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242 南のコンテナターミナル


 人垣を抜けると、真っ直ぐにアイランドのようにポツンと桟橋に建っている3階建ての建物に向かう。その大きな扉の前にずらりと騎士団の制服を着て並んでいるのは、テンペル騎士団の重鎮達だ。

 中央の2人には 見覚えがあるな。確かユーリーさんだったかな。ドミニクと同じ年頃の娘さんだけど、テンペル騎士団長なんだよな。


「ようこそいらっしゃいました。我等テンペル騎士団一同を代表して歓迎の挨拶をいたします」

「こちらこそ、突然の訪問で申し訳ありません。それにしても大きくなりましたね」


 互いに手を差し出して握手をする。フレイヤも隣の副官と握手をしているみたいだ。


「お疲れになったでしょう。どうぞこちらに!」

「俺達の乗って来たパンジーはあのままで良いのかな? 邪魔になるなら、視程の場所に移動するけど」

 

 興味のある連中が、パンジーの周囲を取り巻いている。テンプル騎士団員が数人で近付こうとする連中を押し返してるんだけど、銃を持っているからねぇ。事故でも起きたら大変だ。


「桟橋の末端ですし、あの場所までラウンドクルーザーが接岸することはありません。珍しい形ですから、たまたまターミナルに荷下ろしに来た騎士団員が見学してるんでしょう」


 ユーリーさんも興味があるみたいだな。パンジーを見て頷きながら話をしてくれた。

 副官の女性に促されて建物の中に入ると、中は大きなエントランスホールになっていた。

 いくつものソファーセットがあるのは、ここで商談も出来るようにとの配慮なのかな?

 ホールを真っすぐに歩いて突き当りの壁に並んだエレベーターの1つに乗り込む。

 俺達の中継点と同じように、桟橋の中が大きな居住空間になっているようだ。3つの桟橋を合わせれば1つの町の規模になるんじゃないかな。


 エレベーターが停まり、副官の先導で俺達は歩いていく。横幅3mほどもある長く伸びた通路には番号の付いた金属板が埋め込まれた扉がずらりと並んでいる。

 ここが、テンペル騎士団の事務を取り扱う区域なのかもしれない。


 突然、副官が立ち止まった。

 左手の扉を開いて、俺達を中に案内してくれる。


 ほう……。やはり、古くから続く騎士団だ。壁の左手と奥にずらりと年代物の武器や鎧が並んでいる。

 後ろを見ると、絵画と写真が並んでいた。全てラウンドクルーザーだから、テンペル騎士団の歴代の船ということになるんだろうな。

 だけど、右手の壁にはテンペル騎士団の団旗だけだ。数mほどの丸いテーブルに10脚ほどの椅子が置かれている。このテーブルセットもかなり古い代物だ。俺も1つ欲しいくらいのアンティックな感じがするけど、かなり高そうだな。


「どうぞこちらに」


 副官に促されて椅子に座る。ゆったりとした椅子は肘掛まで付いている。調度、テンペル騎士団の団旗を中央に見る位置だから、来客の定位置なんだろうな。となると、俺達の正面に座るのは……。案の定、ユーリーさんと副官が座った。一緒に歩いてきた騎士団員がその左右に腰を下ろしたけど、ユーリーさんの隣の席が2つ空いている。

 そういえば、俺達の中継点にやってきたのは4人だった。副団長の席ということかな?


 全員が席に着くと、扉が開きメイド風の女性が数人入ってきた。トレイには見事なカットが施されたグラスが乗っている。

 俺とフレイヤの前に最初にグラスを置くと、別の女性がボトルから酒を注いでくれる。ワインではなく蒸留酒なのかな?

 

「それでは、遠路訪れてくださった13番目の騎士団であるヴィオラ騎士団と我等テンペル騎士団の発展を祈って……、乾杯!」

 

 席を立たずに、その場での乾杯だ。初期の騎士団のラウンドクルーザーでは立って乾杯が出来なかったらしい。その名残で、今でも座った状態での乾杯が騎士団には残っているとアレクが教えてくれたことがある。古くからの騎士団だから、そんな風習がたくさん残ってるんだろうな。

 グラスの酒を一口飲んでテーブルに戻す。柑橘系の蒸留酒は飲み心地が良いから、いくらでも飲めそうだ。帰ったら何本か手に入れよう。


 さて、これで式典が終わったとみるべきだな。

 そろそろ切り出してみるか。


「急な来訪の目的は……、ここで仮想スクリーンを作ってもよろしいですか?」

「たぶん端末をお持ちなんでしょうね。こちらのアクセスコードを使ってください」


 ユーリーさんが取り出した金属プレートをメイドの1人が押し頂くように手に取ると、俺のところに届けてくれた。

 金属プレートに刻印された文字列がアクセスコードになるらしい。

 腕時計型の端末を使ってt良いさな仮想スクリーンを作り、アクセスコードを打ち込んでテンペル騎士団の電脳とリンクする。


「これで、だいじょうぶですね。……目的は、海賊にテンペル騎士団が苦慮しているのではと思った次第。可能な範囲で援助したいと思いやってきました。

 12騎士団に名を連ねる騎士団であれば、弱音を吐くことは無いはず。ましてや、俺達のような格下の騎士団に相談するわけにもいかず、対処方法に苦慮しているのではないのですか?」


