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241 南のコンテナターミナルに向かって


 パンジーⅠ(ワン)に乗り込もうとする俺に、カテリナさんがカプセルを渡してくれた。今度はショッキングピンクのカプセルだ。どう見ても怪しいんだけど、アリスの鑑定を待ってから服用しよう。


「今度は、前と同じはずよ。リオ君でデータが取れたから、また秘密口座に振り込んでおくわ」

「アリガトウゴザイマス……」


 貰った時には礼を言う。爺様から教えて貰ったことだけど、それは時と場合によるものだとこの頃ようやく理解できるようになってきた。


「ほらほら、早く乗って頂戴! 荷物は終わってリオが最後なんだからね」

「ああ、今行くよ」


 カテリナさんの見送りを受けて、パンジーⅠに搭乗する。

 本来のクルーはフレイヤとエリーなんだけど、2、3人は増えてもだいじょうぶらしい。新たな半重力推進機関はそれだけの能力があるらしいし、動力炉も重力アシスト核融合炉に更新されている。ライデンを10周回っても燃料には余裕があるとカテリナさんが教えてくれた。

 とはいえ、いつの間に小型化を進めたんだろう? 宇宙で水素タービンエンジンは使えないから、必要な物であったことは確かなんだが。


 宇宙仕様に改造されたパンジーのコクピットは丸いテーブルを囲むような形でなく、通常のコクピットのように前方の大型スクリーンを眺めるようになっているし、斜め上と下にもスクリーンが設けられていた。

 俺の座った操縦席は、パイロットの体形に合わせてジェル状になって、俺の体を固定する。


「案外座り心地が良いでしょう? お客は後ろのソファーなんだけど、今日は2人だからエリーの席で良いわよ」


 目の前の操作卓にはキーボードしかないのはそのせいなんだろな。エリーがパンジーの攻撃手であり、ムサシをここで操ることになる。


「そろそろ出発するわよ。大気圏内でもかなりの速度を出せるわ。昼過ぎには南のコンテナターミナルに到着するわ」

 

 そんなことを言いながら、手元の仮想スクリーンに表示したチェックリストを基に、各部の点検を素早く済ませている。

 それが終わると、アームレストに設けられたコントローラーを右手で握ると、小さくカウントを始める。


 カウントがゼロになった時、コントローラーをフレイヤが手前に小さく引いた。左手で捜査しているのはボールのようなコントローラーだ。2つのコントローラーでパンジーは複雑な3次元機動を可能にしているらしい。

 

 俺がフレイヤの操縦を見ている間に、前方のスクリーンに映る光景が変わっていた。

 パンジーは上空3kmに停泊したリバイアサンの中にいたんだが、現在は南に向かってグライダーのように滑空している。

 エイみたいな形が揚力を生むのかも知れないな。

 かなりの速度で降下しているように思えるんだけど、これでだいじょうぶなんだろうか?


 目の前に迫った地面が突然下に向かって飛んでいき、地平線に区切られた空と地表が前方のスクリーンに映し出される。

 水平飛行に移ったようだけど、Gの変化が全く感じられない。少しは感じられるようにしといた方が、無茶なコントロールをしないんじゃないかな?


「地表200mを音速で飛んでるわ。これなら3時間も掛からないわよ」

「少し速度を落とした方が良いんじゃないか? 偵察用の円盤機の高度と同じように思えるんだけど」

「自動操縦に切り替えているから、障害物を検知すればコースを変えるはずよ。でも、リオが心配なら、少し速度を落としておこうかしら」


 流れるような地表の光景が、今度は目で終えるようになった。たぶん時速500km以下に落としてくれたに違いない。

 少しホッとしながら、どこかに巨獣はいないかなと探し始める。

 ヴィオラ騎士団に入団したころの仕事は先行偵察だったからね。俺に一番合った仕事じゃないのかな。


 巨獣の群れを見付けるたびに、騎士団の共通通信網を使って種別と個体数、現在位置と移動方向を発信する。

 電波が届く範囲にいるなら、俺達の情報を上手く使ってくれるだろうし、電波が届かないなら、それだけ安全な場所にいるということになる。


「また見つけたよ。トリケラタイプで10体ほどだな。移動方向は南西だ」

「座標と一緒にデータベースへ入力したわ。後は自動発信してくれるはずよ」


 かなりの自動化が図られている。突然席を立ったフレイヤには驚いたけど、優秀な自動制御装置のおかげなんだろう。

 後ろの壁に組み込まれた収納ボックスから保温容器に入ったコーヒーを運んできてくれた。

 保温容器の色が違うのは俺のコーヒーが砂糖たっぷりだからかな?


