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246 海賊の数はいくつだ


「ピケット艦2隻は、この位置ね。戦車7台の配置はこんな感じかな?」

「戦車に対して50kg爆弾を至近距離に投下しましたが、逃げ出した方向はバラバラです。追撃しても逃走方向に変化はありませんでした。その後、戦車は破壊しております」


 フレイヤとマーレ―さんの報告が続く。作戦室とも呼べそうな会議室の壁一面にコンテナターミナルから北の地図が映し出され、そこに活動中の騎士団の艦船が緑色で表示されている。

 かなりの数だ。200を超えてるんじゃないかな。

 その中で、赤い表示色がピケット艦で、橙色が戦車の破壊位置ということになる。

 これだけじゃあ、分からないよなぁ……。

 ペンテル騎士団が拿捕したピケット艦の乗員は1艦辺り20名にも満たなかったらしい。

 船内カーゴには、大量の燃料と食料が積んであったらしいから、戦車の母艦としても使われていたのだろう。


「戦車はピケット艦の目の役目ということでしょうか?」

「そんな感じに見えますね。母艦である潜砂艦に一目散と思っていましたが、当てが外れました」


 壁からテーブルに体を向けると、温くなったコーヒーを頂く。部屋の天井には強力な換気扇があるようだけど、タバコを吸う連中が多いから少し黄ばんでいるみたいだ。

 俺達が見ていた壁以外の2方の壁にも仮想スクリーンが何枚か表示されている。

 通信装置と端末が何台も並び、それぞれに騎士団員が張り付いているところを見ると、まさしくここがテンペル騎士団の心臓部に違いない。


「かなり歪んでいますが、南北に連なる位置とも言えますね。東西の交通を確認していたのでしょうか?」

「移動速度を見ていたのかもしれません。科学衛星の画像も、海賊は入手できるはずですからね」


 海賊ギルドなんていうギルドまであるぐらいだからな。

 入会資格はかなり難しいと聞いたことがあるけど、情報の売買ならギルド会員以外にも門戸を広げることもあるだろう。それに科学衛星から撮影した地上画像は1枚で1万Dほどの高値だが、売る相手を選ばないと聞いたことがある。

 

「これだけとは思えないな。明日も探して欲しいね。捜索位置はこの辺りを重点にお願いするよ。それで、MADの方はどうだった?」

「見てると眩暈がしそうながぞうなのよねぇ。一応、記録を取っておいたわ」


 小さなクリスタルをフレイヤが渡してくれた。

 手の中に納めたクリスタルが不意に消滅する。アリスが転送して解析を始めてくれたようだ。


「そのデータはお見せして貰えませんの?」

「1次データだから、フレイヤの言う通りですよ。何日か取り続けて変化を調べます。少し待ってください」


 問い掛けてきたユーリーさんが頷いてくれた。カテリナさんに送って調べて貰うと思っているのがまる分かりだけど、カテリナさんはシグちゃんの教育で王宮にいるんだよね。


「それでも、初日でピケット艦を2隻に戦車7台とは凄い円盤機です。我等の騎士団にも欲しいくらいですよ」

「王宮でそれを強請ってきました……」


 改めてテーブルに付いたところで、ユーリーさんの副官からの称賛に、王宮でのお妃様達との交渉を説明する。


 中緯度のコンテナターミナルの護衛を務める機動艦隊が2つこちらに移動すると聞いて口をポカンと開けたままだった。

 

「すると、中緯度にはヴィオラ艦隊が侵出するのですね?」

「ええ、その見返りで機動要塞に搭載するパンジーの内、1機をペンテル騎士団に贈呈することにしました。俺達の御無理を聞いていただいたご恩を忘れてはおりません。それに、騎士団長の婚姻のお祝いを兼ねたいと思っています」


 さらに大きく口を開けている。

 ゴミが入らない内に、閉じた方が良いと思うな。


「そこまでして頂くわけには……」

「ある意味、中緯度のコンテナターミナルや拠点よりもこの位置は重視すべきところです。このコンテナターミナルの存在が零細騎士団に西への門戸を開いているようなものですからね」


 俺の言葉を聞いて感じ入っているみたいだ。

 中規模以上の騎士団であれば、バルゴ騎士団やローザ達軍属関係者の方が御しやすいだろう。だけど、零細騎士団ともなれば親身になってくれる騎士団が一番だからね。12騎士団内では規模が小さいだろうけど、一番信義に厚い騎士団を選んだのはそういう理由からだ。ユーリーさん達は自分達を審議に厚いと思ってはいないようだけどね。


「中緯度のコンテナターミナルから機動艦隊が派遣される期間は約半年です……」

 

