朝までの休養は、活躍している騎士や駆逐艦の乗員に取って貴重なものになるだろう。


 俺達も遅い食事を終えると、明日の作戦に備えて早めにベッドに入ることになったんだが……。


「間が空いてるんだから、取り戻すのは当然よねぇ」

「先ずは私から……」

「そうはいかないわ。一緒に相手をして貰いましょう」


 俺の安らかな眠りは、しばらくは望むべきもないってことかな。

 嬌声を上げるドミニク達の声が外に漏れないかと心配になったけど、カテリナさんのことだから防音設備ぐらいは設置しているに違いない。

 変なところに手を抜かないんだからね。


 2人が俺に体を預けて深い眠りに落ちた。もぞもぞと体を動かしたんだけど、がっちりホールドされているようで、起きることができないな。

 まだ目が冴えてしまっているから、ブランディーでも飲もうかと考えていたんだけどねぇ……。


『マスター。やはり動いているようです』

『闇のギルド?』

『海賊ギルドと裏のオークション業者です。海賊ギルドの一部の理事が裏のオークションギルドと手を組んでいるようです。掃討区域に向けて何度か指向性の通信を送っていますが、距離的に区域前部がカバーされていますから、確定した方向を得られませんでした。応答通信は確認できません』

『ありがとう。引き続き頼んだよ。ところで、011と012番の動きは?』

『012に1隻いるようです。確定範囲を200kmまでに絞り込んでいます』


 これで3隻目だな。

 しばらくは泳がせていても問題は無いだろう。新たに振動センサーが駆逐艦と共にやって来るから、掃討区域の周囲の状況は今まで以上に確認できるだろう。


 翌日。2人が目を覚ますのを待ってどうにか体を起こす。体の節々が痛いんだよな。かなりがっちりとホールドされていたに違いない。

 3人でシャワーを浴びると、ドミニク達をシャワー室に残して一足先に着替えを済ませる。

 冷蔵庫からビールを取り出して、一服を始めながら足元を眺める。

 まだ動いていないようだ。地表2千mで滞空しているのだろう。遠くに砂煙が上がっているのは、ラウンドクルーザーなのか俺達から逃げ出す海賊の戦車なのかは判別できないな。


 ビールを飲み終えるころに、2人がシャワー室から出てきた。すっかりメイクが終わっているから美人度が高まってるし、なんか顔が輝いている感じがするな。


「今、コーヒーを入れてあげるわ。すでに003番に移動してるから、朝食が済んだら作戦が始まるみたい」

「004番に取り掛かる頃にはエルトニアの機動艦隊も来るんだろう?」


「デンドロビウムもやって来るわ。振動センサ―をガネーシャ博士が急遽組み立ててくれたの」

「それだけ?」

「500kg爆弾を運んでくるわ。貫通爆弾よ」


 使えるのはパンジーと白鯨ってところだろうな。

 臼砲よりも炸薬量が大きいから、かなり使えるんじゃないか? 問題は何発運んできたかだけどね。


「とりあえず3発らしいけど、10日後には5発届くらしいわ」


 ドミニクお手製のコーヒーは少し濃いけど、眠気が一発で覚める感じだ。

 2人はストレートで飲んでるんだけど、こんな苦いものが良く飲めるなぁ。砂糖3杯が調度良い感じなんだけどねぇ。


「使うのは次の潜砂艦を見付けてからということかな? 003番にも動きは無かったみたいだけど」

「012番の動きは円盤機が追っているみたいよ。たまに爆弾を落とすと振動センサ―に反応が出るとユーリ―が教えてくれたの」


 クリスが面白そうな口調で教えてくれた。

 潜砂艦の連中はかなり神経がすり減ってるんじゃないか? 50kg爆弾でも至近距離に落とされたら、かなりの振動が艦内に伝わるはずだ。


 場合によっては地表に出て来るかもしれない。移動速度はラウンドクルーザーを超えるとも聞いてるけど、駆逐艦の速度を上回ることは無い。

 航跡も残るから、時間が掛かっても撃沈することはできるだろう。


「その内出て来るんじゃないかと、ユーリー達は考えてるみたいね。ローラが超長距離狙撃を試したいみたい」

「複合装甲を撃ち抜けるの?」

「それが試験目的らしいわ」


 ユーリーさんの作戦に悪乗りしているみたいな感じもするな。

 だが、実際はどうなんだろう?

 その答えを知るためにもやってみる価値はあるんじゃないかな。


 ドミニク達が着替えを始めたので、改めてタバコに火を点ける。

 ベッドを離れて1時間程経ってしまった。かなりお腹が空いてきたから、早めに食堂に出掛けよう。

 時刻は0800時少し前。寝坊したとは言われないだろう。


「遅かったな。俺達はとっくに終わってるぞ」

 

 展望ラウンジで朝食を取ろうとしたら、何時もの席に座っているアレクが笑みを浮かべて俺達に手を振って来た。

 苦笑いで手を振ると、ネコ族のお姉さんから蜂蜜たっぷりのトーストにマグカップのコーヒーを受け取った。

 アレクのところに向かおうとした俺のトレイに、お姉さんがヒョイと果物が乗った皿を追加してくれる。

「ありがとう」と礼を言うと、急いでアレクのところに向かった。


「まったく、朝は早く起きるものだぞ。まあ、事情も分かるが、一度リズムが狂うと中々元に戻せない」

「少しずつ、努力しますよ。それでも昔から比べれば早くなったし、フレイヤのおかげで朝食もちゃんと食べられるようになりましたからね」


 ヤード暮らしの頃は、爺さんに叩き起こされたんだよなぁ。朝食を腹いっぱいにかきこんでラウンドクルーザーの修理をしたものだった。

 そんなことだから、休日は午前中に起きたことが無い。

 騎士団に入団したころは、そんな暮らしの名残りがあったんだが、フレイヤが実力で起こしに来たからねぇ。朝食を取れなかったのは数えるほどしかないんじゃないか?


「今日も狩りができるな。やはりスレイプニルの性能は段違いだ。確かに戦機を越えているぞ」

「ナイトでさえもよ。機動力が段違いだし、大型の銃が使えるのも良いわね」


 サンドラが銃と言ってるけど、あれは75mm長砲身砲なんだよな。それを銃として扱ってられるんだから、やはりナイトは良くできた機体ということなんだろう。

 


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