248 補給船を見付けた
上空から55mm砲を、潜んでいる標的に向かって発射した。
地上から巨獣に向かって打つと千mも飛ばない品なんだけど、300m程の上空からだから水平距離が500mも離れていないから十分に届くんだが……。
『大外れですね。30m以上着弾点がズレてます』
「上手い具合に、と言うべきじゃないかな。動き出したぞ」
潜望鏡のような筒を長く伸ばして周囲を探ろうとしているのが良く見える。
『ピケット艦との通信を確認しました。その場に留まるよう返信が返ってきましたから、やはりピケット艦と監視線を構築する監視点とみるべきでしょう。テンペル騎士団に位置を知らせますか?』
「お願いするよ。まだ俺達の索敵エリアじゃないんだけどなぁ」
先が思いやられる。
移動を開始して200kmほど進んだところで、再びピケット艦を発見した。動いていれば零細騎士団と勘違いしそうだけど、荷物を満載したバージを引いて留まっているだけだからねぇ。騎士団なら誰でも不審に思うんじゃないかな。
2つ目のピケット艦を見付けてからは、何も発見できずに哨戒エリアを低空飛行しながら金属反応を確認する。
アリスの話しでは、現在の飛行高度である地上200mでも、地中10mほどまでの反応を確認できるそうだ。
だが、それが潜砂艦か否かは、判断できないだろう。相手が動いているなら分かるだろうけど、ジッと潜んで、ピケット艦の連絡を待つだけでは小さな金属鉱床と区別ができないからね。
「現時点でのサーベイ状況は?」
『予定エリアの8割を終了しています』
「なら、昼食にするよ。木陰があれば着陸してくれないかな」
荒れ地と言っても、小さなオアシスのような場所がある。もっとも、泉は無いしさして大きくもない。10本近くの低木と雑草の繁みがあるぐらいだ。草食巨獣が食い荒らすんだけど、直ぐに雑草が茂るんだよな。
アレクの話しでは、中心付近は水脈が地上付近にまで達しているそうだ。万が一の時には穴を掘れば水が出る可能性は高いと言っていたんだが、出なかったらどうなるんだろう?
荒れ地でのサバイバルも中継点の学園に取り入れた方が良いのかもしれないな。
『前方のオアシスはどうですか? 周囲50kmに巨獣はおりません。小さな熱源を確認しました。砂漠ネズミだと推測します』
「それなら丁度良い。一休みするよ」
砂漠ネズミは夜行性だし、大きさは子猫より小さい。
臆病な奴だから、俺が地上にいるだけで、巣穴から出てこないはずだ。
着陸したアリスから下りると、固形燃料を使うコンロでお湯を沸かす。
温いコーヒーよりは熱いコーヒーが良い。地表の気温が30度近くあるのは我慢しよう。
昼食の包を開けると、握りこぶしほどの丸いパンを使ったハムサンドと野菜サンドが出てきた。コーヒーに合いそうな取り合わせだから、思わず笑みがこぼれる。
食事を終えて残り湯で2杯目のコーヒーを作ろうとしていると、カップに注いだコーヒーに小さな波紋が浮かんだ。
俺が貧乏ゆすりをしているわけではないから、この振動はどこから来るんだ?
「アリス、振動を確認した。解析できるか?」
『地震波ではありません。この低振動は、動力炉の起動時の振動に酷似しています。振動方向を確認中……、ビンゴかもしれません。このオアシスの真下からです』
潜砂艦が潜んでいるということなんだろうか?
動力炉を起動しても安定領域までは時間が掛かるはずだ。ここで様子を見てた方が良いのかな?
『マスター、ピケット艦と類似した小型のラウンドクルーザーが接近してきます。このままでは発見されそうですので、一時的に亜空間に身を潜めます』
「了解だ。やってくる方向は?」
『2時方向からです』
北北東ということかな?
俺も隠れた方が良いんだろうけど……。あの大きな繁みにするか。コンロと水筒を大きなバンダナに包むと繁みに飛び込んだ。
足跡はどうしようもないな。リボルバーを手にすると、ジッと北北東に目を向けた。
先ほどは小さな振動だったけど、あれから少しずつ大きくなっている。
何が始まるのかと周囲を探っていると、オアシスの中心部に水たまりがいつの間にかできている。
水脈が近いというアレクの話は本当だったようだ。
感心して眺めていると、水たまりの中から触手のような物が延びてきた。
1本だけというのは生物としては不自然な話だ。となると、周囲を観察するマイクロスコープということになうのだろう。姿勢を低くして藪に身を潜める。
戦端を曲げた触手のような物が、何度も辺りを探ったかと思うと、さらに振動が大きくなってきた。
オアシスの中央はちょっとした池のようにも見える。このまま地下水が昇って来ると、この辺りも水浸しになりそうだ。
さらに振動が激しくなった時、池の中央からドラム缶のような筒が上がってくる。地上に1mほど伸びたところで振動が治まりだした。
身を潜めてジッとしていると、ドラム缶の上部が開いて、男が顔を出す。
やはり潜砂艦だったか。だが、潜砂艦は滅多に姿を現さないんじゃなかったか?