 集まった連中の表情が落胆に変わった。もっと長期に支援してくれると思っていたのかもしれないな。


「半年の海賊退治では、良いところ1つか2つでしょうな。とはいえ、それでも減ることになるでしょう」

「半年後に、機動艦隊に替わってターミナルの北にやって来るのは、機動要塞ヨルムンガンドになります。機動要塞の運用試験を兼ねると言っていましたから、根絶できないまでも激減するのではと」


 機動要塞の構築は、ミトラさんの特派員報告でライデン中に知られたようだ。

 3王国の国王陛下が自ら機動要塞に乗り込み西に向かうと聞いて、乗り遅れまいと西を目指す騎士団が増えたことも確かなんだよなぁ。

 自分達の乗るラウンドクルーザーの状況を知るようにと、ミトラさんの放送後に各王国が自国の騎士団へ厳命を下した。


『王国の指定する工廟で定期検査に合格したものだけを、中緯度のコンテナターミナルより西へ向かうことを許可する。

 定期検査に合格したラウンドクルーザーが万が一故障した場合は、ダメージ3までは現地修理を行う。ダメージ4以降の故障においては乗員の救出を保証する』


 これで、老朽艦や故障したラウンドクルーザーを駆って西に向かう騎士団を制限できる。

 遥か西での修理は機動要塞が行い、中緯度の拠点に近い場合は工作船が担当することになるのだろう。


「それにしても、機動要塞が我等の守護に来れれるとは……」

「それだけ、王国としてもこのコンテナターミナルを重視してるんだと思うよ。機動要塞の運用試験期間は未定だけれど、ゼロだけで中隊規模だ。随伴するのも巡洋艦が3隻だけど、新型獣機とナイトまで搭載している。チラノが群れでやってきても阻止できるんじゃないかな」


「あのゼロが中隊規模……」

 ユーリーさんが呆然とした表情で言葉を紡いだ。


「根絶も出来そうですな。とはいえ、機動要塞に全てを任せるというのも我等騎士団の矜持に関わります。リオ殿、明日から数日間。我等に御助力願いたい」

「そのつもりです。中緯度の拠点からやって来る機動艦隊は、潜砂艦用の特殊兵器を搭載しているはずです。その運用を学ばせる良い機会でもありますから、先ずは海賊の潜む区域をある程度特定しなければなりません」


 夕食を忘れるほどに、熱心な討論が始まる。

 現在までの襲撃地点をもう一度プロットし直して、時系列を整理する。同時に2カ所で襲撃を受けたこともあるようだ。距離が離れているところを見ると、母艦となる潜砂艦は2つになる。


「この場所で襲撃を受けてから、こっちが翌日です。この距離を移動するのはラウンドクルーザーでも難しいですな」

「数日後のこの場所は同一海賊になりそうだな……。現在の海賊の総定数は?」

「7つです。まだまだ増えそうですね」


 思っていた以上に活動しているみたいだな。フレイヤが見つけたピケット艦以上に、監視用のピケット艦や戦車が埋められていそうだ。


 白熱した議論に部屋が暑く感じてしまう。

 汗を拭きとる俺達を見て、ユーリーさんの副官が、エアコンの温度設定を下げるよう指示する。ついでに夕食を届けるように言いつけたんだが、この状態ではサンドイッチが良いところだろうな。


 届けられたサンドイッチの山と、コーヒーのポットで俺達の夕食が始まる。

 ほとんど戦場と変わらない。食べながら自分の意見を言い争っている。


「済みません。いつもは冷静なんですけど……」

「だからこそ、ここ一番でこれができるんです。静と動。中々良い騎士団だと思いますよ」


 いつの間にかフレイヤも一緒になって地図が映し出された壁を叩きながら、自分の意見を言ってるぐらいだからねぇ。審議に厚いかどうかは別として、俺達ヴィオラ騎士団と似た性格なんだろうな。


「リオ! こっちこっち」


 俺をフレイヤが手招きしている。

 周囲が無言だから、どうにか明日の監視計画がまとまったのかな?

 壁に近づくと、数人の騎士団員が俺に軽く頭を下げる。


「フレイヤ殿が、この区画をリオ殿に任せたいといっておられるのですが、東西600km南北300kmの範囲です。この範囲となれば機動艦隊が必要になるのではと我等が指摘したのですが、リオ殿であれば可能であると……」

「可能ですよ。その他に監視しておきたい場所はありますか?」


「できたら、この場所もお願い。MADが反応したんだけど、帰りに通った時には何の反応もなかったの」


 フレイヤが腕を伸ばした先にはいくつかの赤い輝点が点滅している。なるほどねぇ、要警戒ということかな?


「100kmの範囲で調べて来るよ。それよりすでに2200時を過ぎてるよ。そろそろこの場を御暇しようか?」

「そうね。この飛行計画書を何部か用意しといて欲しいわ。明日はその計画に沿って調査するから」


 これで、一応報告は完了だ。

 まさか明日の飛行計画を作る羽目になるとは思わなかったけどね。


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