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254 002番へ移動する


 カテリナさんと戦闘の様子を自室で眺める。

 上空2千mから地上を見下ろしながらの観戦だ。


「床の一部が開くのはこれを見ようとしたんですか?」

「そんなことは無いんだけど、案外良く見えるわね。今回は白鯨だったけど、リバイアサンはもっと床を大きく開けることができるわよ」


 その辺りがカテリナさんの趣味なんだろうけど、美的感覚はあるということなんだろうな。ウエリントン王国が誇る総合科学の権威らしいけど、俺にはマッドな博士にしか思えない。

 それでいて、俺を誘惑するんだから困ったものだ。

 今も、裸のカテリナさんを抱きながらの観戦だから、自室の映像は全て遮断している状況だ。

 たまにドロシーから状況報告があるんだけど、今のところ俺に確認を求めるようなことにはなっていないようだ。


「やはり20km四方にまで潜伏範囲を絞れると、軍の火力の前には屈服するしかないわね。地上に出た途端に巡洋艦の主砲で撃沈なんて、撃った巡洋艦の方が驚いてるんじゃないかしら?」

「それでも無傷とはいかないようですよ。何発か自走砲の砲弾を受けています」

「自走砲の口径は軍の潜砂艦に搭載された物より小さいみたい。150mm砲弾なら巡洋艦の枢要区域を撃ち抜けないわ」


 枢要区域以外の居住区域はそうはいかないんだろうな。

 当たり所が悪ければ、食事ができなかったり寝る場所が無くなるんじゃないか?


「アレクとフレイヤが見えませんね。遠くで戦っているのはどう見ても戦機ですから、テンペル騎士団もしくはナルビク王国軍の戦機になります」

「次の002番に向かったとドロシーが言ってたでしょう? いくら私が魅力的でも、放送ぐらいは聞いておくものよ」


 俺の膝から腰を上げると、ベッド傍のテーブルに乗せてあるグラスにワインを注いで渡してくれた。

 自分の分を注いで、俺の目の前に立ちながら飲み始めたから、目のやり場に困ってしまう。

 こんないたずらが大好きなところが、カテリナさんの魅力でもあるんだろうな。


「これで001番区画の掃討は終わりということでしょうね。次の区画への振動センサ―投下は終了してるのかな?」

『アレク様達が回収してパンジーに搭載しました。001番への攻撃時に、011,012番に動きが確認されましたが、002番にはありませんでした。次の駆逐艦の砲撃予定時刻は1530時となっています』


 アリスにはカテリナさんの情報遮断措置も無意味だ。

 俺達の行為をずっと見ていたのかもしれないけど、俺のプライバシーは大事にしてくれるから、見ても見ぬ振りをしてるのかもしれない。

 

「011と012の動きが気になるわね。そっちの方はどうなるのかしら?」

『円盤機が予備のセンサーを落とすようです』


 無視できないとドミニクは判断したようだ。

 ドミニクにクリスとレイドラ、それにドロシーがいるんだからこれぐらいの対応は何とかなるんじゃないかな?

 それより、アレク達はだいじょうぶなんだろうか?

 戦車の中には88mm長砲身砲を備えてる奴もいると聞いてるんだけど……。


『1450時に002番に向けて移動開始。残り13分……』


 艦内放送は聞こえるようだ。

 移動開始の前には展望ラウンジに向かった方が良さそうだな。衣服を整えて部屋を出る。


「食事がまだだったわね」

「食堂に寄って軽く摘まんでいきますか」


 白鯨の食堂は小さかったんだが、空いてる空間が多いということで、2倍ほどに広げたようだ。

 生活部のネコ族の連中が頑張ってる部署なんだけど、ラウンドクルーザーと異なり戦闘がいつ始まるか予断できないということがない。それでも腰に自衛用の拳銃は下げているようだ。


「カテリナさんも武装はしておいた方が良いと思うんですが?」

 

 いつでも装備ベルトを巻いておけば、リボルバーと小さなバッグが付いているからね。忘れっぽい俺には都合が良い。


「ちゃんと装備してるわよ。ほらね!」


 白衣の前を広げると、真っ赤な下着の上にガンベルトがあった。ホルスターが小さいのは25口径ということかな? 完全に自衛用だけど、持ってるなら少しは安心できる。でも、下着がねぇ……。さっきは気が付かなかったけど、フレイヤの物より布地が小さいんだよなぁ。思わず顔を赤らめたのは仕方がないことだろう。


 食堂に入って、野菜サンドとコーヒーを頼む。

 サンドイッチをパクついていると、ノンノの艦内放送で白鯨が動き出したのが分かった。

 重力制御で加速度を相殺しているわけではないらしい。それだけ元ヨット部の連中の操船技術が一流ということなんだろう。


「やはりど真ん中ということでしょうか?」

「その前に、アレク達の回収でしょうね。稼働時間はまだまだあるけど、かなり派手に戦車と戦たみたい」


 その情報はどこから来るんだろう?

