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250 白鯨がやってくる


 2回目の哨戒は、昨日の哨戒エリアの西で行う。

 途中で見つけたピケット艦らしき存在は、位置を記録して通り過ぎることにした。


「監視線の確認は、しなくても良いの?」

『磁気探査で、おおよそ特定できています。さすがに戦車をミューメタルで包むことはしないようですね』

 

 仮想スクリーンが開き、ピケット艦から南西に延びる赤い点が表示された。モアレ画像のような磁気センサを使った金属反応のデータをアリスが加工してくれたんだろう。

 おおよそ等間隔で並んでいるから、人為的であることは確かなようだ。


『布を車体に被せて砂を上に乗せたぐらいの偽装ですから、フレイヤ様達も活躍してくれると思います』

「デイジーの電脳でもかい?」

『騎士団の偵察機としても使える機体です。各種センサが搭載されてますし、その解析ソフトは私の作品です』


 自慢してるのかな? まあ、アリス監修ならかなりの代物には違いない。

 宇宙で多目的に使えるようにと、センサを増設してるに違いない。

 とりあえず問題なく、哨戒ができるということだけは確かなようだ。


 少し高度を稼いで視野を広く取り、昨日発見したピケット艦の位置を再確認する。やはり動いてはいないようだ。

 騎士団はマンガン団塊を探して移動するのが常だから、やはりピケット艦に間違いないだろう。


『本日の哨戒エリアに近付きました。高度と速度を落とします』

「了解。俺達のヴィオラ艦隊も移動してるのかな?」

『ヴィオラ艦隊の南下は大きくはないようです。ドミニク団長が白鯨を南下させる決断をしました』


 白鯨を投入する?

 俺も最初に考えた案だったんだけど、地上で探索しているギガントが一緒だということで断念したんだけどねぇ。

 まさか、ギガントを置き去りにしたわけではないと思うんだけど……。


「ギガントは?」

『中継点から、千kmで自動操縦に切替えて帰還させているようです。白鯨の補給が終わり次第、こちらに出発するようです』


 自動操縦も出来たんだ……。中継点に近づけば防衛隊の連中が誘導もしてくれるんだろう。

 だけど、白鯨には攻撃手段は無かったんじゃないか? ガネーシャ博士はカテリナさんよりは穏やかな性格だから、とんでも武器を乗せることはないと思うんだけどねぇ。


『左前方に船影。ピケット艦と推測します。ピケット艦の北30km付近をラウンドクルーザーが通貨中。100tコンテナを搭載したバージ3台を牽引しています』

「あれだな……。通信は?」

『艦種、進行方向と速度をラウンドクルーザーの1kmほど南から発信しています』


 ピケット艦と監視線は案外有効なんだな。

 次はピケット艦から発信する方向が問題だ。


『ピケット艦より指向性通信が発信されました。北北西に向けての発信です』

「その線上に潜砂艦がいるわけだ。襲うことがあるなら介入するよ。哨戒をしながら注意だけはしといてくれ」


 いつまでも、この場にいることは得策ではない。アリスの移動速度を考えれば、動きが出てからでも十分に間に合いそうだ。

 先ずは西の哨戒を優先しよう。


 西の哨戒を継続しながら、朝に見掛けた騎士団の状況を見守る。

 西に向かう騎士団は、積み荷も無いから狙わないということなんだろうか? 相変わらず変化が無い。

 昼食を取りながらも、アリスが上空からとらえた状況を仮想スクリーンで見守ってい

たんだが、草食巨獣の姿さえあまり見ることが出来ない。

 海岸から北に2千km近く離れているのだから、大型の巨獣はおらずとも、小型種はいるんじゃないかと思ってたんだけどね。

 見かけるのは野生の草食獣達の群ればかりだ。

 草食獣を狩る肉食獣を見掛けないのは、夜行性だからだろう。なだらかな起伏がどこまでも続く荒れ地は、見通しが極めて良い。


『ドミニク様から連絡です。テンペル騎士団のコンテナターミナル到着予定時刻は、2230時。ターミナル上空に停泊するとのことです。追伸がありました。ガリナムが単艦で救援に向かうそうです。ガリナムの到着予定時刻は明日の1120時ということです』

「メイデンさんなら、やって来ると思ったんだ。あの主砲を撃ちたかったというのが本音なんじゃないかな」

『試射では満足できなかったと?』

「そういうことかな。クリスが軍にいた時よりも姉さんが若く見えると言ってたよ」


 若く見えるという言葉は、いろんな捉え方ができる。

 その言葉を聞いた時、誰もが軍に在籍していた時より増して過激になったと思ったのは本人には知らせないでおこう。

 

『試射用の砲弾は、軍から払い下げて頂いた戦艦の主砲弾です。数は10発でしたが、試射で半分使ってますし、その後2、3発は運用試験で使ったはずです。搭載した砲弾はカテリナ博士謹製品になると思います』


