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244/300

244 一時的という訳は


 元騎士で、今は採掘の主力である獣機の分隊を率いているマーレさんと一緒に、フレイヤはパンジーへ乗り込んでいった。

 お弁当を2つ持って行ったから帰ってくるのは夕刻になるのだろう。

 マーレさんの感想がどんなものになるのか、帰ったら聞いてみよう。


「行ってしまいましたね。本当に夕暮れまで運用できるのですか?」

「補給せずに可能です。元々は円盤機を大型化して監視時間を伸ばそうとしたんですが、カンザスを手に入れたことから、ブリッジ下部に懸架する形になったんです」


 今考えると、無駄使いも良いところだと思うな。

 もっとも、フレイヤのストレスがそれで治まったともいえるんだけどね。


 北に向かったパンジーがだんだんと小さくなって、やがて見えなくなった。

 さて、今度は俺の番かな。


「アリス。桟橋の上に出られるか?」

『可能ですが、皆さん驚かれるのではないでしょうか? 10kmほど離れた場所で具現化して桟橋に向かいます。30秒待ってください』


 皆の視線が再び北に向けられた。

 とんでもない速度で地上を滑走してくる物体を見たからなんだろうけど、あれでもアリスはセーブしてるんじゃないかな?

 桟橋を取り巻く厚さ10m近い土塁に衝突すると誰もが思ったに違いない。土塁に近づいても、速度を落とす気配がまるでないからね。

 土塁にぶつかる寸前、アリスが直角に近い角度で上空に跳び上がり、上空1回転を華麗に決める。300mほど上がった後は、ゆっくりと桟橋に下りてきて俺の前に着地した。

 胸部装甲を開きコクピットを開放すると、右手を俺の前に下ろす。


「俺の愛機であるアリスです。戦機ではなく戦姫ですから機動は格段に優れてますよ。それでは、夕刻には戻ってきます」

 

 それだけ伝えるとアリスの手の平に乗る。後は何時も通りだ。コクピットに納まり全周のスクリーンが周囲を見せてくれる。

 呆然とした表情で、皆がアリスを見上げているようだ。


「さて出掛けようか。監視範囲を抜けたところで亜空間移動をしよう」

『了解です。マスターの到着を待っているとヒルダ様から連絡がありました』


 ん? ヒルダ様がアリスに連絡してくるとは思えないんだが。


『私の方から、連絡しました。専用のコードを交換しましたから、私とヒルダ様の間で直接交信が可能です』


 良いような、悪いような……。まあ、ここは前向きに考えておこう。

 アリスの話しでは、第2離宮に直接ということだった。だけど、ちょっと失敗したかな? 俺の姿は黒のツナギに装備ベルト。黒い帽子にサングラスだから、見方によればテロリストそのものだ。


『問題ないと思います。ミトラ様の放送で、王都ではマスターの姿を真似する者も多いと中継点内の放送が伝えてましたよ』

 

 あの放送か! 最初はヴィオラ内の船内放送だったんだけど、いつの間にか拠点内にスタジオまで作ったらしい。

 娯楽が少ないから、あんな素人集団の放送を楽しむ者も多いようだ。でもアリスまで視聴しているとは思わなかったな。


『……フレイヤ様が早速見付けたようですよ。どうするかをコンテナターミナルと野間で相談しているようです』

「戦車辺りかな? 隠れているとなれば攻撃しても良さそうだけどね」

『背後を確認しようと考えているようです。受信内容から、パンジーの位置は戦車の直上500mほどです。死角に入っていますから戦車からの攻撃は不可能です』


 とりあえずの危険はないということか。とはいえ、戦車が1両とは限らない。周辺の監視はおろそかにできないだろうな。


『中継点より30km離れました。亜空間を使います』


 視界がぐらりと一瞬ゆがんだかと思ったら、周囲が荒れ地から緑あふれる庭園に変わった。

 どうやら到着したみたいだ。わらわらと王宮警備の近衛兵達が駆け寄って来るけど、アリスの姿を見て歩調を緩める。

 前に突然現れたアリスを、真近で見ていた近衛兵がいたのだろう。


 コクピットを開いて、手のヒラをエレベーター代わりに下りてくる俺の前に近衛兵達が横一線に並ぶと敬礼で出迎えてくれた。


「お久しぶりです。リオ公爵殿。第2離宮でお妃様がお待ちです。直ぐにご案内いたしますので、私に着いてきてください」

「突然で済まないね。それじゃあ、案内してくれ」


 後ろを振り返るとアリスの胸部装甲が閉じていくところだった。近衛兵が数人、アリスを遠巻きにして警護してくれるようだけど、アリスに警護は必要なのかな?


 何度も来てるから別に案内人は必要ないと思うんだけど、王宮には色んな役目の人がいるからねぇ。

 エンタシスの列柱が取り巻く階段を上り、離宮の中に入っていく。回廊を歩いて近衛兵がリビングの扉の前で立ち止まった。

 コンコンと扉をノックすると、大きく息を貯める。


「リオ公爵殿がいらっしゃいました」


 そんなに大声を出さなくても良いんじゃないかな?