「宇宙でも、パトロールは退屈なの。エミーといろんな話ができるのが唯一の楽しみだわ」

「とはいっても、こことは全く違うからね。万が一の事故に備えたフレイヤ達の存在を、獣機の連中はありがたく思ってるんじゃないかな」


 何も無ければそれ良い。起こってからでは手遅れということもあり得るのが小惑星地帯での鉱石採掘だ。

 地上では、巨獣の存在と不意に襲ってくる砂嵐が問題だけど、偵察用円盤機の存在でかなりリスクを低減することができる。

 その点、宇宙はリスクだらけだ。小惑星が必ずしも同一速度で公転しているわけではないから、あちこちから隕石が銃弾のようにやって来る。

 おかげで3重の安全策を取ってはいるけど、それでも確実だとは言えないだろうな。

 リバイアサンなら半重力を利用した排斥システムで防衛できるのが唯一の救いになっている。

 それに作業区域には上下の区別すらない無重力の世界だ。作業は複数で行うことを前提にしているけど、それでも心細いに違いない。長く作業をすると神経がやられるんじゃないかな。


「そうかもね。たまに話しかけるんだけど、嬉しそうに返事をしてくれるのよ」

「作業を褒めてあげれば、それだけ士気も上がるじゃないかな?」


 俺の言葉を聞いて、うんうんと頷いている。コーヒーを飲んでいたから言葉にできなかったみたいだな。


「それで、コンテナターミナルでは何をするの?」

「とりあえずは、状況を聞いてみたい。かなりの騎士団が出入りしているはずだから、海賊は深刻な課題になっていると思うんだ。テンペル騎士団としても対応策は考えたはずだから、その状況が出発点だ」


 2隻の巡洋艦を改造したラウンドクルーザーを所持している騎士団だ。拠点となるナルビク王国から駆逐艦ぐらいは貸与してるんじゃないかな。

 それでも海賊の被害が少なくないとなれば……、やはりカテリナさんが言う様に海賊を統合した大海賊ということになるのかもしれない。


 ビスケットとコーヒーが昼食代わりだから、フレイヤは不満たらたらの状態だ。

 だからと言って、速度を上げるのもねぇ……。俺の神経が持たない。設計製作がカテリナさんだからかな? アリスならいくら速度を上げても不安が増してくることは無いんだけどね。


「まだまだ掛かるわよ。このままで飛行したら夕暮れ近くになるんじゃないかしら?」

「時間はたっぷりあるからね。それに、ここまでに見掛けた巨獣の群れは6つだったよ。まだまだ巨獣がいるんじゃないかな」


 騎士団のためともなれば、フレイヤも文句は言わないんだよなぁ。

 同じ騎士団同士、助け合うのが荒野の掟だと思っているのだろう。


 リバイアサンを出発してから8時間程経った頃、ようやくはるか南にコンテナターミナルが見えてきた。

 桟橋が2本から3本に増えているのは、それだけコンテナターミナルを利用する零細騎士団が多いということなんだろう。


「……了解。3番桟橋の東に着陸します」

 フレイヤがヘッドセットを使って、コンテナターミナルに着陸地点を確認している。

 東は分かるけど、3晩桟橋は海側なのか、それとも陸側なのか。まさか、真ん中ということは無いだろうな。


「あれが3番桟橋ね。発煙筒を用意してくれたみたい」

 一番海側が3晩桟橋らしい。白い煙が風に流されて海に向かっている。

 近づくにつれ、フレイヤがパンジーを減速しながら慎重に桟橋に降下していく。

 桟橋の横幅は120m程度だろう。パンジーの横幅は20mを越えるぐらいだから十分に着陸できるはずなんだけど、変なところでフレイヤは慎重になるんだよな。


 静かにパンジーが桟橋に着陸した。

 変わった機体だから、200mほど離れて人垣ができている。そんな中から、2人男女がゆっくりと歩いてきた。どうやらお出迎えということになるんだろう。

 動力炉の火を落としたフレイヤが操縦席から立ち上がり、後部の収納箱から俺のトランクを取り出した。どうやらフレイヤの分まで入っているんだろうな。


「荷物はこれだけよ。念の為に拳銃だけは持って行くようにドミニクから注意されたわ」

「だいじょうぶだ。ちゃんと腰に着けてるからね。騎士の礼服は持ってこなかったろうね。あれは暑苦しいだけだから」


「このツナギで良いはずよ。リバイアサンの船内作業服だから、失礼には当たらないそうよ。ほら、これも被るのよ」


 「ADM」と刺繍の入った黒いツバ付きの帽子を投げてくれた。

 頭に乗せたところで、サングラスを掛ける。

 針金のようなフレームで、薄いミラー仕様のサングラスは俺のお気に入りだ。


「へぇ~、中々似合ってるわよ」

「フレイヤも似合ってるよ。それに勇ましくも見えるな」


 赤のツナギは火器担当部署の標準職だ。帽子の前にSTと刺繍が入っているのは、「サブチーフ」という意味なのかな?

 エアロック室に入り、下部ハッチを開けてラダーを下す。先に俺が下りたところで、フレイヤが投げおろしてくれたトランクを受け取る。


 フレイヤがラダーを下りると、腕のバングルに指を走らせている。

 ラダーが上がって、下部ハッチが閉じたところを見ると、あのバングルがパンジーを動かすキーということになるのだろう。


「リオ公爵殿ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」

 騎士の制服姿にマントではさぞかし暑いに違いない。早いところ桟橋の中に入らないと2人が気の毒になる。


「リオで良いよ。同じ騎士仲間だ。それじゃあ、案内をお願いする」


 俺の言葉に答礼で返すんだからなぁ……。くるりと踵を返して歩き始めた2人の後を、トランクをゴロゴロと引き摺りながらフレイヤと歩いていく。

 人垣が2つに分かれて道ができる。俺達に指をさして隣同士で囁き合っている連中もいるけれど、やはりこの格好は不味かったかなぁ……。


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