 アリスの話を聞いている内に、だんだんと背中に冷たい汗が流れているのが分かった。

 通常弾なら炸薬を詰めるはずだが、大きな砲弾だから内容積が大きいのが問題だ。『これなら、あれを……』なんて言いながら首を傾げる姿が容易に想像できる。


 気を取り直して、2杯目のコーヒーを飲みながらタバコを楽しむ。

 夕暮れ前に、もう一回りはできそうだな。


 哨戒区域の更に先に大河を見付けた。川幅が2km近くあるんだから、かなりの水量に違いない。

 数カ所見付けた浅瀬はさらに川幅を増している。岸に立っても対岸を見ることができないんじゃないかな。

 浅瀬を渡ろうとする騎士団は今のところいないようだ。

 大河に潜む巨獣は、獣機を丸のみにするものもいるということを聞いているのだろう。

 騎士団を長く続けるには、リスク管理がどれだけできるかということだ。

 冒険者ではあるが、向こう見ずではない。蛮勇になることなかれとアレクでさえ俺に忠告するぐらいだからね。

 ん? 白鯨が来るということはアレク達もやって来るんだよな。案外アレク達の出番が無いことへの不満をこの騒動で帳消しにしたいんじゃないか?


 大河の西側には監視線もピケット艦もいないことを確認したところで、俺達は帰路に着く。

 今夜には白鯨がやって来るし、明後日にはガリナムがやって来るに違いない。公式な巡航速度が時速50kmは伊達じゃないからね。


 帰還した俺達を出迎えてくれたのはカテリナさんとローラ達だった。超長距離狙撃ができるもう1つのパンジーがやってきたことになる。

 桟橋の中にある喫茶店で情報交換ということになったんだが、カテリナさんの興味は潜砂艦の撃沈が臼砲を使った作戦で可能であることを確認するためのようだ。


「課題も出るはずよ。売り込んだ以上は、最後まで面倒を見てあげないといけないわ」

 

 殊勝な言い方だけど、やはり興味本位というのが良く分かる。


「課題があるとすれば、一度に複数という点ですね。相手を1隻と想定した作戦計画ですから、少し変更する必要があると思います。……ところで、振動センサはパンジーに搭載してあるんですか?」

「持って来たわ。パンジー1型の分もあるわよ。翼下に左右2本ずつ懸架できるわ」


 都合4本ということか……。駆逐艦には射出型の振動センサが10本搭載できるから、機動艦隊が2つで50本近い振動センサを設置できそうだ。

 得られたデータの解析はドミニク達と一緒に行動しているドロシーに任せれば良い。アリスがアシストするなら、潜砂艦の動きを逐次教えてくれるに違いない。


「シグの引き渡しは無事に済んだんですか? カテリナさんはしばらく王都で暮らすと思っていたんですが?」

「ヒルダ達が毎日ファッションショーをしているわ。可愛がってくれるのは良いんだけど、学習がおろそかになりそうね」


 すでに学院卒業生ほどの学習はしえるんじゃないか?

 カテリナさんの言葉に、思わず視線を向けてしまう。


「勉強だけが学習じゃないのよ。学習では経験を学ぶことはできないし、新たな閃きを教えることも無理でしょうね。学習とは歴史を教えることなんじゃないかしら?」

「秀才には学習で対応できそうですけど、確かに俺達に必要なのは閃きということなんでしょうね」


 ひらめきは、学習と経験、それに天性の勘という奴も必要なんだろうな。

 お仕着せの学習で満足しない人物に育てようと言うのかな? どんな少女に育つかちょっと楽しみだ。


「ライム達の末っ子がシグのお世話をするそうよ。やはりヴィオラ騎士団とのつながりを将来にわたって重視してるということかしら」


 それなら、年代的にはローザ達に近いんじゃないかな? ドロシーの人格はローザが作ったようなものだから、案外良い選択をしてるように思える。だけど、語尾に『にゃ』が付くかもしれないね。その時はネコ耳カチューシャを贈ってあげよう。


「白鯨を1人で制御できるドロシーちゃんの妹なんでしょう? いまさら学習等不要に思えます。それよりはヨルムンガンドの制御方法をシュミュレートした方がよろしいのでは?」


 オデットの話しは、ドロシーを知らない人ならもっともな話だと思うに違いない。

 質問を向けられたカテリナさんが笑みを浮かべたのは、そう思っての事だろう。


「ヨルムンガンドも制御なら1時間も掛からずにマスターできるんじゃないかしら?

ドロシーだって、誰もカンザスやリバイアサンの制御方法を教えていないのよ。制御プログラムを見るだけで制御ができるんだから、凄いとしか言いようが無いわ」


 教えたのは、遊びと日々の暮らしじゃないのかな?

 プログラム化できない毎日は、ドロシーに取って迷惑だったかもしれないけど、その遊びを通して人間らしくなったことは確かだと思う。

 ローザとの別れを嫌って、お風呂に隠れるくらいだからね。

 果たしてどんな少女に育つんだろう? ライムさん達の末の妹さんの性格が気になるところだ。


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