 近衛兵が開けてくれた扉を、近衛兵に軽く頭を下げて部屋に入る。

 後ろで扉が閉まる音がしたから、別の任務に向かったのかもしれないな。


「良くいらっしゃいました。今日は東の王国のお妃様達もお見えになっているのですよ」

 

 俺に深々と頭を下げると、何時ものように笑顔で俺を迎えてくれる。

 ソファーン向かうと数人の女性が立って俺に頭を下げている。

 不思議に思って、ヒルダ様に視線を向けた。


「リオ殿は、今でも公爵と自称していますが、3王国の国王と地位は同じですのよ。座ってお出迎えはできませんわ」

「同格とは思っていませんよ。ここまで俺達にお心遣いをして頂けましたから、最後まで公爵で通すつもりです。もっとも、その前に騎士でもあるんですから、騎士団の騎士の1人として遇して頂けたら幸いです」


 ヒルダ様がお妃様達に頷くと座ってくれたから、ヒルダ様がソファーに腰を下ろしたところで1つ残っていソファーに腰を下ろした。


「本来ならもう少し気の利いた服装で来なければならないのでしょうが、作戦途中ということで御容赦願います」

「その姿をスクリーンで見ておりましたわ。本当に体重が無くなるのですか?」

「体重はそのままなんですが、重力が無くなりますからあんな感じで空中を動けるんですよ。結構おもしろいんですが、仕事するには足元を固めませんと……。宇宙では特殊な靴を履くことで床材にくっ付くようにしてたんです」


「それで少し歩き方が不自然だったのですね。それで、質問が1つ。私達を連れて行くことは可能なんでしょうか?」


 やはりこうなるよなあ。確かに映像を見るとおもしろそうだと誰もが思ったに違いない。潜在的なニーズがあるということなんだろうか?


「今のところは、考えておりません。ですが、カテリナ博士が作ったリバイアサンには、事故時に備えるため搭乗員の余裕があることも確かです。

 万が一の事故時にヴイオラ騎士団の責を問わないというお墨付きがあれば、次の航海にご招待は可能です」


 途端にお妃様達が賑やかになってしまった。

 やはり出掛けたいのかな?

 ちらりとヒルダ様に視線を向けると、困った人達だという様に首を振っていた。


 ネコ族の娘さんが飲み物を運んできたところで、ここに来た目的を説明する。

 真剣に聞いてくれたのは、海賊の脅威について事前に説明を受けたんだろうか?


「……ということで、中緯度に設けた3王国の機動艦隊の1つを南のコンテナターミナルに一時的に移して頂けたらと、と思いここにやってきた次第です」


 俺の真剣なお願いなんだけど、3王国のお妃様は笑みを浮かべたままだった。

 やはりすでに王国の間で海賊の脅威に他知る措置が話し合われたに違いない。だとすれば、すでに解決策も出来ているということになるのだろうか?


 ヒルダ様が俺達に見えるように仮想スクリーンを作ると、拠点とターミナルの位置を示す。


「リオ殿のおっしゃる通り、海賊の脅威が日に日に増しているようです。それも低緯度地帯に活動の場が限定しているようですね。

 一時的にはリオ殿の案で問題は無いでしょう。3王国の国王陛下による会議で、一時的にエルトニアの機動艦隊をこの位置に、ナルビク王国の機動艦隊をテンペル騎士団のコンテナターミナルに派遣することを決めたようです。

 明日にも機動艦隊に軍令書が届くでしょうから、5日後にはこの体勢で臨むことができます」


「コンテナターミナルが手薄になりませんか?」

「そこは、リオ殿にお願いしたいところですね。一時的に中緯度のコンテナターミナルの北を守って頂きたい。ガリナム艦隊とヴィオラ艦隊ならそれが可能ではありませんか?」


 できないことは無い。さらに西にはローザ達もいるからね。ガリナムと協力すればチラノの群れさえ相手にできるだろう。


「急に軍を拡張することはできません。かと言って、12騎士団を一時的とはいえコンテナターミナルの守備に着けることも後を考えると得策とは思えないのです」

「カンザスを作って頂いた恩義がありますからね。即答はできませんが団なら納得してくれるでしょう」


 大きな原石を得たことは、幸いだった。原石の売上金でしばらくは騎士団を維持できるだろう。


「当然、報酬はお支払いします。50億Dをお渡しするつもりです。これで半年、守ってください」

「法外な値段ですね。ですが報酬はパンジーモドキを1隻としたいですね。俺達もテンペル騎士団に無理を言ったところがありますから、広域監視用の円盤機をコンテナターミナルに常備させたいと思っていたんです」


 たぶん半額に納まるんじゃないかな?

 残りの半分は3王国の民政に使って欲しいところだ。


「王都の工廟で作れるなら、私に詳細設計図を送ってください。必ず作って届けます」


 ヒルダ様の言葉に、ホッとして胸をなでおろした。これで目的達成だ。

 だけど、少し気になることを言っていたな。

 海賊の脅威が一時的ということはちょっと解せない話だ。これからも続くというのが本当じゃないのか?


 まさか!


「完成したんですか!」

「半年後には確実に。その打ち合わせを私達でしていたのですよ。今夜はカテリナ博士がやってきます。ガネーシャ殿が監修してくれていますが、やはりカテリナ博士の目で見て頂けないと」


 いよいよヨルムンガンドが動き出すのか……。

 直ぐに西に向かうよりも、海賊退治で経験を積ませるつもりのようだ。

 さすがはヒルダ様。上手く国王陛下達を動かしているな。


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