『現在、上空2千mで状況を監視中。先ほどの小型ラウンドクルーザーが2kmほどに接近しています』
『了解だ。まさか潜砂艦を目の前にできるとは思わなかったよ』
『潜砂艦の攻撃は、マスターの指示で行います』
『そうしてくれ。このまま再び潜るなら無理に戦う必要もないし、手持ちはリボルバーだけだから』
状況を考えると補給だろうな。
円盤機の接近を危惧して潜砂艦も全容を現さないようだ。あのドラム缶を利用して地なれば、それほど補給できないんじゃないかな。
やがて、ラウンドクルーザーが姿を現した。小型と言っても全長は30mほどあるし、横幅も8m近くありそうだな。曳いてくるバージは規格外だろうけど、50tは積み込めそうだ。
ラウンドクルーザーが接近してくると、男がドラム缶から出て両手を使ってラウンドクルーザーの誘導を始めた。
ドラム缶から次々と男達が下りてくる。10人程下りたところで周囲を眺めながら一服を始めた。さすがに潜砂艦の中で一服はできないんだろうな。
ラウンドクルーザーがオアシスを少し行き過ぎたところで停車する。引いてきたバージが調度オアシスの横になっている。
ラウンドクルーザーから3体の獣機が下りてくると、バージの荷物を砂地に下ろし始めた。
ドラム缶から下りた男達が荷物目がけて走り出すのが見える。
木箱を解体して、残材をバージの荷台に放り込んだ獣機がラウンドクルーザーに戻ると、直ぐにラウンドクルーザーが西に向かって動き出した。
やはり補給艦ということか……。あの後ろを着いて行けば、芋づる式に潜砂艦の位置が分かるんじゃないか?
二人一組で荷物を潜砂艦のドラム缶の中に放り込んでいる。疲れ知らずに働いているのは感心できるけど、あれで、どれほどの補給になるのだろう?
荷物を全て運び入れると、忘れ物を確認する様に最初の男が周囲を何度も回り始めた。
やがて男がドラム缶の中に入り蓋が閉まると、再び振動が始まった。
数分後に振動が止む。
ごそごそと藪から這い出して、タバコに火を点けた。
さて、どうするかだな。
「先ほどの小型ラウンドクルーザーにマーカーを付けられないかな?」
『上空を飛ぶ科学衛星の画像で処理できそうです。時速30kmにも達していませんし、移動距離が短い場合は、途中で他の部隊に補給した結果だと推測が可能です』
なら、情報をテンペル騎士団に送っておこう。早めに情報を知れば潜砂艦の位置を割り出すことも容易だろう。
アリスを呼んで、再び上空からの探索を始める。
先ほどのオアシスの金属反応もかなり少ない反応だったらしい。
『ミューメタルを使用しているのかもしれません。磁気を遮断しますから、誘導電流を用いた金属探査には大きな誤差を持ってしまいます』
「俺達の探査方法を阻害してると?」
『反跳中性子を利用するなら確実ですが、かなり低空で移動することになります』
探索範囲が広すぎるということか……。となると、補給艦を探してということが一番確実になりそうだ。
夕暮れ近くになったところで哨戒を終えて帰路に着く。
フレイヤの方はどうなったんだろう? 何か見付けたかな。
『大規模な監視線を見付けたようです。明日はその先との通信を傍受しました』
「機動艦隊が到着すれば、すぐにも潜砂艦狩りが出来そうだね。となると……」
『私達も、この先を目指しましょう。緯度が高くなるほど騎士団の数が少なくなっているようです』
騎士団が少なければ競争相手も少ないということになるんだろうな。それだけ、騎士団の収入が良くなるということだ。
やがて前方にコンテナターミナルが見えてきた。一番北側の桟橋の東端にパンジーが着陸しているのを見て、少し肩の荷を下ろした気分になる。
パンジーの隣に着陸したアリスは、俺を桟橋に下ろすと北東に消えて行った。
あの性能だからねぇ……、興味を示した騎士団員だけなら良いけど、どんな奴が潜んでいるか分からない。爆破することはできないだろうけど、そんなことが起こればテンペル騎士団の評判が落ちてしまいそうだ。
ポツンとそびえる建物に向かって歩き出した。
エレベーターホールに、誰かいるだろう。早めにユーリーさん達と合流して今日の状況を説明しておかないとね。