 ずっと笑みを浮かべていたユーリーさんの表情が変わった。

 感情の無いまるで仮面のような表情なんだけど、その視線は俺ではなく周囲の連中を見ているようだ。


「いつ、知りました?」

「小惑星帯から先日帰還しました。ライデンの様子を知ろうとあちこち情報を探っている内に、西に海賊の活動が集中している事を知りました。

 軍の電脳から、四半期ごとの海賊の襲撃場所をプロットしてみると、ウエリントン王国より西側、中緯度より低緯度にかけて多いと分かり、ここに馳せ参じた次第です」


 ユーリーさんが深いため息を吐いた。

 左右の騎士団員が少し騒がしいのは俺が軍の電脳をハッキングしたと分かったからだろう。

 だけど、この場にいる者達は、テンペル騎士団員であることを誇りにしている者達ばかりだ。

 俺の行為に顔をしかめても、その結果を知り駆けつけてくれたことに感じいっているようだな。


「リオ公爵だから出来たのかもしれません。近頃急に海賊の被害を知らせる通信が多くなりました。ラウンドクルーザーの1隻を哨戒に回しているのですが、それでも増えるばかりです」

「ナルビク王国からの援助艦は?」


「そこまでご存じでしたか……。駆逐艦2隻を派遣して頂きました。100kmほどの距離をおいて斜めに巡航しています」

「やはり、広域の監視が必要になりますね。それで、見付けたことは?」


「今月に入って2度ほど、海賊のピケット艦を拿捕しました。本人達は騎士団だと言ってましたが、バージも引かずマンガン団塊の探査装置も持っていませんでしたから、間違いないと思っています」


 見つけても、口は堅いとアレクが教えてくれた。結局は不審者として軍に引き渡すことになるから、簡易裁判で1年ほど重労働をすれば釈放されるんだろうな。


「後から後から……、ということになりそうですね」

「戦車や襲撃用のイオンクラフトは巧妙に偽装されています。ラウンドクルーザーのブリッジの高さは地上50mほどですから、数kmの範囲がやっとです。偵察用円盤機の稼働時間が長ければ併用できるのですが、せいぜい半径50kmほどの範囲です」


 通常の円盤機だと、運用時間も短いし速度も出ないからなぁ……。それに、テンプル騎士団のラウンドクルーザーは払い下げの巡洋艦だ。搭載機数も3機が良いところだろう。


「リオ殿は、我等の手助けにいらして下さったのですか?」


 左手から男性の声が聞こえてきた。騎士の服装だから筆頭騎士なんだろうか? アレクより少し若いようにも思えるけど、そろそろ騎士の座を後輩に譲る年齢になってるのかもしれないな。


「手助けしたいと思っています。でもその前に状況を知りたくてやってまいりました。通信では本音を聞くことはできないと思っていましたから」

「できれば艦隊を派遣して頂けないものかと……」


 出すとなればメイデンさん達になるんだが、ヴィオラとカンザスの守り手でもある。アレク達がヴィイオラに乗船しているならそれも有りなんだろうけどね。


「生憎と騎士が3人交代しています。派遣できそうな艦艇があることはあるんですが、防衛艦隊であることを考えるとこの場での即答は出来かねます。後で、団長と相談したうえで回答ということでよろしいでしょうか?」


「リオ殿が領主では?」

「領主でヴィオラ騎士団の提督でもあるんですが、ヴィオラ騎士団長はユーリーさんもご存じの通りドミニクです。ドミニクの前では俺は騎士団の騎士の1人ですよ」


 複雑な関係だよな。やはり最初にドミニクに領土を渡した方が良かったんじゃないか。


「俺としては、北のコンテナターミナルを守備する王国の派遣艦隊の1つを南のコンテナターミナルに派遣して貰う方が現実的だと思っています。機動艦隊ですから、半径300kmほどの範囲の監視が可能ですし、潜砂艦を見付けて破壊するだけの能力を持っていますからね」


 駆逐艦の船尾艦砲を撤去して、大口径の臼砲を搭載したようだ。2隻が連携するなら潜砂艦の攻撃は容易に行えるだろう。


「私達はナルビク王国と縁は持っていますが、軍の派遣を依頼することまでは考えておりません」

「昔、ちょっとした縁を持ちました。それを覚えている軍人が派遣軍にいるなら、手伝って貰えると思っています。それでもダメな時には、妻のローラにお願いするつもりです」


 ローラと聞いてユーリーさんが首を捻っていたが、やがて頷いた。オーロラ王女が俺に降嫁したことに気が付いたのだろう。


「そこまで考えてくださるとは思いませんでしたわ」

「ここにコンテナターミナルを作って頂いたことを、騎士団なら誰もが感謝しているはずです。西へ騎士団がシフトしたのは中緯度に作った2つの拠点ではなく、間違いなくこのコンテナターミナルの賜物ですからね」


 中緯度以北に向かう騎士団の数は限られている。巨獣のリスクに対処できる騎士団ばかりだ。戦機を持つ騎士団は多いけれど、数機の戦機を持つ騎士団となれば途端に数が半減してしまう。

 戦機1機をお守りのように大切に扱っている零細騎士団の数は、3割近くになるんじゃないかな?


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