 俺の部屋で仮想スクリーンを見ていたけど、俺も同じ画像を見ていたはずだ。


『自分を改造してるのでしょうか? 微弱な電波信号がカテリナ博士から発信されていました。テーブルに乗せた携帯端末をブースターとして使っているようです』

『エミーと同じということ? 道理でエミーがブースターを必要とすることに気が付いたはずだ』

『体組織内にエミー様のような通信機は存在しません。やはりカテリナ博士には謎が色々あります』


 エミーやローザにも微小ナノマシンによって構成された神経組織とも言える装置が組み込まれている。カテリナさんにはそれが無いということに驚く限りだけど、カテリナさんだからねぇ……。自分にどんな改造をしたか分かったものじゃない。

 だけど、そんな素振りは全くないし、体にメスの跡もないんだよなぁ。再生医療が進んでいるから傷は直ぐに消せるとアレクが重症を負った傷跡を見せてくれたけど、まるで分らなかったからね。


 食事が終わったところで展望ラウンジへと向かった。

 カテリナさんは俺に手を振ると1人で出て行ったから、自室というか、ラボに向かったんだろう。

 いろんな研究をしているようだけど、一応カテリナさんの夢を叶えたんだから、次の計画が形になるのはまだ先なんじゃないかな。


 展望ラウンジに入った途端、ドミニクの視線が突き刺さる。

 たぶん分かってはいるんだろうけど、口に出さないだけの器量は持っているようだ。


「少し先行させようと思うの。5分後にはアレク達を回収するわ。フレイヤ達は013番まで足を延ばして先行偵察をしているようね」

「たぶん振動センサ―を落としてくるはずだ。海賊も大事だけど俺達の本来の目的は海賊を統率する連中を炙りだすことだよ」


 アレク達が帰って来るなら、アレク達の固定位置であるソファーに座って、タバコを取り出した。

 少しずつ地表に白鯨が近づいているのが分かる。ほとんど傾斜も感じないのが不思議なくらいだ。


「はい。コーヒーを持って来たよ。お楽しみだったんでしょう?」


 まるで部屋の角に追い詰めたネズミを狙うような目で、コーヒーを渡してくれたクリスが俺に笑みを浮かべる。

 思わず出しかけた手を引こうとしたぐらいだが、小さく笑い声を上げたところを見ると怒っているわけではなさそうだ。


「当然今夜はサービスしてくれるんでしょう?」

 

 ウインクをするクリスに頷くことで答えておこう。

 これから忙しくなってくれることを願わずにはいられないけど、クリスの入れるコーヒーは何時も俺好みの味だ。

 急に扉が開く音がしたから、顔を向けるとアレク達が疲れた様子もなく俺の座るソファーにやって来た。


「なんだ、先に飲んでるのか? サンドラ、とりあえずは1杯だ。002番の海賊たちは逃げ出したらしいが、かえって見付けるのが楽になるのを知らんのだろうな」

「テンペル騎士団のラウンドクルーザーに助けられましたね。直ぐに75mm砲の弾倉交換をしてくれましたから」


「ああ、あれは助かるな。支援体制が出来ているなら長砲身砲は1つで十分だ。その間はフレイヤ達が相手をしてくれる」

「あの距離で当てるんだからねぇ。吃驚したわ」


 ローラ達のパンジーだな。超長距離狙撃が出来るから、戦車の視認距離外から狙撃したんだろう。

 狙撃に徹していてくれれば俺も安心だ。

 


「1530時に002番が始まるようです」

「ノンノとドロシーに感謝だな。他の騎士団では、何もできないだろう。それを知ってるからこそテンペル騎士団が俺達の砲弾交換をしてくれるんだろうな。あいつらも戦機を出して戦車を追ってはいるんだが、戦車の方が少し足が速い」

「その点、我等はナイトでさえ時速60kmを出せるんですから。スレイプニルでの待ち伏せが面白いようにできるんですからねぇ」


 バルトも、トリスタンさんの息子だけのことはあるな。正義感が人一番強いようだ。新たな騎士団は親父殿達に任せて、このままヴィオラ騎士団に入ってくれれば良いんだけどねぇ。


「そうなると1時間は休めんぞ。30分後に再び出撃だ。その前に……、サンドラ、何か食べ物を調達してくれ!」

「了解! この時間だと、サンドイッチぐらいでしょうね。濃いコーヒーも頼んでくるね」


 アレク達は食事を取っていなかったんだな。てっきり携帯食料を食べてたと思ってたんだが。

「それで、少しは見えたのか?」


 いつの間にかタバコに火を点けて、美味そうに煙を吸い込んでいるアレクが問い掛けてきた。

 

「まだ1回ですから、おおよその方向を掴んだぐらいです。これから何度か潜砂艦を破壊できれば集束してくると思っています」

「ドミニク達に潜砂艦は任せておくんだな。リオはリオでしかできないことを進めとくんだぞ!」


 2杯目のグラスを飲みながらの話しでは、あまり真剣みがないんだよな。

 だが、それは何時もの事。

 ドミニクでさえ忘れていることを、アレクはしっかりと覚えているし、それを俺が現在進行形で実行しつつあることを知っていた。

 

 さすがは元騎士筆頭だけのことはある。飲兵衛だけではないんだよな。

 俺達が星の世界に行ってる時は、アレクに後をしっかり頼んでおこう。


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